40.昔の友達と久しぶりに会う前はなぜか緊張するけど、会ったら一瞬で昔のテンションで話せる
翌朝、パンの芳ばしい香りで目が覚めた。ぼんやりと意識を取り戻しながら時計を見ると、朝の七時だった。普段なら既に日の出後で明るいはずだが、窓の外は異様に薄暗かった。腕の中では舞がまだ静かに眠っていた。
そっと舞を起こした。 「舞、起きて。外がなんだか変だよ」 舞は眠そうな目を擦りながら起き上がり、俺と一緒にカーテンを開けて窓の外を見つめた。
外の景色は一面、灰色の厚い塵に覆われ、まるで薄暮のように薄暗かった。 「これって隕石の影響?」舞が不安そうにつぶやいた。
スマホを取り出しSNSを確認すると、日本全国で同様の空が広がっていることが分かった。専門家の説明では、隕石の衝突で巻き上げられた大量の粉塵が地球を覆い、日光を遮っているらしい。
俺たちは静かに布団を畳み、一階に降りた。台所では湊とリンが朝食の準備をしてくれていた。リビングでは良雄がテレビでニュースを見ており、三人とも昨夜は結局一睡もできなかったという。
やがて祖父母も起きてきて、皆でテーブルを囲んだ。朝食のメニューはリンが「眠れないから」と朝四時から焼いてくれた手作りパン、香ばしく焼いたソーセージ、そして目玉焼きだった。
パンを一口頬張ると、外側はサクッとして中はふんわり。バターの香りがほのかに鼻をくすぐった。ソーセージは肉汁が溢れ出し、ジューシーでスパイシーな味わいがパンと絶妙に合った。目玉焼きは黄身がトロリとして濃厚で、パンにつけて食べるとさらに美味しさが増した。俺は心の中で改めてリンの料理の腕前に感謝した。
食事をしながら、俺は皆にマルチビタミンのサプリメントを飲むよう勧めた。ビタミン不足を防ぐため、大量にストックしてあり、毎日全員で飲んでも数年分は持つ計算だった。
テレビのニュースでは、昨夜俺たちが寝ている間に京都でも震度六強の地震が発生し、多くの重要文化財に被害が出ていると報じていた。俺たちは画面を見つめ、状況の深刻さを改めて感じ取った。
食後、祖父と良雄は町内会の集まりに出かけるため軽ワゴンで出発した。湊とリンはようやく眠気が訪れたらしく、昼まで休むことにした。
「昼食は舞と私で用意するから気にせず寝ておいで」祖母が二人に優しく声をかけた。
空から降り注ぐ塵が車に悪影響を及ぼさないよう、俺は良雄の車とレンタカーを納屋へと移動させた。作業が終わると特にやることがなくなったので、リビングのソファーでSNSを眺めながら各地の情報を集めた。
舞は俺の横でニュースを見ていた。北海道では札幌のスーパーだけが政府の支援を受け、生鮮食品の販売を続けているらしい。そのため、他地域から札幌に食品を買いに行く人々で、道内各地で大規模な渋滞が発生しているという。ただ、俺が以前経験した世界線よりも混乱が若干抑えられているように感じられた。
昼前になって祖母と舞が昼食の準備を始めた頃、祖父と良雄が戻ってきた。二人は疲れた表情を見せつつも、俺たちに穏やかな笑顔を向けた。
町内会で自警団を結成する提案が通ったらしく、祖父がそのリーダーを務めることになったという。帰宅前に足寄町唯一の交番にも立ち寄り、自警団が護身用の木刀を持ち歩く許可をもらったそうだ。実際に警察も人手が足りず助かるとのことだった。警察との連携についても今後調整していくらしい。
自警団は町内会の男性15人で結成され、そのほとんどが60代から70代だった。今日から毎日、9時、15時、21時の三回、必ず三人以上で町内を見回りすることになった。
初日は祖父と近所の仲良しのおじさんたちが見回りをすることになったが、俺も特に予定がなかったため、15時と21時の見回りに同行することになった。
祖母と舞が作ったカレーライスが完成し、舞が湊とリンを起こしに行った。皆で揃ってカレーライスを楽しみ、大量に作ったため夕食も同じメニューになるらしい。
食後、祖母が小さな鍋にカレーを詰め、「これお隣さんに持って行って」と俺に頼んだ。隣家の綾子おばさん宅のインターホンを鳴らすと、懐かしい顔が出迎えた。
「えっ、颯?わー!久しぶり!大人になったね!」 子供の頃よく遊んでくれた綾子おばさんの娘、桜ねぇだった。
「桜ねぇ、全然変わらないな」 「変わったよー。この10年で結婚して、子供産んで、離婚して、実家戻ってきて、いろいろあったんだから。あきー!おいでー!」 桜ねぇが娘を紹介してくれた。
「あき、颯お兄ちゃんだよ。挨拶して」 「こんにちわぁ、あき、4歳」 「お、ちゃんと挨拶できて偉いな」
強引に家に上げられ、桜ねぇの祖父母にも挨拶した後、桜ねぇが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、小さい頃の思い出話を1時間ほど楽しんだ。




