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俺とクロのカタストロフィー  作者: ムネタカ・アームストロング
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57.FXや暗号資産の取引にもパチンコみたいに派手な演出を付けたら証券会社はもっと儲かると思う

クロノスマーガレットの配当が発表された。単勝で1480円。つまり、100円が14.8倍の1480円に化けたということだ。俺は1000万円分を購入していたため、払い戻し額は1億4800万円になる計算だ。振り込まれるのは明日になるが、JRAの払い戻し画面には今まで見たこともない桁数の数字が並んでいた。


「やった、ホントに当たったよ!とりあえずリンの馬券も払い戻して、東京に帰ろうか!」


俺が興奮気味に言うと、リンも目を輝かせて頷いた。


「嗯,好的!」(うん、そうだね!)


リンと一緒に馬券の払い戻し機まで行き、リンが購入した馬券も払い戻すことにした。リンは単勝20万円分を買っていたので、296万円の払い戻しとなった。


機械から吐き出された現金を前に、リンは少し不安そうに俺の顔を見た。


「带着这么多现金太吓人了,能不能帮我保管一下?」(こんなにたくさんの現金を持ち歩くのは怖いから、颯が持っててくれない?)


「いいよ、任せておけ」


俺はリンから封筒に入った296万円を受け取り、しっかりと鞄の奥深くにしまった。その後、競馬場の前からタクシーに乗り込み、名古屋駅に向かった。


名古屋駅に着くと、帰りの新幹線のチケットを購入して東京行きの列車に乗り込んだ。


新幹線の座席に座ると、リンは今日一日の喜びと興奮からか、俺の肩に頭を乗せて穏やかな表情で寝息を立て始めた。そんなリンの姿を横目に見ながら、俺はこれからのことをじっくりと考え始めた。


まず、銀行から借りたお金は当然すぐに全額返済する。それでも手元に残るのは約1億4000万円。このうち1億3000万円の雑所得にかかる税率は45%、控除を計算に入れても約5630万円が税金として徴収されることになるはずだ。そうすると手元に自由に使えるお金として約7360万円が残る。


最初は隕石衝突が確定している以上、税金のことなど気にする必要はないと思っていたが、現実に大金を手にすると妙な不安が湧き上がってくる。万一世の中が正常に戻った場合に備え、税金分の5630万円をただ現金で持っているのは損だ。ならば金に換えて保管しておけば、いざとなれば税金の支払いにも対応できる。金が日本円より価値が下がることは考えにくい。


次に、自由になる7360万円の使い道だが、実は競馬が成功した場合に備えたプランが俺の中にはあった。元々株取引をしていたため、この先の大まかな株価や日経平均の動きは覚えている。ただ、手持ちの株と日経平均の推移ぐらいしか記憶していないため、大幅に資産を増やすことは難しい。しかし為替の動きも思い出した。確か8月1日、日銀の突然の利上げ発表によって、一晩で約4円ほど円高方向へ急激に動いたはずだ。


FXならレバレッジが最大25倍までかけられる。仮に1億3000万円をFXに投入して4円の変動を捉えられれば、単純計算で約8600万円ほどの利益が生まれることになる。そこからまた税金45%が引かれるが、それでも競馬で勝った分と合わせれば手元には1億円以上が自由に使えることになるはずだ。


それだけの金があれば、リンとクロと俺だけならば、この先どんな状況になっても好きな場所へ逃げられる。問題はリンに隕石衝突のことを伝えることだ。これだけは必ず話しておかねばならない。どこへ行くか、どう生きるか、それはリンとしっかり相談して決めよう。


東京駅に近づいた頃、俺は眠るリンの肩を優しく揺らして起こした。


「リン、もう東京駅に着くよ。降りる準備しようか?」


リンはぼんやりと目を擦りながら答えた。


「好啊。」(うん。)


新幹線を降りて歩いていると、リンが俺の袖を引っ張った。


「今天可以去你家吗?」(今日は颯の家に行ってもいい?)


俺は即答でOKした。


「もちろんだよ。」


リンは嬉しそうに笑った。


「じゃあ一回家に帰って着替えを取ってくるから、颯はクロの散歩をしててくれる?お金は家に持って帰るのが怖いから、颯がそのまま持ってて?」


「わかった。じゃあ夕飯も用意しておくよ。何がいい?」


リンは少し考えてから嬉しそうに答えた。


「今日はお祝いだからね、山勝のデラックス幕の内弁当がいいな!」


俺はその答えに笑いながら、リンの頭を優しく撫でた。リンは目を細めて嬉しそうに笑った。


リンは中野駅で降り、俺はそのまま高円寺駅まで戻った。自宅に着いたのはまだ18時30分だった。弁当屋の山勝はまだ営業しているはずだ。


家のドアを開けるとクロが飛びついてきた。


「クロ―、今日は大勝ちしたぞー!これで俺らは大金持ちだ!」


俺が笑いながらクロの頭や体をわしゃわしゃ撫でると、クロは尻尾をブンブン振って喜んでくれた。


荷物を置いてすぐクロにリードをつけ、そのまま散歩に出た。散歩の途中で山勝に寄り、デラックス幕の内弁当を2つ注文した。今日はオヤジさんが配達に出ているらしく、パートのおばさんが店番をしていたためクロのおやつはもらえなかった。


家に戻ると、クロに水とドッグフードを与え、それから今日はお祝いだと言って特別に大好物の骨付きジャーキーをあげた。クロは嬉しそうに夢中でそれを食べている。


それほど時間を置かずにインターホンが鳴った。俺が玄関のドアを開けると、リンが明るく微笑んで入ってきた。


「我回来啦!」(ただいまー!)


俺はその笑顔に安堵と幸せを感じながら、リンを家の中へ迎え入れた。

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