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俺とクロのカタストロフィー  作者: ムネタカ・アームストロング
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64.旅行から帰ると恐くて2週間は体重計に乗れない

飛行機はゆっくりと瀋陽桃仙国際空港に着陸し、滑走路を軽やかに滑走した。窓の外には異国の景色が広がり、俺はシートベルトを外しながらリンに笑顔を向けた。

空港内は清潔で近代的なデザインが施されており、青と白を基調とした案内表示板が目立つ。俺とリンは人波に乗って入国審査カウンターへ向かった。入国審査官は冷静な表情で颯のパスポートを確認すると、やや訝しげに質問した。

「您来沈阳的目的是什么?」(瀋陽に来た目的は何ですか?)

リンに鍛えられた中国語で丁寧に答えた。

「和女朋友回哈尔滨见她的父母」(彼女と一緒にハルピンへ行って、ご両親に会うためです)

審査官はリンのパスポートと顔を交互に見てから小さく頷き、「欢迎来到中国」(中国へようこそ)と笑みを浮かべてスタンプを押した。

荷物を受け取り、空港の到着ロビーを抜けると外には多くのタクシードライバーが客を呼ぶ声が響いていた。

「我们先去吃饭吧?我真的好饿啊」(まずご飯食べようよ。お腹すいちゃった)リンが言うが、中国で何を食べればよいかわからず、とりあえず大きく頷いておく。

「我们先去吃马家烧麦吧!这家店很有名」(先に馬家焼売を食べに行こう。すごく有名なお店だよ。

二人でタクシーに乗り込むと、「师傅,我们去中街的马家烧麦」(運転手さん、中街の馬家焼売までお願いします)とリンが伝えた。ドライバーは「好嘞,马上就到!」(はい、すぐ着きますよ!)と陽気に応じ、車は瀋陽市内へ向けて走り出した。

中街に着くと、馬家焼売の看板が大きく掲げられていた。店舗の入り口からは蒸し器から湧き上がる熱気と美味しそうな香りが漂っている。店内は賑やかで、地元の人たちがひっきりなしに焼売を楽しんでいた。

二人はテーブルに着くと、リンが慣れた様子でメニューを開き、店員を呼んだ。

「我们点两笼烧麦,再来一份锅包肉和酸辣汤」(焼売二籠と、鍋包肉と酸辣湯を一つずつください)

「好嘞!」(はい!)店員は元気よく厨房へ注文を通した。

すぐに蒸籠に入った熱々の馬家焼売が運ばれてきた。焼売の皮は透き通っていて、中身の餡が薄く透けて見えるほどだ。

「哇,看起来真好吃!」(うわぁ、美味しそう!)リンが嬉しそうに目を輝かせ、俺は焼売を一つ取り出し、そっと口に運んだ。

「嗯,太好吃了!皮薄馅多,肉汁都溢出来了」(うん、最高に美味しい!皮は薄くて餡はたっぷり、肉汁が溢れてくるよ)

リンも一口食べて頷いた。「对吧,我在日本一直都想吃这个呢」(でしょ?私、日本にいる間ずっとこれが食べたかったんだ)

鍋包肉は黄金色に揚がった豚肉に甘酸っぱいソースがかかり、口に入れるとサクサクとした食感と爽やかな酸味が広がった。酸辣湯はほどよい酸味と辛味が調和しており、舌の上で絶妙なバランスを奏でる。

お腹が満たされた俺たちは店を出て、高速鉄道の駅に向かった。瀋陽北駅の巨大な建物は現代的で洗練されたデザインであり、入り口では大きな電光掲示板が発車時刻を示している。

チケットを自動券売機で購入し、改札を通過すると、プラットフォームに流線型の美しい高鉄が静かに入線してきた。見た目は新幹線とそっくりだ。

「我们坐这个到哈尔滨吗?」(これに乗ってハルピンまで行くの?)とリンに尋ねた。

「是啊,两个半小时左右就能到」(そうだよ、だいたい2時間半くらいで着くよ)

車内に入ると、座席は清潔で快適そうだった。荷物を頭上の棚に載せてから、窓側の席はリンに譲りゆっくりと息をついた。

列車がゆっくりと動き出すと、窓の外に瀋陽の街並みが流れていった。リンは車窓を眺めながら静かに呟いた。

「颯,哈尔滨你会喜欢的,我带你去中央大街。还要吃哈尔滨红肠」(颯、ハルピンはきっと好きになるよ。中央大街に連れて行くし、ハルピンソーセージも食べよう)

俺は微笑みながらうなずいた。「我期待好久了。也很期待见到你的家人」(ずっと楽しみにしていたんだ。リンの家族に会うのもね)

列車はぐんぐん加速し、車窓には徐々に都市の風景が減り、田園風景が広がってきた。二人は時折会話を交わしながら、ハルピンへの道中をゆったりと楽しんだ。俺はリンの話を聞きながら、初めて訪れた中国に、胸が躍るのを実感していた。

ハルピン駅に到着したのは、ちょうど夕刻を迎えるころだった。列車から降りると、頬を撫でる風が少しひんやりとしている。夏とはいえ、黒竜江省の夜は涼しく、頬に心地よい。

改札口を抜けると、すぐにリンが明るく手を振りながら呼びかけた。

「爸!妈!我们到了!」(お父さん!お母さん!着いたよ!)

