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昔昔その昔、といっても四十年ほど前のお話です。
強い力を持った魔法使いの少女がいて、世界を害そうとした闇の魔獣との戦いの旅にでかけました。
魔法使いの少年、そして勇猛な剣士の青年、もう一人は竜でした。
銀のドラゴンは闇の魔獣を倒す為にと立ち上がった少女の求めに応じて旅の仲間になりました。
そして闇の魔獣は四人の力を持って倒されたのです。めでたしめでたし?
いえこのお話には続きがありました。
魔法使いの少女と銀のドラゴンは恋に落ちたのです。
でも魔法使いの少女と銀のドラゴンの少年の恋は実ることがなく……。
英雄とも呼ばれた魔法使いの少女はある時姿を消したのです。
そして……魔法使いの少女の行方は誰も知りません。
彼女はどこに消えたのでしょう?それは誰も知らないのでした。
「それはおじい様も冒険に参加した……」
「ええ剣士はあなたのおじい様のグロウズ殿、そして魔法使いの少年というのはその時12歳だった私です。後は銀のドラゴンは……」
「私の父のジュリアンというわけですね」
私達は図書館に帰ってきました。ユライさんは気絶しているだけで無事です。操られていたようですが度ジュニアスさんが解呪をしてくれたようでもう少ししたら気がつくだろうとのことでした。
アリシアさんとアリスさんがユライさんに付き添っています。
私達はお茶を飲みながら、アッシュさんのお話を聞くことにしました。
「魔法使いの少女の名前はシルヴィア、長い銀の髪に緑の瞳の麗しい少女でした」
「私と同じ髪と目の色なのですか?」
「はいそうです」
魔法使いの少女の容姿は具体的に伝わってませんでした。でも髪と目の色が同じなんて偶然ですねえ。アッシュさんは目を伏せ、長く長く嘆息しました。どこかとてもつらそうな表情です。
「彼女とジュリアンは恋をして、しかしその恋は叶うことがなく、シルヴィアは失意のうちに姿を消し」
アッシュさんは寂しそうに笑いました。何処か痛みに耐えるようなそんな表情です。
私達はどう声をかけていいかわからず、話を聞くことしかできません。
クリスは部外者だからということで、お話は私とジュリアスさんだけで聞いています。
「シルヴィアさんはどこに行ったのですか?」
「わかりません……しかし最後に彼女は呪いの言葉を……」
呪われよ、呪われよ、銀のドラゴン達よ。私は永遠に銀を呪い続ける! この地を出るなかれ、この地に縛られ続けよ。絶対に我が眼前に姿を見せることなかれ!
呪われよ、銀の竜達よ……呪われよ。
歌うようにアッシュさんが口にした途端、苦しそうにジュニアスさんが呻きました。
強い魔法の力を持った少女の言葉は呪いとなったそうです。
「シルヴィアの呪いは銀の竜全体にかかったようで、この地から出られなくなったそうです」
「でもどうしてでしょう?」
「私にはわかりません。二人は恋をして結ばれなかった。それだけは知っています。最後シルヴィアが呪いの言葉を吐いた所だけは見たのです。グロウズ殿とともに……」
シルヴィアさんの行方は知れずというところで目を伏せるアッシュさん。
苦しそうに眉根を寄せて、それからジュリアン殿には会ってませんが、ご結婚されたとは聞きましたと寂しそうに笑いました。
「私は父からそのような話を聞いた事がありませんでした」
「昔の苦しい恋の話なんて、別の女性と結ばれた後でその子供さんになんて中々話せないでしょう」
アッシュさんはふうとまた小さくため息をつきました。
確かにジュニアスさんにそんな話はできませんよね。だっておじ様、つまりジュニアスさんのお父様は今は銀の竜、つまりおば様とご結婚されて子供さん達もいるんですからね。
「今確かジュリアン殿が住んでいる所が実はシルヴィアの最後にいた場所、魔獣が退治された所なんです」
「え?」
「シルヴィアは泣きながら呪われよと歌い、姿を消しました。それ以降誰も彼女の行方を知りません。それ以降我々も連絡はたまにとりあってはいましたがね……じょじょに忙しくなり大人になり、この十数年、
顔もあわさせておりませんでした。だから生まれたお孫さんが銀の髪に緑の瞳をしていた事は知っていたのですが……」
「私と母のこの色彩が呪われた色と言われたことと関係あるのですか?」
「銀の髪、緑の瞳の娘は強い魔力を持つのです。特殊な色でして、グロウズ殿には魔力はなく、奥方はエルフの血をひく魔力の強い方でしたが、金髪に青い目でしてな……」
むぅそれは良く言われましたですよ。でもおじい様は本当にお前の子か? みたいなお母様のことを言われた時、激昂されたそうです。お母様と私の魔力は大したものではなく。
呪われた等と言われながらもまだ平穏に過ごせたのはそれもありますね。
「……これ以上はお話はできませんが、あなたの身に危険が迫っているのは確かなのです」
「危険と言われましても」
「闇が貴方を狙っていると王太子殿からお伺いしました。なので私たちがここに派遣されたのです」
肝心なことを話してくれないアッシュさん、でもユライさんが操られたことは心当たりがあると言われましたですが……。
でもクリスティーナさんとよろしくやっている王太子殿が私を守りたいとかわけがわかりません。
「この地に今あなたがおられることも危険のうちの一つなんです」
「あの……」
「闇が目覚めようとしています。ジュリアン殿はそれを封じようと今されているのです。しかし……」
「私たちが今住んでいる場所がもしかして魔獣が封印されているのですか? 両親がよくなにかしているのですが……」
「ええそうです」
私がこの場所にいることが危ないことで、王都にそれで連れていこうとしていて、王太子殿の命令ですか? よくわかりませんが……。
アッシュさん曰く、私が直接何かに関係あるとのことなのですが……。
「闇が貴方を狙っているということは、実は数年前に王太子殿にお聞きしたのですが、今は私はその時の王太子殿の命令によって動いているのです」
「え?」
「数年前に自分がおかしくなることがあれば、そして貴方に害をもたらすようなことをするようなら貴方に力を貸すようにと何人かが密命を受けておりました」
王太子殿は昔から変な方ではありましたが? でもアッシュさん曰く、聡明なところもあり、何かアッシュさん達にお願いをしていたそうです。
その命令によって私を守ろうとアッシュさんたちはしているようですが……。
「王都には闇に対抗する場所もあり、そこにお連れするように王太子殿にお願いをされていました。しかし今は全く命令をされたことすら忘れておられる様子です。私も多くは語れませんが、貴方の味方であることは確かです。お願いです一緒に来ていただけませんか?」
私の頭はかなり混乱してきました。王太子殿がおかしくなることがあれば私を守るようにですか? ジュニアスさんは闇と聞いて目を細め、何か考え込んでいるようです。
「アルジェさん、アッシュさんの言われることは嘘ではないようです」
「でも私はここにいたいです。王都には行きたくないですよ!」
実際、確たる理由は言えません。でも貴方を守りたい等と言われても困ります。
ではグロウズ殿にお話をとアッシュさんは言ってきました。おじい様を交えてお話したいというのです。私は頷くことしかできませんでした。
だってもう色々なことがありすぎて頭がパンクしそうだったのですよ。