4 高校生の話
二人で天下とるって、言ったじゃんか。そのくせして、俺のことは置いていくのかよ。そう思いながら無愛想に送り出した親友の姿に、俺は今も惨めにしがみついているのだろうか。
高島夏、十六歳、男。部活動に熱中している、ごく普通の高校生である。高島にとって、親友と共に成長していくソフトテニスこそ、彼の青春そのものであった。しかし、それは今年の夏にあっさりと亀裂が入ってしまった。
「俺、本気で美術やりたいんだ」
夏の大会が始まる直前、部活動の休憩時間に高島の方へやってきた飛田裕介は、突然そう言い放った。
「だから、この夏の大会が最後。夏には言っとかないと悪いなって思って」
「……え」
「美大行くためには、やっぱちゃんと専門的なこと勉強しなきゃいけないし。だから、夏の大会が終わったら退部して、塾に通うつもり」
「……やめんの?」
「うん」
高島は嘘であってほしいと思いながら弱々しく尋ねたのだが、飛田の意志は既に固まっているようである。
「部活続けながらじゃ、駄目なの?」
「駄目。俺、二つのこと一緒に進められるほど器用じゃないからさ、中途半端にしたくないんだ」
「あ、そう」
高島はどう反応したらいいのか分からず、言葉にならない声を洩らした。わずかな希望は、こうしてあっけなく崩れ去ったのである。高島が呆然としていると、その絶望したような顔が見ていられなくなったのか、飛田はそそくさと別の部員の方へ小走りで去って行った。
高島と飛田は、高校に入学してからずっと仲が良かった。きっかけが何だったかは、高島はもう覚えていないから、きっとそれくらい些細なことだったのだろう。いつしか親しくなっていた二人は、そのまま一緒にソフトテニス部に入部し、ペアを組んで、レギュラーメンバーとして試合に出ていた。一年生の頃には、奇跡的にと言った方がよいのかもしれないが、強豪校がそろうなかで地区予選を突破し地方大会に出場したこともあった。一緒に天下をとろうと、ちょっと大げさにこれからのことを言い合ったのも、ちょうどその頃のことだった。そういうことが積み重なっていった結果、謎の自信がついていたから、俺たちはずっと二人で上を目指していくのだと、少なくとも高島はそういう気になっていたのであった。
「なぁ、裕介。ほんとにやめんの?」
「うん。……何回も言ってるだろ」
「一緒に勝とうって、約束したじゃんか。来年にもう一回チャンスはあるんだぜ」
「俺、入試の準備しないといけないから」
「来年の夏まで待てないのかよ」
「今から塾に行くのも、本当は遅いんだ。本気で目指してる人たちに追いつくには、どっちか一本に絞らなきゃいけない」
しつこい高島の問いかけに、飛田はふいと目をそらしながら、なるべく落ち着いた口調でそう言った。
そうして険悪ともいえない微妙な関係で挑んだ夏の大会、結果は散々、ではなかったが、地区大会を勝ち抜いた後、二人のペアはあっさりと敗れてしまった。部全体で見れば十分よくやったと顧問には言われたが、高島からすればあまりにあっけなさすぎる終わりだった。だからその帰り道、高島はかつて語りあった夢をまだあきらめきれず、もう一度飛田を説得しようと試みていた。しかし、飛田の方は、前から何度も述べているように、既に心を決めていることが明らかだった。高島も、それはもう十分すぎるほど身に染みて理解していた。だが、このままでは本当に終わってしまう、そんなサイレンばかり頭の中で鳴り響いて、他のことは考えようもなかった。
「俺を、一人にすんのかよ」
一年半一緒にやって来たのに、ソフトテニスはペアでないといけないのに。そう焦った高島が発してしまったのが、その言葉だった。言った直後、高島ははっとして誤魔化すように口元を手で抑えた。これは言ってはいけなかったのではないか、と高島はすぐに後悔したが、もう遅かった。飛田ははっと息をのむと、少し目線を泳がせて、それからうつむき気味で小さく「ごめん」とだけ呟いた。そして、いつしか歩くスピードが不自然に速くなり、飛田はあっという間に先に行ってしまった。高島は、自分は置いて行かれたのだ、こんなの捨てられたも同然じゃないかと、一人立ち尽くすことしかできなかった。
