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逆襲のキセキ  作者: ザジさか
1/1

逆襲の始まり

慣れないジャンルなので更新めっちゃ遅いです。


――――きっと俺は、あの夜を忘れない。


夜の暗闇の中を親に手を引かれ進んでいく。


切れ切れの息を絞り出す。


「ハァ、、ね、ねぇ!どこ行くの?」


周囲の風景からはもう既に人がいなくなり、気づけば背の高い木々の森に入っていた。


何かから逃げる様に後ろを見ずに必死に進む。


闇は深く、暗く続く。


森の中を進んでいくと、少し円形に開けたところに出た。


そこは木々の隙間から月の灯りが幻想的に差し込み、ボロボロの小屋が見える。


親はその中へ手をひき、その小屋の隅に俺をやる。


父は俺の目を見て苦しそうに言う。


「ごめんな。恨まれたってしょうがない。、、、、生きてくれよ。才覚に、、飲まれるなよ」


幼い俺の髪をガラス細工を触るように優しく撫でる。


父はそれから、未だ俺のそばを離れない母を引き剥がし、周囲を警戒しながら共に小屋を走って出た。


母は小屋を出るまでずっと張り裂けそうな思いで悔やむようにこちらを見続けていた。


「ま、待ってよ、、!」


俺は立ち上がって、小屋から出たばかりの親を追いかようとした。


しかし、小さい体を酷使したせいか足はもうボロボロで数歩で倒れ込んでしまう。


体を伏しながら、顔だけを上げて泣きながら呟く。


「いかないで、、、」


瞬間


一閃したのちに2本の細い光線のようなものが闇を切り裂いて進んできた。


俺に背を向けた両親の体を貫きながら。


「、、え?」


目の前の光景の意味がわからなかった。


急に訪れた両親の死。


不可解なことが一遍に降りかかってくる絶望感。


それでも、眩しい光線が夜を駆け抜け、血飛沫が月明かりに照らされる風景は衝撃的で、家族の死であるはずなのに綺麗とすら感じてしまう。


枯れ葉が潰れた乾いた音が徐々に近づいてきて、俺の目の前で足を止める。


俺には気づいていないようで、死んだ両親の体をなぞる。


そいつは人であるのか怪しいほど禍々しいオーラを纏い、体のラインすらはっきりとしない。


言うなれば悪魔のようだ。


いつ殺されるのか、その恐怖だけに震えて過ぎるのを待つ。


親の死体を目の前にして夜明けを待ち続けた


――――きっと俺は、あの夜を忘れない。



不快感で飛び起きる


「おい、サツキ。今は授業中だぞ!そんなに漏れそうか?」


馬鹿にしたような教師に釣られ、他の生徒も笑い出す。


恥ずかしと苛立ちを押し殺し、席に座り直す。


ためにならない授業を尻目に外を見る。


窓ごしの景色は、長らく「脅威」と戦争しているとは思えないほど平和そのものだ。


友達と帰る生徒、話が盛り上がってなかなか帰らない生徒、部活動に汗を流す生徒。


ここだけ見ると、なんら普通と変わらない学園だ。


けれど、、


俺は遠くを見ていた視線を落とす。


軍隊のように整列された二十何人かの生徒たちは順々に体術の訓練をこなしている。


ヴェール隊


それが彼らの呼称であり、この木立キダチ学園が特別たる理由。


この学園は異才と呼ばれる生徒を集め、脅威に対抗すべくその才覚と呼ばれる能力じみたものを磨き上げることを目的とした機関としての側面がある。


とりわけ、あいつらはこの生徒たちの中で正義感の強い異才の集まりだ。


なんの才覚も持って生まれなかった俺には関係がないが


国なんてものよりも自分と、新しい家族、それだけがあれば生きていける。


なんのためになるのか分からない、予定調和で進んでいくその様子を時間がくるまで眺めていた。



