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ゴーストシーカー

作者: パンター

久しぶりに書きました。よろしければ暇つぶしに一読していってください。

 奇妙なアプリだった。

 面白いアプリはないか探していたら偶然見つけたのだ。

 幽霊発見器ゴーストシーカー。

 幽霊がいそうな場所にスマホのカメラを向け、もしそこに本当に幽霊がいたら画面に映し出せるというコメントがついていた。本当かよ。

 が何か面白そうだったのでダウンロードしてみた。

 その日の深夜こうして地元で有名な心霊スポットにいるわけだが。果たして。

 そこは一家心中をした賃貸住宅で、町外れの近所には民家もない鬱蒼とした森の入り口に建っていた。

 その一家の主人はバブル景気の時不動産に手を出し財を成したが崩壊とともに莫大な借金を負い夜逃げ同然にここに移り住んだらしい。しかし闇金にも手を出していたらしくついには発見されて昼夜となく厳しい取り立てが続いたらしい。その頃はまだ法律がその家族を守ってくれなかった。

 それでついに決意して心中に至ったらしい。

 でその後住居に住んだ人間から幽霊を見たと言ってわずか数日で家を出る者が連続して噂が噂を呼び誰も借りるものがいなくなり、また所有していた不動産屋が倒産したこともありここ三年ぐらいはまさに幽霊家屋になっていた。

 午前2時。いかにもヤバイ時間帯である。

 鉄筋コンクリート2階建ての建物は今なお汚れに強い外壁材のお陰で新築後数ヶ月みたいな新しさを保っていた。だがガラス越しに見える内部の様子は荒れていた。違法に侵入した若者たちによって壁に落書きされ床には即席ラーメンの容器が散乱していた。ホームレスが住んでいるのかも知れなかったがこんな場所に明かりもなく一夜を過ごそうという人間だどれだけいるだろうか。

 このスマホにはナイトビジョン機能付きのカメラがケーブルで接続されている。そのカメラで撮られた画像を画面上に映し出すアプリも入っていた。だから今は懐中電灯無しでカメラの映像を頼りに歩いていた。


 あ。

 

 思わず絶句した。

 ここは玄関の前だった。

 そこでいきなり遭遇したのだ。

 白いワンピースのドレスをきた小学生ぐらいの少女だ。だが今の時間彼女がここにいていいはずがない。

 しかも何故か目が白く光っている。ナイトモードによるものかもしれないが不気味に見える。

「お兄さん誰?」少女は少し高音だが澄んだ声で尋ねてきた。

 まさか廃墟探検で幽霊探しに家に不法侵入とはいえない。だが散歩というには不自然な場所だった。

 そういえば、アプリにはこういう製作者のコメントがあった。

 このアプリにはただの人間は影のように映し出される、と。

 とすれば彼女は少なくとも人間ではない、ということになる。それは安直に幽霊ということなのか。

「そう。お兄さんもここを荒らしに来た人間なんだね」

「あ、いやそんなつもりは・・・」

 答えづらい。当たらずとも遠からず。きっぱり否定出来ないのが彼女に伝わってしまう。

「そう。確かに悪意は無さそうね」

 この娘、妙に大人びた言い方するなあ。どう見ても年下にしか見えないが。何をどう感じたんだろうか。

「そ、そう。ちょっと興味半分で近くに来ただけだから」

「そうみたいね」さっきから恐ろしく素っ気ない返事ばかりだ。表情もまるで変化しない。まるで顔が作り物の人形のそれのようだった。

「だったらすぐに帰ったほうがいいよ。これから人が来るから」

 人?誰が来るというのだろうか。

 遠くから声がする。それは確実に近づいてきていた。楽しげに会話を交わす男性と女性の複数の声だった。

「マジで。出るのかよーここ」

「ウソ。マジヤバイー」

「こんなの怖くねって。おれの闘気でオバケの方がびびって逃げるって」

「なにそれー。暗殺拳継承者かよ、おめー」

 ありがちな肝試しを楽しみに来た若者の群れだ。

「危ないから、離れたほうがいいよ」と少女。

「危ないって?何が?」

「ここの住人はこれ以上安らぎを乱すものを許さない」

 とスマホの画面が赤く光り出した。そして中央に大きく文字が。


 警告。敵意を持った霊の存在。


 家の中から閉じられているはずの引き戸をすり抜けて三人の半透明の霊が現れた。成人男女と小学生ぐらいの男の子だった。これがこの家の住人?だとしたら・・・

「こっちに来て」画面の中の少女は画面上の森の中へ入っていった。付いて行くしかなかった。こちらにやって来る若者たちに会いたくなかったからだ。余計な詮索はされたくなかった。

