16.夜を裂く黒き刃──研究所に潜む影の死闘
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見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
影が人をさらうなんてアニメでもビックリ!?
消えた研究員・カルロスの監視映像には、明らかにうごめく“影”が写っていた。
モニター室の空気はピリつき、ヘルメスも即ケースに手をかけてバトル準備!?
果たして謎の影の正体は何か、それとも誰かの陰謀なのか?
死神剣士×名探偵コンビの夜の捜査が、ついに動き出す!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
扉を抜けた途端、冷たい空気が肌を刺してくるのを感じた。
先ほどまでの監視ルームとは違い、廊下の壁や床に広がる影が、やけにくっきりと浮かび上がっている。まるでそこだけ光を拒んでいるかのように、黒い輪郭が際立って見えた。
「……どこに潜んでるんだ」
声を低くしてつぶやきながら、素早く周囲を見回す。
廊下の先に人影はなく、ただ重苦しい空気だけが漂っていた。
床や壁にできた影がかすかに揺れているのを視界の隅で捉えると、背筋に嫌な寒気が走る。
「完全に隠れているみたいね」
少し後ろからルナが応じる。
俺は手にしたアタッシュケースを握り直し、いつでも剣を取り出せるよう気を張るしかない。
この世界では無闇に剣を振るうわけにはいかないが、そんな悠長な状況でもなさそうだ。
後ろではヴィクターが足をもつかせながらついてくるのが気配でわかる。
さっき見た不可解な映像や出来事が、彼の精神をかなり消耗させているらしい。
胸元に付けているアニメキャラのバッジが震えていて、こちらまで落ち着かなくなりそうだ。
「ヴィクター、下がっていて。すぐ片づけるわ」
ルナが穏やかな口調で言いながらも、拳銃に手をかける動きは真剣だ。
俺も同様に神経を張り詰めたまま、闇の底に潜む相手を探ろうと意識を研ぎ澄ます。
そのとき、床に映った影がぐにゃりと波打つのが見えた。
まるで液状化したような黒い塊が盛り上がり、鋭い刃へと変化していく。
「ヴィクター、伏せろっ!」
思わず声を張り、ヴィクターを横へ押しのける。
漆黒の“刃”が横薙ぎに襲いかかり、空気を切り裂いた。
床には深い裂け目が走り、壁際に倒れ込んだヴィクターの姿が目に入る。
「な、何なんだよこれ……! こんなの、アニメじゃあるまいし……」
ヴィクターが取り乱した声を上げるのに、俺はちらりと視線を送るだけ。
余裕がない。
すぐにアタッシュケースを振りかぶり、黒い刃を横から叩き払った。
鈍い衝撃音とともに“それ”の動きが一瞬止まるが、黒い塊はばらばらに四散して床へ溶け込み、すぐに姿を消してしまう。
「……消えたのか?」
廊下を見回し、アタッシュケースを握り直す。
俺は激しい鼓動をなだめようと深く息をついた。
だが気を抜くわけにはいかない。
ルナも拳銃を構えたまま廊下を警戒しているのが見えた。
壁際の影がわずかにうごめいた気がして、俺はルナの手首を軽く叩いて合図を送る。
彼女は即座にそちらへ銃口を向け、迷いなく引き金を引いた。
銃声が響き、黒い影が人型へと変わっていく。やがて“仮面をつけた男”がそこに立ち現れた。
白い仮面には無機質な曲線が走っており、表情を読み取れない。
全身を黒い装束で包み、体の一部はまだ影のように不安定に揺れている。
「チッ……!」
男が舌打ちすると、足元の闇へと沈もうとした。
しかし俺がケースを振り下ろして、影の境界を叩き切るように一撃を見舞うと、金属音のような衝撃が走った。
男は一瞬体勢を崩すが、完全に溶けきる前に天井近くまで飛び上がり、霧のように身体を変化させて廊下の中央に軽々と着地する。
