26.守れなかった娘――廻る後悔と剣の誓い
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
相手はヘルメスの心をぐちゃぐちゃにするほどの「ラティーシャの娘」とかいうヤバい女。
しかも痛々しくもルナはナイフを押し当てられ、もう本当にホラーな展開!
でもさすが名探偵、最後は血だらだら覚悟で強引に拘束をぶっちぎろうとするファインプレー。
残るは「ヘルメス、今こそキミが動くしかないっしょ!」という魂の叫びが響くのみ…!
甘い死神剣士はこの一瞬に迷わず踏み込めるのか?
首筋ギリギリ限界バトル、ここでまさかの大逆転なるか!?
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
――四十年ほど前のことだ。
当時の俺は、長く勤めた騎士団を退役し、故郷である大陸へ戻ってきたばかりだった。
「百五十年以上生きる伝説の英雄」と囁かれながらも、華やかな場はどうにも肌に合わない。
だからこそ、一人で旅を続ける暮らしを選んでいた。
そんなある日の荒野で、馬車と奴隷商の一隊が魔物に襲われたらしい惨状に出くわした。
血のにおいと折れた車輪を辿ってみれば、散乱する屍ばかりで、一目で地獄だと分かる。
しかし――
「……生き残りはいるか?」
足元の死体を跨ぎながら辺りを探してみると、馬車の裏手で小さく身を丸めて震える少女を見つけた。
黄金色の髪を持ち、足には頑丈な鎖が繋がれている。
周囲にはまだ息絶えずに蠢く魔物が数匹いて、今まさに彼女を襲わんと狙っていた。
「まだ居座ってやがったか……」
俺はすかさず腰の双剣――かつて常に携えていた《陽焔》と《月影》を一対で握り、稲妻のように魔物どもの首を落とす。
二匹、三匹と連撃を重ね、最後の一体を月影で貫いたところで、ようやく荒野に静寂が戻った。
血のしぶきが少女の頬を濡らしたが、彼女はただ怯えるだけではなく、必死に生き延びようとするかのように、その瞳に光を宿していた。
散乱した死体の横で鎖を断ち切りながら、その“芯”の強さに胸を打たれたのを今も覚えている。
「助けるのが遅れてすまない。ケガはないか? もう魔物はいない……名前はあるか?」
少女はまだ恐怖を拭えない様子だったが、逃げ出すことなく、か細い声で俺を見上げてこう言った。
「ラ……ティーシャ、ローレンシア……です」
その姿が、今でも鮮明に頭に焼きついている。
その後、ラティーシャは俺と一緒に行動するようになった。
当初はほとんど言葉を発しなかったが、野営や移動を重ねるうちに少しずつ打ち解け、やがて笑顔を見せるまでになった。
ある夜、焚き火の明かりのそばで、ラティーシャは俺の剣をじっと見つめながら「強くなりたい」と呟いた。
その理由を尋ねると
「また誰かが襲われたとき、何もできないのは嫌だから」
と、年端もいかぬ子どもとは思えない覚悟を宿した瞳で答えた。
「……いいか、剣は重い。お前には合わない。代わりにもっと小型の武器を扱えるようにしてやる」
暗器術や短剣、投擲の基礎を教え始めると、ラティーシャは渇いたスポンジが水を吸うように驚くほどの速さで身につけていった。
ときおり見せる屈託のない笑顔がやけに眩しくて、俺もいつの間にか“誰かをこんな血塗れの道に巻き込みたくない”という思いを、彼女を通して強くするようになっていった。
生き生きと成長する姿は、かつて守れなかった多くの者への無念を少しずつ和らげてくれるかのようでもあった。
ラティーシャが十代後半になる頃、俺は戦場を渡り歩いていたが、彼女は“普通の暮らし”へ踏み出そうとしていた。
旅の途中で立ち寄った村で出会った青年と恋に落ち、夫婦となり、新しい生活をスタートさせたのだ。
その村の人々に溶け込み、孤児を助けたりして、穏やかな日々を送っていると聞いたとき、俺は心の底から安堵した。
そして、ある夜の宿で、ラティーシャが恥ずかしそうに俺を呼び止めた。
「先生、私……赤ちゃんができたんです。村のみんなも祝福してくれて、すごく幸せで……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に温かい喜びが広がった。
まるで自分のことのように嬉しかったのを、今でもはっきりと覚えている。
「ありがとう、先生。いろいろ教えてもらったけど、私はもう剣を握らずに、この村で生きたいんです。孤児院の子たちや村の人を支えながら、赤ちゃんを大事に育てたい……。今度、先生が来てくれたら美味しいお酒を用意するから、絶対に飲んでいってくださいね」
そう言って、お腹をさすりながら微笑むラティーシャの姿は、“彼女なりの幸せ”を体現しているようで、俺も自然と頬が緩んだ。
翌朝、村人たちに見送られつつ、俺は再び荒野へ旅立つことにした。
しかし、ある日届いた報せで、彼女の暮らす村が魔族の残党に狙われていることを知った。
嫌な胸騒ぎがして、急いで駆けつけたものの――すべてが手遅れだった。
村は燃え落ち、道端には散乱する遺体。そこに屍操魔法の犠牲者となったラティーシャが立ち尽くしていた。
