私に見える現在でも生きている「もののけ」の話
ようこそいらっしゃいました。名刺いただきます。ヤナギダさんは「梁北」さんなんですね。お電話で大学の先生で、妖怪やもののけについて研究していらっしゃると仰っていらしたので、てっきり「柳田」さんだとばかり思いこんでいました。私の話が先生の研究に役立つかどうか分かりませんが、どうぞお上がり下さい。
そうです、今はトタンですが以前は茅葺の屋根でした。東日本大震災の時はこの辺りでも震度5ぐらいになりました、古いだけにこの家ももうダメかと思いましたが良く持ちこたえてくれました。
そうですか、震災の時の「変なものが写ってる映像」見ましたか、私もインターネットで見ました。あれはガス吹き出しなんかじゃありません、ヤツも本当に驚いたんでしょう、気配を消し忘れて逃げているんです。私はあれは「ツチモリ」じゃないかと思っています。
「ツチモリ」
古いお寺の境内の隅の所や、森の中の苔むした様な所で何となく土が盛り上がっている所を見たことはありませんか。盛り上がっている場所全てにいるわけではありませんが、その盛り上がった土の中に気配を消した「ツチモリ」がいます。大きさは色々とありますから成長していくのだと思います。普通の人には土の盛り上がりにしか見えないと思いますが、私には分かります。
形は全体的には平面なカエルのようで、顔はジンベイザメを正面から見てその上に目玉を付けたような顔です。土の中にうずくまるようにしています。たまに口を大きく開けて周りの空気を吸い込んでいます。昔、仙人は「カスミ」を食べていたそうですから、ヤツらは「気」でも食べて成長しているんじゃないかと思います。その場所を動きませんから震災のヤツは相当驚いて慌てていたんだと思います。
絵には描けません、残念ですが私には絵心がないので、私に見えたものをイメージとして話しているだけです。私の説明だけで絵にしてくれる人がいると良いのですが、内容が内容なので難しい気がします。最近は「ツチモリ」がいるような場所が少なくなりましたが、過疎で管理する人がいなくなった古い寺などにいることがあります。注意して見て下さい、会えるかもしれません。
どうぞ、お茶お上がり下さい。今のは孫娘で小さい頃は私の話を喜んで聞いてくれて『私も見える』などと言っていましたが、近ごろはこのような話をしても相手もしてくれません。
「オトスイ」
他にはそうですね。森や川べりなどには「オトスイ」がいます。そのような場所で一人きりになったとき、急に「シーン」と周りの音が何も聞こえなくなった経験ありませんか。その時近くに「オトスイ」がいます。何かそこだけ空気の密度が違うような、霞がかかったような場所があります。そこにいるようです、ハッキリ見えたことはありません。まさしく音が吸い込まれ凝縮していく感じの所があります、ブラックホールってあんな感じかななどと思っています。それが木の枝の上や近くの岩の上にあります。そして、その部分が渦を巻くように見え始めると周りの音が吸い込まれていくのか音が聞こえなくなります。森の中などは草木の葉擦れの音や鳥のさえずりなど色々な音が聞こえていますが、一瞬で聞こえなくなります。
私は川の近くで会ったことはありませんが、日本各地に「音無し川」や「音無しの滝」などと言われている場所がありますが、昔はそこに「オトスイ」がいたんじゃないかと思います。そこで水の流れる音や滝の音が聞こえなくなる経験をした人が多くいてそのような名前が付いたんじゃないかと思います。
ハイ、時間にしたら数秒じゃないかと思います。急に周りの音が元に戻り「オトスイ」も消えています。何のために音を吸っているのかは私には分かりません。
「エダユラシ」
森や林など木のある所には今でも「エダユラシ」はよく見かけます。木々の葉が折り重なるように茂っている所で、比較的高い木の上の方で枝がユラユラ揺れているのを見たことはありませんか。森の木全体じゃなくある木の上の方の枝が1本だけ揺れています。風で揺れているのではありません、風でした木全体の枝が揺れているはずですし、風で揺れているのとは違った動きです。そのような時よく見るとそこに「エダユラシ」いて枝を揺らしています。1匹の時もあれば数匹の時もあります。大人なの握りこぶし程度の大きさで毛の塊に細い手足が付いているような形で、全体が顔のような感じに見えます。大きな目と小さな口らしきものが付いていて、細い手で枝にぶら下がりながら枝を揺らしています。何故だか分かりませんが笑っているように見え、楽しそう枝を揺らしているんです。
ハイ、どこの木にもいるようです。比較的小さな森でも、公園のような場所に植えられた木でも見たことがあります。帰りがけに途中にある林の上の方を見てください、1本だけ枝が揺れているかもしれませんよ、私は今でもよく見かけます。そうです、風のない時がいいですね、1本の枝だけユラユラ揺れていたら「エダユラシ」探してみてください。
