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2.墜落から始まる救済劇――交錯する剣士と銀髪の女

毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。


・前回のあらすじ


命がけの最終決戦だったはずが、気づけばヘルメスは闇の中にポツンと取り残されていた。

え、これって完全に詰んだ状況? いや、まだ終わらん!

このどうしようもない絶望的バトルの続き、乞うご期待。


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 意識が戻ったとき、最初に見えたのは、見慣れない夜空だった。

 星々がかすかに瞬いているが、それらの間には――星には思えない、妙な人工の光がいくつも浮かんでいる。


 (あの魔法……本来なら世界そのものが消滅してもおかしくなかったはずだ。それなのに、なぜ俺は生きている?)


 辺りには、言いようのない“静けさ”が漂っていた。

 魔力の流れがまるで感じられず、空気は硬質な何かに包まれているようだ。


 地平線を眺めれば、大きな水面が広がっているらしく、その先に巨人めいた女神像がそびえ立っている。

 片腕を高く掲げ、まるで灯火を掲げているかのような姿だ。

 石と金属でできた像……アストレリア(異世界)を長年歩き回った俺だが、あんなモニュメントは初めて見る。


 まさに別世界の象徴としか思えない。


(まさか……概念魔法で異世界に飛ばされたってのか!?)


 そう感じた矢先、身体に重力がのしかかり、一気に落下が始まった。

 星と人工の灯りが混じり合う夜空のただ中から、地上へ向かって急落下しているのだ。


「チィ……この高さはさすがにやばい!」


 下方を見やると、巨大な石と鉄で造られた塔がいくつもそびえ立つのが分かる。

 どれも直線的かつ鋭利な輪郭を持ち、まるで人間のための建築物というよりは、“別の意志を宿す構造物”のように見えた。


 地面までは軽く三百セリオンほどありそうだ。

 この速度で地面に叩きつけられたら、いくら俺でも助からない。


 (……やるしかない!)


 周囲の塔の壁を狙い、斜めに剣を突き立ててでも減速するしかない。

 金属と金属がこすれる嫌な感触が脳裏をかすめたが、ここで迷ってはいられない。


 一番近い塔の外壁へ剣を突き立てると、鈍い衝撃が骨にまで響いた。

 壁面を滑りながら一気にスピードを殺していくが、それでも完全には止まりきれない。


 剣が弾かれそうになった瞬間、足で壁を蹴って跳躍する。


 目視できたもうひとつの塔の屋上へ落下位置をずらし、そこに着地を図るのだ。

 背中に痛みを感じつつも、体を捻って軌道を調整する。


「はああっ!」


 屋上へ突き刺すように剣を構えたまま降下し、衝撃を逃がす。

 だが、思いのほか力が伝わりすぎたらしい。

 石造りの床に大きなひび割れが走ると、構造そのものが耐え切れず、床材がごっそりと崩れ落ちてしまった。


「っ……!」


 足元の床が先に落ちていく気配に焦りながら、剣を引き抜き体勢を保とうとする。

 だが、衝撃が大きすぎて踏ん張りきれない。

 ほんのわずかな隙間で視界が反転し、床ごと下の階へと落下してしまった。


 荒れ果てた室内に転がり込んだ瞬間、砂埃が高く舞い上がり、周囲が白く煙っていく。


 (くそ……何とか無事に着地出来た。だが、ここは一体……?)


 両膝を曲げてどうにか衝撃を殺し、剣を抜いたまま周りを見回した。

 息が荒くなるのをこらえ、埃を払うように首を振る。

 ふと、かすかに差し込む光の奥に人影が動いた。


 そこにいたのは、銀髪に金のハイライトが入った女性だ。


 黒いロングコートに身を包んだ彼女は、一見、逃げる余裕がなさそうにじりじりと後退していた。


 苦しげに眉を寄せてはいるが、どこか“追い詰められた様子を装っている”ようにも見える。

 まるでこの状況を冷静に見極めながらも、あえて弱々しく振る舞っているかのような雰囲気を漂わせていた。


 彼女の向こうには、筒形の遠距離武器を構えた複数の男たちが、にじり寄るように布陣を敷いている。背後には壁と倒れた什器(じゅうき)が塞ぎ、普通に考えれば完全に退路を断たれた状態だ。


