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犯罪者  作者: 小野葉
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第4章 藍の過去


「ツッ…。ハァハァハァ…」


麗華は1人、船内の洗面所で、息を荒くしながら床に座り込んでいた。

そんな彼の手には、一つの薬が…。

その薬は喘息用の薬だった。麗華はその薬を水なしで一錠飲み込むと、大きく咳き込む。


「ゴホゴホッ…。ゼエ、ゼエ」


相当苦しいようで、麗華の手は胸元のシャツを思い切り握りしめている。


「クソッ…センパイめ…。『オレな、子供いるんだよ。十歳の。丁度羚君くらいの…』だっつ?ふざけないでくださ、いよ。『その子な、柚真っていうんだけど、親父がどこかに連れて行っちゃって、どこに居るかしらないんだ』なんて突然言いやがって。親のいない子供がどんなに大変か…あの人達は全然分かってないんですよ、どうせ…ゴホッ…ゴホッ」


そう呟く麗華の目元に涙が浮かぶ。

麗華の両親は、麗華が七歳の時に自殺した。

そのため麗華は、親戚中をたらい回しにされて育てられた。

いつでもどこの家でも厄介者扱い。

違う親戚の家に移る度に学校も転校。

そして九歳のころ、麗華は祖母の家へと引き取られる。

それから、祖母にいろいろと女の動作等を仕込まれて、今の麗華がいる。

そのため麗華は祖母に育てられたようなものだ。

祖母は深い愛情を注いで育ててくれたけど、やっぱ違うんだ。

何かが違うんだ。

友人が両親と仲良くしているのを見ると胸が痛む。

それで…それで自分は悲しい思いをしたのに…と麗華は思う。

そして自分と同じ思いをしているであろう藍の娘を思い、涙を流す。


「かわいっそ…私と違って親は生きてるのに…生きてるのに会えないなんて…会いたいですよね…。それとも親が生きている事すらも知らないのかな?誰かに愛情を注いでもらってるのかな?私みたいに。愛情を知らない人ほど犯罪にはしりやすいから心配、だな…」


かつての自分と藍の子供を同じに見ずにはいられない麗華。

そんな麗華は、この視察が終わったららと藍の子供を探そう、と心に誓った。



藍は1人で、まだデッキにいた。

その目は、目の前の海を見ているように見えるが実際には、見えるハズもないはるか遠くの自分の娘を見ている。

そんな藍の頭の中は、先ほどの麗華のセリフでいっぱいだった。


『どうして…、どうして子供を探してあげなかったんですか…!!センパイとセンパイの親は何も分かってない。親のいない子供がどんなに不安か…どんなに不安で悲しいか分かってない!!!センパイ達親子は、親失格だ!』



 ー 分かってんだよ、ンなことくらい。でも、オレはアイツを…“柚真”を…オレの娘を探してやれなかった。父親の命令は絶対だから。でもオレは“柚真”を愛してた。いや、愛してるんだ。本当に分かってねーのはテメーだよ、麗華。テメーに親の気持ちが分かってたまるか!!



イライラした藍は、下に落ちていた小石を蹴飛ばす。

そして、それのすぐ後にもう一つの小石を蹴飛ばす。一つ目の小石は、柵を越えて海に落ちそうだったが、二つ目の小石が一つ目の小石にぶつかって軌道を変え、一つ目の小石はデッキに落ちて、二つ目の小石は海にポチャンという音をたてて落ちた。

なんだかその二つの小石は、オレと“柚真”みたいだった。

五年前…



オレは子供のことで警察にはなれない事になっていた。

まあ、それも当然だろう。

たかが十七歳で妊娠したのだから。

今は立派に産まれてきてくれて、柚真も今年で五歳だ。そんな事をしたオレを、法律上は特に問題がなくても、警察の幹部である親が許してくれるハズがない。

その時オレは少しだけ柚真を産んだ事を後悔した。

この…子供さえいなければ…オレは警察になれたんだ。

オレは我が子の首に触れる。

細い首…すぐにへし折れそうな…。

いや、だめだ。

オレはすんでのところで止まり、不吉な想像を頭から追い払う。

嫌な想像をしてしまった…柚真の首をへし折るところを…。オレはブンブンと頭を振る。

それから柚真の首から手を離し、自分のジーンズのポケットへと突っ込む。

そんなオレの様子を見て柚真が口を開く。


「ねえ、お母さん…。私に死んでほしいんでしょ?邪魔なんでしょ?私が存在するような事態になったこと、後悔してるんでしょ?だったら私を殺しなよ。リセットしなよ、ね?」

と柚真は言った。

柚真はあまりにも賢すぎた。

それが余計にオレを苛立たせる。

こんな事が何度も繰り返される毎日。

いい加減嫌になってきた。

いっそのこと、もう全てを終わらせてしまおうか?