唐突に烏の鳴き声が耳に入って、高島はぼんやりした意識をなんとか覚醒させた。どれくらい突っ立っていたのかはわからなかったが、とにかく今は家に帰って嫌でも明日を迎えなければならないのだろうと、そういう風に思って、高島はとぼとぼと頼りない歩きで帰路を辿った。
「あれ、今日は一人なんだ。……なんか暗いけど、大丈夫?」
帰り道によったコンビニでそう声をかけてきたのは、見覚えのある店員だった。ネームプレートに久遠祈織と書いてあるのが見える。
「あ、いつものお姉さん」
「あら、お世辞が上手ね」
久遠は手を添えてお上品にくすくすと笑う。こういうお嬢様みたいな人と話す機会は少ないから、高島はなんだかちょっとそわそわした。他に客がいないからか、自分があまりにも落ち込んだ様子だったからか、ともかく高島は気分を紛らわせようと、久遠の話にのることにした。
「いつもは二人で来てたよね?」
「ああ、そうっす。今日は、ちょっと」
「何、喧嘩でもしたの?」
「や、喧嘩ってほどじゃないっすけど」
「そっか。ま、なんかあったら相談のるからさ、声かけてね」
「……あざっす」
年下の男の子が困っているのが可愛くて励ましてくれているのだろうな、珍しい人だな、と高島は感じた。それから、久遠のことを思っていたより良い人だ、と認識を改めた。しばらくすると、沈黙による謎の圧迫感と、やさぐれた心に染み入る久遠の優しさとで、高島が口を開いた。
「あの」
「ん?」
「夢を、追いかけて行ったんです。親友が」
「へぇ」
声を上ずらせないように注意しながら高島がそう言うと、久遠は柔軟な雰囲気をまとって寄り添うように頷いた。その瞳は、どこか期待の輝きを秘めているようである。
「それで、俺、置いて行かれたんです」
続けて、高島はまるで認めたくなかったかのように、久遠に苦い声で告げた。それを聞いた久遠は、目の奥に灯りをともしたまま、目を丸くしている。
「夢追いかけるってすごいことじゃない。それに、親友と別の道を歩くっていうんなら、きっととっても勇気がいる決断だったと思うけど……なんで応援してあげないの?」
「俺、ずっと一緒にやっていけると思ってた、から」
言葉にするとつられて涙までこぼれてきそうで、高島はぐっとこらえながら話した。
「まあ、そういうわけにはいかないよねぇ」
久遠は柔らかい口調で続ける。
「親友が夢を追いかけるのは嫌?」
「嫌、じゃ、ないけど」
そう口にしながらも、高島の胸のうちではほの暗い遺憾情がうごめいていた。それを察した久遠は、どうしたものかと少し頭をひねったが、あまり彼らの青春に介入するべきでもないだろうと考え、これ以上深堀するのはやめることにした。
「うーん、私は夢を追いかけてる人を応援したいタイプだから、ちょっと君の力にはなれないかも」
「あ、いえ、すみません。こんなこと話しちゃって」
「いいのいいの。私が誘導したようなものだし」
急にぺこぺこと頭を下げ始めた高島に、久遠は慌てた様子で頭をあげて欲しいと伝える。それから、ふと思い出したように久遠は話した。
「あ、でも喧嘩別れはやめた方がいいからね。一生残るよ」
「……うっす」
久遠から発せられた言葉に、高島は少し返答に詰まった。あれを、自分が駄々をこねただけのようなあの状況を、喧嘩別れと言っていいのかわからなかったのである。
「よし。じゃあ、お姉さんの話を最後まで聞いてくれた良い子の君には、特別にホットスナックぐらいおごってあげましょう」
「え、あ、いや」
