プロローグ
緑豊かなリダージリ国の王都から、約馬車で半日ほど離れた距離にあるカル街で、ネビューラ男爵家とパラキード子爵家の婚約式が晴天の下、和やかに行われていた。
父親同士が知り合いで二人で盛り上がり、昔話に花を咲かせていた。
その後、話が一段落したのかふと、令嬢の父親が「婚約日和ですなぁ」などと言って、やっと婚約の話になったと思いきや……。
「娘を嫁にもらってもらえて一安心だ」
令嬢の父親が、ほくほく顔でそう言った。
「うん? 息子を婿に取るのだろう?」
令息の父親がそう言うと二人は睨み合う。何やら雲行きが怪しくなる。
父親同士が知り合いで子供を婚約させようとしたようだが、場は荒れ始めた。
「何を言う。私には息子がいる! 普通、嫁に取るだろう」
「君の所は、彼女が後継ぎなのだろう? だったら婿にとるだろうに」
「はぁ? そんな内情そちらには関係ないだろう? それに彼は嫡男なはず。なぜに婿によこす気なのだ」
「確かに長男だが、後を継ぐのは次男のドワンだ」
なんだろうかこの言い合いはと、誰が聞いても思う内容だ。
嫁・婿によこせではなく、嫁にもらえ、婿に取れと、自分の子供を押し付け合うなんて誰が想像しただろうか。
当事者のネビューラ男爵家の娘ランゼーヌは落胆するも、もう一人の当事者の令息は二人のやりとりを無表情で眺めていた。
「「この婚約は破談だ!」」
二人の父親は、声を揃えてわめく。
そこだけ、息ぴったりな二人。
立ち上がった二人は、火花を散らし睨み合うのだった――。