「なんで起こしてくれなかったんだよ」


帰り道、俺の隣を歩くアヤトにぼやく


「僕は何回も起こしたよ!それでも起きないんだもん。そんなにいい夢だった?」


影を薄めていた記憶が、思い起こされ気が重くなる。


もう諦めたはずなのに


「そういえば、外になんかあったの?ずっと見てたけど」


、、さっきから俺を不愉快にさせるのが上手いな


「ヴェール隊がまた馬鹿みたいな訓練してたからさ」


いつもの口調に努めた俺に呆れた様子のアヤト


「もう、またそんなこと言って。異才嫌いもいっそ清々しいね。僕はかっこいいと思うけど」


恵まれた才覚を持って生まれた者が果たすべき当然の責務をなしただけで褒められるのは何も持たない俺らからしたら言いようのないもどかしさがあるのだが


「そんなことより、帰りしスーパー寄っていいか?もう食材が切れそうなんだ」


アヤトは顔を輝かせる


「いいよ!今晩はカレーがいいな!!」


「食べる専は楽でいいな」


それからも他愛をない会話をしながら、買い物を済ませ、家に着く。


観光地として有名なこの地域で、遠い田舎からコピペされたのかと思うほど古臭い二階建ての木造の建物。


ここがアウロアと呼ばれる孤児院であり、あの夜以降の俺の家だ。


扉を開け、優しい光を受けながらリビングに入ると既に帰宅していた子どもたちがよってくる。


「おかえり!」


「今日のご飯は?」


俺の胴に抱きつきながら、口々に質問してくる。


疲れているが、一切イラつかない。むしろ愛おしさすら感じてしまう。


「カレー今から作るから、ちょっと待ってろ」


何人かの子供たちと一緒にご飯の準備を進め、出来上がるとみんなで食べる。


ただそれの繰り返しの日々


この退屈が、どれだけ俺にとって幸せなことか。


ほぼ記憶にない家族の跡を埋めるような幸せ


俺はきっとこの新しい家族での幸せをこれからも繰り返す。


そんな当たり前を、確信していた。



いつもと同じような次の日、いつもと同じで早く起き、朝食を準備してみんなでたべて、学校に行く。


扉の前に立つ俺らにおじさんが申し訳なさそうに言う。


「いつもすまんね、サツキ。朝から忙しくさせて」


「大丈夫だよ、もう慣れたし」


これくらいしか俺にできる恩返しもない。


親を殺した悪魔の恐怖に囚われ、日が変わっても尚震え続けていたこの俺を拾ってくれたおじさんには感謝しても仕切れない。


最近になると、おじさんに改めて感謝を口にするのも恥ずかしくなってきたが。


それはきっと本当の家族であっても難しいことだと思う。


俺にはわからないけど


「それじゃ、行ってきます」


「あぁ。いってらっしゃい」


形式だけのやり取りの後、学園に向かう。


学園についても、また繰り返しで適当に授業を聞き流し時間を潰す。


本当に日が変わってるのか疑ってしまうほどに何も変わらない


昼休みもアヤトと適当に外でご飯を食べる。


「今日の授業退屈だよね〜」


「いつもだろ。それに、ここは俺たちみたいな無能じゃなくて異才向けの機関だ。」


俺たちがここにいるのも、この学園が有名校として無能にも寛容であることを対外に示すためで、元から俺たちのための学園ではない。


実際、同級に他の無能はいないし、無能な先輩に会ったこともない。


学内で話題にならないくらい無能は肩身が狭いのだ。


「あ〜あ。早く帰りたいよね。今日のご飯ってもう決めてる?」


昼食をもぐもぐしながら、アヤトは聞いてくる。行儀悪いな、、


「昼飯食べながら話すことかよ、、オムライスとかでいいんじゃないか」


「それ賛成!あーあ、早く午後の授業も終わんないかな」


言って立ち上がる。


