愛に溢れる解決法?
「愛に溢れる解決法?」
「そう。人は手に武器を持って争う以外にも、愛という概念を持ってるからこその高次生命体なんだよ」
お昼休みのお弁当タイム、またしても友人が壊れた事を言い出した。
「愛云々は別にいいけど、何に対して愛で解決しようっていうの?」
「ずばり言おう。鬼だ」
「は?」
「2月の同月にある節分とバレンタインデー。片や“鬼”という概念を言った大豆をぶつけて祓う事で無病息災を祈り、片や聖バレンチヌスの記念日に託けた製菓業界の陰謀により意中の相手にチョコレートなぞを送る出費のかさむだけの非リアの忌み日。この二つを効率的に消化して昇華する為だよ」
「バレンタインに何か嫌な思い出でもあるの?」
「中学の頃の話なんだけど、なーんかやたらと自信家な男子がチョコを受け取ろうとしに来るんだよねぇ。サッカー部のエースだとか生徒会役員だとかは知らないけど、校内っていう狭いコミュニティでの肩書やイケメン具合程度でちょっと交流があるからと、ああも自信満々でこれる心臓は凄いけど、それで他の女子達からチクチク言われたり何か嫌がらせされたりする損ばっかな日なんだよ。だから高校になってからは進んで何かして交流を広げようとは思わなくなったんだよね」
「刺されたらいいのに」
「なんで!?」
すっごい勝ち組発言された。
くそ、このファッションボッチが。
「で、節分とバレンタインをどうするの?」
「そうだね。このご時世、ただ鬼を災厄として迫害するのは時代遅れだと思う。彼らと共存して清濁併せ呑む事が人間を更なるステージへと押し上げる事ができるんだ」
「へぇ」
概念的な存在とどう共存するのか気になるけど、その説明だけで昼休みが終わりそうだから突かないでおこう。
「じゃあ豆まきをしないって事?」
「いやいや、伝統文化は大事だよ。だから伝統文化を守りつつ鬼への愛を示す方法、それがコレだ!!」
そう言って友人がドドンッ!!と効果音でも付きそうな勢いで取り出したのが、お酒のおつまみコーナーとかで時たま見かける、ピーナッツをチョコでコーティングしたチョコボ○ルのピーナッツみたいなの。
「これが伝統と愛、両方を兼ね備える答えだよ」
「…………正気?」
「正気も正気。炒った大豆に糖衣代わりのチョコをコーティングして投げる渡す事で鬼と和解する。パーフェクト!!」
「…………」
手遅れか。
医学はその時々の最善を尽くす事は出来ても、全てを救う事は出来ない。
人は、無力だ……
「行事的には節分の時に意中の相手にチョコ豆をぶつけて愛を示しつつ相手の無病息災を祈る。バレンタインデーは本来の親しい人に華を送るイベントに原点回帰すれば問題無いし、製菓業界も花屋業界も皆ハッピーになれるイベントになるよ」
「……クランチチョコでいいじゃん」
「節分的に炒った豆は絶対だよ」
「いや、大豆だとチョコ豆貰った鬼が食べたら直接炒った大豆を食べる事になるし、投げつけられるよりも酷い事になるでしょ」
「悲しい犠牲だね」
「おい」
悲しげに顔をふせるけど、やろうと言ってる事はアレルギー源が入った物を食べさせようとしてる頭がヤベェ奴だ。
鬼と和解するどころか、和平調停に毒物を撒くようなテロ行為で全面戦争待った無しだ。
「身体にヤバイもの程に旨いものだよ。河豚しかり水銀入りワインしかり。それに重要なのは気持ちだしね」
「死んだら元も子もないでしょうが」
「いや、大概の書物でも炒った豆が当たっても痛がるだけだったし、致命傷を与えはしないんだよ。だから食べてもそこまでのダメージにはならないはずだよ。多分、激辛系を食べた感じじゃないかなぁ?」
「最悪じゃない」
甘いものだと思ったら、その下から激辛が顔を出すとか何のドッキリか。
「糖衣で包んだ薬みたく、食べれはすると思うけど」
「はぁ。じゃあ試して見る?」
「ん?」
「明日、似た様なチョコを作ってきてあげるからそれを食べて大丈夫なら鬼も平気って事にしてあげる。愛で争い(劇物)を制する事ができるか自分で試してみなさい」
「面白いね。いいよ、その勝負、乗った」
「そう。なら明日楽しみにね」
キーンコーンカーンコーン……
丁度きり良くお昼時間終了5分前の鐘がなって、友人も次の準備の為にお弁当を片付け始める。
さて、父さんがネタで買ってきたサドンデスがあったし、ゼリー状にでもしてチョコを掛けて固めるのが良いかな。
後で激辛ゼリーの作り方とかソースを濃縮する方法とかあるか調べとこう。