公爵令嬢は王太子には甘えない
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他の連載小説も書いては消し、してるのでちまちま更新していきます。
「あの野郎っ!!勝手に私のファーストキスを奪うなんて~!」
屋敷に帰り着いたアルテアはベッドの上に枕を叩きつける。王妃教育まで終了したご令嬢とは思えない口調と行動だ。
アルテアはぼすぼす枕に拳を沈めていたが、すぐにはっと何かに気付いたようだ。
「しまった……この枕の値段は!」
慌てて枕をごめんねと抱きしめると、元の形に慌てて戻す。
悲しいかな、物の値段を勉強してしまった彼女はその枕の値段が瞬時に平民の給料のどのくらいにあたるかを計算したようだ。
「こんなことで無駄遣いはできないわ」
「お嬢様、おいたわしい……。しかし、大丈夫ですよ、お金は回さなければいけませんから。散財ほどでなければ公爵家も経済のために使いませんと」
淑女らしくないアルテアの行動に眉をひそめることもなく、静かに声をかけるのは乳母であり侍女のノンナだ。アルテアがこの世に生まれた瞬間から、ノンナはアルテアの側にいる。
「うぅ……ノンナ」
目にちょっと涙をためているアルテアの頭を、ノンナはまるで幼子にするように優しく撫でる。
「ジュスト様が前の王子よりマシとはいえ、お嬢様を泣かせるなんて。兄弟そろってカスですわ。いえ手を出さなかった分、前の王子の方がマシかもしれません。お嬢様に意識されたいからと強引な手を使うなんて男の風上にもおけません」
「うぅ……ファーストキスだったのに……まぁビンタはかましたけど……」
「ビンタでは手ぬるいです。王太子殿下も無駄にお綺麗な顔をされていますから、少しくらい傷がついてもいいでしょう」
アルテアはぎゅっとノンナに抱き着き、ぐずぐずと泣き出した。
普段のアルテアからは想像もつかない弱りっぷりだが、アルテアはノンナの前ではこんな感じでいつも甘えている。王妃教育が辛い時、テストで満点を取れなかった時、次期王妃として命を狙われかけた時、そしてジルヴェルトにないがしろにされたのはどうでもよかったが、マリアが増長して周囲に要らぬ同情をされた時。そして今。
普段は完璧な公爵令嬢で次期王妃のアルテアはノンナに甘えることでバランスを取っていた。
「お嬢様、なんとおいたわしい」
ノンナはゆっくりとアルテアの背中を撫でる。
しばらくそうしているとアルテアは眠ってしまった。ノンナはそんな彼女をベッドに横たえる。
アルテアもまだ15歳の成人前の少女だ。
小さい頃から王妃教育で勉強ばかりで、友人・異性も制限がかけられていた。
しかも前の婚約者のアレ(ジルヴェルト)はアルテアを尊重するわけではなく、学園に入る前から見た目だけは可愛い令嬢達に現を抜かして、軽々しくプロポーズする始末だ。そのたびに王妃様の協力の元、その令嬢達との真実の愛とやらはへし折られた。
どこの国でもそうだが、王妃教育を舐めてもらったら困る。
そんなこんなで歩み寄ろうと努力していたアルテアは早々に愛だの恋だのに見切りをつけ、この国の政治を操るということに目的を見出したのだったが、さすがにファーストキスが無理矢理だったのは我慢ならなかったようだ。
「そういえばお嬢様。小さい頃は絵本の中の、庭園の月明かりの下で王子様とお姫様がキスするシーンがお好きでしたね」
ノンナは寝てしまったアルテアの涙の跡をそっと拭く。
「王太子殿下に下剤でも盛りましょうかねぇ」
ノンナは非常に物騒なことを言いながらも、目には優しさを讃えてアルテアの髪をそっと梳く。
この後、ジュストが毎日アルテアに謝りに屋敷を訪れたり、ノンナが本当に下剤を盛ろうと画策したり、王妃様がジュストにロマンチックとは何かを教授したりしたとか、しないとか。
ジュストは果たしてアルテアに甘えてもらえるほど好きになってもらえるのか。
「王妃様の面談」「真実の愛だの恋だのは信じない」に沢山のブックマーク・評価をありがとうございます。
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