俺も既に飯は食べ終わってるから俺も続いて午後の授業に備え教室に向かう。


芝の庭に、晴天の元から運ばれる風が心地いい。


学園内の差別的構想をひた隠すような華やかな風景に入りながら歩く。


けたたましいチャイムによってその平穏は遮られる。


始業の合図などではない。


脅威による進行を告げる嫌な音。


『グラシアの海岸に攻撃を確認。ヴェール団と有志は直ちに聖堂前に集合してください。転移は3分後。転移先は海岸近くの中継所です。』


俺はアヤトの顔を見てから、聖堂に急ぐ。


グラシアの海岸は学園から少し離れたところにある観光資源で多くの人が集まる場所で


アウロアのある地域だ。


もしものことがあってはいけない。不安からくる焦燥感に駆られる。


けれど、海岸から逸れた場所にあるのがアウロアであるため大丈夫なのでないかと甘い期待も抱いてしまう。


ふわふわと浮遊感を覚える足で聖堂周辺までやってきた。


もうすでに、聖堂前には多くの生徒たちが集まっているのが見える。


俺は訓練なんてうけたことなんてないが、家族のことを思うとこんなとこに居れない。


踏み出した俺の腕が重くなる。


「だ、だめだよ!僕たちまで死んじゃうかもしれない!」


泣きそうな顔で引き留められる。


「んなことわかってる!でも行かないとわかんないだろ!」


役に立つかも、家族が生きているかも


「で、でも!僕たちじゃ逆に足手まといだよ。無能らしくここで無事を祈ってた方が、、」


「ふざけんな!確かに俺には力はねえよ、でもプライドがないわけじゃねぇ。ここでみすみすと家族が死ぬのを見てられるほど諦め良くねえよ」


もう時間がない。


俺はアヤトの腕を振りきって聖堂前の隊列に並ぶ。


一歩踏み出しただけなのになんだこの違和感は


まるで見えない境界線があるのかと思うほど群衆には音もなく、感情もない。


そこには、張り詰めた緊張しかない


戦う顔、とでも言おうか。これが国を護る異才の自覚なのかもしれない。


少しすると険しい顔つきの背が高い教官が出てくる。


拡声器の類は持ってないけれど、構内全土に日々行くほどの声量で宣言する。


「只今から現地への転移を開始する!団員は訓練の通りに。有志の者は各才覚を使って救助を最優先だ。では開始する!」


いつの間にか出来ていた魔法陣が下から這い上がってくる。


すると急に左の裾に重さを感じる。


隣を見ると、アヤトが不安そうに目を強く瞑りながら魔法陣内に時間ギリギリで入ってきた。


俺はそれがただただ嬉しかった。


瞬間


眩しさと気持ちの悪い感覚で目を塞ぐ。


次に目を開けると、そこは、、


戦場だった。


いや、正確には一方的にやられている惨状だ。


以前の綺麗な街並みの記憶はこの惨状を強調することしかできず、逃げ惑う人や諦めて立ち尽くす人。


他人を押し退けて少しでも安全圏へ向かう人さまざまな醜態が転がっていた。


俺がそんな世紀末に見入っていると、周囲にいたはずの異才たちはすでに臨戦体制に入っていた。


俺は市民を襲っている、人の形をなんとか保っている化け物たちを見て驚愕する


「なんだあれ、、」


「あ、あれアンデットじゃない?話に聞いたことはあったけど、、」


アヤトは震えながら、呟く。


市民目がけ、ノソノソと歩いていくアンデットたち。


命の危機にさらされている状況を見て思い出す


「そうだ、アヤト。アウロアに行かないと!」


俺とセイは一変した故郷を走り抜ける。


近づくにつれて、これまでより、一層アンデットの密度が濃くなってゆく。


俺たちにはなぜか干渉してこないため、押し退けて進んでいく。


気づけばアヤトを置いてきてしまったが構ってられない。


この先にあるんだ!退いてくれ!


