第二十五回 キネマの新時代
ティ連に加盟以後の日本で盛んになった活動の一つに、ドラマコンテンツの制作がある。
ティ連から様々な異星人が多く訪れ、街角にもオーバーテクノロジーがあふれる様になった事で、日本の日常風景は一変した。
然るに、新たな時代を扱った現代劇を造ろうという積極的な動きは自然と言える。
そんな中、ティ連系の登場人物をメインに据えたドラマの企画が多く挙がる様になるのだが、肝心の出演者をどうするかという問題が生じた。
ティ連系の俳優が必要となって来るのだが、俳優に限らず芸能界は収入が不安定で、夢見る者は多くても周囲に反対されて断念する者が大半の業界だ。
果たして来てくれるだろうかと、主立った芸能プロダクションが怖々と募集をかけてみると、予想に反して志願者が殺到した。書類選考だけでも一苦労という状況となり、関係者は嬉しい悲鳴を挙げる事となった。
ティ連系住民にはハイクァーン使用権がある。その為、生活の心配をする事なく、狭き門へと果敢に挑戦する者が多いのだ。失敗して生活が困窮する事を考えなくても良いのが、彼等の強みである。
こうして、日本のTVや邦画の現代劇では、ティ連系の俳優が多く活躍する事になった。
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現代劇と一言に言っても、取り上げられる背景は様々で、定番の舞台としては家庭生活、職場、学校等が挙げられる。
まず家庭生活だが、ティ連系と在来日本人の夫婦による新婚生活という物がもっとも多い。
職場のパワハラや低収入に悩む独身の氷河期世代が、老親に迫られて結婚紹介所に登録。AIによって相性ぴったりとして紹介されたティ連系の異星人と結ばれ、カルチャーギャップによる騒動を起こしながらも楽しく生活するというのが、大まかなテンプレートだ。
ティ連系移住者と国際結婚すると、双方とも二重国籍状態になる。当然に日本人の側にも、相手方の市民の権利としてハイクァーン使用権がついてくる為、低収入は解消される。
よって、日本人側の経済状態は問われない。非正規雇用でも無職でも、それ自体で門前払いという事は無いのだ。
さらに婚姻薬によって寿命は倍程度に伸び、外観の若さもアンチエイジングで取り戻す事が出来る。
まるでコミックかライトノベルの様な、とてつもなく都合がいい人生再スタートだ。しかし、これは日本全国の津々浦々で現実に起きている事である。
脚色や誇張があるにせよ、実際の社会現象を元にして造られている為、リアリティの高さは折り紙付きだ。
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職業物で目立つのは警察ドラマだ。これは、従来から人気が高い為に企画が通りやすい事が大きい。
加えて警察当局も、ティ連加盟により犯罪の背景が変わりつつある事を、ドラマを通じて一般に知ってもらいたいという思惑から、おおむね協力的だ。
著しい経齢格差で必然的に生じる、在来日本人が感じるティ連系住民との社会的不公平感。
オーバーテクノロジーの導入による労働需要の激減。
ハイクァーン使用権の有無という新たな貧富の差。
進学も就業も出来ない低学力層の無気力化、あるいは粗暴化。
厳しい立場に追い込まれつつあるCJSCA系在留外国人。
ティ連体制の日本は、決してバラ色の社会では無い。時代の変化によって苦しみ、罪を冒す者も後を絶たないのである。
そも、日本はティ連加盟国ではトップクラスの犯罪多発国だ。ハイラが加盟するまでは、ティ連加盟国中での犯罪発生率一位という不名誉な状態だった。
そういった現状がドラマ中で語られ、ティ連系の警察官が母国との差異に苦悩しながらも、在来日本人の同僚や上司と協力して事件に対処するのである。
警察物の子供向け派生として、いわゆる「メタルヒーロー物」もある。少人数で活動する、装甲服を着用した特殊部隊が主人公と位置付けられているのが特徴だ。
メタルヒーロー物は元々、主要作品の主人公が「刑事」という設定であった事から、新時代では子供向けの警察ドラマという位置づけになった。
