表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺とクロのカタストロフィー  作者: ムネタカ・アームストロング
73/81

73.旅行先で買った自分への土産は99%の確率でゴミになるから絶対に買うな

翌朝、マンションの前には見慣れぬ黒いワゴンが停まっていた。車のそばには、サングラスをかけた黒スーツの男性と、女性のガイドが俺たちを待っていた。

「早上好,颯先生,琳小姐。我是今天负责导游的小王。」

(おはようございます、颯さん、リンさん。本日ガイドを担当する小王と申します。)

小王と名乗った女性は、爽やかな笑顔を浮かべながら丁寧に頭を下げた。

「你们打算今天带我们去哪儿?」リンが興味津々で尋ねる。

(今日はどこに連れて行ってくれるの?)

「今天我们准备先去颐和园,之后再去天安门附近观光和用餐。」

(今日はまず頤和園に行って、その後天安門周辺の観光と昼食を予定しています。)

小王の言葉にリンは喜びの表情を浮かべたが、颯は横で少し心配そうな顔をしていた。

「怎么了,颯?你不喜欢观光吗?」

(どうしたの、颯?観光は嫌いなの?)

俺は少しためらった後、リンに囁いた。

「不是不喜欢,只是那些黑西装的兄弟们会一直跟着我们吗?」

(嫌いじゃないけど、あの黒スーツのお兄さんたち、ずっとついてくるのかな?)

リンはそれを聞いて笑いを堪えるのに苦労していたが、小王もそれを聞き取ったようで軽く笑いながら答えた。

「抱歉,因为安全的原因,他们需要全程保护你们。不过请放心,他们会尽量保持距离的。」

(申し訳ありませんが、安全のため、彼らは終始お二人を警護します。でも安心してください、できるだけ距離を取りますから。)

リンが颯の肩をポンと叩きながら冗談を言った。

「颯,你的身价现在可比明星还高啊!」

(颯、今やスターより高級な身分だね!)

俺は苦笑しながら頷いた。

車に乗り込むと、黒スーツたちの乗った車が静かに後ろに続いた。約40分後、颯たちは頤和園に到着した。

頤和園は広大な敷地に美しい庭園と湖が広がる、皇帝の夏の離宮だった。小王は俺たちを案内しながら、詳しく説明してくれた。

「这里是长廊,非常有名,长度超过700米。每根柱子上的画都不同。」

(こちらは長廊と呼ばれる場所で、700メートル以上もあります。柱一本一本に異なる絵が描かれているんですよ。)

リンは目を輝かせながら天井の鮮やかな絵画を見つめていたが、颯は歩きながら少し疲れた様子を見せていた。

「颯,你已经累了吗?」

(颯、もう疲れたの?)

颯は冗談半分に答えた。

「不是累,只是看多了这些柱子,头有点晕……」

(疲れてないよ。ただ、この柱の絵を見過ぎて少し目が回ってきただけ……)

リンと小王は同時に笑い声を上げた。

その後、頤和園内の昆明湖のほとりを歩いた。リンは湖の美しさに感嘆の声を上げている。

「颯,这里的风景真漂亮啊!你看那边还有小船呢!」

(颯、景色が本当に綺麗!あっちには小舟もあるよ!)

颯は遠くに浮かぶ小舟を指して真顔で言った。

「希望那个船不是用来监视我们的……」

(あの舟が俺たちを監視してるんじゃなければいいけど……)

リンは爆笑し、小王も苦笑しながら頭を振った。

次に訪れた天安門広場は、頤和園とは全く異なる荘厳な雰囲気だった。颯はテレビで何度も見たその歴史的な場所に感慨深そうに立っていた。

「这就是天安门啊……比电视上看起来更大更气派。」

(これが天安門か……テレビで見るよりずっと大きくて荘厳だ。)

リンは俺の横に立ち、手を握った。

「对啊,这里真的充满了历史感……」

(そうだね、本当に歴史を感じる場所だよね……)

観光を終えた後、小王は二人を有名な北京料理店「便宜坊」に案内した。料理が次々と運ばれ、テーブルには北京ダックをはじめ、色鮮やかな料理が並んだ。昨日も北京ダックを食べたがあえて小王には言わなかった。

リンが颯に料理を取り分けていると、小王が微笑みながら話しかけてきた。

「听说你们俩新婚不久,是吧?」

(お二人は新婚さんだそうですね?)

リンが嬉しそうに頷いた。

「对啊,我们刚订婚不久。」

(ええ、最近婚約したばかりです。)

小王はにっこり笑って冗談を言った。

「那颯先生可要多吃点北京菜,才有力气照顾老婆呢!」

(じゃあ颯さん、奥様を守るためにも北京料理をたくさん食べて元気つけないと!)

颯は真顔で料理を口に運びながら返した。

「我现在最大的威胁,可能就是那几个黑西装的兄弟吧……」

(今一番の脅威は、あの黒スーツのお兄さんたちかもしれませんが……)

リンはまた笑い出した。小王も笑みを抑えきれずにいる。

楽しく会話しながら食事を終えると、外には再び黒スーツが待機していた。リンはその光景を見て颯の耳元で冗談を囁いた。

「看来我们的约会要变成全程被监视的浪漫剧了呢。」

(どうやら私たちのデートは全編監視付きのロマンチックコメディになりそうだね。)

俺も笑って肩をすくめた。

「只要你开心就好。」

(リンが楽しいならそれでいいよ。)

