第七章 死体の少女と麗華の秘密
かなりの間が空いてしまって、すみませんでした!
こんな私ですが、良かったら見捨てないでください………。
麗華はまず、明らかに動揺している由愛を死体から遠ざけ、周りの様子を見なくてもいいように、自分のスーツの上着を頭からかけてあげた。
そうして次はズボンからケータイを取り出し、このリビングへどこからか向かっているであろう藍のケータイへと電話をかけた。
二・三十秒コール音が鳴ってから、ようやく藍がケータイに出る。
「あっ、麗華か。お前から電話がくるってことは、悲鳴があったリビングにいるのか?」
「はい。それよりセンパイ…」
「なんだ?」
「一旦自室に戻って、一般人を遮るためのガードロープを持ってきて下さい」
「何が起きた?」
「殺害事件です。必ず、という断定はありませんが、首を絞めたロープのような痕があるため、殺害事件と思われます」
麗華は死体となった由宇をもう一度じっくりと見る。
「それ以外の外傷は特に見当たりません」
「被害者は?」
「被害者は妃莱 由宇、十五歳です」
「そうか。じゃあ、周りに殺害に使われたと思われる凶器のようなものは?」
「特に見当たりません」
「分かった。すぐに行く」
なんだ、さっきの悲鳴は?と、宿泊客達の声が聞こえる。
それとこっちに走ってくる足音の方も。
「なるべく急いで下さいね」
最後にそれだけ言うと、麗華は電話を切った。
「うわあああああァ!!」
由宇の死体を見つけた炉唯が悲鳴を上げる。
「あ、あああ!!!!」
他の客達も由宇の死体を見つけて騒ぎだす。
「騒がないで下さい」
麗華が腕を伸ばし、周りの客を遮る。
そこへオーナーの高野もリビングへとやってくる。
「悲鳴が聞こえたと思って来てみれば…一体これはどういう事ですか!?」
「見ての通り事件です。人が一名死亡しました。死後一時間くらいといったところでしょうか。まあ、とにかく落ち着いて下さい。それと、現場検証の邪魔になるので、それ以上こちらに近づかないで下さいね」
「落ち着けだって!?この状況で、ですか!!それに、現場検証やらなにやら警察のまねごとですか。アナタこそ、近づかない方が良いのではないんですか!?すぐに警察を呼びます。なので、とにかくアナタは死体に近づかないで下さい。私が管理しますので!!」
「だから…」
だから近づかないで下さいってば、と麗華が言おうとしたが、その声は別の声に遮られる。
「今から警察を呼んだとしても、最低一日はかかる。そうすると、いろいろとやりにくい事があるから、オレたちに任せろよ、オーナーさん」
「センパイ!!!!!!もう、遅いですよ。ガードロープは持ってきてくれました?」
「ああ。麗華、ガードロープはピンと張れよ?」
「はい、分かってますよ」
麗華は、普段使っているコーンがないため、ガードロープの端を窓とテーブルの脚に結びつける。
「麗華、指紋の出し方、分かるか?」
ふと藍が聞いてくる。
しかし新米の麗華にそんな事が分かるはずがない。
「分からないです」
「そうか…」
それだけ言うと、藍は死体の隅から隅まで見回す。
そんな二人の様子に唖然とする高野。
「アナタ達…本当にただの記者ですか?」
藍が一旦立ち上がり、上着のポケットから警察手帳を見せる。
「札幌市警察署、刑事課勤務、舞片 藍。これで良いですか?…麗華、お前も一応見せとけ」
そう言われて麗華は高野の方へ向き直る。
そして、上着のポケットから警察手帳を取り出そうとするが…上着がない。
先ほど、由愛に上着をかけてあげたので、上着がないのだ。
今すぐに警察手帳が必要だ。
だが、由愛はすでにこの場にいない。
どうしよう…麗華は悩んだすえ、藍にコッソリと正直にいきさつを説明する。
「なにい?警察手帳が入った上着を第一発見者にかけてあげた?しかもその女性が見つからないだと?お前、警察手帳がもしかして悪用されるような事になったらどうするんだよ!」
「すみません」
「すみません、じゃねーんだよ。それで済めば警察はいらねーんだよ!」
ぶちぎれる藍。
顔を真っ赤にして青筋をたてている。
普段の彼女ならそこまで怒らないのだろうが、麗華を信用していたが為にその怒りは収まらない。
「マジでふざけんな!!お前は警察手帳を入れたままの上着を探してこい!この事件はオレ1人で片付ける」
「そんな!センパイ!!」
「ダメなもんはダメだ。さっさと探して来い」
藍は冷たく吐き捨てるようにそう言うと、麗華に背を向けた。
「ハア、どうしよう…私…情けない。これでも警察なのか…」
麗華はため息をつきながらトボトボと廊下を歩く。
目的先は第一発見者であり、麗華が上着を貸した女性…遠矢 由愛の自室だ。
ー 由愛さんの部屋は確か…三階の207号室だ。今一階だからエレベーター、乗らなくっちゃなあ。
麗華がふっと顔を上げると、彼が乗ろうとしているエレベーターのドアが閉まる直前だった。
「ちょ…ま、待って下さい!そのエレベーター乗ります!!」
麗華はそう叫ぶと、エレベーターの中に滑り込むようにしてコンマ一秒で乗り込むことに成功する。
「ふーっ、セーフ。ありがとうございました」
麗華が顔を上げると、そこには知っている顔が…。
「篠原じゃないか!それに雪奈さんに羚君」
麗華が嬉々として三人に話しかけるが、返答はなし。
それどころか雪奈に至っては、床に座り込んで泣き出してしまう。
「ど、どうしたんですか?」
自分が何か失礼な事を言ってしまったか、と慌てる麗華。
しかし、雪奈の代わりに炉唯が返した言葉は、あまりにも意外なものだった。
「アンタ達…アンタ達警察は何やってんだよ。何簡単に人を死なせてんだよ!こういう事を起こさないためにアンタ達二人は視察に来たんじゃねえのかよ!!ふざけんなよ…あの子まだ十五歳なのに…マジでふざけんなよ!!」
炉唯が麗華の胸倉を掴む。
「ふざけてなんか…ふざけてなんかいませんよ!こっちだって必死にやってるんですよ!!」
「ふざけてないなら、なんだよ…死体になったあの子供を見る冷たい目は!」
麗華が目を炉唯の目からそらす。
「人間なんてね、死んだら全て終わりなんですよ。死体は死体に過ぎない。肉の塊…みたいな物なんですよ。それは子供だろうが大人だろうが関係ない。それに対して哀れとしか思えません。悲しいとか思わないから雪奈さんみたいに泣けないし、死体を死体としか見れないから、篠原みたいに温かみのこもった目で見つめてやることもできません」
「このやろ…」
炉唯が麗華を殴ろうとした時、別の小さい手が麗華の白い頬を思い切りひっぱたいた。