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犯罪者  作者: 小野葉
3/7

第三話 麗華と炉唯

大幅に遅れてゴメンナサイ!!!!

「あー!?テメー、何してんだよ!!?」


いきなり後ろから怒鳴り声がして振り向く麗華。

そこに居たのは、1人の背の高い男性。


「アンタ、今煙草、海に投げたろ!?」


どうやら、先ほどの麗華の行為が気に食わなかったようで、環境破壊だなんだかんだ、と騒いでいる。


「すみません」


一応、頭を下げて謝罪する麗華。

まあ実際には反省などこれっぽっちもしていないのだが。



「ごめん、ですめば警察はいらねえよな?アァ?」


男性はケンカ腰に話しかけながら麗華に近づいてくる。

どうやら反省の色が見えない麗華にパンチの一発でもくらわせる気らしい。


 ー ま、別にどうでもいいですが。


内心、男性に舌を出す麗華。

警察というのは、常に危険と隣り合わせ。

そのため、ほぼ全員が武術を極めている。

なのでもちろん、麗華も相当強い。

このくらいの男性ならあっという間にのせてしまえるだろう。

本人もその気のようだ。まあ、護身として使うとしても、警察がそんな事をしていいのか?という疑問は残るが。

男が麗華の目の前に立ち止まる。

そして、麗華を殴ろうと腕を振りかぶる。

麗華がこのまま避けて男の腕をひねり上げようとしたとき、1人の女性が振り上げている男性の腕を背後から掴んだ。


「お兄さん、危ねえよ?そいつ、柔道初段だぜ?かなうわけねえよ。ケガすんぜ」


そう喋る女の姿は、男らしく見えた。

女物のドレスを着ているので、かろうじて女に見えている感じだった。


「なあ、麗華?」


その女性…舞片 藍は麗華に貸し一つ、と声には出さずに口だけを動かして意地悪そうな笑みを浮かべた。


「ウソだろ、こんな女みてーな奴が柔道初段?ありえねーだろ。つか、あんたコイツと知り合いなのか?」

「んー、職場が同じ。オレがセンパイで、コイツがコウハイ」

「へー、何の仕事だよ?煙草をポイ捨てーみたいな常識のねー奴がやってる仕事、ぜひ知りてーな」


「警察…だよ」


男性が藍の言葉に噴き出す。


「こんな常識のねー奴が警察?ありえねーだろ」


いつまでも笑っている男性の前に、藍は上着のポケットから出した、自分の警察手帳を突き出す。


「札幌市警察署、刑事課勤務、舞片 藍。…これで納得したか?」


男性の顔がみるみる青ざめる。

それからしばらくして、男性が再び開き直ったかのように口を開く。


「女装好きの男や常識のねー若いにーちゃん達が警察なんて…世も末だな」


吐き捨てるようにそう言った男性の言葉に、麗華は違う違うと首を横に振り、藍は嬉しそうににやついて首を縦に振った。


「ちょ、センパイ!どうして首を縦に振るんですか!?私は一応常識ありますよ、警察なんですから。それにセンパイは女性でしょ!女装もなにもないでしょ!!」


麗華は思わず声を荒げる。


「常識があるだあ?常識のある人間は煙草のポイ捨てなんかしねーよ!」


その話を聞いた藍は眉をひそめる。

自分の事、大好きな物の事などになると暴走しがちな藍。

しかし、それ以外の事にはさほど興味が湧かないので、とても冷静に物事を解決していく。

それが藍の良いところ(?)だ。


「さっきから煙草のポイ捨て、ポイ捨てってしつけえなあ。つか麗華、てめえ、ンなことしたのかよ?」


藍が麗華をぐっ、と睨みつける。

その鋭い目つきで睨まれるとかなり怖い。

普通の人なら、ヒイイ…!!と叫んだり、あまりの怖さに、していない、と嘘をついたりするだろう。

けれど相手は燐野 麗華。

麗華は普通に、怖がる様子もなく

「はい」

と答える。

そして麗華は、近くの小さいテーブルの上に手を伸ばし、そのテーブルの上に置いておいた、自分の缶コーヒーを手に取る。

そのまま麗華はコーヒーに口をつけ、ゴクゴクと飲み干す。

すると、ブラックコーヒーならではの苦い味が口の中に広がった。

麗華は、飲み終わった缶コーヒーのプルタブを外し、ポケットに入れる。

そして缶の方は、握りつぶしゴミ箱へ。

そんな麗華に藍は

「ストップ!」

と言った。

そして男性に、麗華が握りつぶして小さくした缶コーヒーの缶をゴミ箱から取り出して見せつける。


「見てみろよ、この缶」


そう藍に言われるがままに、藍の手から缶を取って、じっくりと観察し始める男性。

しかし変なところは特にない。

缶は、この船の中にある店で買えるものだ。

一つ上げるとすれば、缶が握りつぶしてある、というところくらいか。

それ以外はどこも変な所は見つからない。


「この缶に何かあるっていうのかよ?変な所なんてないぜ?」

「あるさ」


にっこりと藍が微笑む。


「アンタの言うような非常識な人間が、プルタブまでしっかりと取って、しかも小さくまとめるために缶を潰すなんてめんどくさい事をすんのかよ?」

「なっ!!」


しまった、という表情の男性。


「するわけねえよな?おまけに麗華はそういう事をするタイプの人間じゃあない。この前なんて『うわー、歩き煙草してますねー。最低ですね。歩き煙草って、手を下に下ろすから、そうするとその時の煙草の位置が丁度小さい子供の位置っていうのが多いんですよね。だからイヤですねえ、ああいうの。人間のすることじゃあない』って言うくらい優しい人間が自分からするハズがねえ。なんか事情があったんだよな?」

