6 赤ずきんの森
6 赤ずきんの森
矮人たちは荒野を東に進んでいた。その先には不帰の森と荒野とを分ける山脈が連なっているが、その手前に不帰の森と同じくらい深い樹海が広がっていた。
「樹海の先に山脈を貫く鉱山跡がある。そこから不帰の森に辿り着けるだろう」
「その手前に小さな国があるドリル」
「そうやね……」
ぷふふ、とラシアは笑いだす。
「何を笑っているドリル?」
「いや、語尾をあらゆる妖精にとられてしもうたからって、挙句にドリルとは……ぷふふふふ」
「俺だって、こんなの嫌ドリル。でも、これしか俺には残されていないドリル」
夜の内に歩き回り、やっとのことで森の近くまで辿り着いていた。矮人はラテが一晩樹海の影の中で過ごすのかと思っていたが、
「まずは国へと赴こう」
そう言うので、矮人はラテに従い森の中に埋没するように佇む城門へとたどり着く。
そこはまるでその場所だけが取り残されたように、草木に侵食され、時を止めていた。人の気配はないが、城壁近くの土を見る限り、馬車の通りがあり、人々が暮らしているようだった。
ラテはどこからか入り込めないかと探りを入れたが、城門は硬く締まり、門を開ける守衛の姿もない。
「仕方がないか」
矮人たちは樹海で昼を過ごすことにした。
「この国にはワイトはいるドリル?」
「分からん。だが、可能性は低いかもしれん」
矮人たちは遠くから国を見つめていた。小さな国で、村といってもいいほどの規模である。
「一応王様がおるみたいやから、国ではあるみたいやね。でも、結構古そうな国やなあ」
「だが、聖圏側の建物だ」
「そう言えば、もともとこの大陸は全部神圏やったんやろ?いつから聖圏が入りだしたん?」
「さあ、な。千年以上前じゃないか?」
「結構適当に答えたなあ」
「だが、我々が思っているよりも長く、この大陸は膠着状態のようだ」
「空白地帯のせいドリル?」
「そうだな」
先日まで矮人たちが進んでいた荒野は空白地帯と呼ばれていた。神圏と聖圏の勢力の境目であるというのに、荒野の環境の悪さから、進行が進まないままであった。
「西から訪れた聖圏の人間がこの大陸の原住民を北に追いやった。それが今日の神圏だ」
「詳しいドリルね。もしかして、北の方にいたドリル?」
「……」
ラテは矮人の言葉に答えなかった。
ぎりぎりと音を立てて、国の城門が開いていった。城門から馬車が出てくる。まだ陽が上ったばかりである。
「この辺りは、何を貿易してるん?」
「さあ、な」
矮人はぼんやりと目で馬車を追っていた。その時である。
「ボケっとするな!」
ラテは矮人の服を引っ張り、大きな木の根っこのむき出しになった空間に突き飛ばす。その上から、ラテは矮人に覆いかぶさる。
「ラテ。何をするドリル?」
「静かにしろ」
瞬間、鋭い音ともに、先ほどまで矮人のいた木に穴が空く。だが、矮人は己の面前に迫った、ラテの慎ましやかな胸が気になって仕方がない。
「誤魔化せた、か」
そう言ってラテは矮人から体を離す。
「ラブコメの波動を感じる」
「一体なにがあったドリル?」
矮人は恐る恐る辺りを見渡す。だが、攻撃を仕掛けてくるような人影はない。馬車は大分遠くに見えているが、そこから矮人のいる辺りまで攻撃を仕掛けられるとは――
「くそ!奥に!」
ラテは矮人の襟首をつかんで、更なる樹海の奥に進んでいく。ラシアは何も言わずラテについていく。
「一体、なにが――」
矮人たちがいた後ろの木に風穴があく。
「もしかして、これは――」
矮人には思い当たる節があった。似たような攻撃を仕掛けるものがいるのだ。
「狙撃、だな」
ならば、相手はゾンビであるとしか考えられない。特殊な能力でラテは超遠距離狙撃を可能にしているのだから。
「どこから攻撃をしてきているのか判別できない!」