アンデットを押しのけたその先で


俺は目を疑った


アウロアを取り囲むように多数のアンデットが集まり、今にも扉を数で壊そうとしているところだった。


俺はジンジンと痛む足でさらに数歩進んで、そいつらを引き剥がす。


「なんでよりによって、俺たちなんだ!」


剥がせど剥がせど、扉に腕が伸びてくる。


薄い扉の向こうでは子供たちの泣き声がする。


頼む、やめてくれ。


もう俺から家族を奪わないでくれ


必死でやっても一切状況は良くならないが、これ以上できることもなく徒労を重ねる。


もし、俺が異才なら、どうにか出来たのかもしれない。


そんな自己嫌悪に似た何かすら考えてしまう。


「誰か!助けてくれ!!中に家族がいるんだ!」


この際無能なのは受け入れる。


だから。


せめて、その才覚とやらで助けてくれよ


今ばかりは信念を曲げて頼らざるおえない。


「頼む!!」


すると、何処から来たのかはわからないが、俺の前に一人の黒髪の少女が着地する。


「なにをしているの!」


「あ、ありがと。早くこいつらをどうにか――」


言い終わる前に俺は軽々とそいつに担ぎ上げられ、近くの少し背の高い家屋の屋根へと移動させられる。


「おい!なにしてんだ放せ!はやくしないと家族が!」


必死にもがく


けれど、そいつは何を言うでもなくただの一つも感情は表さない。


そしてゆったりと片方の手を上げる。だらりとしていた手が伸び切る。


嫌な予感が背筋を駆ける。


「やめろ!」


上体が空気で膨らむ。


「撃て!!」


直後、無数の光線が各方向からアウロアに放たれる。


必死に叫ぶが自分でもそれが聞こえないほどの爆音で、鼓膜がつんざかれたかとさえ思う。


竜巻のような砂ぼりが徐々に開けていく。


やめろ


うっすらと見えてきたその先は、今日まで幻想を見ていたのかと思うほど何もなく、残っているのは数体のアンデットだけだ。


何かの見間違いかもしれない。


この目で手で確かめないと、、、


俺は体を捻ってなんとか少女の腕から逃げる。


屋根を転がり地面まで落ちる。


痛いが、こんなの大したことない


そう思っているのになぜか体は動かず、地を這うことしかできないでいた。


あの日みたいに。


―――このままは嫌だ


強く握った拳を握る。


それを支点に体をなんとか起こす。


足を引きずってアウロアがあったとこまで歩いていく。


後ろから静止の声をかけらるが、関係ない。


きっと何処かにあるはずだ。家族の痕が。


無能なりに必死にこの世界を生きてたアイツらが、こんなとこで死ぬわけがない。


アンデットと肩がぶつかるが気にせずに進む。


ここのあたりがみんなでよくいたリビングだろうか。


俺は四つん這いで、地面の砂をかき分ける。


大切な記憶が俺を読んでいる、そんな気がする


どれだけ砂を掻き分けても、何かが出てくる様子はない


「危ないでしょ!」


俺は降りてきた黒髪の少女に肩を掴まれる。


「ここに家族が、、」


どうしようもない不安に顔を上げて少女の方を見る。


急に頬に鋭い痛みが走る。


「いい加減、現実を見なさい」


信じたくない。見たくない。


痛みがじわじわと染みていく。


気づけばアンデットたちはこちらによって来ていた。


あぁ俺も食われるのか。絶望と安堵に板挟みにされる


すると、俺たちと向き合うように一人のピンク髪の少女が舞い降りる。


華麗に、乾いた土地のはずが彼女の周囲だけ潤うように思える不思議な雰囲気。


アンデットにとっても異質さは共通なのか、全員俺たちには背をむけ、その少女に近づいていく。


「に、逃げろ、、!」


「その必要はない。だって―――」


いつの間にか降りてきていた黒髪が隣で答える。


表情は変わらず、けれど信用が透けて見える。


その少女は、アンデットたちに丁寧なお辞儀をする。


そして両手を合わせる。


それだけで謎の力が彼女の元に集まるように見える。


「ノゾミは隊一の治癒の異才だから」


粒子が彼女の周辺に十分に集まる時、可憐な声が空気を裂く


「『ヒール』ッッ!!」


アンデットが立つ魔法陣が優しく光り、魔法陣から伸びる円柱状のものが暖かい空気に包まれていく。


アンデットたちは苦しそうにもがきながら、その図体は薄くなっていきやがて消滅した。


「どうか、安らかに。」


小さく、心からの弔いを唱えるその姿は女神のようだった。


すると、遠くからあの教官の声がする。


「これで全てのアンデットが消えた。誘導隊は市民の避難を継続させろ!他の部隊は撤退だ。数分後転移した場所から帰還する!」


全員それを聞き、移動が始まる。


俺は頬の痛みをまだ引きずっていた。


学園側から補償として提供された寮の空き部屋で俺は放心状態のアヤトを部屋まで送り届け、狭い部屋の硬いベットに腰をすえる。


『大丈夫。きっと、、、おじさんたちも子供たちも、、きっと』


言い聞かせるように繰り返していたアヤトの言葉を思い出す。


俺もあいつも自分達の日常がこんなに簡単に奪われることを認めたくないのだ


毎日の繰り返しが、孤独と自己否定で現実から逃げていた俺にとって、癒しの場であったことを実感する。


俺らだけが生きても意味なんてない


「なんで生き残ったんだよ、、」


居場所のない俺はこれからどうしたらいいのか。


答えを床に探すが、答えは見当たらない


そんな時、薄い扉越しに足音が聞こる。


扉は乱暴に開かれた。


さっきの黒髪の子は冷たい顔つきで部屋に入ってくる。


ズケズケと黒髪は俺に近づき、腕を伸ばす。


その腕は強く俺の胸ぐらを掴む。


「あなたは何をしてたの?」


空気を切るような鋭い視線に息が詰まる


「私たちの足の邪魔をしないで。自殺したいなら他所でやって」


彼女に晒される自分の無力さが怖い。


だからこそ、恐怖に飲まれまいと声を張り上げる。


「うるせえ、この人殺しが!!あんなの人助けでもなんでもねぇ。ただの殺人だろーが!