改札の外には笑顔で手を振り返す中年夫婦が立っていた。リンのお父さんはすらりと背が高く、白髪交じりの髪が威厳を漂わせている。リンのお母さんはエレガントな雰囲気で、控えめな微笑みを浮かべていた。

俺は緊張しながら挨拶をした。

「叔叔阿姨好,我是凉风颯,请多多关照。」(おじさん、おばさん、はじめまして。涼風颯です。よろしくお願いします)

リンのお父さんは温かな笑みを浮かべ、力強く颯の手を握り締めた。

「欢迎欢迎,辛苦你了。我们听琳琳提起你很多次了,见到你很高兴。」(ようこそ、疲れただろう。リンリンから君のことは何度も聞いていたよ。会えて嬉しいよ)

リンのお母さんも優しく微笑んだ。

「小颯啊,真是比照片上还帅呢。路上累了吧?」(颯君、写真で見るよりもずっと素敵ね。旅で疲れたでしょう?)

少し照れながら颯が頷くと、リンのお父さんは手を振って駐車場へと誘導した。

駐車場には黒く光る高級SUVが停まっていた。リンが小声で耳打ちする。

「这是我爸的车,他超级喜欢这个品牌的日本车。」(これはパパの車だよ。パパ、このメーカーの日本車が大好きなの)

リンのお父さんが運転席に座り、颯は助手席、リンとお母さんが後部座席に座った。

車がゆっくりと走り出すと、リンのお父さんがバックミラー越しに笑顔を向けた。

「听说你们在日本赢了一大笔钱啊,真了不起啊!」(日本で大きなお金を当てたと聞いたよ。凄いじゃないか!)

俺は照れながら答えた。

「只是运气好而已,并不是什么了不起的事。」(運が良かっただけで、大したことじゃないですよ)

リンのお母さんは柔らかく笑った。

「哎呀,小颯还很谦虚啊。琳琳经常夸你,说你对她很好呢。」(まあ、颯君は謙虚なのね。リンリンはよくあなたのことを褒めていて、とても優しいって言ってたのよ)

リンが顔を赤くしながら口を尖らせた。

「妈,你别说啦,很害羞的。」(ママ、もうやめてよ。恥ずかしいから)

車内に和やかな笑いが広がった。俺も自然と緊張が解けてきて、車窓から街並みを眺める余裕が出てきた。ハルピンの街は彼が想像していたよりもずっと近代的で、街路樹が整然と並び、高層ビルの間を高級車が悠々と走っている。

車でおよそ30分ほど走ると、一際大きくモダンなデザインの邸宅が見えてきた。門の前で車が止まり、自動で開いた門をくぐって車庫に入ると、俺は思わず感嘆の声を上げた。

「这是你家吗?」(ここがリンの家なのか)

リンが笑いながら颯の腕を引っ張った。

「是呀!你看,吓到了吧?」(そうだよ!びっくりしたでしょ?)

玄関の扉が開くと、そこには大理石の広い玄関ホールが広がっていた。リンのお父さんは嬉しそうに説明した。

「我是做餐厅设备买卖的,算不上什么大企业家,不过日子过得还可以啦。」(レストラン設備の売買をしているんだ。大企業家とまではいかないけど、まあまあの生活を送っているよ)

「真的很厉害,谢谢您这么热情地接待我。」(本当に素晴らしいですね。こんなに温かく迎えていただいてありがとうございます)

リンのお母さんは優しく颯の背を押しながらリビングへと案内してくれた。広々としたリビングには革製のソファーが置かれ、大きな窓からは庭の花々が見えた。

「叔叔阿姨,这是我和琳从日本带来的礼物。」(おじさん、おばさん、これはリンと日本から持ってきたお土産です)

颯が鞄から慎重に日本酒と獺祭焼酎、そしてシャネルのバッグを取り出すと、リンの両親は目を丸くした。

「哎呀,这个包我一直都想要!你们真是太贴心了!」(まあ、このバッグはずっと欲しかったの!本当に気が利くわね!)お母さんは満面の笑みでバッグを抱きしめた。

お父さんは焼酎を手に取りラベルを読み上げながら感嘆した。

「獺祭烧酒啊?这个我在网上看过,一直想尝尝。今天真是太幸运了!」(獺祭焼酎か!ネットで見て、ずっと飲んでみたかったんだよ。今日は本当に幸運だな!)

颯は二人の喜ぶ姿を見て安堵した。

「今天我亲自下厨做东北菜给你们尝尝!」(今日は私が東北料理を作ってご馳走しよう!)とお父さんが腕をまくってキッチンに立った。

夕食時にはテーブルに東北料理が次々と並んだ。色鮮やかな地三鮮、醤油で甘辛く煮込んだ紅焼肉、そして颯が楽しみにしていた東北乱炖。野菜や肉が豪快に煮込まれたその料理は、見ているだけで食欲をそそる。

「小颯,来,尝尝看,这是我的拿手好菜东坡肉!」(颯君、これを食べてみて。私の自慢の料理、東坡肉だよ)お父さんが自信満々に差し出す。

俺は口に含むと、とろけるような柔らかさと絶妙な甘辛い味付けに感動した。

「叔叔,真的很好吃,这是我吃过最好吃的东坡肉!」(おじさん、本当に美味しいです。今まで食べた中で一番美味しい東坡肉です!)

リンのお父さんは嬉しそうに笑い、テーブルに並んだ獺祭焼酎のボトルを掲げた。

「今天我们来喝酒庆祝一下,小颯欢迎加入我们家!」(今日は酒を飲んでお祝いだ!颯君、我が家へようこそ!)

「谢谢叔叔阿姨!」(おじさん、おばさん、ありがとうございます!)

グラスが重なり合い、暖かな笑い声が邸宅に響き渡った。颯は初めて訪れた異国の家で、温かな家庭の空気に包まれながら、リンの家族と親密になっていくのを感じていた。


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