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猛威の蛇蠍


 ・蠍座

 10月24日~11月21日

 蠍座にとって幸運の花は『菊・蘭』

 蠍座にとっての幸運色は、『暗赤色と紅』

 宝石では『くじゃく石・トパーズ・オパール』








 テレビの向こうから私にとっての一日の始まりを告げる声がした。


「今日は3月22日です。それでは皆さんの運勢を星座別にチェック!」


 まるで当たり前のように、何も可笑しなところが無いかのように、また今日もこうして占いが始まった。きっと今日の、3月22日の占いを見るのはこれで八度目だ。でも私が注目する星座は毎回違う。なぜなら私は、この夢の世界で毎度違う月日に生まれ、違う星座を持ってこの日を迎えるからだ。

 起きたときに扉に貼り付けてあるカレンダーを見てデジャヴのように感じ、すぐに違和感に気が付いた。そして、過去を遡っていくかのように様々な記憶が流れ込んだ。以前よりも違和感に気が付くのも早くなり、もやもやとした感覚は感じなくなっていた。

 それでも私は未だにこの世界に留まっている。それにはきっと何か理由があると思う。私は今回でその理由を探さないといけない。この夢の中にいちゃいけないんだ――



 私、眞琴には毎日の日課がある。

 それは朝の恋愛占いを見ることだ。

 その日の恋愛運が私のモチベーションを左右すると言ってもいい。

 私自身は11月16日のさそり座生まれだ。

 さぁ、3月22日の今日の恋愛運はどうだろう。



 ――今日の恋愛占い――


 *恋愛運……感情のコントロールが難しい時期。好きな人と割といい雰囲気になるのに、いまひとつ進展が遅いなと感じたら、思い切って積極的行動に出てみましょう。ただし、過ぎた行動や言動が最悪の結果を生み出してしまうかも。くれぐれも注意!

 *全体運……元気がみなぎりアクティブになれそう。一人でいるとさらに運気UP。

 *幸運の鍵……桜の見える場所

 *相性のいい星座……蟹座




 今日の私はさそり座のようだ。



 ん?



 何か喉の奥で引っかかったような違和感を感じる。

 今までの記憶がすべてあるから思えることかもしれないけれど、どうして私は今回の星座がさそり座だと思ったのだろう。誕生日がさそり座を示すからだろうか。でもそれはそれで砂を噛んだような嫌な感じがする。なぜ毎回違う誕生日を知っている?

 こんなことを思うのは間違っているのだろうか。3月22日に留まってばかりいるから可笑しな事ばかり思ってしまうのかな。

 あくまで私はこの世界の中で生まれてから二十歳に至るまでの時間を過ごしていたと考えた場合、それはつまり毎回〝はじめから〟ずっとこの世界にいることになる。それならば私の誕生日が××月××日だと知っているのは当たり前だ。自分の星座が××座なのは当然なことだ。


 この世界は特定の時間だけをループしているわけじゃない。私自身は3月22日しか体験していないけれど、実際は生まれてから今日までの時間を繰り返しているんだ。



 でも過去の記憶は現実世界のものしかない。約二十年間の時間をこの世界で過ごしているにしては今日以外は何一つ変わらないらしい。

 変なの……。





 今日は大学で講義がある日だった。眠たい90分をうとうととしてノートも取らず、ろくに話しも聞かないまま、ただ無駄に講義が終えるのを待った。ひとつしかない講義の後はとくに何をするでもなく、別の学棟にある三階のテラスで一人お茶をすることにした。占いで一人でいると運勢が上がり、幸運の鍵では桜の見える場所と書かれていたからだ。

 夢の中でここに一人で来るのは初めてかな。

 学内には満開に咲いた桜が一面に広がっている。



「――ねぇ、ここ座ってもいいかな?」


 めずらしいと思った。このテラスは女子生徒ばかりで男子禁制になりつつあるのに、その声の持ち主は男子だった。


「えぇどうぞ……って、え」


 めずらしいと思った。それよりも先に驚いた。まさかここに秋坂君が来るなんて!


「ひとりでいるなんて珍しいね。いつも一緒にいるあかりさんは今日はいないの?」


「う、うん……。今日はわたしだけ……」

 この時から秋坂君はあかりのこと好きなのかな? あかりが告白して付き合うことにしたのはやっぱりあかりが好きだったからだよね。どうせ私が告白しても結果は変わらないんだ……。それにこの世界で告白が成功してもそれは夢なんだから意味がないのよね。


『眞琴は悔しくないの? ずっと言わずに心の中で留めてだよ、もしかしたら付き合えてたかもしれないチャンスを捨ててだよ、他の女の子が隣にいるのを見て悔しくないの?』


 悔しいよ。あかりの言う通りすっごく悔しいよ。でも秋坂君の隣にいるのがあかりならどうしようもないでしょ?


「よかった」


「へ?」


「いつもあかりさんと一緒にいるからさ、なかなか話し掛けるチャンスなかったんだよね。あかりさんっていつも眞琴の隣にいてさ、さすがに二人の間に俺が入れる訳もないし、勇気もないし……」


 どういうこと? 秋坂君はあかりのこと好きじゃないの?

