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 移動図書館の見積がきましたよ。

 あいみつをとってくれたのですが、やはりふもとの町の商会が一番安かったのです。

 手数料は取られましたけどね。

 商会の紹介は確かですから、これって洒落みたいですね。


 移動手段としては馬は微妙なので、荷馬車を改造して……と具体的に話が出ました。

 山道に耐えうる馬車を作るのはお金がかかりますが3階にとまってもらうなどよりはよほどいいです。

 実際、工事をするお金はありませんからねえ。レベルアップが必要なのですよ。


 人を雇うのはどうかなって感じですが、株の利益でなんとかなりそうです。

 3Fの改装もできそうですかね。

 実は利用者に泊まってもらう施設を作ったらどうかって意見がでまして、3Fを改装しようというのですよ。

 住居の代わりなのですが、数人の人ならお泊りいただけます。客室を整備するくらいなら可能なのです。千里の道も一歩からなのです!


「あとは目玉を置くこと」


「目玉ってなんでしょうか?」


「ここでしか借りられない、というか貸し出し禁止にしてここでしか閲覧できない希少本などはどうだ。魔術書など……か?」


「そうなるでしょうね。そのあたりなら魔術師協会につてがありますからなんとかできますけど、あそこはぼりますから今の予算では無理ですよ」


「やはりか……」


 魔術師協会は父の知り合いさんがいます。魔術師長が父のお友達さんなのです。

 しかしどうしたって希少本、つまり魔術書などは値が張ります。

 少しだけ図書館をたてるときに検討しましたが、金額を見て目が飛び出ました。

 だってこの図書館が3つたつくらいの金額がするんすよ! それも下位の魔術書でそれなのです。

 目玉となるくらいの希少本ならもっともっと高いでしょう。

 ギルドもありますがそこには知り合いはいませんしね。


「とりあえずもう少し寄付が集まってから考えます。おじい様のご寄付を断りましたから、今のところ私の手持ちしかありません」


「だな」


 ジュニアスさんがお茶どうぞと持ってきてくれました。カウンターでお茶はさすがに利用者が増えてきた手前よくありませんから今はお部屋でお茶してます。

 一応もう閉館時間すぎてますが……。


「しかしお前まめだなジュニアス、俺なんてお茶なんて面倒くさいから適当だ」


「蒸らす時間によって紅茶もおいしくなるんですよ」


「はう、私はそこまで凝ったことはないですよ、女子力低いですね。しかしティンカさん冬至はまだですけど一度も顔を出さないなんて少し変ですね」


「そうですね。ティンカは確かに王の花嫁選びで舞い上がってましたが、ここまで顔を出さないというのは珍しいです。アルジェさんが戻ってきて喜んでましたのに」


 ジュニアスさんも首をひねります。

 ティンカさんは気まぐれさんですが絶対3日に一度は来てくれてました。

 確かにそこまでしばらくこれないけどまた来るよって言ってくれていたのですがもう2週間も顔を見てないのですよ。


「……一度妖精の里に私行って聞いてきますよアルジェさん」


「私も行くです。明日はお休みですし」


 紅茶の香りはとてもいいですけど、ティンカさんのことが心配になり今はあまり楽しめないです。

 ジュニアスさんの入れた紅茶はとてもおいしいです。

 でもでもどうしてティンカさんは連絡もくれないですかね?

 

「妖精は気まぐれだから、お前のところに連絡するのを忘れているとかじゃないか?」


「いえさすがにかなり浮かれていましたが、そこまで不義理じゃないんですよ」


「そっか」


 ティンカさんが一世一代のイベントだと張り切っていたので、忙しいのだろうと思っていましたが、ここまで連絡がないのは不安です。

 王都にいたときでさえいろいろと連絡をくれていたですよ。闇のネットワークとやらを使ってですが……。

 しかし闇ってどんなでしょうねえ?


【助けて、助けて……】


 そんな話をしていたら何か小さい声が聞こえてきました。誰でしょう?


「ティンカ?」


「え?」


「ティンカの声で助けてって……アルジェさんは?」


「私にも聞こえてます。ティンカさん?」


 ジュニアスさんが耳を澄ませて声を聞き取ろうとします。クリスは不思議そうな顔をしているので聞こえているのは私たち二人だけのようです。


【助けて、お願い、とじこめら……】


 声が途切れてしまいました。ジュニアスさんと私はあわてて顔を見合わせます。

 ティンカさんが助けを求めているのです。でもいったい何があったのでしょう?


「妖精の里に行ってみましょう」


「ええすぐに出たほうがいいですね」


「俺も……」


「いえ部外者は入れてくれてないのですよクリス。私とジュニアスさんで行きますからお留守番お願いしますです」


 これは本当なのです。妖精の里は自分たちが見知った人間しか入れてくれないです。

 妖精界への門を開かないとだめなのです。

 あとはジュニアスさんにのせていってもらったほうが早いので、クリスがいるとそれができないというのもあるのです。

 クリスがうなずき、私は手早くチーズやパンを袋に入れます。

 それほどの時間はかからないと思いますが、念のためです。まだ夕食を食べてないのです。

 あとはコートを羽織り防寒対策なのです。


「行ってきます!」


「ジュニアス、アルジェを頼む!」


「はい!」


 私たちはあわてて図書館の外に出ました。そしてクリスが視界から消えた瞬間、ジュニアスさんがドラゴンの姿に戻ります。私は上によじ登ると、行きますよと声をかけてくれて飛び上がりました。

 妖精の里にゴーです。でもいったい何があったのでしょう? とても心配です。






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