11.オールドタウンの共同生活──面倒な特異体質を持つ男と料理下手な探偵
毎週【月曜日・水曜日・金曜日】07:10に更新!
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
魔王城の最奥に着いてみたら、肝心の魔王とヘルメスがまさかの行方不明!?
しかも超絶やばい禁断魔法で死神さんが世界ごと吹っ飛ばされたっぽい…。
頼みの綱が消えちゃった今、フォルたちは「ちょっと待って、マジで世界救うのオレらだけ!?」状態。
果たしてこの大ピンチ、どう切り抜ける!?
連載形式で更新していく予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
セントラル・ヘイヴン——。
この大都市のオールドタウン地区にある探偵事務所に住みつくようになって、いつの間にか一か月が過ぎた。
煉瓦造りの街並みに石畳の通り。
どこか俺の故郷・アストレリアの古い城下町を思わせる雰囲気がある。
だけど少し奥へ足を伸ばせば、高層ビルと車の喧騒が一気に迫ってくるのが、さすが“地球”の大都市ってところか。
最初は言葉がまったく通じず、まるで妖精語を学んでいる気分だった。
それでもルナ・フォスター——この探偵事務所の所長である彼女の指導のおかげで、日常会話くらいなら形になってきた。
アストレリアと比べて技術も文化もまるで違うが、剣の稽古ほどじゃない。
言語習得はアストレリアでも各国を渡り歩いた俺にとっては“楽な仕事”だった。
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この世界で生活してみて、ひとつ気になったことがある。
ルナはどうやら、毎日のように近所のコンビニという店で弁当やパスタを買い、食事を済ませているらしい。
味や手軽さは認めるが、さすがに栄養が偏りすぎじゃないかと心配になってきた。
ある日の昼下がり、俺は遠回しに言ってみる。
「ルナ、最近……ずっとコンビニ飯ばかり。料理、しないのか?」
彼女はちょうどペットボトルのドリンクを飲もうとしていたようで、ビクッと肩を震わせた。
「つ、作れるわよ。前にサンドイッチ作ってあげたでしょ?」
確かに、公園で一緒に食べたサンドイッチは意外と悪くなかった。
でも、さすがに毎回それで済ますわけにもいかない。
「他にレパートリー、ないのか?」
するとルナは目を逸らしつつ、なぜか妙に声を上げて答える。
「も、もちろん! 今はネットでレシピを調べれば何だって作れるわよ。わ、私が本気出せば……」
どうにも挙動不審だ。
そこで、俺がアストレリアで鍛えた食生活——特に、筋肉を維持するためのバランスの良い食事がどれだけ大事かを語ってみた。
「ほら、この体……けっこう大変なんだ。鍛錬もしないと筋肉落ちるし、飯が偏りすぎるのは……困る」
そう言って腕を見せると、彼女はごくりと唾を飲み込む。
「そ、そこまで鍛えてる人、こっちじゃ俳優とかでも少ないわよ……」
俺は彼女の反応をよそに、淡々と続ける。
「コンビニ弁当が悪いわけじゃない。けど、一度くらい……手料理を食べたい。一緒に作ってみようぜ? ルナは、天才なんだろ? 料理も……簡単にこなすと思ったが」
するとルナは急に胸を張り、視線を左右にさまよわせながら自信満々を装う。
「わ、わかったわよ! じゃあ……ハンバーグでも作ってあげるわ! ふふん、見てなさい!」
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その日の夕方、俺たちは食材を買い込んで事務所に戻った。
だが、部屋の一角にある小さなキッチンは、普段から道具や資料を詰め込んでいて狭い。
ルナはエプロンを結び直して気合を入れているが……包丁の扱いはどう見ても素人だ。
「ちょ、ちょっと……指、危ないって。こう抑えるんだよ」
「わ、わかってるわ! ……たぶん」
野菜を刻むたびにヒヤヒヤする。
まな板から転がり落ちたかぼちゃの切れ端を慌てて拾うのも何回目か……。
そして、ひき肉をこねる段階では空気の抜き方を知らないせいか、肉の塊が手から飛び出し、俺が空中でキャッチする羽目になる。
「う、嘘でしょ……こんな難しいなんて……」
「最初はこんなもんだ。空気、ちゃんと抜かないと火通らないし、裂けるかもしれんぞ」
何度かやり直しながら、どうにか形を整え、フライパンに並べて焼いていく。
焦げ目がつきすぎて煙が出るたびにルナは「あぅっ!」と声を上げ、慌てて火を弱める。
俺も手伝いながら、そこそこ賑やかなハプニングに何度も巻き込まれたが——。
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ようやく完成したハンバーグを皿に盛りつけ、ルナは隅で肩を落としている。
「……できた、けど……見た目ひどいし、失敗かも……」
「いや、食ってみるまでわからん」
俺はナイフとフォークを持ち、そっと切り分けて口に運ぶ。
たしかに焦げ気味ではあるが、中まで火は通っているし、肉汁も出ている。
むしろ香ばしい苦味がアクセントになっているかもしれない。
「……うん、旨いぞ。焦げも香りになる。何度か作れば、もっと上手くなるさ」
そう言うと、ルナはナイフを持ったままチラリと俺を見る。
「そ、そう? ……でも、あなたが試しに作ったやつはちゃんときれいに焼けてるし、私のはぼろぼろ……」
盛大にため息をつく彼女へ、俺は励ますつもりで肩をぽんと叩いた。
「見た目は練習すれば良くなる。気にする必要はねぇさ…ルナは全力で作った、それで十分だろ?」
「……ほんと、あなたって、たまに優しいのね」