 あれ、ちょっと待って。


「あの、どうして私の名前知ってるんですか?」


「んん? どうしてって、前に駅のホームで直接聞いたじゃん。もしかして忘れちゃったりする?」


 それっていつかの日の記憶といっしょだ。でもどうして秋坂君まで?


「ううん、覚えてるよ! 覚えててくれたんだね」


「もちろん。響きが良くていい名前だなって思っていたからね」


 秋坂君の笑顔がこんな近くで、真正面で見られるなんてどれほど贅沢だろう。幸いにも今日のテラスには私と秋坂君以外の女子生徒も、もちろん男子生徒もいない。これまた珍しいことだ。

 もしも他の女子生徒がいたら私は大変な目に会っていたかもしれない。そう思っただけで背筋がぞっとした。


「いきなりで悪いんだけどさ、ひとつ聞いてもいい?」


「えっと、うん……」


「眞琴って好きな人いるの?」


「えっと、その……います……」


「え、ほんとに? どんな人か教えてもらってもいいかな?」


「えっと、そうですね、その人はとってもあたたかい人です。声も雰囲気も手もあたたかくて、普段からだと思うんですけど、困っている人にも優しくて、時には誰かのために怒ることができる強さがあって、女子に絶大の人気がすごくあって、まさに女子なら誰もが憧れる理想の人です」


「そんな奴がいるのかよ……。その人って彼女とかいるわけ?」


「……どうなんでしょうね。それは誰も知らないと思いますよ、彼女っぽい人はいる感じしますけど。誰もがその人のことを好きなのに、勇気が無いのと振られるのが怖いのでなかなか告白できないんですよ」


「そりゃそいつは可哀想だな」


「え?」


「だってそう思わない? 彼女がいるのかいないのかは分からない訳だし、勇気が無いだの振られるのが怖いだのって理由で告白されないんでしょ? 俺なら一か八か……いや、たとえ振られると分かっていても勇気を振り絞って言うけどなぁ」


「でも……怖くないですか?」


「怖いさ。告白するのは怖い。振られるのはもっと怖い。でも告白しないと関係は生まれないし、後悔する。俺さ、いつかは忘れたけれどすっげー後悔してんだよ。本当の気持ちは違うのに、妥協っていうのかな、とにかく後悔したんだ……。だからもう二度とあんな後悔はしたくないんだよ」


 怖い?

 秋坂君でも告白するのが怖い?

 振られることはないだろうけど、そんなこと思っているの?

 それよりもあかりと同じで秋坂君も『後悔』だけはしたくないんだ。

『眞琴は悔しくないの? ずっと言わずに心の中で留めてだよ、もしかしたら付き合えてたかもしれないチャンスを捨ててだよ、他の女の子が隣にいるのを見て悔しくないの?』



 あかり、それでも私にはまだ勇気が持てないよ……。



「秋坂君は女の子の気持ち、きっと分かってないです……」


「え?」


「後悔したくないのは誰でもみんな同じです。それでも、好きな人に勇気を振り絞って告白するのはやっぱり怖いんです! わたしも一度大きな後悔をしましたっ! わたしの一番好きな人が友人と付き合うことになって、心の中でずっと後悔していたんです! でも本当は、勇気を出せずに告白することができなかった自分自身に後悔してるんです……」


 感情が抑え切れない!

 まただ、あかりの時みたいに言っちゃう!


「秋坂君のような人にはきっとわからないんです……女の子の、わたしの気持ちなんて」


「……うん、きっと分かってないと思う。だから俺はあの日後悔したんだ。分かっていればこんなことになっていなかったと思うし、俺も眞琴と同じように自分自身に後悔したんだよ――」


 秋坂君は悲しそうな目で私の方をじっと見つめていた。

 普段では見ることのできない潤んだ瞳には小さく私が映っていた。



「――今日はごめんね、邪魔しちゃって。今度もし会ったなら次は眞琴に言いたいことがあるんだ。いまは言えないけれど、次会えたなら必ず言うから。あぁそうだ、後悔してるって互いに言ったけれどさ、まだ遅くはないと思うんだ。留まったままじゃ何も変わらないなら進めばいいと思うよ、俺も眞琴もさ。それじゃあ戻るよ、さよなら」



 立ち上がって秋坂君は振り返ることなく、真っ直ぐ前を向いたまま歩いて行ってしまった。その背中を追いかけようと私は椅子を引いたけれど、震える足が立たせてはくれなかった。結局今回も私は夢の中の秋坂君にすら告白することができなかった。二人だけだったのに。




 最後に秋坂君言っていたなぁ「さよなら」って。

 きっと私は嫌われた。

 これが占いで書いてあった『最悪』だ。

 きっと今回の星座がだめだったんだ。私がさそり座じゃなかったらこんな結果にはならなかった。あんな酷い言葉を秋坂君に言うことはなかった。

 色々とこれじゃあもうだめだ。次の星座はいったいなんだろう?

 




 星座占いの結果が人生を多少なりとも左右しているのならばきっと、私はこの世界から出られるはずだ。



 









 読んでいただきありがとうございました☆

 今回は蠍座のお話でした。一日更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。これからもご愛読していただけると幸いです!

 感想・ポイント評価・些細な一言でもかまいません、いただけると嬉しいです。

 再度、読んでいただきありがとうございました。


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