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俺とクロのカタストロフィー  作者: ムネタカ・アームストロング
70/81

70.飼い犬と目が合った瞬間に尻尾を振ってくれるが、構ってる暇がないので視線を逸らすと残念そうにする様子を見ると忙しくてもつい呼んでしまう

夕方、航天局の特別室に穏やかだが威圧感を漂わせる足音が近づいてきた。扉がゆっくり開き、数名の政府の役人が入室した。彼らの表情は礼儀正しくも冷徹で、事態の重大さを物語っていた。

彼らの中でリーダー格と思われる男性が一歩進み出て、俺とリンの前に座った。

「涼风先生,琳女士,今天我们是代表政府特地来跟你们谈一下今后的安排。」

(涼風さん、リンさん、本日は政府を代表して、今後のことについてお話しに参りました。)

彼の声は静かだが、はっきりとした決定事項を告げる強さを持っていた。

「经过高层的慎重研究,我们一致认为,由于你所掌握的情报过于敏感,我们无法让你再回日本了。」

(政府高官の慎重な協議の結果、あなたが持っている情報があまりにも敏感なため、もはやあなたを日本に帰国させることはできません。)

その言葉を聞いた瞬間、俺の体が強張った。隣に座るリンも不安げに俺の腕を握った。

「等等,这是什么意思?我们不能回日本了吗?」

(待ってください、それはどういう意味ですか?私たちはもう日本に帰れないということですか?)

リンが震えた声で尋ねると、役人は少し申し訳なさそうに頷いた。

「是的。我们必须保证这些情报不被泄露,防止全球范围内引起恐慌。这不仅仅关系到中国的安全,也关系到世界的稳定。」

(その通りです。我々はこの情報が外部に漏れて世界的なパニックを引き起こさないよう、万全を期す必要があります。これは中国だけではなく、世界全体の安全と安定に関わる問題なのです。)

俺は深く息を吸い込み、胸の鼓動を落ち着かせるように努めた。役人が続けた。

「但政府并非想强制扣押你们。我们提出一个折中的方案:只要你愿意积极配合政府,我们将会安排你与琳女士正式结婚,给予你中国国籍,并在北京市内提供户口和一套高档住宅。」

(ただし政府としても、あなた方を強制的に拘束したいとは思っていません。我々からの提案は、あなた方が中国政府に積極的に協力してくださるならば、リンさんとの結婚を正式に認め、あなたに中国籍を与え、北京での戸籍と高級マンションを提供します。)

俺とリンは互いに目を合わせた。突然の展開に、リンの瞳は動揺と安堵が入り混じった複雑な色を浮かべていた。

「如果我们拒绝呢?」(もしそれを拒否したら?)俺が恐る恐る尋ねると、役人は静かに、しかし断固として答えた。

「如果你拒绝,我们只能实施更加严格的管制措施,包括将你们的身自由进一步限制。但那不是我们希望看到的结果。」

(もし拒否されるなら、我々としてはより厳格な措置を取らざるを得ません。具体的には、あなた方の身柄を拘束することになります。しかし、それは我々としても望んでいない結果です。)

俺は再びリンを見つめた。彼女は小さく頷いて、俺の手をぎゅっと握った。

「颯,我们一起接受吧。只要我们还能在一起,在哪里都没关系。」

(颯、受け入れよう。二人が一緒にいられるなら、どこだって構わない。)

俺はその言葉に頷き、リンの手を握り返した。

「我们接受政府的提议。我们愿意全力协助政府。」

(政府の提案を受け入れます。我々は政府に全面的に協力します。)

役人は表情を和らげ、小さく頷いた。

「非常感谢你们的理解与配合。」

(理解とご協力に深く感謝します。)

一瞬の沈黙の後、俺は役人に意を決して尋ねた。

「我还有一个请求,我们在日本还有一只狗叫“黑”,能否请政府帮我们安全地把它接到中国来?」

(もう一つお願いがあります。日本には「クロ」という犬がいるんです。中国政府が安全にクロを中国へ連れてきてくれませんか?)

役人は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「我们理解你的心情。这件事也可以安排。我们会联系日本方面,确保你的狗能安全地送到北京。」

(お気持ちはよくわかります。この件についても手配いたしましょう。日本側に連絡し、安全に犬を北京まで送れるように手続きを進めます。)

リンはその言葉を聞いてようやく心からの安堵の表情を浮かべた。

「谢谢,谢谢你们。」(ありがとうございます。本当に感謝します。)リンは涙ぐみながら深々と頭を下げた。

翌日から、俺とリンは何枚も書類にサインして中国籍取得と結婚の正式手続きの準備に追われた。北京市内の豪華な高層マンションが提供され、俺たちのための新しい住居となった。公安の警備も日常的となり、自由は制限されたが、その代わりに安全と生活の保障が与えられた。

そして数日後――北京首都国際空港から一本の電話がかかってきた。クロが無事に到着したという知らせだった。

空港で再会したクロは、日本から運ばれてきた緊張で少し痩せて見えたが、俺とリンを見つけると元気に尻尾を振って駆け寄ってきた。

「クロ、寂しかったな……」俺はクロを抱きしめ、リンもその横で涙ぐんでいた。

「太好了,我们的家人终于团聚了。」(よかった、私たちの家族がやっと揃ったね。)

俺たちは北京という見知らぬ都会で、クロと共に新たな暮らしを送ることになった。

これから何が待ち受けているのか不安は消えないが、少なくとも俺たちは今、一緒にいることができている。それだけが唯一の救いだった。隕石の衝突まで残された時間はもう少ない。この束の間の平穏の中で、俺とリン、そしてクロは新しい生活を歩み始めたのだった。

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