21.憧れと恐怖の狭間で――僕が挑む転移装置の暴走
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
研究所の地下奥深く、今まさに転移装置が大暴走!
灼熱の火花が飛び散る中、オタク研究者ヴィクターは命がけで“制御宝珠”をはめ込みに突撃。
死神剣士ヘルメスは闇を操る仮面男を刀一本で圧倒し、探偵ルナはひたすらプログラムを押さえるという超修羅場状態!
異世界の英雄って何、それめっちゃヤバい! とか言ってる暇すらなく、全員大ピンチへ一直線。
果たして暴走を阻止できるのか──胸アツ展開加速中!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
まだ幼いころのヴィクター・ハーグレイブは、父親の背中を追いかけながら薄暗い書斎へと足を踏み入れた。
埃が積もった古い本棚や、見慣れない器具が雑然と置かれた机。父はその椅子に腰かけると、分厚いノートを静かにめくっていく。
「これはね、僕がまだ若いころに考えた“理論”なんだ。世間の学者たちには荒唐無稽だと言われてね……でも、捨てきれなくて、大事に保管している」
父はノートについたほこりを払いつつ、ページに書きつけられた数式や図をヴィクターに示す。
そこには奇妙な円環のスケッチが描かれ、見慣れない言葉が散りばめられていた。
「ねえ、お父さん。これ、何の研究なの? 僕にはさっぱりわからないよ……」
ヴィクターが正直に言えば、父は一瞬寂しそうに眉を寄せたが、やがて嬉しそうに微笑を浮かべる。
「誰にも理解されなかった夢さ。異世界があるかもしれない、なんて言えば笑われても仕方ないだろう? でも、僕は本気でそう信じているんだ。世界の境界を越える方法はきっとある。現実的じゃないと分かっていても、追わずにはいられない――それが研究の醍醐味なんだよ、ヴィクター」
父の瞳はまっすぐヴィクターを捉え、書斎の薄暗いランプの光がその頬を淡く照らしている。
わずかな光の加減で、笑みが浮かんでいるのが見えた。
「“異世界”……本当にそんなもの、あるのかな……」
まだ幼いヴィクターには、世間に理解されない研究がどれだけ大変なのか、薄々想像できる程度だった。
それでも、父は強い眼差しを崩さない。
「あるかどうかは分からない。でも、分からないからこそ探しに行く価値がある――それが科学であり、冒険であり、ロマンじゃないか。ほら、ルナちゃんも言っていたじゃないか。“いつか一緒に不思議を見つけに行こう”って」
そう言いながら、父はヴィクターの頭をくしゃりと撫でる。
その大きな手のひらに触れ、安心感とくすぐったさが同時に伝わってきた。
「……お父さんは、どうしてそんなに自信があるの?」
周囲から“バカげた妄想”扱いされてもおかしくない話だが、父の瞳には確固たる意志が宿っている。
それが不思議で仕方なかった。
「自信というよりロマンかな。人は分からないものに出会うと、怖がるか、知りたいと思うかのどちらかだ。僕は“知りたい”ほうだった。だから分からないまま放っておくのが嫌なんだ。失敗しようと、笑われようと、研究しないわけにはいかない」
その言葉に、幼いヴィクターは胸の奥が熱くなるのを感じた。
父が見据えている“未知”というものを、いつか自分も追いかけてみたくなる――そんな思いが芽生える。
「――ヴィクター。お前が大きくなったら、きっと僕の背中を追い越してもっとすごい研究をする。もし、途中で苦しくなったら思い出してほしい。夢を追いかけることは怖いけど、同時に本当にワクワクすることなんだよ」
父はノートを閉じ、自らの胸元に手を当てる。
そこに隠された情熱を、まるでヴィクターへ伝えようとしているかのようだった。
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白い光の揺らぎが、ヴィクターの意識を現実へと引き戻す。
荒れ果てた実験室では轟音が鳴り響き、金属がぶつかり合う音が周囲を震わせていた。
しかし、少年期に父が与えてくれた“夢への情熱”は今なお胸の奥で確かに燃えている。
(父さん……見ていて。僕はまだ、ここで終わるつもりはない。たとえ周りに笑われても、この手で未知を掴んでみせるんだ――)
暗い空間の中で、ヴィクターは静かに決意を新たにする。
あの日の父の笑顔や、頭を撫でられたときの温もりが、彼の行動を奮い立たせていた。
だが、それも束の間、目の前の轟音が意識を再び今の緊迫した状況へと引き戻す。
「……行くぞ!」
手に握る宝珠へ渾身の力をこめ、恐怖を必死で押さえつける。
赤い警告ランプが血のような色合いで空間を満たす中、彼は床のひび割れを踏み越えながら一歩を踏み出した。
背後ではルナ・フォスターとヘルメス・アークハイドが控えている。
もしヴィクターがやらなければ、暴走する装置はどうにも止めようがない。
わずかに脈打つ宝珠が腕を通して奇妙な感覚を送るたび、胸がきしむような痛みを覚える。
だが、ここで引き返すわけにはいかない。
「……っ、いま……やるしか……!」
声にならない息を吐き、周囲を彩る赤い警告ランプが鋭い閃光を放つ中を突き進む。
明滅する光のせいで視界はぐらつき、耳鳴りがさらに酷くなっていく。
装置の中心部に向かってもう一歩踏み出した瞬間、背後から激しい爆音が響き、ヴィクターの全身に衝撃が走った。
強い閃光と振動に意識がかき乱される。
遠くでルナらしき声が聞こえ、ヘルメスの金属音が混じるが、どれも遅れて鼓膜に届くばかりだった。
彼は既に身体を投げ出すように、装置へとまた一歩。
血のように赤かった視界が白い閃光に包み込まれ、やがて意識が揺らぐのを感じ取った。
(ああ……本当に、これで……)
最後まで声にはならず、思考は闇へと沈んでいく。
次に目を覚ましたとき、この世界がどうなっているのかさえ、彼にはわからなかった。
空間を切り裂くような轟音とまばゆい光の奔流に抱かれながら、彼の意識は一瞬にして途絶える。
運命の決着が何をもたらすのか――今はまだ、誰にも知ることができなかった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りフォークダンスしてます。
ざわ……ざわ