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偽物は異世界を  作者: 鬼川
街の裏側
2/3

002話

なんとかセーフです。


前回のあらすじ

とある人からミッションを受けました。

「お兄ちゃん、もう朝だよ!」


 暗い世界から一変し、白い光だけとなって俺の目を襲う。

 もう朝か、とうんざりしながら眠い目を開けた。

「あぁ、おはよう」

 目の前で頬を膨らましているエプロン姿の青髪の少女。エルナ・セリナールだ。

 空中に飛ぶフライパン(、、、、、、、、、、)と共に。

 右手の人差し指から火を出して、フライパンが冷めないように加熱している。

 その光景に幻想なんかじゃないことに、改めて実感した。

「父さんと母さんは?」

「もうとっくの前に出かけた。お兄ちゃんも早く起きた起きた」

「はいはい」

 そう言って自室を見渡す。

 レンガで出来た壁に机とベッド、開くとゴチャゴチャと入っている戸棚を除けば、何もない殺風景な部屋。

 一言で言うなら西洋風。

 光が差す開閉式の窓も風でキィと鳴り、ボロが来ているのが分かった。

 正直言って色々と古い。

「で、エルナ。今日はどんな朝飯なんだ?」

 靴を履きながら何気無く聞いてみる。

「今焼いてる目玉焼きと、パン。後はシ()ミ汁だよ」

「シ()ミ汁?」

「うん! この辺では取れないんだけど、珍しくショップで売ってたから買っちゃったんだ〜。これ前に作ったら、これが美味しくって。お兄ちゃん食べたことある?」

「いや、無い」

 し()み汁ならあるけど。

「そっか〜。なら驚くと思うよ、きっと」

「あぁ、楽しみにしてる」

「分かった〜」

 大きく伸びをしてから扉を開けて階段へ進む。

 ここは木製で出来ていて、手すりを見ると表面が剥がれかけていた。

 何歩か歩くだけでミシミシと音を立て軋んでいるのが分かる。その度に、落ちるのでは無いかと、慎重にならざるおえない。

「も〜、お兄ちゃん遅い! 先行ってるよ!」

 そう言ってひょいひょいと横を通り抜けて、あっという間に降りていった。

「もし、何かあったらどうするんだよ……」

 そうブツブツと文句を垂らしながら一歩を踏み出す。

 壁伝いに降りて行き、やっとの思いで一階へとたどり着いた。

「はぁー」

 気が緩んで思わず息を吐く。

 と油断しているとエルナが目の前に現れ……

「お、おい何を……むぐぐぐぐ! うぅうぅ!」

 無理やりパンを押し込まれて、頬がリスのようにパンパンに膨らんでいるのが分かる。

「はい! 早くそのパン食べて、牛乳飲む! お兄ちゃん、モタモタしてると魔法学校(、、、、)に遅刻しちゃうよ!」

「ちょ、待って座……んんんん‼︎」

 今度は牛乳だが……カップではなく、一リットルの瓶を突っ込まれた。

「その後はシヂミ汁がぶ飲み! 殻は剥いてるから大丈夫! 恨むなら階段を十分間も使って降りた自分を恨め!」

「そんな……むんぐぐぐぐ!」

 次は噛む、飲むの連続技。

「最後は目玉焼きの塩味だ!」

 浮かぶフライパンに乗った焼き加減の良さそうな目玉焼きに、上から指と指で擦り合わせる。

 するとそこに元からあったかのように塩が盛り付けられた。

 その目玉焼きを指でスライドする。

「これはくわえてって! 行こう!」

 ようやくカラになった口に目掛けて食後のデザート──出来立ての熱々を放り込まれた。

ふぁあふ(あっつ)! わふぁっふぇふほ(分かってるよ)!」

 全く、人の扱いが酷い。

 そして俺はエルナに連れられ、家の外へと飛び出した。


 そこは──


 忙しそうに大空を飛び回る飛脚。

『武器防具なんでも揃えます。Qー5588まで!』と記載してある、3メートルを越した歩き回る看板。

 人間では一人では持てなさそうな木箱を運ぶ緑のツル。

 路上は、横幅50メートルもあるにもかかわらず、通行人によって埋め尽くされていた。

 亜人族などの獣人族、()族。それに人間の平民、騎士、傭兵。

 ──そして魔法使い。

 誰もが魔法を使える世界。

 そう、俺はいつの間にか、











 異世界で生活していた。











「私は友達と待ち合わせしてるから。また学校で!」

 ぼーっと人だかりを眺めていた。

 エルナの声に我に帰る。

「あぁ、分かった!」

 エルナは手を振って返答してから、人の波に消えた。

 俺も学校に行くか。乗り場は確か……

 おぼろげながらも思い出しながら、人を避けつつ目的地まで向かう。

 と、その時。

 ドカッ。

 小柄な何かにぶつかった。

「あぁ、すまん。周りを見てなかったんだ」

 恐らく子供だ。

 フードを被っていて顔までは見えない。

気をつけて下さいよ(、、、、、、、、、)

