@7 街の散策
今日は、短めです。
薬師ギルドを出た真は、依頼達成の報告の為に冒険者ギルドに向かって歩いていた。
まだこの街に着いて二日目だなぁと思い改めて街を見て回る。
この街は南に住宅区。東に商業区、西に歓楽区と別れており、北側に領主の館がある。住居区には、北側に貴族地区と南側に一般地区に分かれている。
街を治める役所は商業区にあり、ここに冒険者ギルドや薬師ギルド等がある。宿屋も商業区にあるので、真は、商業区以外見たことがない。
お金の心配はいらなさそうなので、冒険者ギルドに寄ったら散策でもしようかと思った。
冒険者ギルドに着いた真は、中に入りカウンターへと向かう。
「こんにちは、マコト様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
今は受付はリースが担当しているようだ。
「依頼を達成の報告に来ました。」
「依頼ですね。では、冒険者カードの提示をお願いします。」
真は、冒険者カードを渡す。
「‥‥はい、確かに依頼の達成を確認しました。
カードをお返しします。
それでは、報酬金を持ってきますので少しお待ち下さい。」
カードを返してもらい、受付のリースが奥へと消え一分ほどで戻ってきた。
受付のリースがカウンターの上に、金貨を置く。
金貨は4枚。
「お待たせ致しました。こちらが今回の依頼の報酬額となります。普段は、金貨一枚の依頼なのですが先方から報酬額の増額がされましたので、この金額となります。
どうぞ、お確かめ下さい。」
金貨2枚は樽の値段だな。なら残りは手付け金みたいな物なんだろうか。
薬師ギルドのギルマス‥‥ちゃっかりしてるな。
「はい、確かにありがとうございます。」
「依頼達成おめでとうございます。
あ、遅くなりましたが今回よりマコト様の受付担当になりましたリースと申します。よろしくお願い致します。」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします。ではまた来ます。」
「はい、またのご来場お待ちしています。」
カウンターの上の報酬金を収納スキルに収納し、お互いペコリとお辞儀して、真は、冒険者ギルドを後にした。
さー、今から街の探索でもするか。
そういや、今何時? 『現在 14時24分です。』
時間はあるから、今からこの商業区を回ってみるか。
真は、特に宛もなくぶらぶらと歩く。
商業区には色々な店があり、飲食店や屋台、武器や防具などから雑貨屋など、新鮮な気持ちで眺めて歩く。
宛てもなく歩いたため、路地に迷い込んでしまった真。
路地は店など余りなく、たまに何のお店かわからない看板があるくらいだった。
そんな路地の一角に、独特の雰囲気を醸し出す店を真は、見つけ興味本位で入ってみる。
店の名前は『マジッシュラクス』。
カランカランとドアベルがなり中を覗く。
うわー!これってマジックアイテム屋ってやつじゃないか?