狙撃というのは基本的に一か所で行うものである。だから、銃弾がどの方向から飛んで来たか、弾の速さはどのくらいか、で相手の居場所を把握できる。だが、ラテの鷹の目をもってしても、相手の居場所が分からないのであった。まるで森そのものから攻撃されているとさえ感じる。
「まるで師匠と戦っているようだ」
しばらく奥へと入って行くと、攻撃は終わった。
「昼間っから襲われるなんてどういうこと?」
ラシアはラテを狙うゾンビの仕業だと思っているらしい。
「さあ、な」
自分が疑われていることに苛立ちを覚えながらも、ラテは相手について何も分からない状況に頭を悩ませていた。
「敵は銃を使う。消音機でも使っているのだろう。だが、どうして追ってこない。巻いたわけではないだろう」
独り言を言っているラテを矮人は心配に思った。
「とりあえず、夜まで身を隠すドリル」
「ほんま、樹海が暗うてよかったわ。陽が当っとったら、危ないところやで」
「とにかく、私たちの目的は敵を倒すことではなく、ワイトを倒すことだ。何者かは分からんが、向こうも日中は動けまい」
矮人たちは辺りに注意しつつ、夜まで待つことにした。
「で、や。城門の前まで来たけど、どうするんや?」
ラテはラシアの言葉を心半ばに聞いていた。今はラシアの言葉よりも周囲の気配を探る方が重要であった。
「気配はないドリル?」
「ああ……ありはしないな」
ラテは浮かない顔で銃撃のあったであろう方向を凝視していた。
「こんなところおってもしゃーないで。どうするんや?」
「そうだな。進むほかにはない」
そうして矮人たちは馬車で踏み固められた道を歩き出した。
「で?不帰の森とやらに行くためには山ん中の洞窟にいかんとあかんのやな?」
「そう聞いている」
ラテは落胆したような声で答えた。
「なんでまよっとんねな」
「これはきっと不帰の森の不思議な力が……」
ラテの言葉は説得力がなかった。
「つまりは方向音痴パニ」
「普段はそういうことはないはずだが」
「あれやな。最速語尾チェンジやな」
「くそっ!妖精ごときにどんどんと語尾を!」
「忘れとんで」
「語尾を取られまくりで悲しいパニ!」
「呑気なものだ」
月や木の傾きから、方向は間違っていないはずだった。だが、自然と南の方へと引き寄せられている。そこに超常の力が働いていると考えないわけにはラテにはいかなかった。
森の中を手足のように操る一族に技術を習ったラテが惑わされるということは相当な出来事である。
「!?」
矮人は道端に落ちているものを見つけて絶句する。それは男の死体だった。ラテは男の死体が落ちていることを事前に知っていたので驚きはしない。
「なんでこんなことに――」
「こいつは今朝の馬車を操っていた商人だな」
男の首は鋭いもので抉られていた。それが致命傷となったのだろう。
「誰かに殺されたんか?」
「いいや。何か、に殺されたのだろう」
その時、がさごそ、と草木が揺れる。
ラテは驚愕した。先ほどまで気配などなかった。
草木の間から現れたのは、赤いずきんを被った少女だった。矮人たちよりもはるかに幼い。まだ年齢は10にも届いていないだろう。
だが、その少女にはおかしな点があった。子どもには似つかわしくないものが握られている。
「ラテの娘さんかえ?」
「私はそんな歳ではない!」
少女の手にはラテとそっくりな長銃が握られていた。それを矮人たちに向けている。
「もしかして、君が彼を殺したパニ?」
少女は首を横に振る。
「君は一体何者パニ?」
そんな折、またも奥から何者かが訪れる。
「おやぁ。こんなに珍しいものを久々に見たね。ゾンビなんて」
現れた人物もまた、赤いずきんを被っていた。だが、姿は老女で、しかし、老女のくせに足腰はしっかりとしている。そして呑気に煙草をふかしていた。