かつてのやさしい笑顔は完全に消え失せ、死者を操る魔術で“怪物”へと変えられた彼女は、孤児や家族を自分の手で殺めてしまったらしい。
さらに目を疑うような光景があった。
ラティーシャの腹には、深く抉られた痕……赤子が強引に取り出された形跡があったのだ。
その瞬間、俺は言いようのない怒りと絶望に呑まれ、頭が真っ白になった。
意識を失ったまま操られる彼女を止めるには、俺のゼロカオスで“救う”しか選択肢はなかった。
断末魔の僅かな一瞬、ラティーシャは微かに正気を取り戻し「先生……ありがとう」と呟きながら、俺の腕の中で息を引き取った。
あの時の感触、彼女が最後に見せた穏やかな表情は、今でも胸を締め付け続けている。
それから二十年余りの時が過ぎた。
ラティーシャと彼女のお腹の胎児――あの夜、どちらも救えなかった事実は、俺の心を深く蝕んでいる。
無数の屍が転がる戦場、そこで散っていった仲間たちの姿を、瞼を閉じるたびに思い出す。
ラティーシャだけではない。
俺の周りでは、あの戦乱で本当に多くの人が無惨な最期を遂げた。
誰もが巻き込まれ、地獄のような惨劇が延々と繰り返される。
それを見過ごすなど到底できるはずがない。
だからこそ――
俺は魔王軍や魔族の残党を滅するため、自らが団長を務める国境なき騎士団《紅の翼》を立ち上げた。
「もう二度と、あんな地獄を見たくない」
その執念にも近い強い思いが、俺を戦場へ駆り立てた。
数え切れない死線を潜り抜け、仲間を失う痛みに耐えながら、それでも剣を振るい続けたのは、いずれこの惨状に終止符を打つためだった。
そして今。
俺の目の前には「ラティーシャの娘」を名乗るセシリアが立ちはだかっている。
探偵の相棒であるルナを人質にとったその姿は、まるであの頃の戦乱の残滓が形を取り戻したかのようだ。
二十年以上経った今もなお燻り続ける因縁が、いま正面からぶつかろうとしている。
廊下に満ちる異様な歪み――まるで空間そのものをねじ曲げる概念魔法のような力が、俺のゼロカオスを巧妙にすり抜けて苦しめてくる。
下手に踏み込めば、ルナの命が断たれかねない。
その上、セシリアの顔立ちにはラティーシャを彷彿とさせる面影があった。嫌でも心が乱される。
(ラティーシャ……もしまたお前の娘までも、ここで救えなかったら、俺は――)
脳裏に過去の惨劇が走る。冷静さが少しずつ削がれるのを感じる。
だけど、視線の端でルナが必死に身を捻って、拘束から抜け出そうとしているのが見えた。
頸動脈にナイフが当たっているのに、それでも諦めない。
“ここでやられたら終わりだ”という気迫をルナの瞳から感じ、俺はもう一度意識を集中させた。
(二度と同じ後悔は繰り返さない……!)
ルナがわずかな隙を作り出した瞬間、セシリアが一瞬戸惑った。
その刹那を逃さず、俺は腰の鞘に残していた《月影》を素早く抜く。
「――ルナ!」
低く呼びかけると同時に、ゼロカオスを纏った月影を一気に閃かせて踏み込む。
空間の歪みがさらに増幅し、壁や床の景色がわずかに揺らぐのが分かる。
視界が違和感を覚えるほど歪んでいるが、ルナの命を救うための一撃を止めるには、セシリアの動きが一拍足りなかった。
ルナが拘束から外れると同時に、俺は剣先を突き出し、セシリアを壁ごと突き破る勢いで突進する。
「っ……あああっ!」
セシリアの叫びが耳を刺し、衝突音と粉塵が廊下を満たす。
その衝撃で俺が被っていた帽子が吹き飛び、廊下の奥へ転がっていった。
コンクリートの壁が砕け散り、俺たちは夜風が吹きつける研究所の外へ飛び出した。
周囲には瓦礫が散乱し、視界に白い煙が漂う。ルナとヴィクターは廊下に残ったままだが、とりあえず人質状態は解消された。
月影を握り直し、夜の涼しい空気を切り裂く。
これでルナは自由だ。あとは――“ラティーシャの娘”との決着をつけるだけ。
夜闇を照らす微かな灯りのもと、セシリアは擦り傷を負いながらもオッドアイをぎらりと光らせている。
先ほどの歪んだ空間の残響が夜風に乗ってうねり、凍りつくような殺意を漂わせる。
(ラティーシャ……お前を救えなかったあの痛みは、今も胸に残ったままだ。だからもう、誰かを失うわけにはいかないんだ)
胸を抉る後悔を力に変えながら、俺は月影を水平に構え直す。
砂塵に包まれたセシリアが、唇を噛みしめるように立ち上がる姿に、一瞬だけラティーシャの面影が重なって息が詰まる。
だが、今ここで歩みを止めるわけにはいかない。
俺が再び騎士団を率い、魔王討伐を目指したのは、まさにラティーシャのような犠牲を二度と出したくなかったからだ。
その誓いを果たすため、今度こそ自分の弱さから逃げずに立ち向かわなければならない。
二度とあんな惨劇を繰り返さない――その思いが、右腕に熱をもたらす。
(守れなかった無念こそが、俺を動かす力になるんだ。ラティーシャの娘を闇に沈めるわけにはいかない。もう迷う必要はない……!)
夜空を切り裂く風の音を背に、俺はゼロカオスを宿す月影の切っ先を、静かにセシリアへ向けた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余り日本舞踊してます。
いけー! ヘルメス!