単独ではなくチームで活動している事が強調されており、やはり子供向け特撮である「戦隊物」の系譜も引き継いでいる。
子供向けという事もあり、敵は明確に、誰がどこから見ても悪い「犯罪組織」とされている事が多い。うかつに、異星からの侵略者を登場させられなくなったのが辛い処だ。
現実の警察装備品とは異なる、特徴的な装甲服や各種装備は、試作品という設定で説明されている。娯楽番組だけに実用性よりは見た目重視で、デザイナーのセンスが全面に出ている。
ただ、これらの作品のクレジットには「技術考証・デザイン協力/防衛省防衛装備庁 ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・装備応用研究所」とあるので、実は「本物」ではないかという噂は、ファンの間で絶えない。
最近の人気作品「レッドグラス」は、ブリッツヘルメット状の頭部に紅い暗視スコープ、ガスマスクで覆われた顔面、そして黒一色という異様な装甲服の主人公が、反異星人テロを繰り返す秘密結社を相手に闘うという物だ。
主人公がクライマックスでビームマシンガンを駆り、悪人達を容赦なく掃射する様子に、子供達は喝采を上げる。
一部父兄からは「過激、やり過ぎ」という批判もあるが、異星人差別は絶対悪であると子供達に強く訴えるこの作品のメッセージ性について、高く評価する者は多い。
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一方、学園ドラマは、従来からの定番題材でありながら、ティ連系種族との関わりという要素を加えにくい。
経齢格差によって、高校までの学校教育は地球人とティ連系種族が分断されてしまっており、同じ学校へ通う事が原則的に無い為である。
よって、ティ連から派遣されてきた教師が、在来日本人の生徒を教えるというのが、新時代に於ける学園ドラマの、ほぼ唯一の状況設定となっていた。
異種族間の若者同士の交流を取り上げた学園ドラマを造ろうとすると、大学や専門学校といった高等教育機関を舞台とするしかない。これにより、学園物といえば中/高校というこれまでの図式は大きく崩れる事となった。
農大で発酵を学ぶ学生を描く「もらいもん」、獣医の卵達をコミカルに取り上げた「獣のお医者様」、大学内のヲタクサークルを扱った「げんしじん」といった作品が人気を博し、中/高校に代わり、大学が学園物の主要な舞台として定着したのである。
この潮流は実写ドラマに限らず、アニメや小説、コミックといった他媒体にも波及するに至った。
ただ、中/高校を扱う学園ドラマが衰退の一途かと言えばそうでもない。
ハイラ人留学事業の開始以後、現場で起こった出来事を元に「底辺の職業高校を、ヂラール戦役帰還兵のハイラ人留学生がたたき直す」という新基軸の作品が登場したのだ。
これらの「ハイラ人番長物」は、昭和のいわゆる「番長」をハイラ人に置き換えた趣がある為、ノスタルジーも相まって大人気となっている。
ただ、これをもって高校学園ドラマ全体の復興とは言えず、あくまで傍流ではないかと言う声もある。それでも、新たな可能性・方向性の一つである事は疑いないだろう。
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ティ連系市民と在来日本人の交流が描かれたドラマの数々は、あくまで日本国内やティ連領域のみをターゲットとしてとらえていた。アニメと違い、海外の視聴者はあまり意識されていなかったのである。
それでも、インターネット配信を利用すれば地球のどこからでも、自国語訳で視聴出来る環境は整っていた。
AIにより、視聴者側の母語に対応した吹替や字幕が自動形成されるので、多国語対応のコストはかからないし、多少なりと配信料を得られれば二次利益も出る。
製作サイドが大して期待していなかったにも関わらず、ティ連加盟後の日本を舞台としたドラマはいずれも、海外からのインターネット視聴が大人気となった。
