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ここは図書館の3Fです。客室は2部屋あります。家族が遊びに来た時のことを考えて作ったのですよ。厨房と私の部屋ですね。後は書斎です。
「……あのさアルジェ」
「はいなんですか? クリス」
「図書館の本があるんだから書斎いらなくね?」
「マイフェイバリットブックスたちなのですよ。実家にもまだあります!」
「はあ」
実家には2万冊、ここにあるのは1万冊……実家にある本達が懐かしいですよ。
書斎がほぼ半分スペースとってると思うと呆れた表情で言うクリス。
「半分じゃないです」
「後はなんだ? 空き部屋?」
「予算の関係上まだ工事中のお部屋なのです!」
「お前……よく生活できてるな」
「本さえあれば大丈夫なのですよ!」
ジュニアスさんはきょろきょろと3階を見てへえと興味深げに書斎で本を手に取ってます。
趣味に走っているといわれますがファンタジーとミステリのマイフェイバリットブックスたちなのです!
「うわあこれ小さい頃読んだたんぽぽドラゴンとふわりお姫様のお話ですね。司書さん!」
「そうです懐かしいですよね」
「……ジュニアスさん、司書さんって……さっきから思ってたけど幼馴染ならアルジェって呼べばよくね?」
完全になれたのかタメ口のクリスなのですよ。
ジュニアスさんは汚れた絵本を開きながらくるりとクリスの方を向いて、司書さんは司書さんですと言い張ります。
「まあ、人の勝手だけどさ」
「むう、お腹すきましたが、いつも夕飯は適当なのですよ」
「アルジェの手作りなんて期待してるわけねえだろ。パンを持ってきているから安心しろ、干し肉もある」
「あう、少しはましになりました!」
「……私が作りましょうか?」
「お客様にお願いはできないですよジュニ……いええっとそうですね。はい」
ドラゴンさんともジュニアスさんとも呼べないのは不自由なのです。
女子力が低い私の作れるものといえば、そうですねえ……。
村で購入したパン、村で購入したミルク、村で……これ作ったとは言いませんね。
パンとミルクとサラダで毎日生活はしています。
シチューを作ろうとして火力調節に失敗し火事になりかけ、水の魔法の調整に失敗してからお料理はしていません。
一応魔法で色々できるはずですが絶対やるなとティンカさんにも言われました。
「パンとミルクとサラダならありますよクリス」
「それに干し肉を足すか」
「はいなのです」
ジュニアスさんの見ている絵本は幼い頃うちの母が読み聞かせしてくれたものです。
小さい銀の竜だったジュニアスさんが目を輝かせて聞いていたものです。
「お姫様と竜はいつまでも幸せに暮らすんですよね」
「はいです。二人はずっと一緒にたんぽぽの畑で幸せに暮らすのです」
「ドラゴンと人間の姫の恋話なんてありえないのにな」
「クリス、私のご先祖様は銀の竜がいますのですよ! 後はエルフ……」
私のご先祖には実は銀の竜、つまりジュニアスさんと同じくするドラゴンさんがいます。
むう、実は伝説なので証拠はありませんがね。エルフがご先祖様にいるのは確実なのですよ。
だからうちの母はジュニアスさんやご両親、弟さん達と仲がいいのです。
銀の竜は数が少ないですからね。ジュニアスさん達家族しかうちの地方はもういないのですよ。
「伝説だろ」
「でもでも!」
「それは置いておいて、ドラゴンと人間の恋なんてないだろ」
「ありますよ!」
ジュニアスさんが本を抱えたまま力説します。あれ? それは私のポジションではありませんか? だってご先祖様を否定されることになるのですからね。
「私はドラゴンと人間の恋ってあると思います!」
「まあ、信じている人もいるってことだな」
「はいなのですよクリス」
ジュニアスさんは私のご先祖様の恋物語が大好きなのです。よく母から幼い頃聞いたお話ですからね。
しかし千年位前の伝説って本当? まあロマンチックだから私は信じてますがね。
「ロマンチックですよね司書さん」
「ジュ……いえあのですね」
「あのさ、アルジェ、ジュニアスさんのこと名前で呼ばないのか?」
「色々と世の中あるのですよクリス」
名前でよんではいけないのです。
一度名前でよんだらぱにくって倒れられました。パニックドラゴン……。
いえいえ幼少時数回呼んだのと久々にあったこの前くらいですか。
愛称で呼ぼうとジーニとかつけたら嫌がられました。
だから仕方なくドラゴンさんと呼んでます。
でもそうしたら名前がありますとか言われますし、どうしたらいいのでしょうねえ。
「名前で呼ぶのも呼ばれるのもジュニアスさん嫌なのか?」
「そんなことはないのですが……」
ジュニアスさんの長い銀の髪はキラキラ、緑の目はすきとおってます。色彩は同じですが、ぼさぼさ三つ編み、眼鏡の私と違って美形ですね。
目を伏せた姿は憂いがあって女の子さんたちがきゃあああとかいいそうです。
「ジュニアスさんはアルジェの親戚か?」
「そんなところなのですよ。クリス、あまり詮索しないでくださいです」
「すまん、商人の癖でついな」
「よくありませんそれ」
「ああわかった」
私とクリスをじっと見るジュニアスさん、絵本を手に何処か悲しそうです。
なんだろうです。いつも何処か悲しそうに感じる時があります。
「ご飯を食べましょうです。お腹がすきました!」
「おうそうだな!」
私とクリスが言うとそうですねとジュニアスさんは頷き、絵本の最後のページを見ました。
そこにはたんぽぽ色のドラゴンさんと、お姫様が幸せそうにたんぽぽ畑で笑っている絵が描いてあったのです。
しかし図書館にこの絵本の新しいバージョンをおいてみたいです。
絶版になっているのは残念なのですよ。
厨房に二人を案内すると微妙な顔をされました。
汚いというクリス、確かに汚いです。
薄汚れた厨房の木の机で遅い夕食です。お掃除してませんからねえ。
客室の埃を払うのに一苦労なのでした。埃が凄いというクリスに仕方ないですとまた言う私です。
雑食のジュニアスさんは平気そうな顔でパンを食べてます。
夜も更け、私達は眠りについたのでした。