護衛をスカウト
王子、口説く。
「……それはあれか。験を担ぐとか言うやつか」
「そんなおまじないレベルならまだ良いんだけどな。俺が初代国王の生まれ変わりだとか言い出して、何かもう信仰心みたいになっている一派がいる。今のところ年寄りの与太話で済んでいるが、そういうのに限って権力も人脈もたっぷり持ってるから性質が悪い」
「何それ怖い。抜け毛とか盗まれてません?」
「先日親知らずが抜けたら謎の争奪戦が起きた」
「大丈夫か、この国」
実際、建国を宣言した時にフランカ王国からの追手を退けたのが初代国王だ。伝説では海から戦艦で押しかけてきたフランカ王国の軍隊を、風魔法による津波で沈めたと言う。
「子供の頃から俺を王太子にという一派は元々あった。だが、そもそも兄上は正妃の長男だ。性格はまぁふわふわしてるが、笑えるほど無能でもない。特に問題があるわけでもないのに魔力だけで側室腹の次男を国王になんて乱暴すぎるだろ」
「ふわふわしてるのか、第一王子」
「それはそれで大丈夫なんですか」
おかげで本人の意思を無視して、第一王子派と第二王子派なんてものができあがり勝手に盛り上がっている。
それでも兄が結婚し、子供も生まれた時点で大分落ち着いてきたのに、今回の国交でまた第二王子派が騒ぎ出した。そりゃあもうお祭り騒ぎだ。おかげでアルフレートは未だに側近も同室者も作れない。
「……つまり、下手に第一王子派とも第二王子派とも繋がりを持ちたくないからぼっち極めてるって事ですか」
「極めた覚えはないが。少なくとも、フランカとの外交がどう進むかはっきりするまでは慎重に行きたい」
「……『ぼっち』が何だかは知らんが」
リクが静かに言った。
「俺はスラム街の平民の上、他国からの難民だ。いくら貴族との交流を控えたいと言っても、王子の護衛になぞそれこそ冗談としか思えんが」
その言葉に、アルフレートは眼差しに力を込めた。
開国して100年、ゼーゲン王国は他国との交流を慎重に、しかし積極的に行ってきた。その結果、他国からの移民も増えたのだが、その全てがお行儀の良い訳もなく。逃亡者やリクのような難民も多いのだ。
そして、それらの数が代ごとに増え、できたのが王都周辺のスラム街――通称『負け犬街』だ。
「俺は確かにルシールでも護衛の仕事をしていたが、基本的にはルシールに来た外国人を安全に外に逃がす事であって、王子様の護衛なんぞは専門外だぞ」
護衛にも種類がある。高身分が対象の身辺の警護と、ひたすら命だけを守る護衛では守り方も変わるのだ。
「大体、俺は魔力がない。それもわかった上での誘いなのか」
リクの言葉に、ランベルトがわずかに眉を上げた。さほど驚いていないところを見ると、察していたらしい。ルシール連邦共和国は国土は広いが永久凍土とも呼ばれる北国で、国内での紛争が耐えない。政治が不安定で日常的にテロが起きる国だ。そして、魔力を持つ者が圧倒的に少ない事でも知られている。
「もちろん、それは承知している。というか、その経験が欲しいんだ。学院内での護衛ならほぼ生徒が相手になるし、魔法で護衛すると大事になりかねない。それに、」
短く言葉を切って、アルフレートは真正面からリクと目を合わせた。
「俺はスラム街が『負け犬』じゃないと証明する事がこの国の未来に繋がってると思っている」
「……未来とは大きく出たな。明日を生きる術もわからない街に」
「だからだ。これから先、他国からの移住者はもっと増えるだろう。そして、このままじゃスラム街は広がる一方だ」
「ああ、そうだろうな。けどそれは王城から遠く離れたところの話だ」
「だが、この国の話だ」
「……」
「なぁ、コリューシャ。俺はな。無駄遣いが嫌いなんだよ。俺の身は血税で出来てるからな」
「……」
「上層部は今外交で手一杯で、国内の取りこぼしまで手が回せない。そこにいる民がどんな表情で何ができるのか知らない。俺はそれが我慢できない」
「……」
「想像してみろ。明日を生きる術を知らないスラム街に、明日を生きる術を叩き込んだらどうなるか」
アルフレートは、身を乗り出してリクの顔を覗き込んだ。その口元に牙があるのを確かめるように。
「証明してくれ、リク・コリューシャ。お前はそれができるだろ」
――噛み付いてみろ。その牙で。
アルフレートの言葉に、リクは目を細めた。心を覗くような眼差しだったが、アルフレートは避けずに受け止めた。
「……リクでいい。雇い主だろう」
「そうか。俺もアルで構わない」
「遠慮しとくよ、貧乏性の王子様。面倒な事になりそうだ」
ふ、と視線の圧が消え、アルフレートは力を抜いた。指先の痺れに、己がずっと拳を握りしめていた事に気がついた。
「いやぁ、まとまって良かったですねデンカ。じゃあ、年寄はこの辺で」
「座れ、最年少」
一息に言い切ってソファを立ち上がろうとしたランベルトの首根っこをリクが引っ捕まえた。
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