海外からすれば、ティ連加盟後の日本の現状は重大関心事であり、それを描いたドラマはフィクションと言えども情報源なのである。
加えて、基本的に3D映像である点も目新しかった。ティ連の映像コンテンツは3Dが基本なので、ティ連加盟以後は、日本の映像コンテンツの多くも同じ規格で制作されていたのだ。
そして地球では近年、3D対応TVが実用化されていた為、日本国外でも2D化せずに視聴する事は可能なのである(地球の技術のみで造られた民生用AV機器では、急速に機能が向上した最新型でも、旧規格で言う8K程度にダウンコンバートされてしまうのだが)。
ティ連体制下の日本を舞台に繰り広げられる、摩訶不思議かつリアルな物語を楽しんでいた海外の視聴者だが、一方で疎外感を訴える様にもなった。
そこに、自分達の同胞の姿が無いというのである。
舞台が日本なのだから当然と思う人も多いだろうが、現実が充分に反映されていないという意味では、彼等の指摘も的外れとまでは言えなかった。
特にLNIFを中心に、留学を経て日本へ移住する若者が激増しているにも関わらず、登場人物としてはおろか、背景モブとしてすら、登場するのは日本人とティ連系種族ばかりなのである。
ニュース等で流れる実際の日本の街角と比較すれば、不自然さがはっきりと解る。
制作側にとっては些細な事でも、海外視聴者にしてみれば重大な関心事だ。
レイシズムに起因するのではないかと言う疑念が海外諸国からわき上がり、世論は炎上した。ただでさえ一極集中外交に対する不満があるところに、ガソリンをぶちまけた様な物である。
ドラマの製作サイドは悪意が無かった旨を釈明すると共に原因を検証したのだが、調べてみれば実に単純な事だった。
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ティ連への加盟後、日本のドラマ制作では、ロケ撮影が殆ど行われない様になっていた。ティ連技術により、立体映像やゼルクォート造成を使ったスタジオ撮影でほぼ全てを作るのである。
舞台を自由に設定出来る、季節や天候に左右されない、一般人や企業の看板等の映り込みを避けられる等、良い事ずくめだ。
通行人等もエキストラ不要でCGを使う。一人一人の容姿や服装の設定も、AIで細かく自動設定出来るのだ。
現代日本の大都市圏を舞台にする場合、CGエキストラは九割程度を地球人で、残りをティ連系種族にするのが普通だった。実際の人口比を反映しているのだが、物議をかもした原因はここである。
ティ連系種族内の構成比には、さらに現実に即して細かく配慮している一方で、地球人の全てを東アジア系の黄色人種…… 在来日本人にしてしまっていたのだ。
実情はというと、日本に於ける「地球人種」の内およそ一割は、欧州系や東南アジア系、中南米系等、在来日本人とは外観が異なる風貌の人種/民族である。ティ連体制下の日本へ、定住前提の留学が急増した結果だ。
では何故それが反映されていないのかというと、ドラマ製作へのティ連技術導入に際し、地球人のエキストラCGデータを作成したティ連系スタッフの、単純な無配慮による物だった。
彼等にとって、ヤルマルティア(日本)人と、その他のハルマ(地球)人の風貌の違いは、さして気にとめる様な物ではなかったのである。
検証結果が示され、今後はエキストラ用CGデータに地球の各人種を加え、実際の人口比を反映させるという改善策が表明された事で、世論はとりあえず沈静化した。
必ずしも説明に納得した者ばかりではないが、相手は日本というよりティ連である。事態をこじらせて心証を悪くすれば面倒なので、まずは様子を見ようという訳だ。
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CGエキストラの人種構成比については、簡単に解決出来た。だが、キャストとして海外出身者を登場させるとなると、話は全く別である。
一言で言えば、海外出身の俳優が乏しい。日本で活動している「外タレ」もいない訳ではないが、数が少なく出身国も偏っていた。