水晶やら、何やらの骨とか宝石のような石とかもあるな。
真は、中に入るとキョロキョロと店の商品を見て回っていた。
「いらっしゃい。何か要りようかい?」
真に声をかけてきたのは、うら若き乙女‥‥ではなく、20代くらいの若い男性のお店の人だった。
「いえ、どんなお店なのか気になって‥‥。」
「あー、お客さんはこの街は初めてかい?」
「はい、昨日着いたばかりです。」
「そうかそうか。特に珍しいものもないが、ゆっくり見て回るといいよ。」
「ありがとうございます。」
改めて商品を見て回る。
少し奥をみると、魔道具なのだろう何かの箱のような物やバック等が置かれていた。
興味を惹かれた真は、箱を手にとってみる。
「ん、それが気になるのかい?」 お店の人が聞いてくる。
「はい、これは何なのですか?」
「それは保存箱さ、その中に物を入れると中に入った物の時間の流れが遅くなる魔道具。食べ物が劣化しにくくなるから、保存に適していてね。商人などに人気があるよ。」
「へぇー、便利なものがあるんですね。これってここで作ってるのですか?」
「そうだよ。箱に魔法陣を刻んで魔石に繋げて魔力を通す。すると出来上がりさ。っても簡単に作れるもんじゃないけどね。」
お店の男性が苦笑いしながら答える。
こういうの作るのって難しいのか。
『マスターなら簡単に作れます。』
相変わらず何でもありだな。
「魔道具に興味があるのかい?」
「はい、面白いと思いました。」
「それなら、少し作るところを見て見るかい?」
「本当ですか!ぜひ!」
真が嬉しそうに返事を返すと、店の人が軽く頷きついてくるようにと案内され、店の奥の工房に入る。
「あ、僕はラクス。この店の店主さ。君は?」
「私は真です。15歳です。」
「あー、成人してたんだね。まだ子供かと思ったよ。」
「よく言われます。」
「あはは、さ、ここが、魔道具を作る工房。今ちょうど、さっきの保存箱を作っていたから見ていくといいよ。」
作業台の上には制作途中なのだろう、5枚の板がありラクスはそれを手に取り組み立て始めた。板を見てみると表は普通の板だが裏に薄い鉄板のような物が貼られ、その鉄板には幾何学模様の魔法陣が彫り込まれていた。
「いいかい、保存箱は箱全体‥‥6面全てにこの魔法陣を使うんだ。普通は板の内側になる方に直接彫り込んでいくんだけど、それだと物が当たって削れたり、腐敗や腐食などで魔法陣が欠けて機能しなくなるからね。うちでは、鉄板に彫り込んでそれを板に貼り付ける事で魔法陣の欠けを防いでいるのさ。まぁ、その分重さも増すし、値段も高くなるんだけどね。」
「魔法陣は、彫り込むだけでいいのですか?」
「それはないよ、魔法陣を彫り込むには‥‥そうだね、見た方が解りやすいか。ちょうど最後の6枚目をこれから彫るから見せるよ。」
ラクスは、何も彫られていない薄い鉄板に手を添えて目を閉じる。すると鉄板が淡く光り鉄板の中心に魔法陣が焼き付けたように現れる。魔法陣が完全に現れると光も収まる。
「さて、これが最初に行う『焼き絵』と言う工程。これは下絵みたいなものでね。これだけでは、魔法は発動しないのさ。それで、次は‥‥。」
ラクスは、作業台の端に置いてあった瓶と先端が丸くなったタガネのような物を手に取り説明する。
「この瓶に入っているのは、魔導液といって魔力を通す為のもの。そして、この先端が丸いのが鉄板を彫るための道具さ。」
ラクスは、説明しながら鉄板の焼き絵に沿って先ほどの道具で彫っていく。
30分ほどで軽く彫り上がった魔法陣。しかし凹凸が酷い。
しかも、魔法陣の所々から縦横に何本か鉄板の端まで線を彫り込まれている。
魔法陣の中心には、丸い窪みが彫られていた。
「これが『仮彫り』と言う工程。鉄板の端まで彫られたこの線が他の板と繋がる事で全体に魔力を通すことが出来るのさ。このままでも魔法陣として機能はするけど魔力効率が悪いから、すぐに魔石の魔力切れが起こる。」
次にラクスは、再び鉄板に手を添えて目を閉じる。
鉄板が先ほどと同じ様に淡く光り、今度は彫って出来た鉄板の凹凸が綺麗に魔法陣の溝に沿って均されていく。一分ほどで綺麗な魔法陣が彫り上がったようになり、やがて光も消える。
ラクスは、満足げに魔法陣の出来をみて、真に説明する。
「これは『均し』の工程。僕は土魔法が使えるから均しは魔法を使うけど、使えない人は地道に道具を使って均していくのさ。」
「それじゃ最初から土魔法でやればいいのではないですか?」
「やっぱりそう思うよね。でも、焼き絵のあと土魔法で彫るとなぜか魔法効率が悪くなるんだ。それだと意味がないから、面倒でも仮彫りだけはみんなするのさ。」
魔法効率が悪くなるってなんでだろ?