 と言っても森の中は周囲に全くの光源はなく真っ暗だから入り口の木の影に隠れるしかなかった。ナイトモードでも僅かな光源もなければ全く見えなくなってしまうからだ。

「あいつらに見えないようにしてね」スマホ越しながら声が近くに聞こえる。少女がすぐ後ろにいたのだ。

 そしてやって来た。目前の三人の幽霊にも気づかずに。

 玄関の前で十代後半の男子三人女子一人のグループが立ち止まり家の二階の窓を見上げた。

「誰か見てなかった?」

「おめ何言ってんだよ。いるわけねーだろ」

「そういうお前こそビビってるんじゃねえのか」

「バカ。そんなわけねえだろ」

 騒いでいる若者の周りを三人の幽霊は右回りに回転しなから観察しているみたいだった。

 子供の霊は時折若者たちの足の間をすり抜けたりしていた。遊んでいるのだろうか。

「きゃ。今足を誰かが触った」

「え。どうした?」

「触ってねえよ。誰も」

「うそー。絶対誰かが触った」

「いやいねーって」

「絶対いたー。いたんだから。もうやめてよー」

「だからいねーって」

 たしかに触っている。スマホ越しに見れば確かに女子の足を子供の霊が触っていた。

 今度は父親が男子の一人の背後で右手を握り振り上げていた。そして振り下ろす。

「痛て。おい。おれの頭殴んじゃねえよ」

「はあ。知らねえよ」

「ゼッテーやった。殴られた」

「だから誰もやってねえよ」

「きゃあああ。ここに誰かいるよお・・・」

 ただならぬ状況に全員が周囲を見回し出したが何も見えるはずもない。霊感があれば見えるかもしれないが、そんなものを持った人間はいないようだ。若者たちはパニックになり始めた。

「やばい。やばいよ」

「そ、そんなもの、いるわけ、ない、だろ・・・」

「もう、帰る。帰ろうよー」

「お、おう。帰ったほうがよくね」

 明らかに声は上ずっていたが仲間にビビっていることを悟られないように妙に動きはゆっくりと家から離れていく。本心は一気に駆け出したかっただろうに。ぎこちない動きで強がっていた。

「これで静かになるね」少女は誰に言うわけでもなくつぶやいた。

 三人の家族の幽霊は玄関先で若者たちが見えなくなるまで見続けていた。

「今度はこっちに来るよ」と少女。

 一斉に三人がこっちを向いた。目つきが鋭く敵意に満ちていた。

 見えている分怖さが増幅されている。まずい。

 何を考える余裕もなく森の中に逃げ出した。ほんの僅かに森を横切る道の輪郭が見えたのだ。底へ向かってとっさに駆け出していた。その道の行き先を知っていたから迷わず前へ進んでいった。

 森の途中にただひとつの外灯と自動販売機がある。そこで足を止めた。徒歩なら30分かかる距離だった。息が切れのどが渇いていた。ポケットから財布を取り出しコインを取り出した。果汁30パーセントのオレンジジュースを購入した。味わう暇も与えずに喉へ流し込んだ。

「ふう」半分ほど飲んだ所で缶から口を離し息をついた。すこし落ち着いた。

「追ってこないね。あそこから離れられないみたい」

「そ、そうか。よかった」

 本当によかった。本当にあの家族に取り憑かれそうだった。

 肝試しは軽々しくやるもんじゃないな。

 午前3時半。そろそろ家に帰ろうかな。

 ところでさっきから気になることがあった。だが言い出す勇気はなかった。しかし聞くしかないと思う。このままではまずいような気がしたからだ。

「ところで、君は誰だ?」

 少女はこっちを見つめている。あくまでも静かに。そして言った。

「あなたのスマホは・・・」

 全てを理解しオカルト板で似たような話を読んだのを思い出した。少し違うが。

 判断は一眠りしてから、それでも大丈夫だろう。今は恐怖心が枯れているからまともな決断ができないだろうから。

 

正体は想像通りだと思います。オカルト板のネタはおつかれさまですね。

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