「う、うわ……何なのこれ……本当に影を操ってるのかよ……」
ヴィクターが声を震わせているのを横目に、俺は男の動きをじっと見据える。
照明の死角が多いこの廊下では、奴の得意とする“影”がいくらでもあるというわけだ。
「なるほど、お前たち……やるじゃないか」
仮面の男の声は平坦で、不気味なほど感情がないように聞こえる。
仮面の奥の瞳が赤く光った気がして、俺とルナを順番に値踏みするかのように見比べている。
「……誰だお前」
狙いを定め、息を殺して問いかける。
奴はわずかに仮面をかしげたように見えたが、やがて冷たい声を放った。
「ただの影使いさ。ここで大暴れしたいわけではなかったが、ちょっと“腕試し”をさせてもらった」
そう言うや否や、奴の足元で黒い影が波打ち始め、四方へ広がるように拡散した。
ルナが銃を構え直すのを見て、俺もアタッシュケースを振りかざそうとするが、黒い塊は弾けるように散らばっていき、次の瞬間には男の姿ごと消え失せてしまう。
「……逃げたか」
押し寄せていた不穏な気配がスッと引いていくのを感じながら、俺は肩の力を抜いた。
ルナも銃を下ろし、眉をひそめて唇を結んでいる。
「な、何なんだよ、あいつ……!」
壁際でヘタり込むヴィクターが、震える声で問いかけてくる。
俺たちだって正体なんてわからないが、どこかで“予想はしていた”気もする。
カルロスが失踪したという謎、研究所の異常な雰囲気、そして今の闇の存在……偶然じゃないはずだ。
「カルロスの失踪と関係あるのは間違いないわね」
ルナは銃をホルスターに戻しながら小さく吐息を漏らす。
俺もケースを握り直し、あたりを警戒するが、奴の気配はどこにも感じられない。
「影を操るってんなら、こんな廊下は格好のフィールドだろう。だが次は逃がさん」
そう呟くと、ルナが静かに頷く。
ヴィクターがなんとか立ち上がり、肩越しに俺たちを見ているが、その顔はまだ蒼白だ。
「影を操るとか……ほんと、現実離れしてる。これじゃ……カルロスはどこに連れ去られたんだよ……」
彼が絶望気味につぶやくたび、ルナは首を振り、無理に笑おうともせず言葉を選んでいるのがわかる。
「わからないけど、そう遠くには行ってない気がする。研究所のどこかに潜んでいる可能性だってあるわ。ヴィクター、警戒を強めて」
「わ、わかった……けど、どうやって……」
ヴィクターの困惑も当然だ。
俺としては、奴が使った影の術はアストレリアにおける暗殺者の技を思い起こさせる。
けれどここは魔力の乏しい世界。
どういう原理で動いているのかは謎のままだ。
(ともあれ、逃げられはしたが“敵の正体”を垣間見たのは大きい)
そう自分に言い聞かせ、気持ちを整える。
ルナが横を向き、低い声で決意を漏らしたのが耳に入る。
「次は絶対に逃がさない。ヘルメス、手伝ってくれる?」
「ああ、もちろんだ。俺もヤツを好きにさせるつもりはない」
言葉は短いが、心からそう思う。
暗黒の影をまとった仮面の男……恐らく、ここで起きている不可解な事件を裏で操る存在なのだろう。
ならば“死神”と呼ばれたこの俺が、その闇を討つ。
そういう役割を負うしかない。
廊下には再び静寂が訪れ、遠くで空調の低い唸りだけが聞こえていた。
床の裂け目が、さっきの激しい戦いを物語っている。
(やれやれ、まったく……面倒な敵が出てきたもんだ)
内心で苦笑しながら、俺はアタッシュケースを携えてルナとヴィクターを守るように先へ進む準備をする。
夜の闇が、まだ何かを潜ませている気がしてならなかった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りサンバしてます。
ラテンダンス系いいよね。
ヴィクター君、作者的には結構好きなキャラです。




