6.体調不良で会社を早退したのに会社から出たらすぐ体調良くなる現象の名前が知りたい
「佐藤支店長、申し訳ないですが、俺と浅野さんは今から早退します。皆さんも、政府の指示どおりテレビを視聴したほうがいいと思いますよ」
俺は席から立ち上がり、何が起きたのかわからず「えっ?私も?」と戸惑う浅野さんの腕を掴み立ち上がらせた。その瞬間、向かいの席に座る湊と目が合った。
「湊も一緒に来い」
「はい!」
湊は迷わず即答した。仕事上のランチ以外で特別親しいわけでもないが、俺の言葉を信じてくれたようだ。
浅野さんの腕を掴んだまま、片手で荷物を抱え、湊を伴って店を出ようとした瞬間、佐藤支店長が慌てて声をかける。
「ちょっと待って!課長に確認するから!」
「佐藤支店長、本当にすみませんが、嫌な予感しかしないので早退します。何もなければ週明けに早退届を出します。支店長も奥さんのもとに早く戻ったほうがいいですよ」
背後から支店長の叫ぶ声が聞こえたが、俺は一度も振り返らず店を出た。発表まであと五時間しかない。
「颯!ちゃんと付いていくから、そろそろ腕を離してくれない?」
「すみません」
一旦止まり、浅野さんの腕を放して荷物を渡す。そのまま歩きながら説明を続ける。
「朝から自衛隊の航空機が都内を飛び回っていました。そこに先ほどのJアラート、小惑星、NASA……状況が揃い過ぎていて危険な予感しかしません。強引に連れ出して申し訳ないですが、今日から浅野さんは弟の嫁です。俺について来てください」
浅野さんは頬を赤らめつつ、黙って頷いた。
「湊は一人暮らしだったよな?実家は?」
「はい。両親は仕事でアメリカ、弟はカナダに留学中です」
「彼氏や友達は?」
「いません。まだこっちに来て1年も経ってないので……」
「それなら今から俺と一緒に動こう」
「わかりました!」
俺は爽に電話をかける。
『今どこだ?』
『区役所で婚姻届を出して帰るところ』
『さっきのJアラート見ただろ?小惑星が衝突する可能性が高い。今回は俺を信じて行動しろ』
爽は少し戸惑いつつも俺の指示をすぐ受け入れ、銀行で全預金を引き出し、レンタカーと各種物資を手配するよう伝えた。
次にリンへ連絡した。
『授業中だよー』
『今すぐ家に帰って、金を全部引き出し、中野駅で1時間後に待て。二度と家に戻れない前提で準備しろ』
『空賊のおばさんですか?』
返事をせず電話を切った。
途中、三人で銀行に立ち寄り、それぞれ全額を引き出した。
合計800万円の現金は不安だが、この先は紙くずになる可能性がある。物資に変えておく必要があった。
浅野さん宅に到着後、二人が準備をしている間にスマホで医薬品通販会社を検索し、中野駅近くの店を見つけた。
準備を終えた浅野さんと湊に自宅の鍵を渡し、長期保存の食料と日用品、薬品の購入を頼み、先に自宅で待機するよう指示した。
俺は自転車を飛ばして医薬品通販会社へ。現金100万円を渡し抗生物質を購入した後、中野ブロードウェイのミリタリーショップでサバイバル用品を買い揃えた。大きなリュックと肩掛けバッグに詰め込むと、まるで集団疎開者のような姿になった。
見慣れた中野の街並みを目に焼き付けながら、リンの待つ中野駅へ。
リンは昨日と同じ場所に、登山用の大型リュックを背負って立っていた。
「空賊のおばさんかと思ったら颯だった」
「天空の城は探さないぞ。乗れ」
「はい、船長!」
緊急時なので二人乗りを許容し、リンを後ろに乗せて走り出した。
途中、コンビニとドラッグストアでそれぞれ現金を引き出し、薬品や保存食、日用品を可能な限り購入した。俺の現金はほぼ底を尽き、二人で大量の荷物を抱えて歩き始めた。