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偽物は異世界を  作者: 鬼川
街の裏側
3/3

003話

インフルエンザで一週間休んでしまいました。すみません。

「起立ー、気を付けー、礼ー」

『ありがとうございましたー』

 運悪く日直が回ってきた生徒の、やる気の無い声がみんなを統べる。

「先生、ちょっといいですか?」

 朝礼が終わってクラスメイトが話し始めたり、一時限目の準備をしたり、などなど──皆、気が抜けるのを感じながら、教室を出ようとしていた先生に声をかけた。

「えーっと、セリナール君だっけ? どうかした?」

 先生の名前はナーラ・マルーズ。

 身長は、170㎝の俺より少し小さいくらい。よく、くいっとメガネでキメる癖が出る。

 教師免許は一応持っているんだろうが……

 よく忘れ物をしたり、段差の全く無いところで転けたりと、なんだか、頼りない。

「いえ、今日の午後の街見学で案内をなさっていただく方は、いらっしゃってますか?」

「んーと、まだの筈よ。今日の四時間目の後に来る予定だから、あなた達がお弁当を食べてある時ね」

「挨拶とかは、どうなさいます?」

「そりゃー、するわよ。これでも担任なんだし」

「その時に同席よろしいですか? どんな方かも知りたいので」

「んー、まぁ、クラス委員長だし……いいか! オーケーよ。四時間目終わったら職員室きて頂戴。それまでにお昼ご飯食べておいて下さいね」

「ありがとうございます」

 俺が頭を下げると、先生はニコッと笑ってから出て行った。

 ここまでした理由は、見学ルートの変更だった。それは、事前に確認しておいたとある探り屋に会うため。

 まずは情報が欲しかった。

 相手が野ウサギなのか、ライオンなのか、知らなければ対策のしようがない。

 野ウサギなら足が速く、近接戦闘武器では歯が立たない。だから、たいてい噛ませる(、、、、)罠を使う。

 しかしライオンは全く真逆。自ら突っ込んで来て、前者のような、ちゃちい罠では狩ることが出来ない。だから槍などで狩る。

 この様に、まずは敵を知らなければならない。

「ユウマ。移動教室なの、覚えてんのか?」

 先程、先生に気付かれないように、グーパンしたデュークだ。殴られてもなおヘラヘラしている。

「あぁ、大丈夫だ。地下11階だったろ」

「ほれ、お前の鞄の中から出しといたぞ」

 と言ってデュークは俺に必要な教科書と筆入れを渡して来る。

 なんやかんやでいい奴なのだ。

「ありがとう。俺たちもそろそろ行くか」

 教室もいつの間にか、俺たち二人以外、無人になり静かになっていた。

 横スライドのドアを開けて廊下に出る。

 山の中の学校だから窓はなく、廊下の等間隔に描かれてた魔法陣によって照らされていた。それは、腕幅くらいの大きさで青白く光っている。

 通常は点灯用の魔法陣は建物を作る際に、壁にめり込ませて、分からなくしてしまう。

 なのに魔法陣が剥き出しになっているのは、生徒達に魔法の日常性を染み込ませる為だ。

 自分が理屈も分からない魔法を使っても、基本しか出来ず進歩することは絶対ない。

 このような施しは他にもそこら中にあり、充実した空間になっていると思う。

 デュークが口を開いた。

「なな、ユウマ。お前、誰か好きな子いるのかよ」

 と、唐突に聞いて来た。

「はぁ? いるわけないだろ」

 今はミッションの事で頭がいっぱいだ。

 そんな事を考えている余裕はない。

「確かに、このクラスはそうかもしれないけど、ほら、生徒副会長のリーナさんとかさ」

 確か女子の副会長は、顔は整ってはいると思うが、それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

「なんだ? デュークは狙ってんのか?」

 からかうように言う。

「いや、俺は顔では判断しない。どちらかと言うとあの人は萌えだな」

 リーナ先輩は、デュークも言う通りの人物だと思う。

 何もないところで転んだり、服の向きが逆だったり、寝間着のまま登校したりと……

 とにかくドジだった。

 何故あの様な頼りない生徒が、副会長になれたのかが不思議でたまらない。

「萌え、ね。天然と何が違うだろうな」

「そんな事も分からんのか、アンポンタン」

「悪かったな、アンポンタンで」

「天然ってのは、良いものもある。ただ、悪いものもある。萌えは、俺らの心を掴む様にピンポイントで天然が発揮される事だ!」

「『俺ら』って俺も含めるな。お前だけだ」

「何言ってるんだ。同志であるファンクラブの事をいってんだよ」

 ファンクラブなんてあったのか。

「お前も入ってんのか?」

「だから、顔では決めないって言ったじゃねーか」

「そうだったな」

「あっ、お、お、あ、あの、おふ、お二方。早く授業に、行った方が……ぁあああああ! すみません! 私なんかがでしゃばってしまって!」

 急に声がかかった。

 図書館のドアの隙間から顔を出してこちらに謝っている。

 金髪のメガネを掛けた少女とは……

「おい、どーすんだよ。本人じゃねぇか(小声)」

 知らねぇよ。

「すみません、こちらのデュークが副会長に用があるそうですよ」

「……えっ、な、な、何でしょうか、デュークさん」

