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「ちび達、王都の話でもしてやろうか?」
「うわーい、クリスお兄ちゃん聞きたいな」
「うわーい聞きたい!」
カウンターに座っているのが手持無沙汰になってきたのか、弟さん達にクリスが声をかけました。
すごく嬉しそうでクリスに飛びついて来たのですよ。
「……司書さん、元気がないようですが」
「そんなことはありません」
少し考えすぎました。
心配そうにジュニアスさんがこちらを見ていますが、私はなんでもありませんと首を振ります。
だって宮廷のあの地獄の日々なんてこの純粋な人に語れませんよ。
銀の竜は純粋で優しい、その鱗にはたぐいまれな魔力があるのです。
だからこそかなりの銀の竜が狩られてしまったのです。
人を疑うってことをドラゴンさんたちは知らなかったのです。
銀の竜は特にめずらしいので、村によその人が来ているなどの場合はジュニアスさんたちも人間に変化しています。めったにこんな田舎には外の人はきませんけど。
おじい様曰く「王都から馬でも2週間かかるからなあ」だそうです。
馬をとばしてこれですからねえ、かなり短縮された日数ですよ。徒歩や馬車を仕立ててなんてしたら多分1か月以上かかるでしょう。
この地方は竜も多く、竜使いさんたちは多いですが、この地方生まれの人がなることがほとんどなんですよ。竜使いは厳密にいうと、竜と盟約を結びその力をかります。なので使いというより竜の友人といったほうがいいかもしれません。
ドラゴンさんと友達になれる人は適性を見られますけど。
私はジュニアスさん曰く適性があるらしいですけど……竜使いの修業をしていないので無理そうです。
ふと私は疑問に思ったことをジュニアスさんに聞いてみました。
「どうしてドラゴンさんは人型になるのですか?」
「え?」
クリスに聞こえぬようにそっと聞いてみましたです。これは少し疑問でしたから。
だって人型はあまりとらないほうがいいってお母様も言っていたのです。
昔何かあったようなのは聞きましたですが……。
「あまり人型をとるのはよくないから、たまにしか駄目ってお母様から聞いたですよ」
「それは昔のことです。今は人間さんとの交流のために色々と王都などにも行く人はいますよ」
「そうですか」
王太子殿がジュニアスさんを見たら、僕以外の美しい人がいるなんてとかすごく叫びそうです。
しかしまあ美形といえば美形ですが、むだに綺麗な人がドラゴンさんには多いですよ。
人間になったら美形って典型パターンのようなのです。
ジュニアスさんが少し寂しそうに笑いました。
「私は別に人と竜に垣根はないと思っていますが長老が色々と……」
「うちも宮廷のじじい共がしきたりとか煩かったのです。そういう感じですね?」
「そうですね」
ヒロインさんはどうされてますかねえ? 私は元気ですよ。
だってあんな地獄から解放されたのですから! でも押し付けたとも取れますね。クリスティーナさんに悪い事をしたのですよ。
「王太子様ってどんな人だったんですか司書さん?」
「人の悪口を言うのが好きで、自分の美貌は誰にも負けないというのが口癖で、私の外見だけは及第点とか言う人でしたよ」
「え?」
「私の外見は好みだったそうです」
「それはひどい……」
「その外見も今はこんなですがね」
眉根をよせてため息をつくジュニアスさん。
私は眼鏡をあげてにこっと笑います。眼鏡をかけて髪の毛はぼさぼさ、服装は適当です。
制服を作りたいところですが予算がありません。
黒のワンピースに白いエプロンが今の私の制服ですよ。
「いえ私は司書さんはとても綺麗な人だと思いますよ。外見だけじゃなくて魂も……」
「ありがとうございます」
優しい人に囲まれて、穏やかな日々を過ごすのが私の夢でした。
だから今は幸せなのですよ。
にこにこと嬉しそうジュニアスさん、チビさん達に囲まれて楽しそうにお話するクリス。
ジュニアスさんの笑顔を見ると心がぽかぽかするのを感じます。
なんでしょう、太陽の元、日向ぼっこをしている感じですか?
この優しい日常がいつまでも続けばいいのです。私はもう地獄には帰りたくないのですよ。
「私は今は幸せですよジュニアスさん」
「それはよかったですし……いえアルジェさん」
名前を呼んでもジュニアスさんが普通です。すごくうれしいです。
でもなぜかわかりません……幼馴染だからでしょうかね?
「今度釣りにいきましょうアルジェさん」
「釣りが趣味のドラゴンさんって聞いたことがないですけどね」
「はい私くらいでしょうね」
にこにこと笑うジュニアスさん、そういえばたまに釣りの本も借りてくれてましたね。
昔小さいころ、釣り人に出会ってお友達になって以来、釣りが大好きドラゴンさんになったのですよ。
たまにしっぽに餌をつけて釣ったりとかしていると聞いて笑ってしまったです。
幸せを感じて、そしてそれを日常とすることはとても難しいとどなたか言ってましたね。
にこりとジュニアスさんと私は笑いあいました。
しかし……どうもそんなことを言っていられる事態じゃなくなったようなのです。
この数日後、王都からある使者さんがやってきたのですよ。