13.アタッシュケースに収める誇り──剣を持ち歩くための装備
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
探偵事務所に住みつき、法律書まで読み込む“死神”剣士ヘルメス。
そんな彼に、ルナ探偵から「助手やらない?」のまさかの勧誘!?
しかも次なる事件は、天才研究者ヴィクターの研究所で起きた謎の失踪。
おまけに愛剣を持ち歩けない問題まで勃発し、ケース購入で対応せよとのお達しが…!?
現代法律VS異世界剣士、そして不可解失踪のナゾを追う名探偵コンビの活躍やいかに?
新たな波乱が始まる!
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
夕暮れの街を、ルナの車で移動する。
俺は助手席で布に包んだ剣を膝の上に抱え、外の景色を見つめていた。
車はエンジンが唸ると同時に滑るように走り出すが、いまだにこの世界の街並みに馴染めない部分がある。
やがて到着したのは、古びた看板が軋む音を立てる建物。
「Elliot’s Antiques & Special Gear(エリオットの骨董&特殊装備店)」
という文字がかすかに色あせていて、相当昔から営業しているようだ。
店の扉を開くと、木の床がぎしりと軋む。
棚には精巧な武具や年代物の時計、奇妙なアーティファクトが所狭しと並んでいて、まるで俺の故郷の骨董市に来たようだ。
西洋甲冑の兜や刀剣のレプリカなども見えるが、それらがこの世界では“アンティーク”として扱われているのが何とも不思議な気分だ。
カウンター奥から、四十代半ばの筋骨隆々な男が片眼鏡を光らせて顔を上げた。
「ルナか。今日は何の用だ?」
ルナが当たり前のように会話を始める。
「エリオット、模擬刀用のアタッシュケースが欲しいの。丈夫なやつ、あるんでしょ?」
すると男は俺を見やり、首をかしげた。
「そっちの新入りは?」
「私の探偵助手よ」
「へえ……探偵助手が剣を持ち歩くのか?」
俺は少し身じろぎしながら、布の中身が本物だとバレているのを感じる。
この男——エリオットと呼ばれているらしい——は、警戒というより面白がっている風だ。
「模擬刀じゃなく、本物だろ? そいつは」
ルナが苦笑まじりに肩をすくめる。
「まぁね。物騒なこの世の中だけど、そのまま振り回すわけにもいかないし」
エリオットは納得したように頷き、店の奥の棚を漁っていく。
壁際にはケースや箱が大小並んでおり、鍵付きで頑丈そうなものも目立つ。
「これがうちで扱ってる模擬刀用ケースだ。頑丈なのから軽量のものまで、色々ある。たとえばこれは防水仕様で、アウトドア向き。こっちは航空機の素材で軽い……まあそれなりに高いがな」
俺は黙ってそれらを確認し、ひとつ選んで布に包んだ剣を収めてみる。
ロックを閉めると、剣は中でほとんど動かない。悪くない。
「……これなら合法的に持ち運べそうだ」
エリオットがニヤリと笑う。
「気に入ったか? 値段は……まぁ、500ドルはくだらねえがな」
ルナがちらりと値札を見て溜息をつくように、「ええ、これ買うわ」と告げる。
支払いを終えると、エリオットはさらに奥から別の黒いケースを取り出してカウンターへ置いた。
「お前が預けてたブツも、整備しといたぜ」
ルナがそのケースを開けて、拳銃を取り出す。
黒いボディを確認すると、こくりと頷いている。
俺はそれを見て、ふと小さく息を飲む。
「……それが、お前の“武器”か」
ルナは銃を収めながら苦笑する。
「まあね、いざってときの保険。あなたの剣よりは扱いやすいかも」
俺は素直に頷き、新しいアタッシュケースを握る。
これで俺の剣は、少なくとも“武器の携帯”にはならないはずだ。
まだ慣れないが、仕方ない。
——と、その時、視界の隅に鮮やかな意匠の剣が映った。
ショーケースの奥にある古風な騎士剣だ。
クロスガードや柄頭に細かい装飾が施され、錆が浮きつつも形状がはっきり残っている。
思わず足がそちらへ向き、ガラス越しに見入ってしまう。
「……あれは……」
錆びついた刃先、しかし造形は美しく整っていて、恐らくこの世界の歴史的な騎士剣だろう。
俺は思いがけず胸が高鳴って、まるで宝物を前にした子供みたいになってしまう。
「十字ガードの両端が絶妙に湾曲……刃先はダイヤモンド断面になっているな……これ、相当古いんじゃないか……修復痕もある。丁寧に磨いた跡が……」
「ちょっと、ヘルメス……そんなに食いつくことないでしょ」
隣からルナが呆れ声をかけるが、そう言われても心が騒ぐ。
剣の由来を想像するだけで、頭の中にかつての戦場がよぎる。
エリオットがショーケースを開け、満足げに俺を見てくる。
「分かる奴には分かるらしいな。これは元々錆びだらけだったんだ。時間かけて修復して、今の状態まで戻したんだぜ」
「すごい……この世界…いや、この時代にも、ここまで見事な刀身が残っているとは。そりゃあ戦場で使うには難しいだろうが、骨董としては十分……」
言葉が途切れる。
ずっと眺めていたい気分だが、ルナが腕時計を見て焦り出すのが目に入る。
確かに、こんなところでいつまでもウロウロしてる場合でもない。
エリオットはゆるく肩をすくめ、俺に話しかける。
「気が合いそうだな、助手さん。いつでも見に来てくれよ。俺も武器が好きなんでな」
「ありがとう。……必ずまた来る」
名残惜しい気持ちを断ち切るように、俺はルナのほうへ振り返る。
彼女が軽く足踏みしているのを見れば、今すぐ出発しないといけないのが分かる。
「まったく、ほんとに剣が好きなのね……。はいはい、ケース買ったし用事が残ってるんだから行くわよ」
「……ああ、分かった」
ケースをしっかりと抱え、俺は店の出口へ向かう。
エリオットが軽く片手を挙げて見送ってくれた。
「厄介ごとに巻き込まれる気しかしねえが……ま、気を付けてな。何かあったらまた来いよ」
「ありがとう、エリオット」
そう答えるルナを横目に、俺は最後にちらりとショーケースの中の騎士剣へ視線を戻す。
この世界でも、剣というものには確かに魂が宿っている――そんな気がしてならない。
(新しい世界、そして新しい相棒――アタッシュケース、か。何か妙だが、そうでもしないと“剣士”としての誇りも守れないか…)
そんな思いを抱きながら店を出る。
ルナは玄関先で大きく息を吐き、すぐに車のリモコンキーを握った。
こうして、“死神”と名探偵の私は、骨董店での収穫を胸に次なる事件へ踏み出す準備を整える。
夕暮れに染まる街の路地に、俺たちの足音が溶け込んでいった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りフラメンコしてます。
個人的にかっこいいのはストリートダンスだと思います。




