3月29日 可能性
寒い冬がもうなくなったみたい。午後の陽射しが照りつける中、俺は、陸上競技場に来ていた。来たはいいものの、自分が何をしているのか、それすらわからなかった。陸上競技場は、活気に溢れている様で、俺は、走り幅跳びの練習をする選手たちを見つめていた。昔は、俺もあの一団にいたんだろうか?そんな時があったなんて信じられないでいた。真剣な眼差しで飛躍する姿は、とても眩しく見えた。
旭 「どうよ?」
俺 「どうって言われてもな、、、、。凄いとしか言いようがないな」
旭は、どういう気持ちで俺に話しているのか?
旭 「そんなもんなのか?」
俺 「そりゃあ、そうでしょ」
走り高跳びの選手は、高く跳び上がり、バーを見事にクリアしていた。そう言えば、昔、ああいうのよく見ていたな。自分は、長距離選手だったからしたことがないけど、あの場で走る姿がカッコよく見える。
旭 「別に上手くなくていいからさ、もう一回やれよ」
俺 「何を?」
言われたくない言葉を言われる気がして、俺は身構えた。
旭 「陸上に決まってるだろ?」
俺は、口を開けず、息を呑んリレーの練習をするメンバーを見ていた。リレーのバトンパスは、本当に重要。ただ、渡すだけでは意味がない。手渡す瞬間、二人が一つになるようひ息ぴったりと動いていないとタイムは縮まらない。
旭 「やっぱり嫌か?」
なんとも答えられない。旭の言っていることは理解できるが簡単なことではない。もう2年ほど走ってないのに今さら走ってなんの意味がある?負けるためにやるくらいなら、やらない方がいい。
旭 「うーん」
大きなため息とともに、中にいる選手たちの大きな声が聞こえてきた。
旭 「じゃあ、お願いしようかな」
俺 「何を?」
俺の横に来た旭は、再び口を開けた。
旭 「今度、全国大会優勝のチームと試合することになったんだよ。もし、そこで俺が4得点あげたら、もう一度走ってくれよ」
なんだよ、それ。しかも、ハットトリックじゃねぇのかよ。可能性的には、10%くらいの確率なんだろうな。でも、アイツならやれそうな気がした。中距離走の選手たちは、息苦しそうにしながらも、粘り強く足を動かしていた。おそらく、彼らは日々の練習から、ずっとこうしてやってきているんだろうな。彼らの何かを知っているわけじゃないけど、彼らの表情からそんな気がしたのだった。




