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俺とクロのカタストロフィー  作者: ムネタカ・アームストロング
48/81

48.氷点下の世界で凍らせて釘を打つのに使ったバナナは結局食べるのか気になる

翌朝、スマホの静かなアラーム音で目を覚ました。ぼんやりと目を開けて窓の方を見るが、外は相変わらず夜中のような闇の中だ。スマホの画面を確かめると朝7時を表示している。

「やっぱり暗いね……」

舞も隣で目を覚まして、小さな声でつぶやいた。ゆっくり布団から出ると、身体が震えるほどの冷気が襲ってきた。

「うわっ!さむっ!」

口から白い息が立ち上る。部屋の壁に掛けてある温度計を見ると、針はマイナス10℃を指していた。慌てて服を重ね着し、一階のリビングへ向かった。

リビングでは既に薪ストーブが勢いよく燃えていて、室内は柔らかな温もりで満ちていた。祖父母や父も起きていて、祖母が朝食の準備をしているところだった。俺と舞はストーブに手をかざしながら席についた。

朝食を取りながらいつものようにラジオのニュースを聞いていると、アナウンサーが緊張した声で伝えていた。

『現在、日本全土の平均気温が約10℃低下しています。特に北海道では旭川市が12月にもかかわらずマイナス40℃を記録し、国内の12月としては観測史上最低気温を更新しました……』

祖父が難しい顔でつぶやいた。

「とうとう北海道もマイナス40℃か……こりゃ本当にまずいことになってきたな」

朝食後、外の様子が気になったので、俺は「外出るけど、一緒に行く人いる?」と声をかけたらリンだけが行くと言ったので、二人で玄関から外へ出た。玄関を出ると、突き刺すような寒さが身体を包んだ。外の温度計を確認するとマイナス22℃だ。

「あまりにも寒いな……他の皆にも聞いてみようか?」

寒さのせいで吐く息の水分が凍りつき、まつ毛が凍って瞬きをするときに違和感がある。

リンは寒さよりも興奮が勝ったらしく、

「啊!我想试一下湿毛巾冻起来的实验!你稍等一下!」(あっ!濡れたタオルを凍らせるやつ試したい!ちょっと待ってて!)

リンはそう言って家の中に駆け込んだ。俺も寒さに耐えきれず玄関で待つ。数分後、リンが濡れたタオルを手に戻ってきた。

「看好了啊!三、二、一!」(よく見ててね!3、2、1!)

リンが勢いよく頭上でタオルを振り回すと、一瞬でタオルは固く棒のように凍りついた。

「おおー!すげー!」俺たちは歓声を上げてはしゃいだ。

その様子を家の中から見ていたクロが、玄関のドアを前足でノックして自分も外に出たいとアピールしたので、ドアを開けてクロも外に出してやった。クロは興奮気味に雪の上を走り回った。

リンはさらに目を輝かせて、

「还有一个!我马上回来!」(もう一つやりたいのある!すぐ戻る!)

とまた家の中に走って行った。戻ってきたリンの手には熱湯の入ったマグカップが握られていた。

リンは嬉しそうにマグカップを高く掲げ、中国語で叫んだ。

「三、二、一,发射!」(3、2、1、ファイア!)

リンが熱湯を空に向かって放り投げると、熱湯は一瞬で氷の粒になり空中で舞った。

「おー!すげー!」俺たちは再び大はしゃぎした。

リンたちと一緒にいれば、どんな困難な状況でも楽しめるんだと、少し気持ちが明るくなった。

そのとき爽が玄関から顔を出し、「役場に出勤してくる」と言うので、俺は尋ねた。

「今日は12月13日の日曜日だけど、役場って開いてるのか?」

爽はハッとした表情で「あ、やってないわ。曜日感覚がなくなってた……」と苦笑して家の中へ戻っていった。

その後、自警団の見回りの時間になった。父と爽と俺の三人が出かけることになったが、あまりの寒さに俺と爽は二人で、父が札幌からこっちに来るときに実家から持ってきてもらったスノーボードウェアにフェイスマスク、ゴーグル、ニットキャップに手袋という完全防寒装備で出たところ、父がそれを見て大笑いした。

「おまえら、スキー場じゃねぇんだぞ」

そんなやりとりをしながら集会所に着くと、自治会長が俺たちを呼び止めた。

「先にちょっと話したいことがあるから、皆いったん集会所に入ってくれ」

全員が集まったところで自治会長が口を開いた。

「見回りの人数と回数を減らそうと思うんだ。これから冬が本番になったら、ここも旭川みたいにマイナス40℃になるかもしれねぇし、さすがに年寄りばっかりだから体力ももたねぇ。それに、この暗さで毎回懐中電灯を使ってたら電池がすぐなくなっちまう。そこで、俺からの提案だが、今は5班で1日3回の見回りを回しているが、明日から1班で1日1回、だから5日に1回だけ見回りの担当が回ってくるという建付けだ。これならそこまで負担にならねぇだろ?そうなると、今みたいに1件1件家を回るわけにもいかねぇから、町内をぐるっと1周回るだけにしてもらう。そこで変わったことがあったら俺か涼風さんに報告する。みんな、これでいいかい?」

全員が賛成し、今日のところは町内の家々を回って説明をして回った。訪問先でも住民は納得してくれた。

家に戻って昼食を取ると、祖母が「今日は最後の卵で卵焼きを作ったから、味わって食べなさい」と静かに言った。俺たちは生まれて初めて卵焼きをじっくり噛みしめながら食べた。

午後は祖父と父がチェンソーを持って裏山に薪を伐りに行ったので、俺たちはリビングで自由に過ごした。俺と湊は読書をし、舞とリンはオセロをしている。祖母は編み物をし、爽は札幌の実家から持ってきたポータブルDVDプレイヤーで映画を観ていた。高校生の頃に俺と爽がいつか見ようと思ってレンタルDVDをコピーしていたものを大量に溜めていたが、結局二人とも見ずに押し入れに仕舞っていたものを持ってきたらしい。

夕方、祖父と父が戻ってきた。寒い中での作業はかなり疲れたらしく、二人ともぐったりしていた。

夜も節約のため早めに夕食を済ませ、舞と二人で風呂に入った。薪ストーブの火を落として部屋に戻ると、冷え込む部屋で舞と俺は一つの布団に入り、雑談をしながら抱き合って眠りについた。

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