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第14話

 槙野の両親へ挨拶に行った翌日。今度は荻野の両親へ挨拶しに行くべく、再び車を走らせる。カーナビゲーションの画面に表示された到着予定時刻は、午前11時43分になっていた。


「茉菜のご両親も教員をやっているんだよね?」

「うん。お父さんはもう退職しちゃってるけどね」

「そっか。お二人はどんな方なの?」

「うーん、ひと言で表すと、まぁ、お父さんもお母さんも色々難アリな性格の持ち主って感じかな」

「そうなんだ。意外」

「え~、意外って?」

「茉菜は全然難アリな感じがしないから」

「フフフ。でも、基本的には優しいよ」

「そっか。だから茉菜も優しいんだね」

「う、うん。そう、かもね」


荻野は槙野の発言を適当に受け流すことしかできなかった。


 昨夜遅く、槙野の口から聞かされたこと。そのことが、荻野の頭の中でずっと残り続けている。自分の家系は直接血の繋がりがあるのに、槙野のところは母親とだけ血の繋がりがない。そして、類以を育てる自分たちは、ともに血は繋がっていない。


捨てられていた類以を見たとき、結婚を申し込んでくれたとき、息子として育てると覚悟したとき、どう思ったのか。


そのことが心の中ででモヤモヤし続けている。


「猛はさ、お義父さんとお義母さんから、血が繋がっていないという話を聞いたとき、どう思った?」

「うーん、ずっと謎だったことがやっと解決した、って感じだった」

「謎だったこと?」

「両親は俺の性格と全然違うから」

「そうなの?」

「親父は納得するまでうるさく追求していくタイプだし、母さんは自分が貫く信念をそう簡単には曲げないタイプでさ。俺は納得してなくても、その場のノリと雰囲気で誤魔化しちゃうこともあるし、優柔不断な性格なんだよね」

「確かに。そうだね」

「アハハ。それに、いくら類以のことを大事に思っていても、交友関係に制限をかけたり、支配下に置いたりはしない。類以にはのびのびと自然体のままに育って欲しいって思ってる。でも、両親は違ったんだよ。勉強は何時から何時まで、遊んでいいのは1日30分までとか、習い事はこれとこれをしなさい、みたいな感じで」

「厳しいね」


 窓を開ける。涼しい風が車内に吹き込む。類以の髪がふさふさと踊り出す。


「しかも、中学生の頃までは両親に俺の将来まで決められててさ」

「え、どんな将来だったの?」

「手堅く役所とかに勤める公務員になれって」

「えっ、ウフフ」

「おかしいよね。教員だって公務員じゃないかって。でもさ、俺はどうしても親の言いなりにはなりたくなくて、同じ公務員でも教員の道を選んだんだよね」

「そうだったんだ」

「あの当時、俺は両親のことを憎んでた。周りは自由に将来のことを語ってるのに、俺の場合は小学校低学年から公務員志望だって言い続けて。だから同級生たちからは不思議がられてたし、先生からも笑われてた。反抗したかったけど、やっぱり親の目が怖かったから、何も言えなくてさ。三者面談の時間が憂鬱でしかなかった」

「そうだよね」


後部座席から見る槙野の表情は穏やかで、儚い。消えてしまいそうだった。


「その、猛がご両親から話を聞いたときって、どういうタイミングだったの?」

「聞いたのは10歳の誕生日当日。まぁ、どうして俺は両親と性格が違うんだろうって思い始めた頃に聞いたから、まだよかったほうかな。これがもっと早い段階で聞いてたり、遅かったりしたら、また違う感情を抱いてたと思う」

「そっか」

「無理して親のことを知ろうとしなくてもいいと思うし、詮索してまで知る必要もないんじゃないかなって思ってる。いつか伝えるときが来るだろうけど、そのときは隠し事なく、ちゃんと伝えてあげるべきだよ。類以の感情に寄り添いながらね」

「そうだね」


 類以は両手をぱたぱたと動かし、カーナビゲーションから流れるラジオに合わせてニコニコとしていた。


「茉菜はさ、ご両親の影響とかがあって教員になったの?」

「やっぱりそう思うよね」

「うん。思っちゃう」

「でも、違うんだ」

「そうなの?」

「私が教員になったのは自分のためなんだ」

「自分のため?」

「証明したかったの。私だって教員になれるんだよってこと」

「それは、ご両親のために?」

「両親のためでもあるけど、どっちかと言うと、お姉ちゃんのためかな」


空には暗い色をした雨雲が広がっている。今にも雨を降り出しそうな感じだったため、慌てて窓を閉める。その数秒後、ぱらぱらとフロントガラスに雨粒が落ちてきた。


「お姉さんっていうのは―」

「あぁ、ごめん。次のサービスエリアでトイレ行きたいからさ、寄ってくれない?」

「あ、うん。分かった」

「ごめんね」

「ううん。いいよ。あ、そのときに何か飲み物でも買ってこようか?」

「あー、じゃあ、コーヒーお願い」

「分かった」


心臓がバクバクと跳ねる。涙は代わりに雲が降らす。類以は窓に当たる大きい雨粒を眺めて、キャハハと声をあげながら指を伸ばしていた。

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