突然降ってきた言葉にうろたえたせいで、なんだか変な声を出してしまったことが恥ずかしくて、高島は若干頬を赤らめた。そんな高島の様子をほほえましく思いながら、久遠は少々強引にその手にコロッケを持たせた。
「いいの、気にしないで。ただのおせっかいだから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
こういうのって戻すのも良くないんだろうな、なんて考えながら、高島はそれをおずおずと受け取った。その素直な態度が気に入ったのか、久遠は満足げな表情を浮かべながら、自動ドアにさえぎられるまでずっと、コンビニを去っていく高島の背を見送っていた。
帰りがてら口にしたコロッケは、馴染みのある、コンビニの安い味がした。それだというのに、こんなにもあたたかく胸の内に広がるのはどうしてだろう、と高島は貰い物のそれをゆっくりとかみしめていた。
飛田は、親友だと思っていた。いや、高島は今も親友だと思っている。飛田以上に気が合う人など、そうそう会える気がしない。ただ、だからこそ、唯一無二のその存在が自分の進む道からそれていくことが、とにかくショックだった。ずっと一緒に進んでいけるのが青春だと、勘違いしていたのである。飛田が絵を描くのが好きだということを、高島は知らなかったわけではなかった。しかし、改めてその道を選ぶと告げられた時、高島は飛田のことを認め、ましてやその背中を押してやるなんてことはできなかった。飛田がいなくなって、これから一人で部活を続けていく自信がなかったのである。そういう風に考えて飛田のことを素直に応援してやれない自分が、憎らしくて仕方がなかった。
しばらく経っても、高島の中ではぐるぐると難しい感情が渦巻いていた。しかし、それはある出来事がきっかけとなって、新たな光が差し込まれ、道が開けることとなった。
「俺、今まで誰かと一緒に頑張ったことしかなかったから、急に一人になってびっくりしたのか。そーかそーか」
その人物と話をしたおかげで、高島はようやく自分の気持ちを整理することが出来た。そして、ほんの少しだけ、前に進めるような気がし始めていた。
「てか河川敷に座ってるとか、漫画かよ。何、黄昏てたの?」
「別にいいだろ、行く当てなかったし」
転機となった出来事のことをクラスメイトの邦枝遥歩に話しながら、高島はその日の思いをもう一度整理していた。
「ふーん、シンガーソングライターのお姉さん、ね」
「そう。あ、たしか名前邦枝って言ってたから、お前と同じじゃん」
「あ、やっぱそーなん?」
高島の発言を聞いた邦枝は、いかにも腑に落ちたというような表情でそう言った。高島には邦枝の言う「やっぱ」が理解できず、小さく首を傾げる。
「それ、多分俺の姉ちゃん」
「まじか」
「邦枝凜子でしょ?」
「そう」
「ま、シンガーソングライター目指してるアルバイトの邦枝なんて、そんなに多くないだろ。気づけよ」
「……確かに。なんで気づかなかったんだろ」
「俺がびっくりだよ」
「あ、あんまり顔似てなくない? お姉さん美人じゃん」
「遠回しに俺のこと貶してんの?」
邦枝はそう言うと、高島の頭をわしゃわしゃとかき回した。高島は「やめろって」と声をかけながらも、どこか普通に楽しそうな様子である。教室の隅でどんよりしていた高島のことを陰ながら気にかけていた邦枝は、それを見てひそかに目を細めた。
「それにしても偶然だな」
「ほんとにね」
じゃれ合いを終えてようやく落ち着いた二人は、思わぬつながりの発見に改めて感嘆した。そして、もしかしたら自分は人間関係に非常に恵まれているのかもしれない、と高島は思った。
「で、これからどうすんのさ」
「一人で、頑張ってみようかなって」
「そ。応援してるわ」
そのあっさりとした感じが、以前出会った邦枝の姉とどこか雰囲気が通じていて、やはり二人は姉弟だったんだなと高島は納得した。あまり重くとらえ過ぎずに、さりげなく背中を押してくれた邦枝の態度が、高島にとってはありがたかった。