帰りの車内では、小王が北京の歴史や文化を詳しく解説してくれた。公安の監視もいつしか日常の一部となり、二人はこの不思議な状況を楽しみ始めていた。

北京の空は青く澄み渡り、隕石が迫っていることが嘘のようだった。俺とリンはお互いの存在を感じながら、穏やかで贅沢な日常をゆっくりと過ごしていた。


翌朝、北京は清々しい秋晴れに恵まれた。俺とリンは久しぶりにゆっくり目覚め、朝の柔らかな日差しを浴びながら、今日はどこへ行こうかと話をしていた。

「颯,我们今天去胡同逛逛吧。我很久没去过了,想看看那里最近有什么变化。」

(颯、今日は胡同に行ってみない?しばらく行ってないから、最近どんな風に変わったか見てみたいの。)

リンがベッドから起き上がりながら提案すると、俺も笑顔で頷いた。

「好啊,我也想看看老北京的街道。」

(いいね、俺も昔ながらの北京の街並みを見たいな。)

朝食を軽く済ませて外に出ると、既に公安の黒スーツの男性が数人待機していたが、彼らももう景色の一部になっている。俺たちは軽く挨拶を交わし、胡同に向かって歩き始めた。

胡同に到着すると、細い路地に昔ながらの建物が立ち並び、まるで時代が逆戻りしたかのようだった。石畳の道を歩きながら、リンは懐かしそうに周りを見渡している。

「あの店、ちょっと覗いてみようか?」

リンが指差したのは、細工が美しい陶磁器や伝統的な工芸品を売る小さな店だった。

「欢迎光临!」(いらっしゃいませ!)

若い女性店員が笑顔で俺たちを迎えた。

「请问,这些茶具都是手工做的吗?」リンが繊細な青花模様の茶器セットを手に取りながら質問した。

(すみません、この茶器はすべて手作りですか?)

「是的,我们这里的茶具都是手工烧制的,每个花纹都不一样哦。」

(はい、当店の茶器はすべて手作りで、一つ一つ模様が違うんですよ。)

リンは興味深そうに茶器を眺めている。その隣で俺は一枚のシルクの刺繍が施された扇子を見つけた。

「这个扇子很漂亮,是传统的吗?」

(この扇子、とても綺麗ですね。伝統的なものですか?)

「是的,这是苏绣工艺品,很适合送给家人做礼物。」

(はい、これは蘇州の刺繍が施された工芸品です。家族へのお土産にもぴったりですよ。)

「那我买两个吧。」

(じゃあ、二つ買います。)

俺はすぐに扇子を購入した。リンは結局、青花の茶器セットを選んだ。

その後も、俺たちは胡同をゆっくりと歩きながら、小さなお土産店や雑貨屋を覗いた。道端には屋台が並び、饅頭や肉まんの香ばしい香りが漂っていた。

「颯,我们去那家新开的咖啡馆吧,听说那里甜点很有特色。」

(颯、あの新しくできたカフェに行ってみようよ。あそこのデザート、個性的だって話題だよ。)

リンが目を輝かせて誘ってきたので、俺たちはそのお洒落なカフェに足を踏み入れた。店内は落ち着いたインテリアで、古い建物を改装したような趣きがあり、窓際の席に座った。

メニューを見ると、北京風にアレンジされたデザートが目を引いた。

「推荐一下你们的特色甜点好吗?」リンが店員に聞いた。

(こちらのおすすめのデザートを教えてもらえますか?)

店員は笑顔で答えた。

「我们店最受欢迎的是北京特色的『驴打滚』蛋糕和创意款的冰糖葫芦芭菲。」

(当店で一番人気なのは北京伝統のお菓子『驴打滚』(ロバ打ち餅)をアレンジしたケーキと、創作デザートの冰糖葫芦パフェです。)

「那就各来一个吧。」 (じゃあ、それを一つずつください。)

デザートが運ばれてくると、その鮮やかな見た目に俺もリンも目を見張った。

「这个冰糖葫芦芭菲看起来太好吃了!」リンがスプーンを握って目を輝かせる。

(この冰糖葫芦パフェ、すごく美味しそう!)

俺も驴打滚のケーキを一口食べ、その滑らかな食感と甘さに感嘆した。

「没想到老北京的点心可以这么现代又好吃。」

(昔ながらの北京のお菓子がこんなにモダンで美味しいとは思わなかったよ。)

リンが笑いながら言った。

「颯,你在中国已经完全适应了北京的生活啊。」

(颯、もう完全に北京の生活に馴染んでるね。)

「有你在我身边,我自然就适应了。」

(リンがそばにいるから自然と馴染めるんだよ。)

俺の言葉にリンは少し照れたように微笑み返した。

食後、再び胡同をゆっくり散策しながら帰路につく。夕暮れの北京は静かで、赤く染まった空が俺たちの後ろに伸びる影を淡く映していた。

リンが俺の手を強く握った。

「颯,虽然我们被限制在北京,但其实这里的生活也不错,对吧?」

(颯、北京から出られないけど、ここでの生活も悪くないよね?)

「嗯,能和你一起在这里悠闲地过日子,我觉得也很满足。」

(うん、君とこうしてのんびり過ごせるなら、それだけで満足だよ。)

リンが笑顔で俺を見つめ返すと、俺たちの後ろをついてきていた公安の黒スーツたちも、どこか微笑ましいものを見るような視線を送っている気がした。

「颯,明天我们再去别的地方看看吧。」

(颯、明日はまた別のところに行ってみようよ。)

「好啊,只要你想去,哪里都可以。」

(いいよ、君が行きたいところならどこでも行こう。)

穏やかな夕暮れの中、俺たちは手を繋ぎ、北京での新しい日常を楽しみながら、ゆっくりと帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