69．マスコミに同じことを何度もインタビューされるのは非効率なのでFAQを用意すればいいと閃いてから一度もインタビューされずに数年経った
数日後の朝、窓の外から鋭く乾いたタイヤの音が響き渡った。俺とリンがリビングで朝食を取っていると、玄関から重々しいノックの音が連続で鳴り響いた。リンの父が静かに扉を開くと、複数の制服姿の公安が玄関先に立っていた。彼らの中央に立つのは、ハルピン政府の紹介で俺が微信で会話をした中国国家航天局の役人、張局長だった。
「早上好，王先生，涼风先生，我是国家航天局的张国强，我们有要紧的事情要跟你们谈一下。」（おはようございます、王さん、涼風さん。私は国家航天局の張国強です。大切な話があってお伺いしました。）
張局長は表情を硬く引き締め、部屋に入るなり重々しく話を切り出した。
リビングに座ると、彼は小さなタブレットをテーブルに置き、その画面には隕石のデータが詳細に映し出されていた。彼の口調は非常に深刻だった。
「我们航天局在你提供的信息基础上进行紧急调查，确认12月4日将有一颗巨大陨石以极高的概率与地球相撞。这个消息极为敏感，中央已经下了最高级别的箝口令，禁止对外泄露。」
（我々航天局は、あなたからいただいた情報をもとに緊急調査を行いました。その結果、12月4日に巨大隕石が非常に高い確率で地球に衝突することを確認しました。この情報は非常にセンシティブであり、中央政府からは最高レベルの箝口令が出されています。絶対に外部に漏らしてはなりません。）
リンの父の表情が固まり、リンの母は小さな悲鳴を上げ、顔色を失った。俺は自分の予測が正式に裏付けられたことに、再び背筋が凍るような恐怖を覚えた。
「我们要你们协助政府。因为你们是最初发现这个问题的人，所以希望你们能够前往北京，与国家相关部门进行进一步的合作与沟通。」
（政府はあなた方に協力をお願いしたい。あなた方がこの問題を最初に発見した当事者であるため、北京に赴いて国家の関連部門との協力とコミュニケーションを深めていただきたいのです。）
リンが俺の腕を握りしめて、張局長に不安そうに尋ねた。
「那我的家人们呢？他们会安全吗？」
（私の家族はどうなるのですか？安全は保証されますか？）
張局長は深く頷き、安心させるように言った。
「放心，政府会确保你们全家人的安全。从现在开始，会有公安24小时保护你们的家人。但请理解，这种保护同时也意味着严格的监视。」
（ご安心ください。政府はあなた方家族全員の安全を保障します。今から公安が24時間体制であなた方の家族を守ります。ただし、この保護は同時に厳重な監視を意味することもご理解ください。）
リンの父は一瞬考え込むと、重々しく頷いた。
「我理解，我们会全力配合。但希望你们也务必保证我女儿和颯的安全。」
（わかりました。全面的に協力します。ただし、娘と颯の安全を必ず守っていただきたい。）
公安の隊長らしき人物が力強く答えた。
「我们保证两位的安全。在北京期间，会有专门的小组随时陪同保护。」
（二人の安全は保証します。北京滞在中は専門チームが常に同行し、保護いたします。）
その言葉を聞き、リンは少しだけ安堵の息をついたが、俺は彼らが言う「保護」という言葉に不安を覚えた。自由が制限されることは間違いないだろう。
数時間後、俺たちはリンの家の前で政府の用意した黒い高級車に乗り込んだ。リンの両親が玄関で見送る中、リンの母は涙ぐみながら何度も手を振った。リンは窓越しにそれをじっと見つめ、静かに呟いた。
「颯，我们真的能渡过这个危机吗？」
（颯、本当にこの危機を乗り越えられるのかな？）
俺はリンの手を握り締め、できるだけ力強く頷いた。
「只要我们一起，无论发生什么，都能面对。」
（一緒にいれば、何が起きても立ち向かえるさ。）
空港に到着すると、俺たちはすぐさま特別通路を通され、待機していた政府専用機に案内された。機内はシックで落ち着いた内装で、まるで映画のワンシーンに入り込んだような感覚だった。俺たちを案内した公安は柔らかな口調で言った。
「这是中央特批的专机，你们在北京期间的行动和生活都将由我们全权负责。你们只需要全力配合就好。」
（これは中央政府が特別に許可した専用機です。北京での活動と生活は我々が全面的に管理しますので、あなた方は協力することに専念してください。）
北京に着くと、俺たちはすぐに中国国家航天局の施設へと移動した。巨大な施設の中に入ると、そこでは大勢の研究者が緊迫した表情で慌ただしく動いているのが目に入った。張局長が我々を案内し、広い会議室に通した。
会議室には科学者や政府関係者が並んで座っており、彼らは我々をじっと見つめていた。張局長が真剣な表情で口を開く。
「这是涼风先生。他是最早提供陨石撞击情报的人。接下来请涼风先生详细说明一下你所知道的一切。」
（こちらが涼風氏です。隕石衝突に関する情報を最初に提供した人物です。では涼風さん、あなたが知っていることを詳しく説明してください。）
俺は深く息を吸い込み、知りうる限りの未来の記憶を詳細に語り始めた。その場にいた専門家たちは、俺の話をメモを取りながら真剣に聞き入り、いくつか鋭い質問を繰り返した。
やがて話し終えた後、部屋にいた科学者の一人がゆっくり口を開いた。
「如果你所说的一切都是事实，那地球恐怕会面临前所未有的灾难。」
（もしあなたが言ったことが全て事実なら、地球はこれまでにないほどの災害に直面することになるでしょう。）
部屋は沈黙に包まれた。
張局長は静かに、しかし力強く告げた。
「现在的关键是如何尽可能地降低损失。我们必须团结一切力量，应对即将到来的危机。」
（今重要なのは、可能な限り被害を最小限に抑える方法を考えることです。迫り来る危機に対処するために、あらゆる力を結集する必要があります。）
その日から俺は国家航天局の一角に設けられた特別室で厳重な管理下に置かれ、政府の担当者や研究者と連日、俺が見てきた世界線を説明し続ける日々が始まった。
