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27.歪む空間に燃ゆる誓い――魔眼と死神が交わる夜

毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。


・前回のあらすじ


ヘルメスが旅先で助けた少女・ラティーシャとの思い出が、夜風のように再び胸を掻きむしる。

長い人生の中で「もう二度と守れない悲劇はごめんだ」と誓ってきたのに、ここでまさかの娘・セシリアが仇討ちにやって来るとは!?

覚悟を決めて闇落ち娘の殺気に立ち向かおうとする“死神”剣士。彼のゼロカオスと深い後悔が火花を散らし、夜の研究所外でいよいよ激突秒読み!

もう二度と大切な人を失わないために、ヘルメスは再び剣を掲げる――切ない因縁の一騎打ちが、いま始まる。


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 ラティーシャ……お前を救えなかった痛みは、俺の中で消えることはない。

 だけど、もう誰も失いたくないんだ。


 そう胸中で呟きながら、俺は冷たい夜風を肺いっぱいに吸い込む。


 先刻、廊下の壁をぶち破り、セシリアをルナやヴィクターから引き離すために外へ弾き飛ばしたばかりだ。


 粉々になったコンクリート片が足元を転がり、非常灯の赤いランプが瓦礫の破片を不気味な光で照らし出している。


 空気には薬品の焦げたような刺激臭が混じり、金属の焼ける音がかすかに耳を打つ。

 ここはもう研究所の一角とは呼べないほど無残な廃墟と化していた。


 ルナ……お前が命を賭けて相手のナイフを逸らしてくれたおかげで、ようやくこの女を外に引きずり出せた。

 おかげで人質は解消だが、ここから先は俺と“ラティーシャの娘”の直接対決になる。


 夜の風がビリビリとした緊張を孕んで、破壊された壁の隙間から吹き込んでくる。

 背後では警報ランプが明滅を続け、火花を上げる配線の音が遠くでジリジリ鳴っている。


 その混沌とした騒音の中で、俺は《月影》を握りしめ、乱れた呼吸をひとつ整えた。


「まさか、一般人にまで機転を利かされるとは思いませんでした。ですが……あなたが何をしようと、結局は誰も救えないのではなくて?」


 低く冷えた声が闇に溶けると同時に、セシリアはローブを勢いよく払いのける。

 風にあおられた布が赤い非常灯の光を受けながら宙を舞い、その下から姿を現したのは、まるで金色の幾何学模様を刻んだ闇の装束のような、引き締まった戦闘スーツだった。


 首から肩にかけては透けるような薄い生地に精妙な金の紋様があしらわれ、胴には漆黒の生地が身体にぴたりと貼りつくようにフィットしている。


 腰にはポーチがいくつも取り付けられ、黒いベルトには複数の暗器――ナイフや小型のダガーが並んでいる。

 太腿に回されたホルスターにも、同じように暗器が隠されているのが見えた。


 見るからに機能的かつ妖艶なその姿が、非常灯の不気味な照明と相まって、まるで夜の死神を想起させるほどだ。


 金紫の瞳が闇に怨嗟の光を刻み、金の装飾が黒いスーツに沿って浮かび上がる。

 そのたびに、ラティーシャの面影が心をえぐるが、今さら迷えばルナやヴィクターを守れない。


「……母の姿を重ねているんですか? 無駄ですよ。あなたはまた『守れなかった』思いに苛まれるだけ」


 冷酷な言葉が夜気を裂くなか、俺は吐息を深く沈め、床に転がった鉄骨を蹴るように散らして彼女の視界を乱す。

 セシリアは鋭く身を翻し、暗器を複数のホルスターから取り出しかける。


(ちっ……動きがさっきより早い。ローブが邪魔だったってわけか)


 一瞬の油断もできない。


「……英雄なんて柄じゃないさ。むしろ守れなかった命のほうが多いくらいだ」


 自嘲混じりの声が喉を震わす。


 過去に救えず失ってきた仲間やラティーシャの記憶が一気に押し寄せて、呼吸を乱しかける。

 だけど、ここで立ち止まれば、より多くの人を守れずにまた喪ってしまう。


 それだけは二度と繰り返したくない。


 俺は奥歯を噛みしめ、ゼロカオスを月影へ意識的に通し、刀身にうっすらと力を走らせる。


「それでも、もう誰も見捨てられないんだ。俺は……背負ってるんだよ、数え切れない仲間の魂を」


 強張る胸の奥に、ラティーシャの姿が蘇る。


 ぐらりと揺れる心を必死に抑え込みながら、瓦礫と夜風に彩られたこの研究所の外壁跡を見回した。

 警報ランプの赤い閃光が不規則に瞬いて、俺たちの影を長く引き伸ばす。


 セシリアの姿は暗がりに飲まれるように揺れ動き、オッドアイだけが威圧的に煌めいている。

 制御宝珠を握ったまま逃がすわけにはいかない。


 ルナやヴィクターだけでなく、この世界そのものを巻き込む危機が迫っているんだからな。


「あなたに母を殺された恨み……決して消えません。これ以上、あなたに邪魔はさせません」


 セシリアの低く冷えた声音に合わせるように、夜気がごうっと吹き抜ける。

 金髪が揺れて、鋭い殺意が一気に増したのを感じ取る。


 俺はゼロカオスをさらに高めるように集中し、月影を水平に構えた。


「セシリア……ラティーシャの娘だとしても、ここで引くつもりはない。宝珠も、お前の目的も絶対に止める」


 静寂が落ちた一瞬、まるで時が止まったかのように周囲の音が遠ざかった。

 残響だけが耳を打ち、闇に溶け込む空気を切り裂いて俺は踏み込む。


 胸の奥で燃え上がる悔恨と、仲間を守り抜こうとする決意。

 それを剣に乗せて突き進むんだ。


「──行くぞ!」


 刀身をわずかに引いて、一気に踏み出した刹那、セシリアが既にこちらへ向かって加速していた。


 モデルのようにスラリとした体躯を軽々しく曲げ、舞うように鉄骨の隙間へ滑り込んでくる。

 同時に、彼女の瞳が妖しく光り、足元の瓦礫が微妙にズレて傾き出す。


 まるで足場そのものが動いているような強烈な違和感――これは空間が歪んでいる証拠だ。


(またか……空間操作の魔眼だな?)