「ミズワ」
また、森と田んぼの境などにある小さな池や、田んぼの中にある祠が祀られてあるような小さな林の中などにある小さな池に「ミズワ」がいます。そのような池で何か落ちたとか、虫が飛び込んだりしたわけでもないのに水面に水の輪ができるの見たことありませんか。そのような時水の中を良く見ると「ミズワ」がいます。上を向きながら口をゆっくり開けたり閉じたりしています。その時に水面が穏やかに盛り上がり、それが崩れて輪となり広がって行きます。
ハイ、水の中なので良くは見えませんが、かなり大きな丸いカエルような、そんな形のものがいるように見えます。なんとなく「ツチモリ」に似た感じもします。「ツチモリ」の水棲系かも知れません。非常にゆっくり呼吸でもするように口を開け閉めして水の輪を作っています。
名前の付け方は私にも良くわかりません、彼らを見たときに何となくイメージとして頭の中に名前が湧いてきます。イメージなので漢字になりません、それで文書にするときはカタカナで表しています。見えるようになってくると、今まで不思議だった現象が彼らの起こしていたものだと分かるようになりました。
「アシツカミ」
他には、山道や草原など何でもないような場所で躓くように転んだことありませんか。実際に木の根っこや石に躓いたりして転ぶことはありますが、足首を後ろからつかまれたような感じで転んだとしたら「アシツカミ」の仕業かもしれません。地面の中から手のようなものが不意に出てきて足首をつかみます。転んで足首を見たときは手はもう消えています。私も本体は見たことはありませんが子どものころに友達と遊んでいて、その友達が転んだ時に手のようなものが足首をつかんだの見たことがあります。その友達も誰かに足首をつかまれた言っていましたが、私と友人だけで他に誰もいませんでした。私は少し離れた所からその友達が走るの見て言いました。私がつかめるはずがないのでその友達は不思議がっていました。
ハイ、私も子供のころにつかまれたことがあります。私の場合は田んぼの畦道でした。躓くようなものは何もありませんでしたがただ歩いていて転びました。手は見えませんでしたがあれは「アシツカミ」だと思います。つかまれると言うよりは足が抜けない感じで転びました。田んぼに裸足で入ったことありますか、ありませんか。私は田んぼのヌルットして何となく気持ちの良い感触が好きで子どものころ良く入っていました、その時の泥に足をとられる感じが一番似ているように思います。触られているよう感じがしないのに足が抜けない感じ、説明しても分かりませんよね一度体験してみてください。「アシツカミ」についてはここ数年見たことはありませんが、原っぱなどで子供たちが走り回る様な所には必ずいると思います。
「フチナメ」
そうですね、屋内のものですと、普段でも良くいるのは「フチナメ」ですね。今日はいませんが、畳の縁の所にいる親指ぐらいの芋虫のような形の「もののけ」です。芋虫よりは平べったい感じで畳の縁の所を舐めながらモゾモゾ移動しています。昔から「畳の縁は踏んではいけない」と言われていました。「傷みやすいところだから」とか「結界」だからなどと言われてきましたが、昔の人は「フチナメ」がいたことを分かっていただからつぶさないように、「畳の縁は踏んではいけない」と言っていたんじゃないかと思います。昔の人には普通に見えていたのかもしれません、さっきの孫も娘も小さい頃は見えると言っていました。
踏んだらどうなるかは私にも分かりません。私は見えるから踏みませんが、中には踏まれるヤツもいると思います、我が家ではつぶされた後を見たことはありません。
芋虫の見間違いじゃありません。縁を移動して縁の最後まで来ると「スーット」縁の境目に消えていきます。そしてまた別の縁のはずれに表れてきます。そうです、移動するのは畳の縁の上だけで他の所には現れません。外見だけ見ているとただの芋虫のようにも見えますが、この出方や消え方を見れば異界のもとしか思えません。何か悪さをするわけでもありませんし、役だっているとも思いません。何のためにいるかは私には分かりません。先生にも見えると良いのですが今日に限って出てきません残念です。
「ダンハズシ」
他には、古刹や古い建物で階段を下りているとき、最後の一段を踏み外しそうになったことはありませんか、最後の一段があると思って下りようとしたときその段が急になくなり倒れそうななった経験ありませんか。その最後の一段が「ダンハズシ」が化けたものです。人が階段を下りるのを見つけると階段の最後に回り込み階段に化けます。そして踏まれそうなった時サット逃げて消えてしまいます。少し薄暗いところで人が一人だけの時現れます。階段に見えていますが本物の階段か「ダンハズシ」かは分かります。よく見ると小さな目のようなものが付いています。その目のようなものでジーット下りてくるの見ていて最後踏み出そうとすると消えてしまいます。