日本に移住を希望する若者が多いとは言っても、彼等の殆どは収入が安定する職業を希望している。収入が不安定な俳優業は論外だ。この点で、ハイクァーン使用権のあるティ連系移住者とは条件が全く異なる。
しかし需要があれば、それに応える者もいる。海外出身者をメインキャストに据え、ティ連系種族と交流する内容のドラマ企画が、資金と共に日本の製作会社へ持ち込まれる様になって来た。
出演予定者はと言えば、いずれも本国で超売れっ子のベテラン俳優である。資金力のある彼等が自ら出資して、かつ出演もし、本国で需要がある内容の作品を造ろうというのだ。
日本に移住を希望しているのは、何も若者だけではない。少なからぬ富裕層が日本に居を移し始めていたのだが、その顔ぶれには芸能関係者も多く含まれていたのである。
成功者として中高年の域に差し掛かっていた彼等だが、日本で彼等が演じるのは多くの場合、二十歳前後の若者だ。
ベテラン俳優達が日本に移住を希望するのは、帰化して婚姻薬で寿命を延ばすのが目的である。
帰化申請が認められるには日本での生活実績が必要なのだが、その前でもティ連医療による外観の若返りだけなら、外国籍でも可能だ。
だが、外観だけでも若返れば、俳優としては役どころを替える必要が出て来る。そこで、ティ連の一員になる事を夢見て日本に訪れた母国の若者という配役は、彼等にとっても都合が良い。
こうして、日本で活動する海外出身者を主役として、ティ連体制下の日本を描いたドラマという新機軸の作品が登場する事になった。
多いのは大学を舞台とした学園ドラマで、国際色が豊かとなっている日本のキャンパス風景が反映された(但し技術流出規制の関係上、地球各国からの留学生がいるのは文系や体育学部に限られるが)。
問題を起こせば帰化申請が遠のくというのがポイントで、主人公を様々な闇の誘惑が襲い、葛藤するのがドラマの特徴である。
また、大抵はティ連系種族の交際相手がいるのだが、制度上、主人公が日本へ帰化しなければ結ばれる事がかなわないというのも、各作品に共通する状況だ。
元カノ/カレが本国から追いかけてきたり、在来日本人のライバルがいたりと、障害やトラブルも豊富である。
これらの作品は主に本国向けとして制作されるのだが、日本やティ連でも視聴は出来る。出身国によって、ティ連体制下の日本に対する捉え方が全く異なる為、新たな視点として興味深い物が多い。
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地球各地からベテラン俳優が日本へ集まって来た事で、造られるドラマは現代日本を舞台にした物ばかりでなく、大きく幅を広げる事になった。
何しろ、ティ連の技術による撮影セットは費用がかからず、どの様な物でもリアルに再現出来る。異世界ファンタジーでも、古代エジプトでも、宇宙の深淵でも、恐竜がうろつくジュラ紀でも、何でもござれだ。
さらに人種/民族の多種多様な俳優陣が充実した為、出来ない物は無いと言っていい。
特によく造られる様になったのは、ティ連からの需要が強い歴史スペクタクルだ。
国にもよるが、トーラル・システムの影響で自分達が経験しなかった発達段階…… 特に産業革命期以後の近代について、ティ連はとても関心が強い。
学術的な歴史資料とは別に、エンターテイメントとして脚色の強いドラマも、フィクション性を踏まえた上で彼等は楽しんでいた。
彼等の好みとして、考証可能な限り、当時の常識や倫理観に照らした描写に拘る傾向がある。現代的な眼で倫理的に問題として割愛される様な事も、伏せるべきではないという考え方だ。
スペクタクルとなると、やはり取り上げられる題材は動乱が多い。日本で制作される作品の特徴としては、敗北側の視点に立った悲劇調の物が多い事が挙げられる。
WW2のベルリン陥落、ベトナム戦争のサイゴン陥落、鎮圧されるパリ・コミューン、箱館戦争の五稜郭、ハワイ王国の滅亡、国共内戦で大陸を追われる国民党軍、独露に東西から侵攻されるポーランド等々、日本で制作される「滅びの美学」は総じて評価が高い。
