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25.人質の逆転――ルナが挑む一瞬の賭け

毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。


・前回のあらすじ


ヘルメス、過去の因縁にまさかの大撃沈!?

謎の金髪美女がルナを人質に取り、しかも「母の仇!」と恨み節を大連発。

死神と呼ばれた男がトラウマ全開でまさかの身動き不能!?

果たしてルナの首は、ヘルメスのメンタルは、そしてヴィクターはどうなるのか…修羅場の三重奏がさらに沸騰必至!


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 ――首筋をかすめる冷たい刃。


 ルナの首を襲うその鋭利な金属の感触と、皮膚を裂く痛み、そして血のにおいが入り混じって、彼女の意識を遠ざけそうになる。


 けれど、ここでひるんだら終わりだ。


 ルナは何度も深呼吸を繰り返して、頭をクリアにしようとする。

 彼女を拘束している女――“ラティーシャの娘”を名乗る相手が、明らかにヘルメスを狙っているのは確かだった。


 しかも、ルナを人質にしたままではヘルメスも全力を出せない。


 だが、この状況でただ黙っていれば、全滅は火を見るより明らか。

 頸動脈に押し当てられたナイフをどうにかして逸らさなくてはならない。


 相手は異能の使い手らしく、力ずくで逃れようとすれば喉を裂かれる恐れが高い。

 とはいえ、まったく動かずにいれば確実に殺される。


 ルナは深く考えるより先に行動するしかないと決意する。


(落ち着いて、ルナ。呼吸を整えて、ここから抜け出す糸口を……)


 何度目か分からない深呼吸を繰り返しながら、背中に感じる女の体勢をじっくりと観察する。


 肘の角度、腰の入り方、ナイフを握る手首の可動域――小さなきっかけでも作れれば、きっとヘルメスが動いてくれるはずだ。

 ルナはヘルメスを信じているし、実際彼には修羅場を切り抜けるだけの力があると知っていた。


 しかし今、ヘルメスはかつてないほど動揺している。


 ルナは彼がこんなに苦しそうな表情を見せるところを初めて目にする。

 女が口にした“ラティーシャ”という名前――その女性がヘルメスにとって特別な存在であることは、一目で分かった。


 背後の女は、その名を武器にヘルメスの心の隙を突き、冷酷な言葉で彼を追い詰めている。

 ヘルメスが手出しできないまま動揺しているうちに、ルナごと首を切り落とそうという算段なのだろうか。


(ヘルメスが話してくれた“異世界の過去”……あのときから、彼は無敵の英雄のように見えても、本人はそうではないと言ってた――)


 ルナの脳裏に、つい先日の会話がよみがえる。

 事務所でファイルの整理をしていたとき、彼女は軽い冗談で彼に問いかけたのだ。


  ---


「ヘルメスって、どんな相手にも勝てる最強の剣士なんでしょ?」


 その問いに、彼は少し苦い顔をして首を振った。


「いや、そうでもないさ。仲間からもよく言われるんだ。“ヘルメスを殺すのは容易い”ってな」


「……は? どういう意味?」


 最初は軽い冗談かと思っていたが、ヘルメスの声色は妙に真剣で、ルナは思わず聞き返した。

 すると彼は、どこか遠い目をしながら肩をすくめて言う。


「俺は甘いからな。情に流されやすい」


「甘い……って、誰にでも優しすぎるってこと?」


「優しいというより、非情になれないんだよ。必要なときでも切り捨てられない。もし“本気で殺しに来る奴”が、俺の大切な誰かを盾にしたら、俺はどうしても迷ってしまう。だから“殺すのは容易い”って、仲間によく茶化されるんだ」


