4月2日 沢良宜由実
時刻は、20時。今日は、バイトがなかったということもあり、俺は夜の中静かな部屋に一人で座っていた。昨日会った先生からの電話。まさかの電話だった。彼女は長い黒髪をなびかせながら、凛としていた。電話で向こうの相手が見えなかったが俺はどういう相手かイメージがついた。話その声は優しく、時折笑い声がこぼれる。彼女は、時に喜びに満ち、時に悲しみに暗く染まるような表情のようだ。昨日見た彼女の瞳は、きちんと相手のことを考え、自分の言葉一つ一つに思いを馳せながら話していた。
部屋の中には、俺との会話を聞いている者はおらず、悠々自適に話すことができた。俺は、彼女の話に興味津々で、とても新鮮だ。驚きや共感の声が連続で、とても楽しかった。電話の相手は、沢良宜由実。年齢24歳。俺と同じ大学、つまりここのOBということだろう。彼女は、大学を卒業した後、飲食店で一年アルバイトを行った後、今年からここで事務作業を始めたことを聞いた。俺は、彼女の話を聞くたびに惹きつけられてしまう。まるで、久しぶりに会った友だちを話を聞く様に。しかし、彼女の話はまだまだ続いていく。彼女の話を聞けば聞くほど、彼女の中に包み込まれていくようだった。
そして、話は過去に戻る。彼女が通っていたは、南征学園高等学校。1年生から3年連続2区で区間賞。そして、その沢良宜が通っていた中学校が南征学園祭中等部だった。その時、彼女の目の前に立ちはだかったのが当時1年生だった篠木七海がいたのだ。七海は、初めての全国大会で沢良宜を差し置いて、4区区間者をとったとのこと。1年生だった七海に区間賞を取られたことが相当悔しかったのか、そこからずっと七海を追いかけていたそうだ。高校になったら、また戦えると思っていたがそこで戦えなかったことがずっと気になっていて昨日、初めてわかった様子だった。
長い電話が終わり、俺は一呼吸おいた。俺の心は少し軽くなり、ゆっくりとベットに寝転んだ。こんなんでよかったのだろうか?明後日、一緒にカフェに行くことになったのだ。もう、絶対無理だろ。俺は、深いため息をついた。電話の会話が終わった後も、彼女のことをずっと考えてしまっていた。もしかしたら、俺は、沢良宜になにか魅力を感じてしまっていた。会わない方がいいと思ったけど、もう行くと言ってしまったしな。元に戻れないような気持ちだった俺は、なんとか心を落ち着かせながらスマホを見ていた。