「ちょーーっ、何してくれてんだよお前は‼︎(小声)」

「朝の仕返しだ」

 その言葉を置き去り話に、早々にこの場から逃げ去った。

「えー、あー、あの。今のは友人の冗談っていうか……」

「嘘……だったんです、か? ……ぅうう」

「あーあー! 泣かないで下さい、本当のことですから! ホント、ホントです!」

「あっ、や、やっぱりそうだったんですね。ご、ごめんなさい。それで、なんですか?」

「チクショー。ユウマ俺に腹パンした挙句にこの仕打ちかよぉおおお‼︎(小声)」

 最後の断末魔はなんだったんだろう。

 何も聞こえなかった。

 腹パンしてない。

 その後デュークはげんなりした様子で教室に入って来た。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「アルミナ・ハルバーナです。今日はよろしくお願いしますわ」

「教師のナーラ・マルーズです」

「学級委員長のユウマ・セリナールです」

 俺は、お昼を三時間目の後の休み時間に済ませ、言われた通り職員室で先生と合流し、客人が通されている会議室に来ていた。

 案内人は女性で、髪を後ろで丸くまとめている。すらっとした体格に、よく似合うメガネ。

 横で挨拶した幼女……ともい、マルーズ先生よりも、ずっとこちらの女性の方が教師に見える。

「では早速、本題に入らせていただきますわ」

「えぇ、お願いします」

「まずは、ここから徒歩で五分……いわゆる学園通りですわね。ここから近いですから、既にご覧の生徒さんもいらっしゃるかもしれませんが、色々ありますので、組み込ませて頂いた訳ですが、やはり────」

 と、しばらく説明が続いた。

 内容としては、聞いているだけで、早く行きたい、という衝動に駆られるものばかり。

 恐らく何も知らないクラスメイトが見たら、興奮が収まらない事だろう。

 それと同時に、目的のルートとはズレており、それを指摘した。

「すみません、ここのルートを……こんな風に変えてもらえませんか?」

 そう言いながら地図を指先でなぞる。

「どうしてですの?」

「ご存知かもしれませんが、この場所には新聞屋がいるという話を知人から聞いています。なんでも、情報が正確なのだとか。国の情勢を知るのも一つの教育だと考えています」

 ハルバーナさんは、少し考えて頷いた。

「そうですわね、ご所望通りにさせていただきますわ。……ちなみに私の後学のため、他にありましたら、なんでもお聞き下さいまし」

「そうですね……あ、そう言えば────」

 なんとか、違和感なく盛り込む事が出来た。後は適当に相槌を打っていれば、それでいい。

 彼女の中で俺の評価が、少し変わった事に気付かないまま、適当に流していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 先ほどの会議から30分ほど経過した今、俺を含めたクラスメイト全員は、元の世界で言う一般校の校庭ぐらいの広さを誇る、校舎の入り口に集められていた。

 ここは校門から学校の敷地に入ると、噴水や石像、様々な石のタイルなどなど、ほぼ石で出来た芸術とも言える場所だ。

 流石はこの国でもトップクラスを誇る魔法学校。金の使い方が分かっている。教育の面で見れば、分かっていないとも言えるが。

 しかし、前に述べた、廊下に剥き出しにされた魔法陣の事を考えると、全く分かっていない訳でもないらしい。あえて言うなら、余った金を使っているのかもしれない。

 そう言えば、ここは来訪者が全員生徒という訳ではなく、外部の人間も来る。ここが学校の顔というのなら、この装飾にも納得だ。

 話がずれてしまったが、俺たちは今から街案内をしてもらう。

 今現在、クラスメイトは何も見ていないから、仲のいい友達と雑談に夢中になっている──つまり、現時点では俺が一番ワクワクしていた。

 先生は今、案内役の人のお世話をしているから、俺がクラスをまとめなければならないが、今回ばかりはそんな些細な事は忘れてしまうかもしれない。

 あぁ、勿論ミッションは覚えているよ。そこまでバカじゃない。

 そう、自分に言い聞かせて、しゃがんでいる皆んなに声をかけた。

「あー、一回喋るのやめてくれ! そろそろ始めるから!」

 あまり、皆と接点の無い俺の声に、誰もが黙りこくる。

 品定めしているような目か、邪魔したなという嫌味の目か、あまりいい雰囲気では無い空気が流れる。デュークだけはニヤニヤと笑っていたが、無視した。

「おい、委員長さんよ。自分が主席だからってあまり調子こいてんじゃねぇぞ?」

 見ると、クラスの中ではガキ大将の位置にいる、ガランだ。名字は忘れた。

「そうだ、そうだ。ガランの言う通りだ!」

「マジで、舐めてるわ」

 ガランの暴言にその取り巻き達が乗ってきた。人数は五、六人か。

 関わりたくは無いと思ってはいたが……クラス委員長は、やっぱり、こんなやつらをなんとかしないといけないよなぁ……

 ここは穏便に済ませよう。

「別にお前らに喧嘩を売ったつもりはない」

「んだと、ゴラァ! その態度は!」

 えぇ……逆に怒らせてしまったんだが。

 これ、どうするんだよ……

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