「あなた方は一体――」
「赤いずきん……もしや――」
「うん?私らのことを知ってるのかい?いや、知ってたらもっと驚くはずなんだが」
老人は矮人たちがゾンビであることを知り、それを恐れない。そのことが矮人には不思議だった。
「赤ずきん。互いに疑問が飛び交っている」
「まあ、そうだね。赤ずきん。おい、お前さんたち。どうだ?ゆっくりと話でもしようじゃないか。夜明けまではまだあるだろうし、こんな場所に大人数でいちゃあ、まずいことこの上ない」
「話を聞こうではないか」
ラテはみなにそう提案する。
「大丈夫か?どうも見た感じやとゾンビではなさそうやけど、危ないんとちゃう?」
「私の予想が正しければ危ない人たちではないだろう」
ラテ自身も信用すべきかどうか迷っていたが、矮人たちは老人について行くことにした。
老人たちは道の外れの森の奥にある家に入って行く。木造の家屋で、シンプルな造りであるが、神圏側の造りをしていた。
矮人たちも家の中に足を踏み入れる。
「まあ、お座り。あんたらは何も食べないね?」
「はい」
ゾンビのことをよく知っているので矮人はますます疑問に思う。
一同が席についたところで、老婆が話し出した。
「ことに、今朝、国の周りにいたのはあんたたちだね」
矮人は目を見開く。
「どうしてそれを――」
「あんたらを撃っちまったのはこの子だからさ」
老婆は雑に幼子のずきんに手を置いた。
「まさか、この子どもが――」
だが、その答えにラテは納得する。体が小さい故に鷹の目で捉えることができなかったのだ。鷹の目は遠くが見えるようになる反面、見える範囲が小さくなる。故に、少し下の方にあるべき子どもの姿が見えなかったのだ。そして、体が小さい故にフットワークも軽い。
「こいつも狩りを初めてまだ日が浅いからね。あんたたちを人狼と間違えたのさ」
「すいません。詳しく話していただけますパニ?」
矮人には今一つかめない話の内容だった。
「そうだね。じゃあ、この辺りに伝わる昔話を披露しようか」
女の子が夜に一人で留守番していると、扉の向こうから声がした。
「おうい、開けてくれ」
だが、その声は地獄の底から響くような声。女の子は人のものだと思えず、縮こまりながら夜を明かした。帰ってきた母親にそのことを話すと
「決して開けてはいけないよ。狼がお前をさらいにきたのだ。狼はわたしたちのまねをしてお前を食べてしまうだろう。狼を決して招いてはいけない」
次の日の夜、またも扉をたたく音。そして、今度は母親の声。
「おうい、開けておくれ」
だが、女の子は母親の言いつけを守り、扉を開けはしなかった。
朝、そのことを父親に話した。
「決して開けてはいけないよ。またも狼がお前をさらいに来たのだ。悪魔は次は傷付いたわたしたちの真似をしてお前を食べてしまうだろう。狼を決して招いてはいけない」
次の日の夜。激しく扉をたたく音。
「おうい、開けてくれ。ケガをした。血が止まらないのだ」
父親と母親の泣き叫ぶ声が聞こえる。女の子は勇気を振り絞り、勢いよく扉を開けた。
「ようやく開けてくれたねえ」
女の子は闇から現れた狼に食べられてしまった。
「そして、言いつけを守らなかった者は罪の証の赤いずきんを被せられて、国から放り出されるのさ。だから、この辺りの国は夜中絶対に扉を開けないし、家族一緒にいなければならないとされている。ただ、それだけの話さ」
「では、あなたたちは――」
「遠い昔のことさ」
ラシアは女の子の拳が握りしめられるのを見た。
「でも、昔話やろ?確かに狼はこのあたりにもおるかもしれんけど、人の真似はせんのとちゃうかな?」
「いや、人狼はいる。あんたらも見たろう?馬車が襲われているのを」