この傾向に対しティ連では、一九四五年の敗戦によるトラウマが根深いのではないかという考察も目立つ。
だが日本では元々、「真田十勇士」「三国志」「平家物語」の様な作品が好まれ、敗者の側に身びいきし、はかなさに浸る気風がある。
技術、予算、俳優といった製作環境が潤沢に整った事で、その傾向が顕著に表れたと言えるだろう。
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日本製ドラマの台頭に、海外の映画/ドラマ産業が対抗出来ないかと言うと、そんな事は無かった。
まず技術面だが、LNIFに加盟する主要国では、ブラックボックス化した機材を日本からリースという形で輸入する事が出来た。これにより、ティ連規格の動画撮影が可能となっている。
それでも決して対等な製作条件とは言えないが、まずは同じ土俵に上がる事が出来たのだ。
それに、日本へ移住するベテラン俳優が多数派という訳でもない。華々しく報じられる事もあって確かに目立つのだが、全体から見ればあくまで一部である。
帰化すれば地球人本来の寿命から倍以上に延命可能とは言っても、祖国を去るというのは相応に重い決断だ。
若い内ならまだしも、キャリアを築き上げた後では辛い物がある。国際知名度が高いなら別だが、自国文化圏ローカルでの活動がもっぱらの俳優が大半なのだ。
さらに、従来よりも移住し易くなったとはいえ、個人的に様々なハードルがある者も少なからずいた。
例えば、アジア人への人種偏見を捨てきれない者がいる。婚姻薬の投与を受けるには帰化するだけでなく、ニューロン検査で脳の中身まで調べられる為、うわべを取り繕うだけでは駄目なのだ。
信仰心が強い者にとっては、宗教を「慣例」「習俗」としか考えていない者が大半の日本は、必ずしも居心地がいい国とは言えない。
芸能界では薬物使用者も多いが、発覚すれば帰化どころではない。単純所持・使用の初犯が実刑となる事はまずないが、ヤク中を新たな自国民として迎え入れる程、日本は寛容ではないのである。
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海外作品の内容はと言えば、ハリウッドは娯楽性の強い活劇が多く、インドはミュージカルが主体といった様に、相変わらずの作風が全面に出ている。この辺りは異星の技術を導入しても変わらない。
主要な作品の傾向が国によって違う為、技術的な条件が整いさえすれば、棲み分けが成立するのである。
ただ、ティ連の来訪により、従来は盛んだった一部のジャンルは衰退、あるいは路線変更を迫られる事になった。
典型例が、いわゆるアメコミ原作の、超常的な力を持ったヒーローが社会の敵と戦うといった作品である。
何しろ、異星の超文明が実際に地球へ来ているのだ。爆発した星から逃れてきた、力持ちで空を飛べるというだけの異星人の孤児が活躍出来る余地は無い(この辺りの事情は日本の子供向け特撮作品でも共通だが、前述のメタルヒーロー物の様に適応出来た例もある)。
幸い、しばらく前からアメコミは、長期間続くシリーズ内での矛盾を解決する為「並行世界」の概念を導入した物が多い。そして、アメコミで描かれている様な世界かは別として、並行世界の実在その物はティ連によって証明されている。
ティ連が訪れなかった並行世界の地球を舞台とするという説明で、アメコミヒーローは何とか命脈を長らえたのだが、以前より低調となってしまった面は否めない。
それを補う形で、ティ連来訪以前の地球、特に東西冷戦期を舞台としたスパイアクションが復調している。特に、英国情報部のエージェントを主人公とした長期シリーズは、ティ連でも人気を博している。
一方、恒星間文明を描いたSFは健在だ。前回でも少し触れた、半世紀も続いている人気シリーズは、ティ連の考証アドバイザーから助言を得てリブートされる事になった。
トーラル・システムが無い事を前提とした技術発達予測による、架空恒星間文明の興亡史という物は、ティ連から見ても浪漫あふれるのだという。
