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23.深夜の研究棟――静寂が孕む次の波動

毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。


・前回のあらすじ


転移装置の暴走で研究所とルナ達大ピンチ!

オタク研究者ヴィクターは制御宝珠を押し込み、死神剣士ヘルメスは仮面の男ザハンを華麗に一閃。

ド派手な斬撃とフラフラのヴィクター、焦る探偵ルナも加わって、謎めいた廃墟の事件はとりあえず一件落着…かと思いきや?

異世界の英雄やらアルザラフの影がチラつき、まだまだ波乱の予感が止まらない!


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 ザハンの亡骸を見下ろす。


 先ほどまで闇の刃を振るっていたあの仮面男は、今や動く気配さえない。


 砕け散った白い仮面の破片が床に散乱し、闇色の影はほんのわずかな残滓を残して消えていく。

 点滅する警告ランプの赤い光が室内を照らすなか、俺は先ほどまで動いていた転移装置へと自然と目を向けた。


「……暴走は止まったわね。これでひとまず、この施設が飲み込まれるような最悪の事態は回避できたはず」


 ルナの呟きが耳に入り、振り返る。

 ヴィクターは片膝をつき、制御パネルに手を置いたまま安堵の息を漏らしているようだ。


「うん……内部は完全にオフラインだ。回路が焼き切れて起動部が死んだみたい。今なら宝珠を抜いても再稼働はしないはずだよ」


 ヴィクターが慎重な手つきで装置中央に挿し込んでいた“制御宝珠”を引き抜く。

 紫色の宝石がかすかに光を放つと同時に、転移装置の警告ランプはさらに弱々しく点滅していた。


 ヴィクターは深く息をついて立ち上がる。


「もう一つの宝珠なんて見当たらないし、ザハンも何も持ってなかった。とにかく、これさえ確保できれば……」


 その宝珠を、ルナが受け取る。

 彼女は小さく息をついてから言った。


「ええ、これがなければ転移装置はまともに稼働しないわ。暴走が止まった今、これをめぐって狙われる可能性が高い。しっかり保管しないと」


 そのやり取りの傍らで、俺は落ちていたアタッシュケースを拾い上げる。

 軽く肩を回しながら続けた。


「ともかく“形だけ”でも封印できたわけだ。次はこの宝珠をどう扱うかが問題になるな」


 廃墟と化した施設の中央には、沈黙した転移装置が残骸のように立っている。

 俺は倒れたザハンの亡骸をちらりと見る。

 二度と動かないことは分かりきっているが、先ほどの激戦を思えば、その姿はまだ鮮烈だ。


 この亡骸を一瞥しながら、俺は小さく眉をひそめる。


「ザハンの戦い方を途中で見極めてみたが、どうやら“儀式魔術”を使っていたようだ。魂や血を代償にして強引に魔術を成立させるものだな」


「儀式……魔術?」


 ルナが復唱し、俺はザハンの死体を見やりつつ淡々と続ける。


「この世界には、俺の故郷にあった“マナ”――いわば大気中を満たす魔力がない。だからこそ、こういう手段で魔術を使用しているんだろう。犠牲者の魂や血を無理やり力に変える……邪法だ」