「いいえ?特に」


あっさりとそう答える麗華。

その顔には反省の色は、爪の先ほども見当たらない。

あくまで平然としているその姿は、まるで他人事だ。


「どうしてだよ!?自分の意思か?答えろよ、麗華」


ざまあみろ、という表情の男性にムカついたのか麗華に食ってかかる藍。

「全てがそういう訳ではありません。ポイ捨ては嫌いです。ですけど、カモフラージュの為…仕事ですから。でも、実行するかしないかはやはり本人が決めること。なので、私の意思でもあります」


キッパリと言い切ってから、それよりそのコーヒーの缶、返してください、と言って男性の手からコーヒーの缶を奪い取り、ゴミ箱へと捨てる麗華。


「誰の命令だ?」

「課長ですよ、藍センパイ。……それとアナタ」


麗華が、この場から立ち去ろうとした男性の肩を掴んで、自分の方を向かせる。

そこで初めて反省の色を見せ、頭を下げる。


「すみませんでした。仕事の為とはいえ…」

「いや、オレも悪かったよ。仕事絡みだとは知らなかったしさ。でも、もう止めてくれよな?」

「はい!!!」


顔を上げて男性と目を合わせ、そして微笑む麗華。


「ところで、アナタのお名前…聞いても良いですからね?」

「オレ、アンタ殴ろうとしたし、やっぱ暴行未遂とかになります?あ、それとも業務執行妨害ってやつですか?」

「あー違いますよ。ここで会ったのも何かの縁ってやつです」


おぉ、それなら、と手を麗華にさしだす男性。


「オレの名前は篠原 炉唯。よろしくな」

「私は燐野 麗華です。こちらこそよろしくお願い致します。…篠原さん」

「おう!!!」


麗華は差し出された男性…炉唯の手をしっかりと握り、2人ともお互いの手を離す。


「で、オレが…」


1人会話に入ってこられなくて寂しかったのか、藍が会話に入ってこようとする。


「炉唯!早くこっちに来てよ。羚がまってるわ」

「ああ」


1人の髪の長い美しい女性が、10歳くらいの子供を連れて炉唯に近寄る。

そして傍に居る麗華と藍に気づき、軽く頭を下げる。


「初めまして。炉唯の妻の篠原 雪奈と言います」


そしてにっこりと笑う雪奈。


「燐野、コイツはオレの妻とオレの子供。雪奈は自分で言ったから分かるよな?子供の方の名前は羚。これで羚っていうんだぜ?カッコいい名前だろ?」


炉唯はポケットに入れてあったペンで、自分の手の甲に“羚”と書く。


「素敵な名前ですね」

「当たり前。オレがつけたんだしな」


麗華の言葉に胸を張る炉唯。

2人が仲良く話しているのを見て、雪奈が炉唯に話しかける。


「ねえ炉唯?私にこの方を紹介してくれないの?」

「あーこいつは、ついさっき友達になった燐野だ。下の名前は…えーっと…何だっけ?」


バコッ

炉唯の頭を雪奈が叩く。


「失礼でしょ!」

「そうだな雪奈。悪い、燐野」


麗華に頭を下げる炉唯。


「気にしてませんよ」

「そうか。良かった」


ハハハ、と笑う2人。


「ねえ、パパ。ボク、向こう行きたい。早く行こうよ。ねえ、パパァ…」


ツンツンという服を引っ張られる感触に炉唯が下を向くと、足元には羚が。

ずっと我慢していたようだが、ついに我慢しきれなくなったようだ。


「そうだな。じゃあな、燐野」


炉唯が羚に引っ張られながらも、後ろ向きに麗華に手を振る。


「さよなら、篠原」


麗華もそう言って手を振る。

そして3人の姿が見えなくなると、先ほどまで黙っていた藍が口を開く。


「かわいかったなー羚君」


ホントにかわいかったよなーと呟く藍の表情はなんだか悲しげだった。

何かを思いだしてでもいるのだろうか?


「実はな、麗華…。オレね?」


藍が海を眺めながら呟くように喋る。

それはまるで独り言か何かのようだった。


「あのね…」


オレ…。と藍が喋る。

麗華、と言いつつもそれはまるで、遠い此処には居ない誰かに語りかけるような感じでセンパイは衝撃の過去を話した。



続く

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