それから間もなく、幸運なことにそこへ追い風が吹いたことも忘れてはならない。高島が前に進むためのもう一つのきっかけとなったのが、最近人気が上がっている芸能人の姿だった。それはクラシック・アンドロメダという三人組のお笑い芸人で、中でも三好晴彦という人物の言葉をきっかけに、高島は本格的に再始動したのである。
「最近、クラアロは人気急上昇中ですね」
なんとなく見ていた画面の向こうで、お笑い番組の司会役がクラシック・アンドロメダに話題を振る。そこでマイクを向けられたのが、三好だった。
「そうですね、ありがたいことに。周りの人にたくさん励まされながら、頑張ってます」
「そっかぁ。あ、三好くんってちょっと前までネガティブなキャラのイメージが強かったですけど、今はそうでもないですよね。何かあったんですか」
「そうですね、夢を追いかけている友人が頑張っているところ見て、俺も頑張らなきゃな、いや、頑張りたいなって思って」
三好の発言は、言ってしまえば、大したことはなかった。それはまさにありふれた言葉で、誰にでも言える綺麗ごとに違いなかった。ただ、その時テレビの目の前にいた、あと少しで一歩踏み出せるという状態の高島にとっては、最高の追い風となったのだった。
その日、高島は早速飛田にメッセージを送った。前々からやろうと思っていたそれをやることに戸惑いがなかったわけではなかったが、今やらなくてはいつやるんだと、そう奮起してすぐに行動に移した。それは、「頑張れよ」という一言だけだったが、すぐに飛田から同じ文言が返ってきた。それで、高島はようやく踏ん切りがついたのだった。これからは、夢を追いかける飛田とは別の方向に、背中合わせで前に進んでいくのだ。一人で頑張って、歩んでいくのだ。そんな青いにおいが、高島の胸いっぱいに満ち溢れていた。
「高島、お前の新しいペアのことなんだが」
そうして張り切って部活に勤しんでいたとき、きりのよいところで顧問に呼び止められた。高島は急いですっと背筋を正す。飛田が退部した後の高島の力ない様子を心配していた顧問は、高島のそんな態度を見て、どこかほっとした表情を浮かべているようだ。
高校生が参加するソフトテニスの試合は、基本的にダブルスが多い。そのため、飛田が退部したことで高島はしばらくの間ペアがおらず、宙ぶらりんになっていた。顧問としては、それなりに実力のある高島をいつまでも放ったらかしにしておくわけにはいかず、高島が元の調子を取り戻してきたタイミングでようやくその話を持ち込んできたわけである。高島は、待ちかねていた新しい始まりに胸を高鳴らせながら、顧問の次の言葉に備えた。
「あと二週間くらいで試合あるだろ? お前が出たいなら、今からペアを組んで練習を始めるべきだと思うんだが」
「出たいです」
高島は即答した。勿論、その言葉に嘘はない。飛田との青春を終えて、これから次の青春が始まるのだと、その予感に正真正銘わくわくしていたのである。顧問も、高島の瞳の中に希望の光を見いだしたのか、納得したように話を続けた。
「じゃあ、一年の野崎とペアで、とりあえずやってみてくれないか」
「はい」
高島の返事はまっすぐな声だったが、内心は少し動揺していた。なぜなら、指名された野崎達也というのは、部員の合計人数が奇数の一年生の中であまっていた人物なのである。率直に言えば、下手だからペアを組むことが出来ずにいたのである。しかし、高島は技術的な面に関してはさして気にしていなかった。むしろ、ペアでのコミュニケーションの方面で、果たしてうまくやっていけるのだろうかという心配な気持ちが少々あった。だが、高島は頬を叩いてその不安をすぐさま振り払った。できる、できないではなく、高島自身がやると決めたからである。顧問は高島のそんな行動を見やって、随分頼もしくなったなと、ひそかに息をついていた。