 (こいつらは……ただの無法者には見えないな。服や肌に変な紋様がある)


 頭の中で思考をめぐらせる間もなく、男の一人が苛立たしげに筒状の武器をこちらへ向けてきた。


 つい先ほどまでは「撃つぞ」とばかりに彼女だけを狙っていたというのに、上から落ちてきた俺が割り込んだことで意識を切り替えたのだろう。


 (不可抗力もいいとこだぞ……勘弁してくれ)


 このままでは、彼女も俺も蜂の巣になりかねない。

 男たちが放つ殺気は容赦なく、その視線は一斉にこちらへ集中する。


 しかし当の銀髪の女性は、多少驚いた表情こそ浮かべているものの、どこか安堵しているようでもある。

 “絶体絶命”だった場面に何かが降ってきて、事態がわずかに転んだ――そんな手応えを得ているのかもしれない。


 だが同時に、その落ち着きぶりには“演技”のようなものが混ざり込んでいる。

 敵を欺くために動揺を見せているだけで、実際には隙を窺っている節がある。


 複数の男たちが言い争うように何かを叫んでいるが、その言語は俺には理解できない。

 ただ、彼らの表情や仕草から放たれる“敵意”だけは明確に伝わってきた。


 埃が徐々に落ち着くなか、蛍光灯めいた光がやや弱く空間を照らし、ようやく周囲の状況が見えてくる。


 そのとき、銀髪の女性は壁を背にしたまま、ちらりとこちらを見やった。

 目の奥に秘めた光――まるで“私はまだ諦めていない”と言わんばかりの確信を宿しているようにも感じる。


 彼女が取り乱した様子を見せながらも実際は冷静に事態を俯瞰しているように思えるのは、きっとただ者ではないという証拠だ。


 (どうにか"敵じゃない"と示さなければ……)


 剣を少し下げてみせるが、男たちは警戒を解くどころか遠距離武器の先端をさらに突きつけてくる。

 銀髪の女性も何かを言おうとしているが、俺には分からない。

 懸命に訴えている様子なのに、こちらも答えられない。


 そのときだった。彼女が視線で「ここを見ろ」と促すように合図し、壁際へじりじり移動する。

 敵の目を少しだけ誤魔化すように死角を作り、埃の積もった壁面を指先で素早く拭うと、簡単な図形を走り書きしているのが見えた。


 棒人間と“×印”が並んでおり、さらに矢印が“もう一人の人形”へと向かっている。

 わずかに首を傾け、その先を探ると、埃越しの視界の奥に手足を縛られた裸身の女性が見えた。

 どうやら祭壇らしきものに寝かされていて、傍らには儀式用と思しきナイフまで置かれている。


 (なるほど……彼女は生贄にされかけている女性を守りたいのか)


 納得すると同時に、銀髪の女性がこちらに向かって小さく指を折ってカウントダウンを始めた。


『3……2……1……』


 敵の男たちは苛立ちを募らせて何かをわめいているが、彼女は気にせず合図を続けている。


 俺は短くうなずいて応えた。


 背中越しに伝わる彼女の緊張感と覚悟――どうやら二人同時に仕掛ければ、この絶望的な状況を崩せるかもしれない。


 そして、指が“1”を示す瞬間。


 同時に床を蹴り、行動を開始する。

 一気に世界が張り詰め、男たちの怒号と銃口がこちらを狙い定める。


 果たして間に合うのか――。


 銀髪の女性と、別の世界から来た剣士である俺。

 二人が同時にその場所を踏み出した瞬間、すべての歯車が動き出す。


 さらわれた女を救い出す彼女の策略は成功するのか。

 俺はわずかに歯を食いしばりながら、剣を握る手にさらに力をこめた。


 ――その先で何が起きるのかは、まだ分からない。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りヒップホップしてます。


ちなみにヘルメスが用いた300セリオンという単語はメートル換算でそのまま300メートルです。


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