「あれが――」
矮人たちは馬車の惨状を思い出す。
「奴らは死んだ人間に化ける。そして、夜、家に入り込もうとするのさ」
「奴らの正体はなんだ?まさか、ゾンビなのか?」
その言葉を聞いて、矮人は重要なことを聞き忘れていることに気がついた。
「いいや。だが、ある意味あんたらに近い存在だろう。あれは魔物だ」
「でも、そんな魔物聞いたことないで」
「もとより数が少ないというのもあるし、この辺りでしかわたしも人狼のはなしを聞いたことないね」
老婆はお茶を啜る。
「それより、あんたらはどうしてこんなところにいるんだい?」
矮人はラテとラシアを見るが、何の反応もしない。つまりは矮人が説明しろということらしい。
「実は――」
矮人はこれまでのことを話す。
「なるほど。ワイトにワイトキングね。あんたらの話から察するに、神圏側にはあまり足を踏み入れてないようだね。狙いは間違ってないさ。ただ、わたしとしてはそのワイトどもの目的が気になるところだけど」
老婆は面白そうに言った。
「となると、問題はどうやって神圏へと向かうかだね。あの坑道を使うのかい?」
「はい」
「そうか。なら、全く逆の方向の道だね。あんたらだけで行くことはできるね」
「はい」
ラテが珍しく礼儀正しいことに矮人は気付く。
「陽が上る前に早くお行き。こんなところに長居するもんじゃない。人狼に襲われるからね」
矮人は人狼によって作られた死体を思い出す。あれは食事のために殺すというだけではできない死体だった。明らかに、殺すということを楽しんでいると矮人は感じていた。
矮人たちが小屋を去ろうとした時である。
「あの子は元気かい?」
老婆はそう声をかけた。
「ええ。まだ無事です」
誰よりも早くラテが声をかけた。
「さっきのはなにパニ?」
矮人はラテに尋ねる。
「特にお前らに関係のある話ではないが、話して損になることでもないだろう。あの老婆は、私の銃の師匠の師匠かもしれない」
「え?」
「そうなれば辻褄が合う」
ゾンビのことを知っている。そして、ラテ以上の銃の腕前。となれば、その推理も正しいだろう。
「ゾンビと人間が一緒に暮らしていたということパニ?」
「そこまでは知らん。ただ、今は師匠は赤ずきんと離れて暮らしているということだ」
「……」
ラシアは神妙な顔つきをしていた。
「くだらない話をせずに先に行くぞ」
何が下らないのか矮人には分からなかった。
矮人は先日のヤルダバオトの件を思い出す。アンとその妹とだってもしかしたら二人仲良く暮らせていたかもしれない、ゾンビと人間が仲良く暮らす日も来るかもしれない。
矮人たちは国に戻り、そこから東の方へと向かう。坑道が封鎖されてから早何世紀も経っているだろう。まだかすかに道の名残はある。そこを矮人たちは進んでいった。
「そういえば、ラテ。人狼の姿って見えへんかったん?」
よく目が見えるラテの能力をよく知るラシアが聞く。
「ああ。見えなかった。それどころではなかった、からな」
ラテはよく見える目に頼りすぎるところがあった。それ故に、矮人と初めて会ったときもハンターに後れを取った。
「?」
矮人は違和感を捉える。
「ちょっと待つパニ」
「なんだ?」
矮人にも詳細は分からなかった。ただ、本能とも言うべき何かが矮人に警告をしている。
「なにかいる」
矮人は確信をもって剣を抜く。
艶めかしい光を持った剣、月下美人が輝く。
そして、矮人に向かって何かが飛び出してくる。それを矮人は月下美人で受け止める。
「くっ」
矮人は飛び掛かってきているものの正体を見る。
刀で辛うじて抑えた、鋭い刃。人のような、それでいて獣のように歪な手足。ギラリと矮人を睨む目は知性が漲っている。
矮人は力づくで化け物を押し返す。矮人から離れた化け物はすっと軽やかに着地する。
