18.旧施設の最深扉──追い求める理想と魔法が交錯する場所
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
旧施設の奥へと足を踏み入れるルナたち。
暗闇と埃がこびりついた封印エリアに、一体何が潜んでいるのか?
封じられた研究の秘密、そして“影”の仮面男の狙い。
消えた研究員カルロスの行方を探しながら、死神剣士&名探偵コンビは未知の恐怖と対峙する――いよいよ封印の真相に近づく予感!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
俺たち三人――探偵のルナ・フォスター、ハーグレイブ家の当主ヴィクター、そして俺、ヘルメス・アークハイドは、かつてハーグレイブ家が保有していた旧施設へと足を踏み入れた。
ここは長らく封印され、今や地下の廃墟さながらに放置されていた区画だという。
重厚な扉が軋むように開いた瞬間、薄暗い通路に俺たちの影が伸びるのが見えた。
奥から漂う空気は澱んでおり、埃と錆びのにおいが強烈だ。
時折点滅する赤い警告ランプのかすかな光が、むき出しの配線やひび割れた壁に不気味な影を落としている。
ヴィクターが少し震えた声で口を開いた。
「ひび割れた壁といい……なんだかホラー映画のセットみたいだね」
彼の表情には不安が滲み出ている。
父親の封印を破ってまで入ってきた場所だし、見た目も相当陰鬱だから無理もない。
「気を抜かないで。いつ何が起きてもおかしくないわ」
ルナが拳銃を慎重に構え、警戒を怠らない。
探偵というよりは軍人のような立ち振る舞いだが、それだけ危険を感じ取っているのだろう。
俺は天井や壁を一通り見渡す。
(油のにおいと錆び……放置されていたにしては、この区画が持つ雰囲気が異様だな。まるで時が止まっているみたいだ)
ヴィクターが、ため息まじりに弱音を漏らす。
「いやぁ……こんな場所、父が放棄するのも無理ないね……怖すぎるよ……」
彼の背中が少し丸まっている。
俺はわずかに頷き、ケースを握り直して応じた。
「今さらだが、ずいぶん厳重な扉だったな。よく破れたものだ、流石だな」
ヴィクターは自嘲ぎみに笑う。
「セキュリティ自体は古かったけど頑丈でね……でもルナにあっさり破られちゃった」
ルナが肩をすくめて冗談めかす。
「ええ、今の時代ならあの程度どうにでもなるわ。大したことない」
相変わらず自信満々な彼女の態度に、俺もつられて思わず口元がほころんだ。
すると、その様子を見届けたヴィクターが、少しだけ安堵したように微笑み返す。
しばらく薄暗い廊下を進んでいると、ふと俺は頭に浮かんだ疑問を口にした。
「そういえば、ヴィクターとルナは幼馴染だったか? すごい縁だな。天才同士が出会うってのは」
ヴィクターがわずかに顔を曇らせ、首を振る。
「いや、僕とルナじゃ格が違うよ。ルナは“天才探偵”だけど、僕はただの“変人研究者”だ。ずっと“異世界”なんて夢物語を追いかけてきたけど、成果もいまいちだし……」
その言葉に、前を歩くルナが肩越しにちらりと振り返り、ため息をついた。
「変人かどうかはさておき、私だって天才なんて言われてもピンとこないわ」
「でも……時々思うんだ。僕のやってきたことは、本当に報われるのかなって」
ヴィクターが吐露する不安は、長年抱えてきたものなのだろう。
声にはいくらかの苦味がにじんでいた。
俺は少し首を傾げてから、なるべく落ち着いた口調で答える。
「じゃあ“ないかもしれない”って思ってるのか? ‘異世界’ってやつが」
「……ないかもしれない。でも、やっぱり信じたいから続けてるんだ。そうじゃなきゃ研究なんて無理だよ」
小さく笑いながらの自嘲が混じっているが、俺にはこの男が本当に“異世界”を追い求める夢を捨てきれずにいるのが分かった。
だからこそ、励ますように言う。
「俺の親友で、“変人”扱いされながらも最高の魔法使いになった奴がいる。才能ないって散々言われたけど、最後まで突き進んだ。努力はきっと裏切らない――俺はそう信じてる」
「ま、魔法使い……?」
一瞬、ヴィクターの目が丸くなる。
ルナは横で微かに眉をひそめたようだが、口を挟まず黙っている。
「言葉の綾だと思ってくれ。どんなに周囲にバカにされようと、信じた道を突き進める奴は強いってことさ。……そういう仲間が俺にはいたんだよ」
その言葉に、ヴィクターは少しだけ顔を上げ、肩の力が抜けたような笑みを浮かべる。
「……本当にそうかな。報われるかな、僕の努力は……」
「俺が保障する。いつか必ず報われるよ」
自分でも不思議なくらい、確信めいて口にしていた。
何しろ“努力”が、俺のいた世界で多くの奇跡を生んできたのを知っているからだ。
そうやって話をしているうちに、廊下の先に重厚な扉が見えてきた。
ひび割れが何本も走り、剥がれかけた警告ステッカーが貼り付いている。
かなり物々しい気配が立ち込めている。
ルナが扉を指さしながら声を低めた。
「おしゃべりはここまで。見て、あの分厚い扉が多分最深部への入口よ」
ヴィクターがゴクリと唾を飲む様子がわかる。
ここは“危険”だと知りながら踏み込む場所。
仮面男が徘徊しているかもしれないし、さらに恐ろしい何かが待ち受けている可能性だってある。
(だが、こいつらがいるなら大丈夫だろう。俺も剣を振るえるし、ルナは機転が利く。ヴィクターだって、意外と度胸を見せるかもしれない)
そう思いながら足を止め、俺は扉を見つめる。
ルナはすでに拳銃を構え直し、いつでも対応できるよう構えている。
ヴィクターは、その様子を横目に緊張の面持ちで息を整えていた。
(この先に眠る“真実”……それを探るために、ここまで来たんだ)
胸の奥で期待と不安が入り混じる。
少し呼吸を整えたあと、俺はアタッシュケースを再度握り直し、気を引き締めるのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りパソドブレしてます。
ちなみにパソドブレはペインの闘牛とフラメンコをイメージしたダンスです。
かっこいいよ!