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五話 『転入生』

 そこからは早かった。家に連絡してイブを居候させてもらうように頼むと、すんなりと了承をもらえたのは驚いたよ。トキがなにか手回ししたのかと勘ぐったけど、いつものようにうまくはぐらかされた。もう少し考えてることを教えてくれてもいいのに。


 イブは我が家にはすぐに馴染んだ。お母さんは娘がもう一人できたみたい、なんて喜んでたし、お父さんは仕事柄、異世界について知る必要があるらしく色々とイブから訊いていた。


 イブの部屋について。家には空き部屋があるけど今は物置として使われてるから、そこの整理が終わるまでの間、つまり現在、イブと私は私の部屋を二人で使っている状況。私はイブが可哀想だと主張したけど、他でもないイブが私と同室を希望したので丸く収まったよ。


 そんなこんな、すったもんだの末に迎えた食卓。今はイブが長柄家で暮らすようになって三日目の朝。

 イブは器用なもので、この家に来てから二日で箸の使い方をマスターしてしまった。変な癖がついていてどこか持ち方のおかしい私よりもきれいに扱えてる気がするよ。


 さっそくその箸で以て納豆を混ぜては伸ばして遊んでいる寝ぼけまなこのイブに、声を掛ける。


「あ、そうだイブ。明日から学校だよ」


 今日が夏休み最終日。明日から新学期だ。


「うん、いってらっしゃい、ナギ」


 当然のように他人事だと判断したイブがそう返事するけど、


「違う違う、イブも行くんだよ! 一緒に登校ー」


「……え」


 ――というわけで翌日。未だに半分くらい舟を漕いでいるイブに無理矢理ぶかぶかの制服を着せて、脱力した状態の人間一人――びっくりするほど軽い――を引きずるようにして通学路を進み……

 なんとか教室の自席に着く。肩で息をしながら、机にべたぁー、と頭をのせて、


「疲れた……」


 ワイワイガヤガヤ喧噪の教室から、そんな私を呼びかける声が聞こえて顔をあげる。


「おはよう、ナギ」


 イブではない。……私の前の席に座るその女子生徒は、月見里(やまなし)輝夜(かぐや)。濡れ羽色の長髪に整った顔立ち、正にその名にふさわしい和風美人といった容貌の輝夜は私のクラスメイトの一人で、友達。


「あー、おはよう輝夜。……あれ、あにはからんやー、トキと一緒じゃないなんて」


 そしてこの前、トキの彼女ではないかと私が疑いをかけていたのも、この輝夜。トキの反応から、それは私が穿った目で見てただけだという結論に至ったけど……


「うん、私、最近一人暮らしを始めたのよ。もうトキに頼りっぱなしの生活じゃいけないと思って」


 なんだか決意に満ちた目で、そんなことを言っていた。……因みに、「最近」というのはあろうことかこのかぐや姫、今まではずっとトキと同じ家に住んでいたという。大方今の私とイブのような関係なんだろうと推測はできるけど、私達とは違って異性同士だから分からない。


 あとは詳しくは知らないけど、輝夜も私同様トキに何か大きな恩かなにかがあるらしく。というかトキ、女友達が異常に多いんだよね。ハーレム主人公でも目指してるのかなってぐらい。


 ……なんて、考えても詮無いことを考えているうちに、朝のホームルームが始まった。担任の若い女教師が入って来て、二度ほど手を叩く。


「今日はこのクラスに転入生が来ています」


 お決まりの台詞を吐いて、入室を促す。

 教室に入ってきたのは……まあイブなんだけど。ひざまで伸びたスーパーロングの黒髪に、紅色の瞳。どうみても小学校高学年くらいにしか見えない矮躯に、ぶかぶかの制服姿。「かわいい」「マジで高校生か?」「美少女が増えたぞ!」「ロリじゃねーか」「バッキャロウ! ロリってのは元々ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』に出てくる十五歳の……」「どうせまた中史のハーレムだろ」「いや、今回こそ俺は無関係だって……」……などなど、主に変態紳士の男子陣がざわつく。女子も普通にかわいい子が転入してきたということで喜んでいる様子だし、この分だとクラスに馴染めないなんていう心配はなさそう。


 ……自己紹介を促されたイブが、チョークを手渡されるが……そもそもこの世界の字が書けないので、白のチョークを不思議そうに眺めた後、結局口頭で告げることになる。


「――長柄真宵(まよい)


  トキを除いたクラスメイト全員の視線が、一瞬で私の方へと集まる。なかなかに怖いね、これ。

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