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17.封じられた旧施設──三人が開く禁断の扉

毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。


・前回のあらすじ


仮面をつけた“影使い”が研究所の廊下に現れ、黒い刃でルナたちを襲撃!

まるで闇を自在に操るような超常の動きに、オタク研究者ヴィクターも「こんなの現実じゃない…」と戦慄。

銃弾とアタッシュケースで応戦しつつも、謎の男はあっさり姿を消してしまう。

次はもっと本気で来る?

一体誰が何の目的でカルロスを連れ去ったのか?

死神剣士ヘルメスと名探偵ルナのタッグが、ますます不可解な“影”の事件に挑む!


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 深く息を吐いて廊下の空気を確かめる。


 さっきまでの戦闘で漂っていた殺気は消えているはずだが、まだどこかに不穏な残り香がこびりついている感じがした。

 金属の床はわずかに冷えていて、遠くからは機械の低い唸りが聞こえる。


 ここはまるで、見えない何かが呼吸しているかのように思える――そんな印象を受ける。


 俺のすぐ脇では、ヴィクター・ハーグレイブが床に膝をついたまま立ち上がれずにいた。

 彼が憧れる異能バトルとやらの世界に、実際に巻き込まれてしまえば、こうして恐怖が勝るのも当然だろう。


 膝が震えていて、顔が真っ青になっているのが痛々しい。


「大丈夫か? 怖かっただろう、ほら、手を貸そう」


 そっと手を差し伸べると、ヴィクターは俺たちを見上げた。

 研究者として冷静にあろうとしているのだろうが、まだ呼吸が落ち着かず、目には怯えの色が浮かんでいる。


「す、すまない……こんなの初めてで……」


 彼の言葉には、先の“影”との戦闘の余韻がまだ耳にこびりついているような不安が滲んでいた。


「ここにいても仕方ないわ」


 ルナが慎重に辺りを警戒しつつ、落ち着いた口調で言う。


「とにかく、監視ルームに戻りましょう。もう一度映像を確認して、さっきの仮面男がどこから侵入したのか確かめるの」


 俺は黙ってうなずき、アタッシュケースを握り直す。

 ヴィクターも、足元がおぼつかないままではあるが、何とかついてきてくれるようだ。


 監視ルームに戻ると、先ほどと変わらず人気がなく、静まり返っている。

 モニターや電子機器の機械音だけが微かに空気を満たす。

 扉を閉めると、つい先ほどまでの戦闘が嘘のように落ち着いた空気だが、油断はできない。


 俺は廊下からの気配に注意を払いながら室内を一巡する。

 ルナは操作パネルの前で何かを切り替え、ヴィクターは呼吸を整えつつ、額の汗を拭っていた。


「さっきの影、あれは……何なんだ……? ゲームやアニメでも中々見ないような奴だったじゃないか……」


 ヴィクターの声は震えている。

 ルナが軽く肩越しに視線をやりつつ、モニターを切り替えている。


「仮面の男……どうやら“人殺し”が目的って感じではなさそう。あれだけの力があれば私たちを殺せたかもしれないのに、ただ様子を見ていたふうだったわ」


「奴は十分殺気を放ってたが、本気で殺すつもりなら、もっと致命的な攻撃をしていたはずだ」


 俺も、先ほどの様子を思い返してそう言葉を補う。

 実際、あの“影”の技を本気で振るわれたら防ぎきれないかもしれないが、奴はどこか一線を越えようとしなかった。


「でも……研究員が一人消えてるんだぞ。カルロスが……! あいつと関係ないとは思えない」


 ヴィクターが机に片手をついて悔しそうにつぶやく。

 仲間を奪われれば、気が気でないのも分かる。


「仮に奴の目的がただの“殺し”じゃないなら、攫った可能性が高いわ。データを消したり、研究所を探ったりしてるみたいだしね」


 ルナは別の映像を再生し、廊下を移動する仮面の男を映し出す。

 扉や部屋をチェックするように視線を投げているのが確認できる。


「研究所に何か狙いがあるのか、それとも独自の調査目的があるのか……いずれにせよ、この研究に興味を持っているのは確実よね」


 映像を止めると、ヴィクターが古い写真を取り出した。

 そこには若い頃のエドガー・ハーグレイブと、ルナの祖父アルバート・フォスターが並んで写っている。


「父の研究には、旧施設で“危険な実験”をしていた痕跡があるんだ。アルバートさんも協力してたらしい。仮面の男がそれを狙ってる可能性があるんじゃないかって……」


 ヴィクターの話を聞き、ルナは少し苦い表情で写真を見つめる。

 俺はその様子を見ているだけだが、二人の家系に複雑な因縁があるのかもしれない。


「空間や時空を歪める技術がまだここにあるのなら、奴の“影”の技もそこからヒントを得ているのかもしれないな」


 俺がそう言うと、ヴィクターは不安げに口を開いた。


「旧施設って、隠しエレベーターでしか行けないし、厳重に封鎖されてるんだ。父が“危険”だと言ってずっと封印してた場所だから……」


 ルナがモニターを落とし、室内の電灯がわずかに明るさを増す。


「じゃあそこに行ってみるしかないわ。開けられるかわからないけど、やるだけやってみましょう」