「……?」

 そう言うと、ここから立ち去ってしまった。

 振り返っても先ほどの女の子の声の持ち主は見当たらない。

「なんだ? あの含んだ言い方……」

 と、不思議に思っていたが、気にしないことにした。時間の無駄だろうし。

「って、遅刻する!」

 流されないよう気をつけながら、やっとの事で乗り場までたどり着く。

 ここまで来るのに一苦労。

 今度からは、もう少し早く出ようと誓った。

 着いた先はシリティ乗り場。

 停車しているのは二人用のシリティが三台。外見は真っ黒に塗りたくってある鉄の塊。

 分かりにくいなら、車輪の無い空飛ぶバイクぐらいの認識で大丈夫だ。

 その中の一番手前にあった物をセレクトして、荷台に荷物を放り込んでから飛び乗る。

 一応クッションは敷いてあるがあまり座り心地は良くない。硬くて寧ろ悪いぐらいだ。

「魔法学校まで頼む」

「ID159357の権限を確認。目的地、ランダー魔法学校。了解」

 すると垂直に飛び、しばらく高度を取った後一気に前進する。

 機体はヘリの様な騒音は無く、ほぼ無音。あるとすればバイブ音くらいなものだ。

「ん? おっと、こいつぁー今日運がいい。今年の入試を主席で入学した、ユウマ様じゃないか。歴代の中でも天才が出た! とか言って町中で噂になってるぜ? 二位との差がなんと48点。なんてったって全教科満点取ったって話じゃねぇかよ。まぁ、俺にとっちゃァ、まだまだヒヨッコだがな」

 シリティは、スピードが速くて乗る分には重宝するんだが……コレには少し変なところがある。

 ちょっとおかしな知能を持っているのだ。

 いや、知能だけならまだいい。喋らせれば暇つぶし程度にはなる。

 がしかし、この魔道具は致命的なまでに口が悪いのだ。

 一度口を開けば言いたい放題言ってくれる。耳が痛くなるぐらいに。

 コイツを黙らせたいと何度思ったことか……

「んで? 天下の頭脳(ユウマ)がどうして遅刻ギリギリなんだ? 女と朝までヤってたのか?」

「そのうるさい口を閉じろ。普通に寝坊だ、バカ。それに俺は天才なんかじゃない。ただ暗記しただけだ」

「はっはっは、やっぱり主席が言うことは違うねぇ。何千ページあるクソ分厚い本五冊分を‘ただ暗記した’だけで済ますたぁな」

「もう、どうでもいい事だろ」

 本当は、暗記しただけじゃ回答が不可能な質問もあったんだが、話を(こじ)らせたく無いので適当に流す。

 この後シリティは、スカートの中が昨日見えただの、前に有名な学者を乗せた事があっただの、俺にとっちゃ至極どうでもいい事を永遠と喋った。

 いい加減飽きてきたので、シリティの自慢話を意識の彼方に消す。そして観光気分でここから見える景色を眺める事にした。

 見下ろして見る街並みは嫌いじゃないから飽きる事は無い。

 この時間帯だと、成人した男性(この世界では15歳以上が成人)が狩りに出る準備をし出している。

 だからどこの大通りも、俺の家の前と同じ様に賑わっていた。

 俺の新しい父さんは王族に仕える会計役だとかで、彼らの様に汗を掻く事はないらしい。冷汗なら嫌になる程掻くみたいだけど。

「──い! 話を聞いているのか⁉︎」

 という、声に意識を戻された。

「なんだ、騒々しい」

「なんだ、じゃねぇよ! もう直ぐ着くって言ってんだ! 騒々しいのは、声をかけてもお前が返事しねぇからだ!」

「わっーたよ、分かった分かった」

 確かに山の頂上にある魔法学校が見えた。

 石造りの建物で広さは、大体東京ドーム一つ分ぐらいと、非常にデカイ。

 しかし、山の中にも施設はあり、事実上大体四つ分ぐらいだろう。なんせ頂上にあるのにも関わらず、地上から数えても地下10階はあるのだから。

「ったく、ほら行ってこい」

「ありがとな」

 お礼を言って地面を踏みしめる。

 懐かしい足の感触に、やっぱり地上の方がいい、とふと思った。

「お、ユウマじゃん! クソ真面目なクラス委員長がどうしてこんな時間に?」

 後ろから声が掛けられる。

「寝坊してな。お前こそ毎日こんな遅いのか?」

 振り向くと入学式当初、席が前後だった為に話す様になった、デューク・サルヒュールがいた。

 何かと突っかかってくるが、なぜか憎めない、どこにでもいそうな、クラスのムードメーカーだ。

 そのお陰で、クラス委員長なんてモノをやらされた訳だが。

 のんびりと歩いていることから、なんとか遅刻せずに済んだと、ホッとし調子を合わせた。

「まぁな! 趣味に時間を使ってるんだよ」

「確か、生き物を魔法を使わずに自由自在に動かす研究だったか。相変わらず変な趣味してるよな、お前」

「ほっとけ。むしろユウマが、この良さを分からないのが逆に不思議なくらいだ!」

 デュークは、この様に意味のわからないモノが好きなのだ。

 例えば、実験室にあった、失敗作と思われる(何を作ろうとしたかは知らない)、ただグルグル回るだけの小さな鉄球を見て「これ超良くね⁉︎」とはしゃいだりする。

 デュークは、はぁと息を吐いて喋った。

「いやぁ、それにしても今日は時間掛かって少し遅れて出たんだよ」

「あん?」

「ほら、後ろ見てみろ」

 何のことか分からずに疑問に思いながら言われた通り後ろを見てみる。

 誰もいない、ただのシリティ乗り場だ。

「おい、一体何を……」

 と、問いかけたが返事がない。

 振り返ると、デュークがもう校門を走り抜け、校舎に入っている所だった。

 デュークの行動の意味が分からず呆然と立ち尽くしていた。

 その真意に気付いたのは、しばらくして学校のチャイムの音がなった時。

「あの野郎分かっててやりがったな!」

 俺だけを遅刻にさせた、デュークを後で締めやった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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