『マスター、それは残留魔素があるからです。』
残留魔素?なんだそれは?
『魔素とは、魔力の素です。空気と酸素の関係と似ています。』
なるほど、それがなぜ効率を悪くさせるんだ?
『魔法陣は魔石から出る魔素=無属性の魔素が動力として使用されます。その魔素が魔法陣を通る際に、凹凸や他の属性魔素があると摩擦抵抗のような事が起こるため伝導率が下がるのです。』
ん?それじゃ今の均しってのも良くないのか?
『いえ、あの程度の事なら摩擦抵抗も少なく、手彫りに寄る物より凹凸が無いため伝導率は上になります。』
なるほどね。
「摩擦抵抗を減らしてやれば良いってことですね。」
「マコト君、よく解ったね。魔力抵抗ともいわれているけど、どっちでも意味は変わらない。凸凹が伝導率を下げるのは解っているんだけどさ。なぜ魔法でも下がるのか解らなくてね。それで、最後の仕上げにこれ、魔導液を使う。」
ラクスは、瓶の蓋を開けて出来たばかりの魔法陣の溝に魔導液を流し込む。
魔法陣全体に行き渡ると、一瞬魔法陣が淡く光り液体が光の粒子となって飛散してすぐに消えた。
「これが『定着』の作業。魔力が滑らかに流れる潤滑の役目があるんだ。これをやらないと魔道具として使えないからね。」
作業台の下に付いた引き出しから、ラクスは麻袋を出してきた。手の平サイズの麻袋の紐を解いて、中から出してきたのは魔石だった。
「これは、低級モンスターの魔石。これをこの鉄板の真ん中にはめ込んで出来上がりさ。」
さすが職人、計ったようにピッタリと魔石が嵌まる。
特に変化はないが磁石でくっついているかの様に逆さにしても外れなかった。魔石の魔力が空になると外れるらしい。
交換の目安となるとラクスは言っていた。
「あとは、この鉄板を板に貼り付けて箱にすれば完成。」
「これはすごいです。でもどうやって使うのですか?」
「あー、使うときは魔石に魔力を流すと魔石から魔力が流れだして使えるよ。止めるときも同じ仕組み。」
「へぇー、簡単ですね。こういう魔法の種類とか多いのですか?」
「そうだね、種類は多いと思うけど実際は‥‥」
ラクスの話を纏めると。
魔法陣の研究者が昔の古文書や文献から、何とか数種類の魔法陣を読み解く事が出来たらしくそれを使って作っているとのこと。
ラクスが知っているのは、時間を遅らせる。光を灯す。火を点ける。浄化する。の4種類だという。
実際はもう少しあるだろうとの話だが、魔法陣を読み解くには膨大な知識と理解力がいるため、なかなか出来ないらしい。
最初に行った焼き絵の魔法陣も何度も見て記憶し、イメージして焼き付けるとのこと。
それが苦手なものは、本当に下絵を書く。
「と、いう感じかな。マコト君が魔道具制作に興味持ってくれて嬉しいよ。」
「はい、とても楽しかったです。」
「また、いつでも遊びにおいで。」
「はい!また来ますね。ラクスさん、今日はありがとうございました。」
店の入り口へと戻った真は、ラクスにお礼を述べペコリとお辞儀して店を去っていく。
今度は表通りに出た真は、陽も落ちて暗くなった頃合いなので宿に戻る事にした。
途中、街灯に目をやるとぼんやりと光始めていた。
これはラクスの作った物だろうか?なんて思いながら宿に着く。
女将の作った美味しい夕食を頂いて、今日は部屋に戻り、明日は何をしようかな?
そんな事を考えながら、真は眠りについた。
読んだ頂きありがとうございます。