 視界がまるで万華鏡を覗いたみたいに揺れ動き、瓦礫が変則的に姿をずらす。


 俺はゼロカオスの力で無理やりその歪みを剣先から断ち切ろうとするが、彼女の魔眼は“世界の情報”ごと書き換えているらしく、一撃では元に戻りきらない。


 幻惑と空間操作が絶えず俺の足取りを狂わせるせいで、思うように間合いが詰まらない。

 そうこうしてるうちに、セシリアが投擲ナイフを両手に握り、突進してくる。


 夜風を切り裂く乾いた音が耳を叩いた。


「ッ……!」


 すんでのところで月影を横へ薙ぎ、二本のナイフをはじく。

 金属同士の甲高い音が闇夜に散り、俺の左肩に鋭い痛みが走る――かすめたか。


 血が一筋、服を伝う冷たい感触。


 まともに食らってはいないが、床が傾くせいで踏ん張りが利かない。

 何とか姿勢を低くして無理やりバックステップに入り、隙を作って距離を取る。


「ちっ……本当に厄介だなお前の魔眼は。技術に魔眼の複合戦闘……その若さで大したもんだ」


 息が弾む胸を抑え、かすかに上体を揺らしながら牽制する。


 セシリアはわずかに息を荒げている様子だが、そのオッドアイの光はまったく衰えていない。

 魔眼に加えて暗器術、身体強化の瞬発力――母親譲りの戦闘能力…どれをとっても厄介だ。


「どれほど頑張ろうとも、あなたは結局、何も守れません。……母を見捨てたときと同じように」


 冷たく突きつけられた言葉が、胸を深く抉る。

 視界がちらりとぶれ、床の歪みがまた戻ってくる感触。


 あぶない。


 もしここで心が乱れたら、女の術中にはまるだけだ。

 深呼吸をして首を振り、頭をクリアにする。俺が迷えば、ルナもヴィクターも巻き添えだ。


(御託はいい……俺はもう誰も失いたくない。それだけで十分だ)


 周囲には転がるコンクリ片が山のようにある。

 非常灯がまた一度赤く明滅し、ほのかに生じた暗闇の中で、俺は思い切り足元の大きな瓦礫を蹴り上げる。


 破片や砂塵が宙を舞い、セシリアのオッドアイに向かって飛んでいく。

 その一瞬が俺の狙い――空間操作で足場を揺らされても、視界を一時的に塞げば対応が遅れるはずだ。


「こういうアプローチはどうだ? “魔眼使い”」


 飛散する瓦礫の影から一気に踏み込み、ゼロカオスを月影に宿して斬り上げる。


 切り裂く空気の衝撃で、火花が夜空に散る。

 だが、また空間が揺れた。

 足場が急にズレて踏み込みが微妙に外れ、刀身が空を斬る。


 セシリアは鉄骨の陰に回り込み、わずかな隙間を縫って後退。

 視線をそちらにやると、彼女も苦しい息の中でナイフを再度構え直していた。


(けっこう追い込んではいるが……仕留め損ねた)


 まだセシリアは余力を残しているようだ。

 このまま長期戦になれば、空間歪曲の乱用で俺もジリ貧になりかねない。


 背中に汗が伝い、俺は悔しさに奥歯をかみしめる。

 だが、ルナとヴィクターのためにも、ここで俺が折れるわけにはいかない。


「もう一度だ……!」


 肩の痛みをこらえながら、再度月影を構える。

 歪む世界、赤い警告灯の不気味な明滅、鼻を刺す鉄骨の焼けた臭い……全身の感覚が研ぎ澄まされる中、俺は“死神”と呼ばれた誇りに誓う。


 誰かを失う度に、俺は悔やんできた。

 でも、もうそんな思いはしたくない。

 仲間を守るために、どうしたって立ち止まれないんだ。


 深い呼吸をひとつ。


 ゼロカオスの力をさらに刀身へ流し込み、魔眼による歪みを斬り裂く準備をする。

 ――次こそ、一瞬の隙を突いて決着をつける。

 ラティーシャの娘が憎しみに囚われているのなら、その鎖を断ち切るためにも。


(悪いが、これで終わらせるぞ、セシリア……!)


 廃墟の闇夜に火花が走り、剣とナイフの激突が再開する。

 俺は痛む左肩を噛み殺し、最後の踏み込みに集中した。


 少しでも迷えば俺が終わるが、迷わなければ彼女を止められるはずだ。

 夜の風が再び身を切るように吹きつけ、鋼の音と警報が不協和音を奏でる中、死闘はなお続く。


 俺は心底から決意する。


 ――もう誰も......大切な人を死なせやしない。


 必ずこの戦いを制し、仲間のもとへ戻るんだ。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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セシリアの暗殺者ようなボディースーツみたいなの、エヴァのプラグスーツもですが、何がとは言いませんがとてもいいと思います。機能的だしね。

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