15.漆黒の影――影に呑まれた研究員
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
天才研究者ヴィクターと探偵ルナの“異世界”トークが、子どもの頃から続いていたなんて!?
一方、ヘルメスはこのゴツい研究所を前に少しビビり気味?
ルナ・ヘルメス・ヴィクターの奇妙トリオが巻き起こす、新たな大騒動の幕が上がる!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
研究所の廊下に足を踏み入れた途端、白と銀を基調とした無機質な光景が広がっているのに気づいた。
俺はヴィクターという男の先導に従って歩きながら、ガラス越しに見える研究室を横目に観察する。
複雑な数式やグラフが映し出されたモニターが目につくが、正直なところ今の俺には何が何やらわからない。
魔法研究所とはまるで違う雰囲気に、妙な違和感を覚えた。
「ここ、こんな夜遅くまで稼働してるなんて熱心ね」
ルナがそう言うと、先導しているヴィクターは肩をすくめながら首を振った。
彼いわく、普段はもっと多くの研究員が働いているらしいが、誰かが突然消えたという事件のせいで全員自宅待機にしているのだという。
「普段はもっと人がいるんだけど、今は全員自宅待機にしてるんだ。カルロスって研究員が突然消えてから、みんな混乱してて……警察に言っても“映像のバグじゃないの”なんて相手にされないしね」
ヴィクターがそう説明するのを、俺は黙って聞きながら周囲の空気を感じ取る。
廊下は奇妙に静まり返っていて、まるで“人が減った”どころではないような、不吉なものを孕んでいる気がする。
「まぁ……騒ぎが大きくなると研究員たちも落ち着かないでしょうし」
ルナが投げかける言葉に、ヴィクターはため息をついたようだった。
彼いわく、カルロスという研究員が“不自然に消えた”らしく、映像に残った様子があまりに現実離れしているため警察も取り合ってくれないのだという。
「そうなんだよ。みんな大事な仲間だし、一刻も早く見つけたい。ただ、“異世界転移”って説明したら余計に笑われるだろ? ……あ、ヘルメスさんはどう考える? 異世界モノのアニメとかみないよね?」
ヴィクターが冗談めかして振ってきたが、俺は他に気になる事があり、廊下の先を見やった。
そしてルナが口を開く前に、自分の直感を口にする。
「この異様な空気……何が起きてるのか、早く確かめたほうがいいと思うぜ」
ルナは頷き、ヴィクターは「わかった」と言いながらモニター室へ案内してくれる。
壁一面に並んだディスプレイや操作パネルは、まるで警備の司令室のように近未来的だが、今は人影がほとんどない。
「これが、その時の映像なんだ」
ヴィクターがパネルを叩き、画面を操作する。
そこには、カルロスという研究員が部屋でノートPCを操作している姿が映し出されていた。
アニメとやらの主題歌を聴いているのか、イヤホンをして口を動かしているのがわかる。
数秒後――カルロスの輪郭が“にじむ”ように歪み、瞬時に画面から消失。
まるで消える直前に一瞬だけ形を揺らして、どこかへ飛んだかのようだった。
「本当に……消えてる」
モニターを見つめるルナの声がわずかに震えているように聞こえた。
俺も画面を凝視したあと、ヴィクターに再生を巻き戻すよう促す。
「もう一度、消える直前をゆっくり再生してくれないか」
何度かリピートすると、カルロスの背後に“影”がうごめくように動いているのが見えた。
ただの光の加減ではなく、意思を持ったように揺れ、まるで狙うようにカルロスを呑み込む――そんな動きだ。
「影が……動いてる。これ……CGでもないのに」
ヴィクターは声を震わせて画面を指す。
確かに、こんな現象がこの世界で起きる事はおかしい。
ここは“魔力”のない世界のはず。
ルナも眉をひそめて小さく呟いた。
「要するに、影を使って誰かがカルロスを連れ去った? あり得ないわね……」
俺は短く息をついてから、先ほどの影の動きを思い返す。
「俺のいた世界に、影を介して移動する技があった。暗殺や潜入のために使われる……気配を殺すには最適だな」
「あ、あはは……さすがに冗談でしょ。ハハッ。ヘルメスさんはまさか異世界から来たなんて言わないよね?」
ヴィクターが言葉を濁しながら苦笑しているが、俺は肩をすくめるだけだった。
意図的に冗談にされても、目の前で起きている事実を否定することはできない。
「信じるかどうかは勝手だが……起きている事実は否定できない」
「……そうだね。だとしても、どうやって止めればいいか……」
ヴィクターはモニターを睨みながら苛立ちを隠せない様子だ。
カルロスという研究員がなぜ消えたのか、誰が仕組んだのか――情報があまりに不足している。
ルナは少し考え込んでから、冷静を装った声で言い放つ。
「研究員の端末データも消されてるんでしょ? 誰かの仕業と考えるのが自然ね」
「うん……でも、警察は全然相手にしてくれないし……」
苛立ち混じりのヴィクターの表情を見たそのとき、俺は背後にかすかな気配を感じた。
ルナもすぐにわかったのか、周囲を探るように視線を走らせている。
「……今、何かが動いたような」
そう呟いた俺の言葉に、ルナはホルスターへ手をかけながら周囲を見回す。
人気のない室内なのに、妙に空気がざわついている気がする。
(影が動く術者がいるとしたら、こんな場所に潜むのもたやすいだろうな……)
ごくりと唾を飲み込みながら、アタッシュケースに触れる。
ここには双剣《陽焔》と《月影》が収まっているが、鍵を外す手間を考えると、すぐに応戦できるか怪しいものだ。
「……行くわよ、ヘルメス」
「了解だ」
俺が短く応じると、ルナも息を整え、ヴィクターは困惑顔のまま立ち尽くしている。
だが、今の状況では彼を守りながら先へ進むしかない。
(この研究所、ただの施設ってわけじゃなさそうだな)
カルロスの失踪、動く影、そしてこの妙に張り詰めた空気。
アストレリアの混沌を思い出させる、嫌な気配が漂っている。
そんな緊張を噛みしめながら、俺はルナとともに夜の闇へ踏み込む。
“死神”と呼ばれた剣士として、自分の力が必要になるかもしれない――そう思うと、不謹慎ながら心が少し高揚していた。
物語の歯車が、また一つ噛み合った気がする。
ルナと手を組むのは悪くない……そんなささやかな確信とともに、俺は次なる謎へ足を踏み出した。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りベリーダンスしてます。
志摩のスペイン村のダンスすごいよね。また行きたいわ。