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「アッシュ久しぶりだな。我が愛しい孫娘、アルジェやジュニアスも一緒とは!」
「……おじい様。闇ってどういうことです? 私が狙われているとか魔獣とか一体……」
矢継ぎ早に私が質問すると、館の応接室でおじい様はうーむとあごひげを触り、それを言われてもなと困った顔をしました。
私とアッシュさん、ジュニアスさんだけが来ています。
ティンカには事の次第は伝えましたが「わけがわからない!」と私と同じく混乱していましたよ。
クリスはアッシュさんのお仲間さん達と図書館で留守番をしてくれています。まだユライさんの意識が戻らないからです。
「お久しぶりですグロウズ殿、アルジェ様の身が危険にさらされているのです」
「危険とは?」
まあ座れとソファを示すおじい様。かなり困った顔をされています。
私たちが座ると、シルヴィアのことか? と小さく何処か厳しい表情でアッシュさんに尋ねられました。
「そうです」
「シルヴィアか……懐かしい名前だなわしも年をとったものだ」
遠い何処か懐かしいものを見る目でおじい様はアッシュさん、いえ、空中を見ているようです。
ジュニアスさんは魔獣と何か関係あるのですか? と静かに尋ねますがさぁ? とおじい様は首を振るだけです。
「魔獣は退治された。アルジェに危険とは……よくわからんが、そうさな、アッシュは信頼ができる魔法使いだ。私の古い友人で保障する。王都にお前一度里帰りしたらどうだアルジェ?」
おじい様も何か隠しているようですよ。目が泳いでいます。
嘘をつくときや誤魔化す時に目が泳ぐことはよくしっているのです!
私は理由を話してくれない限りは絶対帰りませんと言うと、アッシュさんは理由と言われましてもと天井を仰ぎます。だって理由もなしで守るとか言われても信用できませんよ!
「そうさな、まず今言えることは、お前にかけられた呪いとやらが一つ」
「呪いですか?」
「銀の娘が生まれた時、呪いをかけし闇が蘇るという預言がお前が産まれた時にあったのだ」
おじい様がひげを触りながら、ふうと小さくため息をつかれました。うーん、でもその預言って聞いた事もないですが……。私が首をひねっていると、不吉すぎて内緒にしてくれと頼まれたとおじい様は答えてくれました。
「まぁ、お前の呪いとやらでわしが思い出したのはシルヴィアのあの言葉だ」
「銀の竜よ呪われよという……?」
「そうだ、なのでお前の身を守るために幼少時はここにお前を置いたのだ」
「え?」
「体が弱いから静養させるという言葉でお前を呼び寄せた。10年後に戻したのはお前の父が呪いなど信じぬから娘を戻せといったからだ。確かにお前は健康で多少の魔力はあったが、それ以外は普通の娘だったのでな……」
あう、全く知りませんでしたよ。それにおじい様や両親も私にそのことを知らせてくれませんでしたよ。でもまあ思いやりってやつかもしれません。
そんな呪いがあったなんて聞いたら、預言がありますよなんて言われたら怖いですからね。
ジュニアスさんはじっとおじい様の話を聞いています。
今は人型をとっています。
「……しかしその預言と呪いが何か関係かもしれんな。わしの娘と孫がシルヴィアと同じ色彩を持ったのも何かあるのかもしれぬ」
「グロウズ殿、あなたはシルヴィアのことを……」
「うむ、若き頃の恋じゃよ。わしはシルヴィアを好いておった。しかしジュリアスのことがあり身を引いた」
おじい様もシルヴィアさんのことが好きだった? しかし私とそれがどうやって繋がるのでしょう? おじい様は遠い目で私の目を見ました。
「あれは良い娘じゃった。善良で正義感が強く、少々強すぎる正義感のせいでよく厄介事に巻き込まれておったが……まっすぐでの……しかし恋がのぅ」
「何かがシルヴィアさんを変えたのですか?」
「ジュリアンとの恋を周りに反対されての、ジュリアンは銀の竜で、数がかなり少ない、だから同じ銀の竜の娘と婚姻するようにと言われておった。人間ではのう……」
確かにそれはあるようです。ジュニアスさんもたまに愚痴ってました。
でも同じ年頃の銀の竜のお嬢さんがいないようで、それ以外の竜と結婚してもいいとかなんとかこうとうか……長老に言われているそうです。
「まぁいろいろあっての、そこからシルヴィアはふさぎこむようになっての、そして気がついた時はジュリアンは同じ銀の竜であるマリー・ルーとの婚姻を長老に決められてしまっていた。それをシルヴィアは知ってしまっての……」
呪われよ銀の竜よ。呪われよ! 長い銀の髪をした少女が絶望の瞳で銀のドラゴンたちの睨みつけている姿が私の頭の中に浮かびましたです。目を閉じるとより鮮明に浮かんできました。
寄り添いあう銀の竜達、一人はもう一人を庇い、少女は強い目で庇われた方の竜を睨みつけています。
【永劫に私は呪う! 裏切り者よ! 我が愛を信じぬ者よ。裏切り者! 私は永久に銀の竜を呪うであろう。銀の魔法使いの名前にかけてお前たちを呪う。永劫にこの闇が封印された呪われた地から出るな。我が前に姿を現すな! お前たちを永遠に……】
私はその少女の顔を見たことがあるような気がしました。でも思い出せません。
強い雨と風が吹き抜ける中、少女は呪いの言葉を吐き、そして……姿を消しました。
後ろにいたのはまだ若い剣士と魔法使いの少年。
ああこれは一体? ふっと意識が遠くなりました。おじい様がどうした? と聞いてくる声が聞こえます。
呪われよ銀の竜よ呪われよ……その声が今の私を支配していたようでした。