 ザハンの死体を取り巻く空気には、不気味な違和感が滲んでいる。

 魂や生き血まで糧にするなんて、誰しも正気じゃないと感じるだろう。


「ここに長居しても危険なだけよ。もうこの施設自体がかなり不安定だもの。警察に応援を要請しましょう」


 ルナの提案に、俺は苦笑気味にうなずいて返す。


「さっきの騒動で床や壁があちこち崩れかけてるからな。さっさと上へ戻ろう」


 ルナのほうを見ると、彼女はヴィクターと顔を見合わせてから言葉をつなげる。


「うん……それにしても、ヘルメスさん、本当に“異世界”から来た存在だったんだ……あの剣技を見て、ようやく納得できた気がする」


 ヴィクターが書類を胸に抱えながら呟いた。

 彼は父親の研究絡みでずっと“異世界”にこだわっていたらしいが、その現実がここで否応なく突きつけられた形だ。


 俺はロングコートの裾を揺らしながら肩をすくめる。


「そりゃよかった。俺の住んでた世界の話は、外に出てからゆっくりしてやる。行くぞ、ヴィクター」


「……うん」


 ヴィクターは複雑そうな顔をしながら歩き始める。

 俺は転移装置をもう一度だけ振り返り、地下区画の冷たい空気を吸い込み、足を動かした。


 廊下には埃が舞い、赤い警告ランプが不規則に点滅している。

 足元にはガラス破片が散らばっており、誤って踏まないように注意が必要だ。


「……このエレベーター、まだ動きそうね。急いで上へ戻りましょう」


 軋むような音を立てて開いたエレベーターに、三人揃って乗り込む。

 モーターの嫌な音が狭い箱内で反響し、非常灯の明滅が不安感を煽るように揺れている。

 俺は壁際に立ってまわりを警戒しながら、ルナとヴィクターの動向を見守る。


 ルナが端末を確認しつつ、俺にではなくヴィクターへ問いかけた。


「ねえ……さっきのザハンもそうだけど、一体何が目的なのかしら。わざわざ儀式魔術なんて危険なものを使ってまで……」


 ヴィクターは手元の資料を見やり、黙ったまま肩をすくめている。

 俺は黙して聞くにとどめ、ルナも結局結論を出せないのか、再び口を開いた。


「やっぱり“異世界の魔術”を現代に持ち込みたいから……なのかしら。ヘルメスが戦っていた“魔王”とやらにも通じる話かもしれないわね」


 その言葉を受けて、俺は鞘に軽く触れながら、口を開く。


「アルザラフ……俺の世界で魔王と呼ばれた奴だ。倒したはずだったが、完全に消滅してはいなかったみたいだな」


「えっ、魔王――!?」


 ヴィクターが驚きの声を上げるのも無理はない。

 俺も“魔王”などという単語を口にするたび、この世界の住人が驚くのは分かっているが、事実なんだから仕方ない。


「まるで王道ファンタジーだね。ヘルメスさんは魔王と戦った“勇者”みたいな立場だったの?」


 ヴィクターは混乱した様子で尋ねる。

 俺は片眉を上げつつ、ロングコートを揺らしてみせる。


「勇者なんて呼ばれるのは性に合わないが、まぁそんなところだ。最後の決戦であいつと相討ちになって……気づいたらこの世界へ飛ばされてた」


「……そうなんだ……」


 ヴィクターは唇を噛み、視線を下げる。

 俺は特に何も言わずに、落ち着いた気持ちでエレベーターの動きを感じ取った。

 やがてわずかな揺れがあり、目的の地上階へ到着したようだ。


 扉が開く音がして、俺は外へ出る。

 照明が整然と灯る地上フロアは、廃墟と化した地下区画とは対照的に白く清潔な廊下が広がっていた。

 ヴィクターがしみじみと安堵の息を漏らす気配が背後でする。


「大きな損傷もなさそうね。……よかった」


 ルナがそう呟き、ヴィクターもほっとした顔を浮かべている。

 しかし、人の気配はまるでなく、不気味なほど静かだ。


「グラントを誘導できるように、正面入口へ向かいましょう。……ヘルメス、先に行ってちょうだい」


 俺はうなずいて先頭を行く。

 警戒を解かずに廊下を進み、後ろをついてくるルナとヴィクターに意識を向ける。

 ヴィクターは抱えた資料を見下ろし、何か考え込んでいるようだ。


(彼は父親の研究と“異世界”を結びつけられ、一気にここまで踏み込んでしまったんだな。どんな気持ちだろうか)


 そんなことを考えながら、白く照らされた通路を急ぎ足で行く。

 扉の向こうに何があるか、油断はできないが、上へ戻れたことだけでも大きい。


「……もう少しかかると思うけど、グラントが到着したらすぐ対応できるようにしなきゃね」


 背後でルナが言い、俺は振り返らず短くうなずいた。

 ヴィクターは資料を握りしめたまま、そわそわと周囲を見渡している。


(たしかに妙に静かだ……)


 赤い警告ランプや非常灯が光っていた地下と違い、ここは通常の電灯がしっかり機能している。

 だが、人の姿どころか雑音さえほとんど聞こえない。


 自動ドアが見え始めた。あそこを抜ければ外へ出られるはず。

 少なくとも一息つける状況になるだろうと思いつつも、胸の奥の警戒心は消えやしない。


「……急いだ方がいいわね」


 ルナにそう言われ、俺は先頭を保ち、ヴィクターもさらにペースを上げる。

 魔術を使う謎の敵がほかにも待ち構えている可能性を考えれば、ここでぐずぐずしてはいられない。


 そうした不安を抱えながらも、俺たちは薄暗い廊下を突き抜けるように進んでいく。

 扉の向こうで待ち受けるものが何であれ、もう戻る道はないのだ。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余り舞鶴音頭してます。


ヘルメス「勇者は別にいるからな……」


ヴィクター「男勇者かい? 女勇者かい?」


ヘルメス「女だよ。どうかしたか?」


ヴィクター「浪漫があるね」眼鏡クイ

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