恥ずかしそうに笑う彼女を見て、俺もどこかくすぐったい気持ちになる。
こういう何気ないやりとり、アストレリアの戦場ではなかなか味わえなかったからな。
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一息ついた頃、ルナが急に思い出したように声をかける。
「ねえ、ヘルメスって……あれだけ強いんだし、魔法も使えるのよね?」
「いや、魔法は……使えない。俺は“ゼロカオス”って能力があるだけだな」
怪訝そうに目を瞬かせるルナ。そのまま興味津々といった顔で俺を見つめる。
「ゼロカオス、どんな力?」
「簡単に言うと……魔術や異能を無効化する。触れると呪文とか魔法陣も消せる。アストレリアじゃ『魔術師殺し』……とも呼ばれたな。特に魔族からは……嫌われてた」
過去を思い返すと、暗い死闘の場面が脳裏をかすめる。
魔力が当たり前の世界で、俺みたいな能力は時に頼りにされ、時に恐れられ……。
無意識に眉が曇ってしまったのを感じる。
「そっか……ここじゃ魔法なんて一般的じゃないし、あまり出番ないかもね」
ルナが肩をすくめて言う。
俺は小さく嘆息をついて答える。
「何か……超常現象でも起きたら役に立つかもしれんな。ルナの探偵仕事は、変な相談も来るんだろ?」
とはいえ俺の中では、ゼロカオスが周囲に与える影響が少ないこの世界が、正直ありがたいと思っている部分もある。
アストレリアでは仲間の魔法まで打ち消してしまう危険があって、常に気を遣ってきたからな。
「ところで、アストレリアじゃみんな魔法を使うって話だけど、あなたみたいな強力な力って珍しいの?」
「……“ギフト”とこちらでは呼ばれている。生まれつき特別な体質の総称だ。俺のゼロカオスみたいに極端なやつは負担も大きいし、周りから危険視される。時には……殺されることもある」
実際、俺が“死神”なんて呼ばれたのも、その力と戦歴が噛み合ってしまった結果だ。
血塗られた戦乱の記憶を思い返すと、どうしても胸がざわつく。
「……過酷なのね。あっちの世界は、そういう能力を持つ人が普通にいるぶん、衝突も多いんだ……」
ルナの瞳が強張り、気の毒そうに俺を見る。
その同情が嫌なわけじゃないが、少しだけ気恥ずかしい。
「ああ。魔族にも人族にも、“ギフト保持者”を恐れる者は多い。だから……俺も昔は制御しきれず仲間の魔法まで無効化してしまうこともあった。苦い思い出だな」
“死神”——その二つ名を得るまで、どれだけの命を背負い、失ってきたか……。
俺は苦い思いをかみしめつつ、ルナの様子をちらりとうかがう。
彼女は静かに頷き、目を伏せた。
「なるほど……でも、この世界なら、そのギフトが暴走して仲間を巻き込むことも少なそう。良かったかもね」
「助かる。正直、アストレリアじゃ常に注意しないといけなかったから。ここじゃ電子機器とかを触れただけで壊してしまう事もないし、気が楽だ」
そう答えながらも、俺の心には一抹の不安が渦巻いている。
この世界でのんびり暮らすうちに、あの力が錆びついたらどうなるのか、とか。
もし再び“魔王の残滓”が襲ってくるような事態になったとき、俺はちゃんと戦えるのか、とかな……。
ルナはそんな俺の不安をよそに、ぱっと顔を上げて提案してきた。
「ねえ、だったらそのゼロカオス、もっと研究してみない? 私、調査や観察は得意だから、何か分かるかもしれない」
意外な提案だが、悪くないと思う。
俺も自分の能力を深く知る機会なんて、これまであまりなかった。
戦場だと実践あるのみ、という感じだったしな。
「いいな、それ。頼むぞ、天才探偵」
「ふふん、任せなさい。異世界の法則でも、いずれ論理的に解きほぐしてみせるわよ」
腕を組んで意気込むルナの姿に、俺は思わず笑みがこぼれる。
何だかんだ言って彼女は、未知なるものに対して怖じ気づくよりは好奇心を燃やすタイプだ。
俺にとってはありがたい性格だろう。
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調理器具や材料を片付け終わり、焦げ加減の違うハンバーグを改めて味わう。
口の中に広がる香ばしさは、決して洗練されてはいないけど、どこかクセになる。
アストレリアで食べていた獣の肉とはまるで違う食感に、思わず肩の力が抜ける。
(ふう……こういうのも、悪くない)
俺はフォークを置き、静かに息を吐く。
この世界で、探偵と剣士が同居しながら料理をするなんて、以前の俺なら想像すらしなかった。
けれど、この奇妙な共同生活が“新しい冒険”につながる予感がするのも事実だ。
魔王との死闘を潜り抜け、“死神”と呼ばれてきた俺。
そんな過去を抱えていても、ここでなら少し気を休められるのかもしれない。
同時に、ルナと組めば、俺の力がこの世界でも何かに役立つだろう——そんな期待もある。
(よし、もう少し腕を振るうか。今度はもっとちゃんと料理を教えてやろう。そうすれば、彼女のレパートリーも増えるし、俺も助かる)
そんなことを考えながら、口に残る独特の焦げ味をかみしめた。
不思議とクセになるこの味が、俺の新しい日常を彩る一歩になる気がする。
──こうして、“死神”と“天才探偵”という俺たちのちょっとした日常は、さらに深みを増していきそうだ。
アストレリアとは違う平和な街で、しかしきっと一筋縄ではいかない事件が待っている。
その時こそ、俺のゼロカオスも、ルナの探偵術も、本領を発揮するんじゃないか……と、今から胸が高鳴っているのを、俺は否定できなかった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りソウルダンスしてます。
とうとうヘルメス言語取得だぁぁぁ!! 片言難しいんよ。




