はじめまして
「チェンジで」
「条件は」
秒だった。何かもう困らせるとか困らせないとか考える前に秒だった。
「待て待て待て」
呆気に取られている間に一人は既に席を立とうとしているし、もう一人はしげしげと紙を眺めている。
「こっちは人数の関係で特別室使ってくれしか聞いてないんでっ。王族と同室とか冗談は存在だけにしてくださいお疲れ様でしたっ」
「人の存在を冗談にするなっ。事情はちゃんと説明するからとりあえず聞いてくれっ」
「やですよ、それ聞いたら絶対巻き込まれるやつでしょ、厄介事巻き込まれるやつでしょそれっ」
「……何も知らずに巻き込まれるよりマシだろ」
「だから巻き込む前提で話さんで下さいよっ。ヤダもう、おうち帰る。俺もうおうち帰るっ」
「なぁ、この食費って夜食も入るのか」
「だから聞けっ。って言ってる側から席を立つなっ」
『こちらの都合なので無礼は問わない。率直に話してくれ』と最初に宣言はしたが、予想以上に自由な二人に、アルフレートは人払いをした事を早くも後悔した。
こちとらこの上なくロイヤルな生まれのため、城内の古狸相手ならともかく同年代で自分が誘って『はい喜んでー』とならなかった試しがない。何か珍しい経歴だったから自分で直接誘ってみたくて『打診してみるか』とか言ってみたが。内心ちょっとワクワクしていたが。
蓋を開けたらアラ大変。どうやら自分は今からこの二人を自分一人で口説かなければならないらしい。
(……いや、無礼講と言ったのはこっちだ。仕方ない)
「嫌だ、聞きたくないってっ。うわもう話すなら小っさい声で言ってっ。『聞こえませんでしたーっ』って後で言い訳できる位に小さい声で言ってええぇーっ」
「雑費って何買っても良いのか」
……何かもう無礼講とか関係なくこういう人間な気がしてきた。
「……それでは、改めて説明させてもらう」
ようやくこの段に来たが、すでにアルフレートの気力はゴリゴリに削られていた。ロイヤルメンタルで何とか顔には出さずに、目の前の同室候補の編入生二人と順番に目を合わせる。
癖のある黒髪に眠たげな瞳で、往生際悪く耳を塞ぐ一つ下の後輩。
「ラインフェルト伯爵家が次男、ランベルト・ラインフェルト。14歳。祖父であり古代魔導士であるランツィンガー博士に連れられ、研究の助手として各国を回っていたため、今期より2年生に編入」
書類を読み上げると、嫌そうな顔でプイッと横を向かれた。……聞こえてるって言ってるようなものだろう、と思いながら、もう一人に視線を移す。
白に近い茶髪に、グレイの瞳。すっきりと整った目鼻立ちに隣のランベルトに比べると頭一つは高い身長。引き締まった体躯は騎士というより、実践で鍛えたような無駄のなさだ。
「リク・コリューシャ。出身はルシール連邦国。16歳。スラム街からの特待生で3年に編入……1つ年上だが、同級生なら普通に話して構わないか?」
「問題ない。むしろ俺の方が敬語はほぼできんが良いのか?」
「ああ、この国に来て2年も経っていないのだから無理もないな。俺個人としては気にならないが……公の場ではできるだけ努力してもらえると助かる」
「そこでは極力黙っている方が良いだろう。緊急事態に言葉遣いなんぞ考慮できんが……」
リクはそこで言葉を切った。
「同室はともかく、そもそも本当に俺を護衛にする気なのか、王子」
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