それともなにか!?俺たちみたいな無能なんて死んでもいいってか?」


俺の勝手な怒りなんて気にもせず、より掴む力が入って息が詰まる。


「情で全員を巻き込まないで。迷惑なの」


怒り、侮蔑さまざまな感情をのぞかせながら静かに殺気だった声でいう。


互いに目を逸らさず、部屋は急に静かな緊張に包まれる


いや、俺はそらせないのだ。ここで責任追及から逃れる訳にはいかない。


諦めの悪さが伝わったのか、冷静になったのか、黒髪は伸ばしていた手を緩めて言う。


「私はただ任務のために言ってるのよ。見たことない顔だし、有志でしょうけど私たち団員の仕事を増やさないで」


異才の優越、傲慢さを感じて嫌悪する。


「仕事って閉じ込められた市民を殺すことなのかよ」


わかってる。こんなことしても意味がないことくらい。


ひどく自分が子供に思える。


そんな俺を前にしても少女の顔色は変わらない。


「そんなわけないでしょ。私だって助けたかった。でも、総攻撃を仕掛けるにはあの瞬間しかなかったの。」


彼女は、言い切ると何かを腹の底に留め、一言吐き出す。


「こっちの迷いも知らないで」


あの状況では助かる見込みなどなかったこと。


残酷であれど、あの選択が最適解であっただろう事も理解できる。


だからこそやるせない。


“どうしようもなかった”


その一言であいつらの生死が片づけられることに。


「ま、二度と敵に突っ込むなんて止めることね。犬死したくないならね」


「、、助けろなんて言ってないだろ。むしろ、あのまま――」


平手打ちが飛んでくる。


黒髪は俺に背を向け、吐き捨てる


「こんな無能だって知ってたら助けなかったのに。そうね、あのまま死んだらよかったのに」それだけ言い残して部屋を後にする。


ヒリヒリとした痛みだけが残る。


、、もう家に帰りたい。


、、あの家に


「はは、、どこに帰ればいいんだよ、、」


まだ整理しきれてないのか、おかしくて笑ってしまう。


もう、あの家はないというのに。


夢なら覚めてくれ。


藁にもすがる思いで眠りについた。



目が覚めると、時刻はまだ夜の12時程で、やはり硬いベットの上だった。


「クソ、、」


重い体を起こして大きな窓を見る。


ここは一階で、学園から少し離れた寮なので人気も少ない。


気づけば俺は、窓から身を乗り出し寮から出ていた。


別に脱走を図っているわけじゃない。


ただ家族に会いに行きたいのだ。


いるわけないのもわかってる。


それでも、あの日の記憶を少しでも思い出して慰めたい。


その一心が鈍い足を動かす。


それこそアンデットみたいに。


脅威は完全に排除されていたが、避難をしているためか不気味なほどグラシアは静けさに包まれている。


よりによって満点な星空を歩く。


もうそろそろアウロアだ。


なぜだろうか


もうそこにはないはずなのに、幻覚のようにはっきりと俺の目には見える。


そして、楽しげな声も。


霊的なものでも、異才によるものでもなく俺の怨念じみたもののせいだろう


「おじさん、、俺どうしたらいいんだよ。また家族失って、家も失って。ありがとうも言えてないのに」


頑張って泣き声を押し殺すが、溢れた想いの雨は止んでくれない


「なんで、なんでこんな満月なんだよ!どいつもこいつも見放しやがって!何したってんだよ、、!」


俺は両膝をついて涙を流さないよう天を仰ぐ。


綺麗で眩しい満月は、暗闇の唯一の灯りとして泣き顔を照らす。


そして、もう一つの人影を。


「やっぱりきたんだ。」


「え?」


少し先にいるノゾミの影を。


「もう、泣かないでいいよ」


ノゾミは小さな歩幅で俺のそばにくる。


「もう、強がらないで大丈夫」


そう言って屈んで目線を合わせる。


「ねぇ。私と変えない?この世界を」


そう言って微笑みを俺に向ける。


とても優しい、子供をあやすような笑顔。


「無理だよ、異才ならとにかく無能な俺には」


夢を持つには無謀さがいる。


でも、俺は知っている。


無能はこの世界で底辺で、成り上がりなんてできないことを。


無謀さえ許されない存在ってことを。


「なんとかなるよ。ほら、『月に願いを』ってやつだよ!」


ノゾミはまた無邪気に笑う。


別に満月に願ったとて叶うなんて妄信はないと思うけど。


意味のわからない言動だが俺の気が軽くなる。これも才覚の影響なのか。


このままやられっぱなしと言うのも納得がいかない。


「ねぇ」


ノゾミは立ち上がり、右手を差し出す。


「私とこの世界を変えてみない?」


ひどく無謀で、語ることさえ憚られる、長くみてきた夢。


力のなさを言い訳に諦めていたはずが、この子となら不思議と出来そうだと


そう確信する。


「あぁ。よろしく。」


手を伸ばし、満月を背にした少女と手を結ぶ。


「よろしくね、逆襲のパートナー!」


異才の少女は月明かりさえ味方につけて強く、可憐に笑う。


――きっと俺は、この夜を忘れない

読んでいただきありがとうございました!

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