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14.研究所に忍び寄る影──死神と探偵が挑む深夜の失踪事件

毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。


・前回のあらすじ


エリオットの骨董店で、ヘルメスがついに“合法剣ケース”をゲット!

ところが彼の剣マニアぶりは止まらず、アンティークの騎士剣に目をキラッキラさせて大興奮。

呆れるルナをよそに、盛り上がる二人の武器トーク…でもこのあと本業の調査は大丈夫なの!?

夕暮れに染まる街をあとに、死神剣士と名探偵が怪事件へとレッツゴー!


連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 あれは、まだ僕が八歳の頃のことだ。


 父に連れられて、アルバート・フォスター――当時、父が共同研究をしていた物理学者の家へと向かった。

 研究所のように資料や試験管が散らかった部屋に古めかしい書斎が隣接している、不思議な空間だった。

 窓辺には見慣れない古い機材が置かれ、壁際には謎めいた本がずらりと並んでいる。


 僕の背丈くらいある分厚い本もあって、ただの学者の家とは思えなかった。


 そんな場所で、銀色の髪を持つ少女がひょっこりと姿を見せた。

 彼女は人形のように整った顔立ちをしていて、一瞬だけ息をのんだのを覚えている。

 部屋の埃を照らす淡い光が、まるでスポットライトのように彼女を照らしだしていた。


「はじめまして。ルナ・フォスターよ。あなたは……?」


 けれど、その口調は見た目の印象とは違い、少し控えめでぎこちないものだった。


 僕は、言葉を返すまでに数秒かかった。


「ヴィクター……ヴィクター・ハーグレイブっていう。父の研究を手伝いに来たんだ」


 心なしか喉が乾いていた。


 まるでファンタジーアニメから飛び出してきたみたいな、銀色の髪と透き通った瞳。

 その光景を前に、僕はただ驚いて立ち尽くしていた。


 ルナの祖父・アルバートは父に向けて何やら新しい理論の話をしていたはずだが、僕の耳には半分も入ってこなかった。


 むしろルナの存在こそが、当時の僕にとっての“謎”そのものだったからだ。


「……ねえ、君は何を研究しているの?」


 あのときのルナは好奇心を混ぜた表情で、僕の持っていたノートをのぞきこもうとしてきた。

 細い指先がノートの端を軽くつまんで、僕が書きつけた物理のメモをじっと見つめている。


「父さんの研究ノートを真似してまとめてるだけ。難しいことはまだわからないけど……新しい世界があるかもしれないって、それが父の仮説なんだ」


 言いながら、僕はどこか誇らしく感じていた。

 父の研究を手伝うことは、その頃の僕の“唯一の自慢”であり、未来への夢でもあったからだ。


 するとルナは、小さく笑って首をかしげた。


「新しい世界……それって、異世界みたいなこと?」


 当時の僕は、彼女の言う“異世界”という単語に面食らった。

 物理理論で仮説を語るのと、“異世界”という漠然とした響きには、大きな溝があるように思えたからだ。


 だけど、ルナの瞳には確かな輝きがあった。


 ――彼女は本気で“異世界”というものを信じている。


 その瞳を見ていると、不思議と自分の中にも同じ気持ちが生まれそうになった。

 僕たちは夢中になって話し合った。


 年端もいかない子供二人が、宇宙の果てだとか、次元の扉だとか、絵空事じみた空想を熱っぽく語り合う。

 そして最後に、まるで秘密の合言葉のように――。


「いつか一緒に異世界に行こう」


 ――短い誓いを交わしたのだ。


 あれから長い年月が過ぎた。


 でも僕は、あの日のことを忘れられない。

 彼女の銀色の髪、その瞳の奥に映る世界。

 そして小さな手がノートの端をつまんでいた感触を。


 ---


 ひとつの研究に打ち込むたび、僕はいつか“本当に異世界へ至る方法”を見つけられるかもしれないと信じていた。

 それは父の期待を超えるほどの焦燥と情熱になって、大学へ進み企業を立ち上げ、今の僕を形作った。


 ただ、あの時の「ルナ・フォスター」はいつの間にか大人になっていて、今じゃ探偵なんていう仕事をしている。


 名前を耳にした途端、胸が妙な高鳴りを覚えたのは否定できない。

 昔のあの笑顔を思い出すたびに、なぜか心がほっと温かくなる。


 ――「一緒に異世界へ行こう」


 たわいない子供の約束かもしれないが、僕は今でもそれを覚えている。

 どれだけ忙しく研究に没頭しても、あのときの特別な感情はどこかで灯り続けていたのだ。


 そして今、こうして自分の研究所に彼女がやって来てくれるのを待つとき、胸の奥底で小さなざわめきが起きる。

 僕は合理主義者で、感情を研究の邪魔にするつもりなんてないはずなのに。