オレは自分の首元のネクタイを外し、首へと巻きつける。

あぁ、段々周りの風景が掠れていく、ぼやけていく。

そんな状態になった時、丁度オレの父親が部屋に入ってきた。


「おい、藍…」


オレに気づいた父親はネクタイを取り上げ、オレの頬を思いっきり殴った。

口の中を切ったのか、鉄の味が広がる。


「自殺なんて止めないか!お前が死ぬくらいなら警察にだってなんにだってならせてやる。その代わり、柚真を父さんによこせ。警察になったらもう二度と柚真に会えないと思え」


父親はそう言った。

私はすぐに父親に抱きつく。


「柚真を…柚真をどうにかして。父さん、オレ、柚真が邪魔なんだ…」「ああ、分かった。行くぞ、柚真」


父親が柚真に呼びかける。

すると、柚真が自分の大事な宝物をバックに詰め、父親についていった。

家から出ていくとき、柚真は小さな声で言った。


「自分の為にやっぱり私を捨てるんだ…。それなら殺された方が良かった。私、許さないから。絶対に許さないから。アンタと、アンタの大切なモノ、めちゃくちゃにしてやるから。それが私の復習」


柚真そう言い残してオレの目の前から消えた。

その後、オレは柚真のおかげで警察官になって…。

柚真、オレのせいでごめんな…。


 ー オレは柚真を愛してるって言うことで、他の誰かに柚真が居なくなったことを責任転換していたのかもしれない。

今回の事だって、麗華は全てを理解した上で発言した。なのなオレは勝手にアイツは何も分かってないと思い込んだ。

少しでも自分に降りかかる罪悪感を減らそうと…。でも、全部、全部オレが悪いんだ。もう、逃げない。


「ゆ、ま…。柚真…!柚真ぁ…っ」


藍は柚真を思い出して涙を流す。そしてそのまま床にしゃがみ込み、両手で顔を覆う。


「…っつ…」


自分の罪を認めたら、なんだか涙が止まらないや。

オレがこうして自分の罪を認められたのも麗華のおかげかな、と思う藍。

藍は、この視察が終わったら麗華に手伝ってもらいつつ、柚真を探そう、と思った。


「センパイ、泣かないで下さいよ。私が悪いみたいじゃないですか」


いつの間にか麗華が藍の後ろに立っていて、藍に缶コーヒーを渡してくる。


「はい、コーヒー。センパイの好きな、甘い甘いコーヒーですよ?」


麗華が花のように笑う。

さっきの麗華の

『親失格だ!』

って言葉…アレはオレに宛てた言葉じゃない。

その言葉は誰に宛てたものだったんだろうか?

この笑顔の裏にはどんな辛い過去があるんだろうか?

知りたい…と藍は思う。


「なあ、麗華…」




二人は荷物を持って、デッキの上に居た。

否、二人だけではない。

船客全員だ。


「皆さーん、前を見て下サイ。アレが無生の館でぇーすゥ。…あっ、そこのお兄さんカッコいいね?メアド教えてよ」


船乗員の若い少女がマイクで説明した後に、彼女の近くにいた炉唯に声をかける。


「ねえってばー、お兄ーさーん。教えてよォ、メ・ア・ドォ」


少女が炉唯の腕に抱きつく。

そしてそのまま腕を組んだりと、随分な甘えぶりだ。

その少女がくっついてくる度に炉唯が顔を真っ赤にし、雪奈はどす黒いオーラを発してニコニコと微笑んでいる。

その様子を見ている麗華がポツリともらす。


「篠原も大変だあ…」


「ああ。アイツは悪くないのに、後で奥さんに半殺しにされること間違いなしだな」


ついつい藍も同意する。

そして二人そろって


「「夫婦って大変だあ」」


と喋る。

二人がそんな事を話している間にも事態は悪化し、もう手のつけようがないほどになっている。

そんな三人に呆れたのか、別の船乗員がマイクで説明し始める。


「皆様、無生の館に到着致しました。足元に十分に注意して、焦らずに一人ずつお降り下さいませ」


その声を聞いて少女は炉唯の手を離し、素早く船を降りていった。



「うわー、あの子逃げましたね、センパイ」


「ああ。自分に火の粉が飛ばないようにな」



二人はしばらくその少女と炉唯達夫婦の後ろ姿を見つめていたが、すぐに船を降りた。

近くにいては全く関係のない自分たちまで巻き込まれる恐れがあったからだろう。そう二人が感じるほど、雪奈はどす黒い怒りのオーラを放っていた。二人の姿が見えなくなってから数分後、悲痛な炉唯の叫び声が響き渡ったのは言うまでもない。



一方、麗華と藍の二人は無生の館内のそれぞれ自分たちの部屋にいた。

藍は、部屋のベッドに仰向けに横になっていた。


 ー どうしてオレは

『なあ、麗華…お前、どうしてそんなオレの子供の事に真剣になれんの?』

なんて簡単な質問ができなかったんだ?


「どうしてー…なんかねえ」


藍はため息をつき、ベッドから降りてドアノブに手をかける。

どうやら、麗華の部屋に行くつもりらしい。

が、藍がドアノブを捻る前に勝手にドアが開いた。


「センパーイ!そっちの部屋はどうですか?何か私の部屋と違うんでしょうか??」


とても楽しそうな麗華の声がして、麗華が部屋に入ってくる。

だが、この部屋の中を見た瞬間に

「あー、全く同じですね」

とため息をつく。

そして、麗華がいきなり入ってきたことに驚いて目をぱちくりさせている藍に笑いかける麗華。


「どうしたんですか、センパイ。そんな顔して」


「んあ!?…なんでもない」


変な奇声を上げて頬を赤く染める藍。



「変なのー」


「つかテメエ、麗華!乙女の部屋にノックなしで入ってくんじゃねーよ」


「男に間違えられて喜んでる人が乙女ー?変ですよー」


「ウルセエ!」



部屋に響く藍の怒鳴り声と麗華の笑い声。

そんなくだらない事が楽しくて、こんな日々が続けばいいのに、と柄にもなく思う藍。

今後、どんな悲劇が待っているとも知らずに…。



続く

次回は、宿泊者全員でお食事です!!!!

乞うご期待(^O^)/

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