 ヴィクターは戸惑いを隠せないまま、「本当に大丈夫かい?」と視線をうろつかせる。

 だが、ルナは「探偵の仕事よ」と肩をすくめて笑みを返した。

 俺もそれに従ってアタッシュケースを握り、出入口へ向かう。


 彼の案内で研究所のさらに奥へ進むと、ほとんど人目につかない形で設置されたエレベーターが見えてきた。

 薄く埃が積もった扉が使われていない年月を物語っている。


 中に乗り込むと、古い金属特有の振動が足元を揺らす。

 ルナはテンキーと呼ばれる装置を観察し、ヴィクターは少し蒼白なまま手すりに寄りかかっている。


 沈黙が降りるなか、ふと思ったようにヴィクターがこちらを見る。


「さっきの戦闘……ヘルメスさん、どうしてあんな影相手にあんなに落ち着いていられたんだい? 元軍人とか、傭兵だったとか……?」


 正直、返事に困るが、仕方なくごまかす。


「まあ、荒事には慣れてる。とにかく“場数”が違うだけさ」


 ルナは小さく首を振って苦笑しているのが視界の端でわかる。

 きっと「場数どころの話じゃないでしょ」と思っているのだろう。

 だが、それを言うと余計な話になるから黙ってくれているのかもしれない。


「そうなんだ……まるでアニメのヒーローみたいだ。僕はオタクだから異能バトルに憧れもあったけど、実際に遭遇するとやっぱり怖いよ……」


 ヴィクターが半笑いでつぶやく。

 そして急に思い出したように、今度はルナのほうを見る。


「ところで、ヘルメスさんはどういう経緯でルナと同居してるの? ルナってあんまり人を家に入れないタイプだと思ってたけど」


 その問いに、ルナが一瞬身をこわばらせたのがわかる。

 気まずそうに目を逸らしながら、早口で言い訳を始めた。


「い、いろいろあったのよ。お爺ちゃんが生きてたら心配でしょうけど、別に“同棲”ってわけじゃないわ……っ!」


 珍しくルナの言葉が空回りしていて、余計怪しく思われそうだ。

 ヴィクターは丸眼鏡を押し上げながら口元をニヤリとさせる。


「そ、同棲じゃないって言ってもさあ……若い男女がひとつ屋根の下だろう? へぇー」


「な、何もないってば! ほんっとに何もないんだからね!」


 ルナは顔を赤らめ、声を張り上げる。


 その様子があまりに面白いので、俺はアタッシュケースを眺めるふりをして笑いを隠すしかない。

 さらにヴィクターがからかうように言葉を重ねると、ルナが「うっさい!」と一喝してこっちに八つ当たりしてくる始末だ。


 そんな騒ぎの中、エレベーターがガタンと揺れて止まり、古びた扉がぎしぎしと開く。

 そこには無骨な金属ゲートが立ちはだかり、赤いランプを点滅させている。


「ここが旧施設だ。封印されてたから、僕も入ったことがないんだよ」


 ヴィクターが扉を指し示す。


 確かに重厚な鋼鉄で、厳重に閉ざされている雰囲気だ。

 ルナはさっそくパネルをいじり始め、古そうな制御基板を開いてみる。


「……なるほど、結構古いシステムね。非常用バイパスが……ここか。よし」


 彼女が鍵盤を叩くと、わずかに警告音が響いたが、すぐに青いランプが点灯する。

 どうやらロック解除に成功したらしい。


「思ったより簡単だったわね。探偵の仕事って幅広いのよ」


 ルナが得意げに言うと、ヴィクターは呆然と「そんな短時間で……」と口をあんぐり開けている。

 俺は素直に「大した腕だ」と感心しつつ、分厚いドアのハンドルを掴んで力を込めた。


 錆びた金属が軋む音が低く響き、長年閉ざされていた通路が姿を現す。

 埃と湿気を含んだ冷気が一気に流れ出てきて、照明がぼんやりと明滅を繰り返していた。


「ここが……旧施設か。なるほど、ずいぶん長いこと放置されてたな」


 拳銃を手にそっと握り込んでいるルナ、そして俺はアタッシュケースを携えたまま周囲を見回す。

 扉が重苦しい音を立てて背後で閉まり、まるで地下迷宮へ踏み込んだような感覚に襲われる。


(さっきの“影”の男……まだ追ってくる可能性がある。用心しないとな)


 背後を一瞬振り返るが、闇ばかりで何も見えない。

 ただ嫌な感じだけが、肌にまとわりつく。


「どうしたの?」


 ヴィクターが不安そうに問いかけるが、ルナは「気のせいかも」とぼそりと答えている。

 俺は首をかしげ、さらに廊下の奥を探るように視線を走らせた。


 音ひとつない通路の先には、複数のドアが続いている。

 照明も頼りなく、いつ消えてもおかしくないくらいチラついていた。


(ここに、カルロスが消えた鍵や、奴の狙いが眠っているってわけか)


 腹の奥で緊張が高まりつつも、引き返すわけにはいかない。

 ルナも覚悟を決めたように先へ進み、ヴィクターはやや腰が引けながらも後に続く。

 かすかな明かりがまた明滅を繰り返しながら、闇の奥へ誘うように揺れていた。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りチャチャチャしてます。


ハーグレイブ研究所編ですが、初期プロットではハーグレイブ屋敷だったりしたのですが、色々あって没にしたんすよねぇ……そのうち屋敷編書き直してやりたいなぁ!


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