 それでも、どうしてだろう。


 彼女に会えると思うと、昔みたいに“未知の世界”に触れているような高揚感がよみがえってくる。

 たとえ彼女が探偵として僕の研究に疑いを抱こうとも、あるいは――いずれ僕自身を問い詰めることになったとしても。


 ---


 夜の街を抜け、人気の少ないエリアへさしかかったころ、車内はやけに静かだった。


 俺は助手席に座り、窓の外をなんとなく見ている。

 けれど、目の前の街並みに強い興味があるわけでもない。

 少し離れた位置でルナが操縦する“車”は、すでに妙な金属の塊だと理解していても、未だに慣れない感覚がある。


 やがて視界に入ってきたのは、コンクリートでできた巨大な建物。

 高いフェンスに無数の監視の目がついていて、まるで軍事要塞のように見える。

 ふと低く呟いてしまった。


「……これが、この世界の“研究所”か。魔法研究所とはだいぶ違うな」


 俺の隣でハンドルを握るルナは答えないまま、そこにある警備ゲートの手前で車を停め、動力を切った。

 夜の空気が重く淀んだように感じられ、金属のフェンスからきしむ音が耳につく。


(本当に“ただの研究所”なのか……)


 そんな疑念を抱きつつフェンス越しを見上げる。

 外灯も少ないせいか、建物の影が鋭く伸び、あたりをいっそう暗く見せている。

 ルナがドアを開けて外へ出ると、俺も後ろに続いた。


 俺は愛用の双剣を金属のアタッシュケースへ収めている。

 いざというときすぐに抜けないが、警察に見つかって没収されるよりはましだ。

 ケースのステンレスの縁に軽く触れると、収まっている《陽焔(ようえん)》と《月影(げつえい)》の感覚が、わずかに心を落ち着かせてくれる。


 ほどなくして正門がゆっくり開くと、一人の男が出迎えに現れた。

 ヴィクター・ハーグレイブ――ここの研究所の持ち主で、世界的企業の総帥らしい。

 白衣の上に黒いジャケットを羽織っていて、胸元に奇妙な絵柄の服……“アニメの美少女”というやつらしい。


 初めて会うが、何やら疲れた表情が浮かんでいる。


「来てくれたんだね、ルナ」


 彼はルナにそう言いながら、俺のほうをちらりと見やる。

 ルナは皮肉まじりに言葉を返していた。


「こんばんは、ヴィクター。……ずいぶん立派な要塞を作ったものね。深夜アニメの秘密結社でも連想しそう」


 俺は黙ったまま、帽子を軽く押さえて後ろに立つ。

 ヴィクターが面倒そうに頭をかきながら応じる。


「まあ、父の研究所を改築していったらこうなったんだよ。そっちこそ探偵スタイルが様になってるじゃないか……まぁいい、とにかく助けてほしい。研究員が一人、突然消えちゃってさ」


 そこでヴィクターと名乗る男が、俺に視線を移した。


「そっちは助手さん? はじめまして、僕はヴィクター・ハーグレイブ。世界的企業の代表だけど、実態はただのオタクだよ」


 俺はケースを持ち直しながら、手短に名乗ることにした。


「ヘルメス・アークハイド。わけあって、今はルナの探偵事務所に居候してる。助手というか……ボディガードみたいなもんだ」


 その瞬間、ヴィクターの顔が驚きに強張るように見えた。


「え!? ルナって事務所に住んでるんじゃなかったかい? そもそも事務所ってそんなに広――」


「……その話には深いわけがあるのよ。とにかく事件のことが先。いいわね?」


 ルナが割り込むように言葉をかぶせると、ヴィクターは怪訝そうな表情で「え、あ、そう……」と納得しきれないまま口ごもった。


 しかし、すぐに俺の持つケースへと視線が移る。


「それ、何が入って……」


「たいした物じゃないわ」


 間髪入れずにルナが笑顔で割り込んだ。


「危険なことに巻き込まれやすいから護身用具を入れてるのよ。いわば“ロマン武装”ってとこかしら?」


「はは……なるほど。僕も中二病的な発想は嫌いじゃないけど、ここで暴れられたらたまらないな」


 ヴィクターは半ば冗談めかして苦笑すると、手招きするように研究所の奥を示す。

 フェンスの先には幾重にもセキュリティゲートがあり、見慣れない認証パネルが並んでいた。

 低いうなりを上げる電子音のなか、赤いランプがこちらを観察しているように感じる。


 ルナと俺は顔を見合わせ、ヴィクターへと視線を戻す。

 無言の警備システムの作動音が耳を突くが、とにかく今は状況を把握しに行くほかない。


 この厳重な施設の奥で起きた“研究員の突然の失踪”――

 いったい何が起こったのか。その答えを探るためにも、俺たちは先へ進むしかなかった。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りタップダンスしてます。


問題は事故って足がちょっと不自由な事だ。

上半身ではちゃんと踊ってるよ!?

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