タヌキかキツネのようなものが化けているのかも知れませんが、それは私にも分かりません。箱階段の時は箱階段そのものですし、普通の板の階段の時はいたそのものに見えます。そうですね目だけです。足やシッポのようなものは見たことがありません。化けやすいのでしょうか箱階段で良く見ます。そうですね、古い昔からの建物は箱階段が多いですね。今度そのような場所に行ったときは注意してみて下さい。目が付いている階段があるかも知れませんよ。
「オトマネ」
「オトマネ」は何処にでもいるヤツです。姿を見たことはありませんが居ることは感じます。色々な音を出しているだけです。たまにありませんか、一人で家の二階の部屋にいるとき誰かが階段を上がってくるような軋み音、そしてそれが部屋の前で止まる。入ってくる様子がないので扉を開けると誰もいない。そんな時はたいてい「オトマネ」の仕業です。ラップ音や鳥のカケスなどの音まねとも違います。確かに音として聞こえるのですが、録音などしても音は入っていません。空気振動のような物理的な振動による音でないのかも知れません。水洗トイレの水を流す音、インターホンの呼び出し音など良くまねしています。トイレ確認しても水は流れてないし、インターホンの呼び出し履歴を見てもなにもありません。人を驚かせて遊んでおるようです。インターホンなどは私たちが子供のころやった呼び鈴押しのピンポンダッシュのような感覚で遊んでいるんですかね。
イエイエ、違うと思います。何かの偶然が重なってできた音ではありません。試しにこちらから何か音を出してやるとすぐにまねして返してきます。以前たまたま近くにギターがあったのでドレミと弾いてみたらそのまま返してきたので、続けてドシラと弾いたらそれもまねしてきました。うちにはギターは一台だけしかありません。見たことはありませんが、確かに「オトマネ」はいます。
「ミツメ」
これも良く出てきます。先生も一人だけで部屋にいるとき、誰かに見られているような感じがすることありませんか。周りを見ても誰もいないのに見つめられている感じがする。そんな時「ミツメ」がいることがあります。見つめられていると感じる方を良く見ると黒っぽいガラス玉のような物が空中に浮いています。何となくその周りに何かあるように見えるのですが霞がかかっているようにしか見えません。白目があるとか瞳があると言うわけではありませんが瞼のようなものがあり、目を閉じるようにそれが下がってきて目玉が見えなくなると同時に霞のようなものも消え、見つめられている感じもなくなります。あれは確かに目だと思いますが、何となく生き物の目と言うよりは機械的なレンズのような感じがします。昔は気配を感じることがあっても見えたことはありませんでしたが、色々なものが見えるようになった頃から気配を感じてその方を見ると目玉が見えるようになりました。
ハイ、今はいませんし私には感じもありません。先生は誰かに見つめられているような気がするのですか。そうですか、たぶん梁のあたりにいるネズミか何かが先生を見つめているんじゃないかと思いますよ。
「ネツヌスミ」
次に良く出てくるのが「ネツヌスミ」です。急にゾクゾクと寒気を感じたときコイツがいるときがあります。これも「ミツメ」と同じような霞のかかったような空気の塊で形も決まっていないようです。別の言い方をすれば、そこに別の空間がある感じです。コイツが移動してきて包み込まれるとゾクゾクしてきます。コイツは漂っているだけのようです。
風が吹いたとか何か別の理由で部屋の温度が下がったのではありません。以前、まとわりつかれたとき温度計が近くにあったので見ていたのですが、私は相当寒気を感じ温度が下がった感じを受けましたが、温度計の温度は下がりませんでした。人間にだけ作用するようです。これは見えなくてもまとわり付かれれば先生でも寒気を感じると思います。
ハイ、今までの「もののけ」達は見えたり存在を感じたりはしていますが、コミュニケーションと言うか意思の疎通のようなものは出来ていません。何故そこにいて何でそんなことをしているのかは私には分かりません、先生の研究にお任せします。機会があれば御一緒して私が「もののけ」達を見えるときに、先生にもリアルタイムでこれらの現象を体験してもらえれば良いのですが、今日は何も出てこずお話しだけになってしまい申し訳ありません。今回はここらあたりで終わりにしたいと思います。
ハイ、また何か別のものが出てきたらお話しできると思います。その時またご連絡します。
終わり