「なんだ、こいつは」
魔物というには歪だった。それはもう人の形に近い。そして、体中に降りかかっている赤黒い液体はもうすでに人間以上の残虐性を帯びていた。
「人狼……」
その姿は狼ではない。むしろ、狸にちかいものだった。狸もまた、イヌ科なので人狼に入るのかもしれないが。
にたり、と獣の名残を持つ口を歪ませた後人狼は目のも止まらぬ速さで姿を消す。
姿を捉えた時にはすでに遅く、ラシアは人狼に突き飛ばされていた。
むしゃ、むしゃり。
人狼の口元から不気味な音が響く。
「マズイ……シンダニクダ……」
「あんた、乙女の柔肉を頬張っといて死んだ肉ってなんやの!」
「人の言葉を話した……」
問題とすべきは後者であろう。この場の誰とて人の言葉を離す魔物など聞いた覚えはない。つまりは人並の知能を備えているということとなる。
ラテはチャンスを逃すまいと立ち止まっている人狼に銃弾を撃ち込む。だが、人狼は素早く回避し、またも目にも止まらぬ速さで移動する。
「くっ。どうにかならんのか、矮人」
手段はあった。矮人の能力を使えば、一時的に人狼に追いつくことはできるだろう。
「どうして奴は襲ってこないパニ」
「肉を食っているのだろう。口は獣のそれだったからな」
となると、と矮人はラシアの方を見る。ラシアは仕方がないといった風に食われた方を押さえながら立ち上がる。
「しゃーないな。ウチが最初に狙われたっちゅーことは、ウチが一番おいしそうに見えたからやろ?」
「豚と間違えたんだろ」
「なんやて!?」
「喧嘩している暇じゃないパニ」
作戦はこうだった。
高速で動ける矮人が人狼の動きを押さえ、そこをラテが銃撃する。ラシアは囮だった。ラシアに修復力があるといっても深い傷を瞬時に直すことはできない。
矮人は月下美人を握る手に力を込める。
意識を集中して、体の中の、かつて心臓として動いていた部分を連想する。そこに大きな穴があり、そこから何かが溢れ出すイメージを作る。
瞬間、ドクンと動かなくなったはずの心臓が動き出すかのような錯覚を得る。
これを矮人は無意識に行っていた。ボールを投げる動作をする際に、一々腕の振りや角度などを考えはしない。ただ、投げるだけであればほぼ無意識に反応できる。
一瞬。
ラシアを人狼が狙う一刹那だけ、人狼の動きが止まる。そこをすかさず矮人は狙う。
「そいつは思った以上に怪力パニ」
《獣を狩るというのは人間を殺すより難しい》
決して逃さないように矮人は人狼に月下美人の刃を突き刺す。
《人間は愚鈍だが獣は利発だ。しっかりと本能で相手の間合いというものを感じ取っている》
突き刺した刃は何の感触も伝えない。失敗した、と矮人は思った。
《だから、気付かれる前に銃で撃ち殺さねばどうしようもない。小さな獣ほど俊敏で狙いにくく、そして、周りの変化に敏感だ》
直後銃声が響く。矮人の耳にはそれがひどく頼りないもののように聞こえた。
《人間を殺す方がよっぽど簡単だ》
矮人は己の肉が引きちぎられるのを知った。その瞬間、体中にあふれていた熱はどこかに逃げていく。人狼は予めこちらの攻撃が届かないことを確信していたのだと矮人は思った。
また、終わるのか。
旅を初めて何度目かのピンチを認識した瞬間、過激な銃声とともに人狼を無数の弾が貫く。一度では飽き足らず、何度も何度も人狼は貫かれる。
かつての獣の名残も無くなった、ただの肉と骨のオブジェとなったころ、攻撃は止んだ。
「一体――」
ラテの仕業ではないことは明らかだった。ラテは目の前で起きた光景を信じられないという顔で見ている。
「赤ずきんの仕業、か」
しばらく待てども赤ずきんは姿を現すことはなかった。
彼女たちはいつまでも人狼を狩るものとしてこの森に生き続ける。