22.死神の剣――暴走装置と影の終焉
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
父から受け継いだ“異世界”へのロマンを胸に、研究者ヴィクターは暴走する転移装置を食い止めようと奮闘。
幼い頃の記憶を思い出しながら、宝珠を装置に取り付けるものの、凄まじい閃光と衝撃に飲み込まれ意識を失ってしまう。
次に目覚める時、果たしてどうなっているのか——ヴィクターの運命と父の夢が交錯する、波乱の展開が幕を開ける。
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
一瞬だけ白い光が視界を覆い、それが溶けるように消えたと同時に、ヴィクター・ハーグレイブは反射的に行動を再開した。
転移装置の暴走がもたらす轟音と衝撃はなおも耳を裂き、足元を揺るがす振動が全身を叩きのめそうとしている。
彼の目の前にある“嵌め込み口”こそが、この危機を止める唯一の突破口だった。
そこに制御宝珠を差し込むこと――それだけが今の使命である。
ヴィクターが宝珠を思い切り押し込むと、紫の光が弾けるように広がり、暴走していたエネルギーが急激に収束していくのが見て取れた。
まだ火花こそ散っているが、転移装置のうなり声は確実に小さくなり始めている。
「くっ……!」
わずかな安堵を覚えた矢先、床が崩れるように揺れ、転送の渦へと引きずり込む大きな力がヴィクターをさらおうとする。
とっさに両足へ力を込めて耐えようとするが、視界には赤い警告ランプやエラー表示がちらつき、装置は完全停止まで至っていないようだった。
「ヴィクター!」
遠くでルナ・フォスターの叫ぶ声が上がる。
彼女は制御パネルを必死に叩きながらプログラムを抑え込んでおり、その姿がヴィクターの目に入った。
そして――短い電子音が鳴り響いたと同時に、装置の轟音が“ピタリ”と鎮まる。
その瞬間、床の揺れも止み、ヴィクターは背中から床へ倒れ込んだ。
軽い痛みと荒い呼吸を感じながら、赤く点灯していたランプが弱々しく瞬く様子を確認する。
「……止まった……本当に……」
胸の奥からこみ上げる安堵を噛みしめたとき、ルナが駆け寄りヴィクターを抱き起こしてくれる。
冷えきった空間で感じる彼女の体温に、全身の力が抜けかけた。
「無茶して……でも、偉いわ、ヴィクター。よくやった……!」
ルナの声は震えているが、確かな称賛も込められている。
ヴィクターは痛む背中を気にしつつ、ぎこちなく笑みを返した。
「ごめん……でも、止められたよ……。ヘルメスさん! 僕、ちゃんと……やった……!」
そう叫んで振り向くと、鞘に剣を納め終えたヘルメス・アークハイドの姿があった。
ヘルメスはかすかにそちらを見やり、口元に余裕めいた微笑を浮かべる。
「やるじゃないか。……だが、まだ終わっちゃいないぞ。」
その言葉にヴィクターは背筋が凍る思いをする。
白い仮面をつけた男――ザハンがなおも殺気を漂わせながら闇の槍を形成し、突撃を開始したのだ。
「余裕ぶっている場合か、剣士!」
轟音とともに振り下ろされる闇の槍。
ヴィクターは思わず視線を逸らしそうになるが、ヘルメスはまるで驚きもせず、体をわずかに傾けて槍の刃を逸らす。
そして、ごく短い間を置いて重心を踏み直し、剣を構えなおした。
「ヴィクター、見ていろ。お前の“勇気”への褒美に“アニメ”よりハイクオリティなものを見せてやろう」
彼がそう言うと、刀身には力が込められたのか、“ビリリ”という張り詰めた感覚が空気を震わせる。
ザハンがさらに影の刃を大きくしようと動いた瞬間、ヘルメスがわずかに刀を揺らす。
一撃で斬り裂く鋭い軌跡が、仮面の男の視界を一気に塗り潰した。
「無限の型……封鎖陣」
複数の斬撃がごく短時間のうちに走り、ザハンの退路、闇へ逃げ込む経路、武器形成の起点――あらゆる動きが寸断されていく。
ザハンが動こうとするたび、既に刀がそこに待ち受け、影の槍が形を成す前に先手を打って阻んでいた。
「くっ……どうして、動け……ない……!」
焦燥をにじませるザハン。
しかし、彼がもう一歩を踏み出そうとした瞬間、その行く手には致命的な斬撃が潜んでいた。
首筋に触れる冷たい感触――そして、視界を回転させる浮遊感。
「何もできていないじゃないか……そんな一撃で俺を倒せる……」
吐き捨てるようにザハンが言いかけたが、その言葉を最後まで言い切る前に意識は途切れた。
あまりにも鮮やかな一撃だった――自分の首が落ちていることにさえ、彼の身体は気づかないほどである。
「……この化け物め……」
その一言を最後に、ザハンの首のない胴体がドサリと音を立てて崩れ落ちる。
金属の衝撃音や爆発音で満ちていた空間が、今度は嘘のように重い沈黙に包まれていった。
ヘルメス・アークハイドは刀を鞘へ収め、短く息をつく。
その動きには一切の無駄がなく、まるで“剣舞”を終えた舞台役者のような端正さが感じられる。
「言われ慣れてるよ……小僧。」
静かにつぶやく声には、勝者の余裕ともいえる落ち着きが滲んでいた。
淡々とした口調の中には、どこか勝者の余裕が見え隠れしていた。
その圧倒的な剣技を、ヴィクターは腰を抜かしたまま驚嘆の思いで見上げることしかできない。
「大丈夫か?」
首だけ振り返ってそう声をかけるヘルメスに、ヴィクターはかろうじて返事をする。
「ヘルメス……さん……ぁ…あぁ、なんとか…」
衝撃と興奮が入り混じり、まともに言葉も出ないヴィクターを、ルナはそっと支えながら安堵の息を吐いた。
――転移装置は静止し、敵は倒れ、廃墟の奥深くに漂っていた凶気も、まるで嘘のように消え失せる。
まるで静かな湖面を思わせるような沈黙が、すべてを包み込み始めていた。
「はぁ……助かった……」
ヴィクターは何度も浅い呼吸を繰り返しながら、ふと父の姿を思い出す。
幼いころに信じていた“異世界”の夢が、こんな形で繋がるとは誰が想像できただろう。
ルナ・フォスターと交わした約束、そして“死神”と呼ばれる剣士ヘルメス・アークハイドの存在――すべてが今、この場所で重なり合っている。
ロングコートの裾を翻しながら振り返るヘルメスの姿は、“死神”という禍々しさと、誰かを救う“英雄”の風格をあわせ持つように見えた。
「死神と呼ばれた異世界の英雄」――ルナが告げた冗談とも真実ともつかない言葉が、ヴィクターの頭から離れない。
沈黙した転移装置の前で、わずかに生き残ったモニターの赤ランプが瞬いている。
その弱々しい光の下、ヴィクターは改めてヘルメスを見つめ、低く息をのんだ。
この世界の常識を超えて訪れた剣士が、こうして確かにそこに立っている――その事実が全身を震えさせる。
廃墟の奥深く、静かに息を潜めたままの装置と張り詰めた空気は、まだ物語が終わっていないことを、どこか不気味に告げているかのようだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りタップダンスしてます。
ルナ「無茶して……でも、偉いわ、ヴィクター。よくやった……!」
ヴィクター「ママ!」