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れっつくっきんぐ!

作者: 中原 ゆえ

はじめて企画、参加モノです。

という事で便乗して、読む人も書く人も「はじめ(まし)て!」


 ガシャガシャガシャ、台所にボールとボールのぶつかる音が響く。

 隠れてたってわかってるんだからね、パパ! そう言いたいのをぐっとこらえて、今は目の前のモノに集中する。

 簡単だって聞いてたレシピが、こんなにも難しいなんて!

 勇太のバカバカバカ! あたしが料理とかお菓子とか、したことがほぼ無いのを知ってて言うんだから、底意地が悪いったらありゃしない。

 

 事の発端は、こうだ。

 付き合って2年目になる勇太と、クリスマスデートしていた時のこと。

「俺、今年のバレンタインは、真由の手作りのチョコが、欲しいんだけど……ダメ?」

 言い訳だけど、バイトが忙しくて残業続きで、クリスマスプレゼントが準備できなかった真由こと、あたし。

 それで、ホントにごめん! 何が欲しい? って聞いたら、返ってきたのは、そんな答え。

「別のものにしない? 折角勇太がこんな素敵なネックレスくれたんだし、それに見合う何か、買うよ?」

「いや、ホントに真由のチョコが欲しいんだけど……あ、チョコじゃなくても、手作りのお菓子でもいい」

 勇太にお願いなんかされたの、これが実は初めてで。

 叶えてあげたい気持ちはあるんだけど、あたし、数回パパに作った手料理が全て、斬新と酷評されるものしか作ったことがないのだ。

 うーんうーん、と唸るあたしに勇太は、じゃあ真由がくれるものならなんでも嬉しいから、真由が決めて? って言ってくれて。結局別のプレゼントをあげたんだけど。

 なんか、申し訳ない気がして、今年こそチョコをあげようと、あたしは心に決めた。

 

 そして、今に至る。

 お正月明けてから、ずぅぅぅっと、バイトが終わったら台所を借りてお菓子の試作をしてる。

 友達は簡単に、生クリームとチョコを湯煎で混ぜ合わせて、冷やして丸めるだけって言ったけど。聞いたあたしがバカだと思った。

 だってまず、湯煎って何? ってところからわからなかった。チョコって簡単に言うけど、色々種類出てるし、どれがいいのよ! とか。

 それを笑いながらも教えてくれた友人真希には本当に感謝。

 だけど、実際つくるところに入ってから、難しさはもっと上回った。

 お湯を張ったボールの上に、綺麗なボールを置いて、その中に生クリーム。

 量がわからないから、仕方なく生クリーム全部をドボドボ入れて、更に板チョコ1枚を投入して、まぜ……混ざらない!!

 後々聞いたら、チョコ一枚に対して生クリーム多すぎで、しかもチョコは刻んで入れるものなんだとか。

 そりゃチョコが溶けないから、混ざらないよ~と軽く言われた。知らないもん、仕方ないじゃん!

「いつも適当に作ってて、材料の量がわかってないから、後で作ってみてレシピ書いておくね~」

 と、言ってくれた友人景子ちゃんには、本当に感謝(って前にも言ったようなフレーズだ……)。でも、適当で作れるって凄いよなぁ、と思いながら。

 で、今度はそのレシピを元に、作ってみる。

 CCとか、パットとか、ゴムベラとか、色々また訳のわからない単語が出てきて挫折したのは、多分みなさんがお察しだろうと思う。なによ、CCって。結局ミリリットルと同じなんだから、それでまとめてくれたらわかりやすかったのに!

 そんな第一関門突破したら、次は第二関門があった。

 お菓子を冷やして丸める、簡単なそれがあたしにはできなかった。

 一回目は固めすぎて丸められなくて。二回目は柔らかすぎて、丸めることができなかった。どれくらいの時間冷やせばいいとは書いてあるけど、どうしてそれすら出来ないんだろう。

 三回目、ようやく丸められる硬さのチョコが出来上がったけど、これ、溶かしたり固めたり繰り返してたから、味は落ちてないんだろうか……。

 こうして、試行錯誤して出来上がったチョコレート達第一弾。

 流石にこの時間から甘いものかぁと悩んでいたあたしの横にこっそり覗いてたパパがやってきて、ひとつ摘んで口に入れた。

「美味しい?」

「お、美味しいよ?」

 あ、ちょっとモゴモゴしてるし、涙声。

「美味しくないなら、ちゃんと言って。成長できないでしょ!」

「固くて噛みにくいです……」

「うーん、そっかぁ……」

 でも、そう言いながらも、全部完食してくれたパパ。ありがとう。

 

 そうやって失敗ばかりを繰り返しつつ、何回も何回も作っていく中で、ちょっとだけ気持ちに変化が起きた。

 美味しいって言ってくれるかなぁ、とか、ありがとうって言ってくれるかなぁ、とか。笑顔を見せてくれるかなぁ、とか。そんなことばかりを想像して、作るようになった。

 そんな相手の嬉しいを、想像しながら作るお菓子作りは、とても楽しくて。

 多分いつも(勝手にこっちを)見てるパパは、ニヤニヤしてて気持ち悪い娘、とでも思っていたかもしれないけど。

 でも、いつも想う気持ちを料理に込められるのなら、きっと嬉しいが引き出せるはず、と思う。勿論、前提として美味しいが必要だとは思うけどね。

 でも、勇太なら。きっと美味しくなくても、少なくても、ありがとうって言ってくれると思う。

 それだけでも、次も頑張ろうって思えるだろうなって、考えてる自分がいる。

 

 だからこそ、初めての手作りバレンタイン、必ず成功させてみせるんだから。

 そう、できれば。次もまたお願いね、なんて言わせてみせる。そんな野望を胸にしながら。

 バレンタインまで、あと半月。頑張れ、あたし!

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