 ヘルメスの横顔はどこか寂しげだった。

 まるで過去の戦場で失った仲間たちの面影を抱えているように見える。

 ルナは胸がうずくような違和感を覚えながら、彼の言葉を反芻する。


「……本気で殺しに来る相手が、あなたの大切な人を人質に取ったら。だから、あなたは……」


「そう…だな。“死神”なんて呼ばれてる癖に、結局はどこまでも甘い。俺自身が死ぬことより、仲間が傷つくほうがずっと怖いんだよ」


 ヘルメスの瞳は、まるで過去の傷痕を映し出すように暗く揺れていた。

 いつもは超然と見える彼にも、こんな面があるのだとルナは思い知らされる。


 彼の手は、無意識のうちに愛用の剣の鞘を掴んでいる。

 その動作が、彼の中にある“決意”を物語っているようだった。


「……でも、もしそんな状況に陥ったら?」


 軽い気持ちで問い返すと、ヘルメスは申し訳なさそうに笑った。


「どうするかは分からない。まぁ、なんとかしようとは思うさ」


  ---


 その言葉がやけに胸に残っていたルナ。


 彼にはこれほどの戦闘力があるのに、心の弱さもどこかで自覚している。

 その“甘さ”――まさに今、目の前で突かれているのかもしれない。

 “ラティーシャ”なる女性がヘルメスの心をどれほど深くかき乱すのかは分からないが、現在の彼は迷っている。


 そんな迷いを拭うためには、ルナ自身がこの拘束を破らねばならないと決心する。


(甘い人なんだってことは、最初から何となく感じてたけど……だからこそ、ここで止まっちゃダメよ。ヘルメス、あなたを止めさせないために、私がやらなきゃいけないことがある!)


 ナイフの刃は首筋を掠め、肌を裂いて血が垂れているのをはっきり自覚する。

 痛みで意識が揺れそうになるたび、ルナは深呼吸を繰り返し、観察をやめない。


 相手の女はヘルメスを言葉で責め立てながらも、ルナの動向をじっと監視している。

 大きく動けば即死――その緊迫感で胃がきしむ思いだが、彼女の関心がヘルメスへ向かった一瞬こそが勝負だ。


(少しでも刃先を逸らせれば、腕を外せる……!)


 ルナは思い切って身体をほんのわずかに捻る。

 刃がさらに食い込み、血が滴る。


 しかし、耐えなければいけない。視界が一瞬ブレるが、ここで引くわけにはいかない。

 女が短く息を呑み、ヘルメスに向かって声を荒らげるような気配を感じる。


 今しかない、とルナは判断する。


「――っ!」


 喉元へ襲う痛みを無視し、背を反らすように一気に動く。

 頸動脈を切られるギリギリの角度で刃を逸らし、同時に相手の手首を叩き落とすように打撃を加える。


 うまく決まる保証などないが、もし成功すれば一瞬の隙が生まれる――そして、ヘルメスならその隙を確実に突く。


 閃光のような激痛で意識が遠のきかけるが、ルナは必死に耐え続ける。

 床に零れる自分の血を視界の端に捉えながらも、彼女はヘルメスの存在を思い描き、踏み止まった。


(ヘルメス、今――今なら、あなたは迷わず動ける!)


 女が短く息を呑み、腕からわずかに力が抜ける感覚がある。

 ルナはその一瞬に賭け、さらに体を捻って拘束を抜け出そうと試みる。


 ――この刹那が、二人の生死を決する瞬間だ。


 彼女は己の命綱を断ち切る覚悟で、最後の力を振り絞る。


 甘い人間だと自ら認めるヘルメス。

 しかし、その甘さを突かれたとしても、本当に止まるのか。

 それとも――“死神”と呼ばれるほどの剣士として、彼はこの危機を突破できるのか。


 鮮血と警報音が混在する廊下に、ルナの浅い呼吸が高く響く。

 あとはヘルメスの出方次第だ。


 もし彼が一歩を踏み出すなら、きっとこの窮地を超えられる――ルナはそう信じていた。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余り神楽舞してます。


ヘルメスの明確な弱点と葛藤……戦いの行く末をご覧あれ!


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