その日の部活動が終わると、高島はさっそく野崎に声をかけた。呼ばれたことに気がついた野崎は、人懐こい笑顔を浮かべて駆け足で高島の方へ寄ってきた。高島は、何だかほほえましくて、もうこのときから既にうまくやっていけそうな気がしていた。聞いてみると、野崎の方も時間を作って既に話がつけられていたようである。「今日はひとまず野崎のことを教えてくれ」と高島が提案したことで、二人はいろいろと雑談しながら一緒に帰ることになった。すると、他の部員と別れた頃合いを見計らって、野崎は突然勢いよく頭を下げた。
「これから、よろしくお願いします」
「あ、そんなにかしこまらなくていいから。よろしく」
あまりにも下手に出すぎている野崎の行動に、高島はなるべく柔らかく口調でそう声をかけた。しかし、次の言葉は、高島にとって到底無視することのできないものだった。
「でも、僕下手なんで」
元気のよかった挨拶から一転して、野崎は急に情けない声でそう言った。高島はそれが引っかかって、「下手なら、練習すればいいだろ」と自信なさげな野崎を励ました。しかし、野崎はなよなよした様子のままである。
「飛田先輩のこと、僕、本当に尊敬してたんです。やめてしまうって聞いたときは、すごく驚きました。あんなに強いのにやめちゃうなんてもったいないなぁって。高島先輩と飛田先輩のペアはこの部の中では三年生より強かったですから……。多分、僕じゃ飛田先輩の代わりにはなれません。だから、付き合わせてしまって申し訳ない、です」
野崎は至極申し訳なさそうにそう告白した。それを見た高島は、別に嫌な感じはしなかった。ただ、少し前の自分にもどこか似ている部分があるような気がして、なおさら放っておけないと思わされた。不安なのは何も自分だけじゃない、一人で頑張っていたやつがここにもいたと、むしろその態度に励まされているような気持ちだった。そんなネガティブな思いのあらわれか、あまり目を合わせようとしない野崎に、高島は出来る限り堂々と言い放った。
「俺は、野崎を飛田の代わりにするつもりはないよ。俺と飛田のペアの話はもう終わったんだって、これからは俺と野崎のペアで進んでいくんだって、俺の中で気持ちの切り替えは済んでるから、あんまり気にすんな。ちゃんと二人で、ここから頑張っていこう。練習すれば、下手でも案外どうにかなるもんさ」
高島がにかっと笑顔で言葉をかけると、野崎は先ほどより幾分か柔らかい表情を見せた。そうして、安心したような声でこう話した。
「僕、高島先輩がペアで嬉しいです。最初から下手くそだって、あきらめられることが多かったから」
高島にはそれが、悲しそうで、寂しそうで、それでいてちょっと照れくさそうな声にも聞こえた。すると、ふといたずらを思いついた子どものような調子で、高島は野崎にこう提案をした。
「なあ、そういうやつら、見返してやろうぜ」
「見返す?」
高島の口から飛び出て来た言葉に、ややうろたえた声で野崎は聞き返す。しかし、高島の眼には戸惑いも恐れもないようである。
「そ。俺もさ、裕介が突然やめるって言ってきて、正直すっごい落ち込んだんだよ。でもよくよく考えてみたらさ、俺ばっかりそういう思いすんのなんか悔しいなーって思って。それで、裕介に『あの時部活やめなきゃよかったかも』って後悔させてやりたいって思ってるんだ。だからさ、まずは今度の試合に勝って、一発ぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
「っはい!」
「天下とるぞー!」
「っ、おー!」
「ははっ、お前意外とノリいいじゃん」
「そ、そうですかね?」
「あらためて、これからよろしくな、野崎」
「こちらこそよろしくお願いします、高島先輩!」
秋の風に乗って運ばれてきた高島の新しい青春は、まだ始まったばかりである。