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一方、中共や韓国に代表されるCJSCA陣営の大半の国では、日本やLNIF製コンテンツの大半に視聴制限がかけられる様になった。自国の倫理規制に反するという理由だが、結果的には国内産業の保護ともなっている。
これは日本やティ連、LNIFを目の敵にしているというより、CJSCA加盟国は一党独裁体制や宗教体制の国が多い為、恒星間文明時代の新たな価値観が流入するのを防ぐのが主目的という。
また、ティ連技術による機材導入が出来ない為、依然として2Dばかりである。日本/LNIFでも2Dにこだわりを持つ製作者は少なからずいるのだが、そちらは自己判断による選択なので、事情は全く違う。
日本/LNIFの作品に比べて内容がつまらないかといえば、必ずしもそうではない。制約が厳しい分、内容が洗練されて国際的に評価される物も少なからずある。
日本ではブームが去って久しい韓流ドラマも、安定した質の廉価な作品として、CJSCA陣営の国々では根強い人気だ。
日韓関係がほぼ途絶えた後の韓流ドラマは、日本への恨み節が満開かと言えば、意外にもそんな事はない。
むしろ作中では徹底的に、日本があたかも世界に存在しないかの如く、その存在感が消されている。目に入るのが嫌だと言う事だろう。
登場する自動車や家電といった小道具の類は、スポンサーの意向であろうか韓国製である事が強調される様になった。
日本では競争力を失って殆ど見られなくなった韓国製工業製品だが、ティ連技術の流入がないCJSCA陣営の国としては、性能・コスト共かなり努力していると言えるだろう。放逐されたとはいえ、流石に「元」自由主義陣営である。
一方、中共ではいわゆる抗日ドラマのブームが復活しているのが目立つ。
以前の初期ブームの際には荒唐無稽で失笑を禁じ得ない作品が多かったのだが、現在では考証を重視している様だ。粗雑な造りでは、容赦なく指摘が殺到する為と思われる。
新たな抗日ドラマ群は総じて重い造りで、戦争活劇よりは、謀略工作や権力闘争、そして搾取に苦しむ民衆と言ったハードな内容が多い。
また、直接的な悪役は汪兆銘政権や満州国といった「漢奸」※中国語で売国奴の意 で、傀儡を操る黒幕として日本を扱っているのも特徴だ。
内なるメッセージとしては「日本に踊らされて祖国を裏切るな」という趣旨であろう。
フィクションである事を踏まえて、かつ当事者の一方としての立場を離れて客観視すると、ドラマとしては見所がある作品も多い。
日本からのネット視聴もブロックされずに可能なので、かなりの自信がうかがえる。ティ連への反日プロパガンダも兼ねての事ではないかという推測もある。
ただ、これらの作品を観たティ連市民の反応は総じて冷ややかだ。
作品自体はあくまでフィクションなのだし、話としては面白く出来もいい。だが、仮に事実に基づいた物であるとしても過去の事だ。
日本だけでなく地球の有力諸国が、半世紀前には例外なく蛮行を繰り返していた事は解っている。またティ連にも、同様の恥ずべき過去を持つ国は少なからずある。
我々は負の歴史も含めて、地球の発達過程文明が愛おしい。
その上で大切なのは現在と将来であり、中共は己を鏡で見た方が良いのではないか。
典型的な感想は上記の様な物だ。
叩いてほこりの出ない国など、地球は元より宇宙の何処にもないのが現実である。
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映画/TV放送/インターネット配信/ディスクパッケージといった媒体を問わず、現在の地球はドラマコンテンツの新作が活況にあふれている。
様々な物語を、幅広い人々に届けたいという想いは万国共通だ。オーバーテクノロジーが満ちあふれ、異星人が隣人となった二十一世紀でもそれは変わらない。
そして、物語には制作者が込めたメッセージがある。そこにどんな内容が込められているのかが、社会の潮流を示すのだ。
今日はどれを観ようかと、実に迷う毎日である。




